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第二話

 アームズモンスター。略してアムモン。

 

 この世界に存在する人格と人や生き物の形を持って生まれた、『武器』である。 

 人はアムモンを道具としたり、ペットとしたり、アムモン使い同士で戦ったり、ただの兵器として使用したりして暮らしている。

 

 そんな世界にレドは心底嫌気がさしていた。


「別にアムモントレーナーになる気もないしな」

 

 言い訳のように独り言をつぶやき、街に出る。

 

 これからどこに行こうか。人々が行きかう繁華街で一人思案する。


 せめて世話になったシルバに礼と別れぐらいは言うべきだったか。


 まあ、それも今更か


 これといって目的地があるわけではなかったが当面の資金は必要だった。


 どこかでアルバイトでもするか。


 「つってもその気になれば野宿もサバイバルもする覚悟だけどな」

 

 と。


 視界に日常の街ではあり得ない、異質な光景が映る。


 それは複数の黒服の男が少女を捕まえる現場だった。


 一見すると誘拐にしか見えないが、少女の姿を見て納得する。


 銀を糸にしたような流れる長髪は見事の一言。その頭には二本の触角が生えており、耳は自己主張するかのように尖っている。その顔はまるで絵画の中から飛び出たように整っており精巧な人形を思わせるぐらい完璧な造形だった。


 問題は体のほうだった。


 胴体までは人間そのものだが前脚は鎌状に変形しており多数の棘がある。下半身は細長く緑色に光沢を放っていた。そして四本の後ろ足には爪が生えている。


 明らかにカマキリをイメージしたそのデザインは人間のものではなかった。


 

 男たちを睨む銀の目には敵意というより殺意に近いものが宿っている。そして白い拘束具を衣服のように身につけた姿は警察に抵抗する凶悪犯を想像させた。


「虫型のアムモンか」

 

 しかも少女の拘束服にはレイクーン育成センターのマークが貼り付けられていた。

 

 ということはあれが噂の逃げ出したアムモンだろうか。


 街を行きかう人々は誰も助けに入らない。一瞬立ち止まり、様子を伺う者もいるが相手がアムモンだとわかるとすぐに踵をかえす。


 人間だったら紛れもなく誘拐なのだろう。


 しかし、アムモンに人権はない。たとえ、暴力を振るったり、死なせたりしたとしても法的には器物破損にしかならない。


 世界はおかしい。


 今、こうして助けを求めている少女の心はは本当にただの人工的に作られたものなのだろうか。


 レドは自然と黒服達に歩み寄っていた。


 ……人数は四人か。


 おそらくはレイクーン育成センターの教官だろう。


 一番体格のいい男に近づく。


「ん? 何だお前、がはっ!」

 

 男がレドに気づいた瞬間、拳を作った手を男の腹部にめりこませた。

 

 なかなか鍛え抜かれた腹筋をしていたため腕に多少の痺れを感じる。


 くの字に曲がった男のあらわになった首筋に手刀を叩きつけると、男はアスファルトに大の字を作って気を失う。


「何をする!?」

 

 別の男が懐に手を入れる。


 スタンガンか、拳銃か。あるいは応援を呼ぶための携帯か。


 何かまではわからなかったが、それを取り出す隙を与えずレドは左足を軸にした回し蹴りを男の顎にみまう。


 脳が揺らされた細身の男は目の焦点を失い、地面に倒れこむ。


 後二人か。


 レドは男がそうしたように自分の懐に手を入れた。

 そして、何かを取り出すようにゆっくりと手を引く。


「……体勢を立て直すぞ」

 

 右の男が左の男に言う。


「え?」


「いったん戻って報告する必要がある」

 

 そう言うと右の男は倒れた男を一人肩に担ぐ、左の男がそれに習うようにもう一人アスファルトに大の字を作っている黒服を抱えた。


「……何のつもりか知らんがそのアムモンが人に危害を加えたとき、責任を取らされるのはお前なんだぞ?」


「理由もなく人に危害を加えたアムモンを俺は見た事がない」

 

 そう言い返したレドを左の男は憎々しげに見つめその場を後にした。


 少女のアムモン。確か名前はシザーズだったか。そのアムモンにレドは視線を戻す。


 少女は逃げもせず驚いた顔をしてレドを見つめていた。


 レドは一歩近づく。


 びくり、と警戒し、一歩下がるシザーズ。

 

 レドは右足を前に出したまま止まり、口を開く。


「……わかった。これ以上は近づかない」

 

 ゆっくりとその足を戻す。


「逃げるんならこんな町中じゃなくて森にでも入りな。後は好きにすればいい」

 

 そう言ってレドは踵をかえした。


「もう捕まるなよ」

 

 わき目も振らずその場を後にした。


「あ、……」

 

 少女が何か言いかけたがもうレドの耳には届かなかった。

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