ライオンとシマウマの話
ある草原に動物達が住んでいました。それはそれは沢山の動物達がいました。
その中でもシマウマは特に数も多く、足も速かったので「我こそが草原一」と公言していました。
一方、草原一の気品と気高さを持っているライオンも「我こそが草原一」と自負していました。
ところで草原も自然ですから天候が悪ければエサもなくなり、そういう時には他の草原にいる動物も食べ物を求めて移動するので、エサを奪い合って争いが起こっていました。
この争いというのはとても大変で、さしものシマウマとライオンもこれにはほとほと困っていました。
そこでライオンとシマウマは「草原一の僕らが団結すれば他の草原の奴らに負けない」と話しあって、国を作り、ある程度の範囲の餌場を囲い込むことにしました。シマウマとライオンの国です。
そうなると他の草原の動物は堪ったものじゃありません。なんたって、いい餌場を彼らが独占するのですから。
そうしてライオンとシマウマは国を作りましたが、ライオンは皆さん知ってる様に肉食ですから他の動物を食べていました。もちろんシマウマもその中にいました。
ある時、あるシマウマがいいました「君たちは僕たちを殺して食べちまうけども、それはとてもいけないことだ。僕たちはもう同じ国の仲間であり、そうだとすれば君達ライオンと同じ。君達は自分の仲間や子供を殺してくっちまいやしないだろ?もう僕達も食べないでくれ」と。
あるライオンは「でも僕達も食べなきゃ生きていけない」といい、またあるライオンは「確かにシマウマを殺すのはよくない」といいました。
そこでライオンとシマウマは代表を出し合って話し合う事にしました
ライオンは言います「僕らは動物を捕まえて食べなきゃ生きていけない。これから僕たちは何を食べろっていうんだい?」と。
シマウマはいいました「なあに、シマウマを食べなくても他に動物はいっぱいいるだろ?君らはそれを食べりゃいい、なんの問題もない」と。
そこでライオン達も「まあ、シマウマくらい食べなくても問題ないか」と思い、シマウマとライオンは法律を作りました「ライオンはシマウマを殺してはいけない」と。
暫くの時間が経ちました。ライオンはシマウマを食べなくなり、シマウマはライオンに怯えなくてすむ様になりました。
そこで堪らないのが、今シマウマの分も殺されるようになった動物たちでした。しかも食料もシマウマの数が増えてきたせいもあり、どんどん彼らが獲れる草がなくなってきていました。
ある時シカがいいました「シマウマ君、君はうまいことやったもんだなぁ。僕達は君らの分までライオンに狙われて寝る暇もないし、食料もない」と。
そこでシマウマはいいました「じゃあ、君も僕たちの国に入れよ。そうしたらライオン君と話し合えばいい」と。
そこでシカはシマウマとライオンの国に入りました。
シカはいいました「今こうして僕たちも仲間になったんだから、ライオン君僕たちも食べないでくれ」と。
ライオンはいいました「そんな、僕らは他の動物を捕まえて食べるのが仕事だ。でなきゃ生きていけない。これから僕たちは何を食べろっていうんだい?」と。
シマウマはいいました「なあに、シカ君を食べなくても他の動物がいるじゃないか」。
ライオン達の中では少し不安になるものがいましたが、ライオン達の中にも賛成する者もいて、法律が変わりました「ライオンはシマウマとシカを殺してはいけない」と。
さて、そうなるとライオンとシマウマの国に入っていない他の動物たちは堪ったものじゃありません。彼らは「自分も自分も」と、シマウマとライオンの国に入りました。
法律はもう何度も変わり、草原にいる動物はもうライオンに食べられなくてすむようになりました。
ライオンは困りました。だって、自分が食べるための手段も、食べ物もないんです。そこでいいました「シマウマ君、僕達はもう食べるものがない。このままでは僕達は餓死するしかない。もう体が弱ってきてるものもいる。法律を変えてくれないか」と。
そこでシマウマはいいました「肉がなければ葉っぱを食べればいい。僕たちは生まれてからずっとそうしている、君たちも出来るはずだ」と。
シマウマにはなぜライオンが辛いのかわかりませんでした。だって周りには草が沢山ありましたし、彼らからしたら葉をかみ砕く歯も、葉を消化するための胃も腸も生まれてから当たり前の様にあるんです。なぜライオン達が「他の動物を捕まえる」という仕事にこだわるのか、シマウマ達にはわかりませんでした。
でもライオンには堪ったものじゃありません。彼らには葉っぱをすり潰す歯も、葉っぱを吸収する胃も腸もないんです。
そこでライオンは川から魚をとったり、シマウマ等の死骸を食べてなんとか生きることにしました。
でもある時魚を殺すのもいけないと言い出すものがいて、シマウマはライオンにいいました「魚を殺さないでくれ」と。
そこでライオンは言いました「僕たちはもう魚以外にとれる物がない。それを禁止されたら僕たちはどうにもならない。だから魚をとらない代わりに君たちが死んだら僕たちの所に持ってきてくれ」と。
シマウマ達は了承して、死んだものがあればライオンに届けることにしました。
そうしてまた暫くの時が経ちました。もう今ではライオンにびくびく怯えるものはいません。ライオンも食べ物を求めて働かなくてすむようになりました。だって、シマウマやシカなどの動物はライオンに襲われなくなったためとても数が増え、その死んだものだけでライオンはなんとか生きることが出来ていましたので。
それから暫くの年月が経ちました。彼らの国はもう驚くほど広くなりました。
でもその結果、ライオンでさえ今では自分が草原で他の動物を採っていたのも、仕事の仕方も、彼らの気高い心も忘れ去られていました。
でも、ある時それを面白く思わないシマウマがいいました「僕たちは毎日毎日食べ物を求めて毎日くたくたになるまで働いてるのに、君らは働きもせずエサを食べている、ずるい」と。
ライオンはいいました「でも僕達には君達にあるような歯も、胃も腸もないんだぜ。それに、君らから貰うものでみんな生きれるように生まれてくる数を調整したりしている。それに君らから届けらなくなったら僕たちは食べるものがなくなる」と。
でもシマウマ達は許しませんでした。「働けないのは怠け者だ!努力が足りない!」とシマウマ達は口々に言いました。
もうライオンの下へは死骸が届けられる事はなくなりました。代わりに「怠け者!」という罵りと、石を投げられる様になりました。
またライオンにある立派な歯も今では「葉もすりつぶせない」と、立派な体系も「そんな体系だから葉も吸収できない軟弱なんだ」と馬鹿にされていました。
ライオン達は体が弱いものから順に死んでゆきました。
あるライオンは自分の親を、またあるものは子供を殺して自分も死にました。またあるものは自分の子供と他のライオンの子供を交換して食べました。
それはそれは悲惨な状態でした。
ライオンには二つの選択肢しか残されていませんでした。そう「食べ物を求めてこの国から出ていく」か「この国で生きていく為に戦うか」です。でも、そのどちらもとても大変である事をライオン達はみんなわかっていました。
けれども彼らはみんな自分の進む道を自分で選びました。それは大昔、そう草原を闊歩して動物たちを捕まえ食べていた時の、気高さ、気品さにあふれていました。
彼らは2本道に差し掛かると、互いに健闘を讃え合い別れました。「また十年後、二十年後会うことがあったらいい思い出だったなと言えるように」と。
ライオンとシマウマ達の戦いは壮絶でした。シマウマ達は数も多く、とてもよく戦いました。でもそれ以上に、ライオンの戦いは凄まじいものでした。彼らはもうシマウマ達から餌を恵んで貰っていた時の卑屈さはありませんでした。そう、それはまるで大昔に忘れた王者の風格でした。彼らも自分たちの歯が嫌いでした。体系が嫌いでした。でも今はだれ一人も誇りを持っていました。
またシマウマ達にとってもとても驚きでした。だって、自分たちから餌を恵んでもらわねば生きられもしないと馬鹿にしていたライオン達がこんなにも勇敢で、葉をすり潰せもしないと馬鹿にしていた彼らの歯がこんなにも強く、恐ろしいものだという事を彼らは忘れていたのですから。
でも時が経つにつれ、ライオン達は一匹、また一匹と死んでいきました。シマウマ達はあまりに数が多く、またライオン達はあまりに数が減りすぎていました。
そうして戦いが終わった後、草原にはシマウマ達以外に残っていませんでした。こうして草原は彼らのものになったのです。
彼らは草原中に数を増やしました。草原中が彼らの姿で埋まり、あたかも彼らにとって天国が降臨された瞬間でもありました。
彼らは「自らが草原の王者だ」と思いました。
でもある時、草原中を探しても葉がみつからならくなっていました。彼らは一生懸命探しました。国中、いえ、草を求めて他の国を攻めたりもしましたがそこもすぐに草はなくなりました。そう彼らは「数が増えすぎたのです」。
彼らは選択を迫られました。「ここで生きるか、草を求めて遠い地まで旅をするか」です。
でもだれも今の国から出て行きたくなんてありません。彼らは彼ら同士で争い始めました。
年寄りはいいました「わしたちがこの国をつくってきたんだからわしたちはのこる権利があるはずだ」と。
指導的立場にあるものは「この国を動かしているのは我々だ、だから我々には残る権利があるはずだ」と。
また違うものは「この国を支えているのは我々が子をうみ、働いているからだ」といって残る権利を主張しました。
半数のシマウマ達はもう半分のシマウマ達にいいました「お前らが俺たちの足を引っ張っている。この国から出ていけ」と。出て行けと言われたシマウマは、立場の弱いものが大半でした。しかし彼らだって出て行きたくなんてありません。必死に抵抗しました。
そこで強い立場のものは考えました「法律ではライオンがシマウマを殺すことは禁止しているが、シマウマがシマウマを殺すことを禁止していない」と。
またあるものは「いや、いくらなんでもそれはひどい。彼らがわれわれのために餌をとり献上するなら、いてもいいではないか」と。
もう、彼らは国を捨て、旅をするしかありませんでした。
それはそれは長い旅でした。半数が死に、半数が病気というありさまでした。彼らは全員死を覚悟しました。「私達がいったい何をしたというのでしょうか、どうか神様、我々を御救いください」彼らは神に祈りました。
彼らは幾日も幾日も歩いて、ようやく緑豊かな土地にでました。そこはとても美しく、とても住みやすそうな処でした。
しかしそこは、かつて2本道で分かれたライオンの国でした。彼らは長い長い距離を移動し、ここに彼らの国を作っていました。
ライオン達はシマウマ達に一飯を御馳走し、こういいました。
「この国で暮らしてもいいが、この国には掟がある。肉を食べる動物は肉を食べる動物を襲ってはならない、何人も肉を食べる動物の権利を侵害してはならないという法律だ」と。そう、シマウマ達はここで生きていく為にはライオン達に食べられることを覚悟しなければなりませんでした。
シマウマ達はいいました「ライオン君、僕たちを食べないでくれ」と。
ライオンはいいました「君らも肉を食べればいい。肉を食べる動物になれば僕らは法律によるところ君らの権利である食べられない権利により殺せなくなる。肉を食べられないのは努力が足りないからだ」と。
そう、シマウマ達が昔ライオン達にいった理屈でした。
「でも僕らは君らと違って他の動物を全滅に追い込む様な愚かな事はしない。肉を食べる動物に権利があるのと同じく、草を食べる動物にも権利があるのだから」。
シマウマ達は嘆き悲しみましたが、これ以上旅を続ける力もなく、シマウマ達はライオンに食べられる事をびくびくしながらこの国で生活していくことにしました。
でもここではもうだれも彼らに「出ていけ」といったり、差別されたり、仲間内で争わなくてすむようになりました。だってライオン君たちは、自分たちが食べる分以外はシマウマ君たちを襲いませんでしたので。
そこで彼らは思ったのです「ライオン君より、仲間だと思っていたやつらのほうが悪魔じゃないか」と。
そのころ元シマウマとライオンの国では争いが絶えていませんでした。彼らは以前に仲間を追い出したのに、また数が増えたのです。今度は以前のように出て行くものはいませんでした。
多くのものが餓死し、多くのものが殺されました。それは彼らが思い描いた「天国」ではなく、「地獄」そのものでした。食料はシマウマ達全てに行き渡る分は到底なく、配給制になりました。指導的立場のものは、食料を公然と横領していました。それに反発するものもいましたが、「反発する思想を持っているものを密告したものには食料を与える」という法律ができ、彼らは食料ほしさに無実のものも「密告」しました。その結果、また沢山のシマウマ達が殺されました。
みながみな疑心暗鬼になり、密告制度は浸透していきました。今ではもう、横流しや横領により食料を奪われ餓死するもの、密告により殺されるものが多くなっていました。指導的立場のものは正当化するため、ほかのシマウマ達に昔「食料がないのは努力が足りない」とライオンにいったのをそのまま彼らにもいいました。
しかしすでに草は彼ら全員分はなく、「努力」とは「指導的立場のものを喜ばせ」ることであり、ますます無実で死んでいくものが増えました。
彼らも心の中では「反発」していましたが、誰も行動を起こしませんでした。「下手に動いて殺されるなら、今生きられているのだからいいじゃないか」、彼らは将来のことより、今だけを生きる、を選んだのです。ライオンや、出て行ったシマウマ達と反対に。
さて、そのころ遠くライオンたちの国に、あの2本道で別れ戦ったライオンたちがすべて勇敢に死んだこと、シマウマの国が乱れていることが伝わってきました。
そこでライオンはいいました「彼らに苦しめられた恨みだ!死んでいった仲間達の仇だ!」シマウマはいいました「苦しめられた恨みだ!死んでいった家族の、仲間達の仇だ!」
ライオン達は元シマウマとライオンの国へ戦争をしかけることにしました。
シマウマの国の指導的立場のものはおどろき、「国難」だと騒ぎました。「愛国」だと騒ぎました。「僕らは平和を望んでいるのに、ライオンは暴力を使ってきた。以前も僕らを沢山殺した。」またあるときは「ここで戦わなければ、僕らはライオンたちに食われてしまう生活をしなければならない」と。
そこで幾ばくかのものはその言葉に従ってライオン達に突撃しました。
でも彼らにはもはや、ライオンや、彼らが追い出したシマウマ達やその子供と戦う力はすでに衰えておりました。
それに彼らはわかっていませんでした。
抑えがなくなると内部からも「苦しめられた恨みだ!死んでいった家族の、仲間達の仇だ!」と反乱がおきました。
ライオン君たちが着いたときには、すでに指導していたものは殺されていました。
こうしてシマウマ君達の国はなくなりました。でもいいこともありました。餌を求めて仲間内で争わなくてもよくなり、食料を横流しするものも、横領するものも、罪もないのに殺されるものもいなくなりました。確かにライオン君たちにシマウマ君たちは食べられるようになりましたが、ライオン君たちは食べる分以上は殺しませんでしたし、また食べる必要がないときはシマウマ君達を襲いませんでした。それはシマウマ君たちが仲間内で殺しあっていた数より、ずっと少なくなり、安全になりました。
結局、この戦いで損をしたのは誰なのでしょうね。
「その動物にはその動物の分っていうのがあるんだな」
亀のじいさんは続けて言いました。「わしが子亀のころも同じ様な事があって、また今回もだった。なぜか動物は、法律で自分が動物であることを捨てようとする。また暫く経ったら同じ事起こるよ」と。
「歴史は繰り返す」とはいうけれど、どうなんだろうか。と、渡り鳥は先ほど亀のおじいさんから聞いた話を思い出しながら飛んで行きました。
「でもそれは僕が死んだ後だろうな、僕は亀の爺さんより長生きできないから」