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プチトリ!!(仮題)  作者: 谷口 ユウキ
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リメイクしました第一章 第四話「ほう丸暗記とな」

前回のあらすじ


主人公は宿に泊マレナシタ

「なるほど、こうきたか……」

 部屋の鍵を開けて入ってみるとそこには元の世界、それも現代のホテルのような空間が広がっていた。 妙に広々とした部屋が全部で3つあり、そのうちの1つはユニットバス。エアコンや冷蔵庫があるのを見るとまるで元の世界に帰れたかのような錯覚に陥る。

「改造ってこういう事だったのな」

 [鑑定士]のスキルで調べてみると空間は魔法で捻じ曲げられ、現代的な機械は全てマジックアイテムで代用されていることが分かる。

 設備を使うのに客が魔力を装填(?)する作りになっている所がポイントだな。

 MPの量なんかから考えて魔法職の人以外が扱うのは大変なのだろう。専門と言うだけはある。逆にそこらへんが有名にならない理由なのかもだけど。

 何にせよ平和的な魔改造でよかった。

「さて、それじゃあ服を作るとしますか」

 たしか[学者]のスキルは図鑑だったよな。アイテム関係の図鑑とかがあるか見てみるか。

 自らの私腹を作り出すため、[学者]の[アイテム図鑑]を視界一杯に広げたオレは、何が作れるかのチェックを始め、試しに[コットンの布]で制作できる装備を選択。

  スキルによる作成というものをやってみることにした。

 


 シュパパパパパッ!!


 部屋に鋭い風切り音が響く。

 その音を発生させている張本人であるオレは目の前の光景にただ驚愕していた。

 手元にあるのは作りかけの服。

 コレはさっき選んでみた[治療師のローブ]というアイテムで、防具のランクとしては下の上ぐらいの品。広場からこの宿に来るまでの間に、同年代の魔法職が着ているところを何回か見ており、この世界で着ていてもまず立つことが無い上着である。

 しかしそういった理由で作り始めたそれは絶対に目立つくらいの恐ろしい速さで完成へと向かっていた。


 手縫いで。


「残念なくらいすごいな。これが[仕立て屋]のスキルの力なのか」

 オレ自身の基本スペックが上がったせいだろう、手がミシンよりもずっと早く動く。それはもう気持ち悪いぐらい動く。

 しかも体が勝手に動いてくれるのだ。ロボット顔負けの完全オートである。白目でいても何の問題もなく縫えてしまった時には、自分でやっておいてかなりのショックを受けた。


 初めての制作、しかもほとんど1から作るという事でかなりの時間を裁縫に喰われると思っていたのだがどうやらLv99というのはオレの想像を遥かに超えた代物らしい。作り始めてまだ30分くらいしか経っていないのにもう仕上げに入っている。

 正直ちょっと引くレベルだ。いや、白目で裁縫してる時点でも十分に引いたが、まださらに引ける。

「でも[仕立て屋]でコレって事は戦闘に使う魔法職も相当って事だよな」

 レベルは同じなんだからきっと魔法でも人間離れした技が使えてしまうのだろう。ヘタに全力を出すと色んな人に目を付けられそうだ。

 剣と魔法のモンスターの異世界ということ、そしてゲーム設定的なことを治安が日本並みに良いという事はありえない。下手に力を持った分ソレが周りに知られた時には間違いなく厄介事に巻き込まれるはずだ。

 その辺の事は古今東西の異世界トリップ小説が証明してくれてる。

「でもそういうのって力ずくでケリを付けるぐらいしか対処法が思い浮かばないんだよなあ」

 人脈作って内政チート! とかオレには絶対無理だ。そもそもやろうと思う意味が分からん。きっとああいった作品の主人公たちは山のようなデスクワークが苦にならない人たちなのだろう。

 オレにとっては宇宙人だ。異世界ライフは自由に気楽に生きたい。と、いう事はやっぱり早いうちに戦う事に慣れとかないとダメなんだろうな。

 戦わないで良いならソレが一番だが、そこまで甘い世界じゃないだろう。

「持ちジョブのスキルくらいは確認しておいた方が良いよな」

 自分の手札ぐらいは理解しておかないと後々苦労するのは分かり切っている。気は進まないけど今の内にちょっと見ておこう。


 そして念じたら視界に出るメニューから使用可能スキルの一覧を開いたオレの前に、大量の固有名称が映し出された。

「使える数がメッチャ多いっ」

 非戦闘職のジョブに関しては現在進行形で服が作られている事から、おそらく作業をオートでできると考えていいだろう。けれどそういった非戦闘職のスキルを除いても、戦闘職のスキルは相当な数がある。

 1つのファーストジョブにつき自分の意志で発動させるアクションスキルは30個から40個。勝手に発動してるオートスキルもそれぞれ10個くらいある。

 しかも[シュウ]の取っていたファーストジョブが魔法職ばかりだったためオートスキルの種類が一部重なっているのだ。それによって新しいスキルが解放されたりしていて、覚えなくてはいけないスキルの数は20個近く追加されている。

 正直暗記するのがだるい。


「いっそ実戦で使いながら覚えるか?」

 暗記しても使ってみるまでどんな魔法か分からないんじゃ覚えた所でどうしようもないしね。一気に覚えてしまおうかと思ったんだけどそれがダメなら仕方がない。いや、ホント残念だ。

 ……明日にでも死体で発見されそうだな。オレ。

「ハア、まずは全体を見て覚えれそうなのから覚えていくか」

 まずはオートスキルの確認からしよう。この手のモノを試すと確実に人体実験になるから使いながら覚えるとか絶対にしない。つまり無理やり覚える必要がないわけだからな。

 [状態異常耐性]を証明するために毒物を食べるのは御免だ。

「えーっと[MP回復速度上昇]と[MP秒速回復]か。これってどっちが上なんだ? こっちの[詠唱省略]も[無詠唱]あるからいらない子になりかねないし」

 うん、なんとなく頭に入れとけば十分だろう。

 念のため[学者]スキルの1つ[スキル図鑑]と照らし合わせながら確認していく。

「地味に便利だな[学者]」

 たいした使い道がなさそうに見えた図鑑も武器、防具などのアイテムにモンスター、スキルと種類があって地図まで見れる。しかもそれが[シュウ]の努力の甲斐あってどれもコンプリートされているのだ。

 これはもうちょっとした攻略本である。

 さっき見つけたオートスキル、[翻訳]や[言語読解]もどうやら[学者]ならではのようだし、実はこのスキルのおかげでかなり助かっているのではないだろうか。

 読めて聞けるから意識しなかったけどこの世界の言語って多分知らない言葉だよな。

 修次に感謝だな。……って言ってもこの世界に飛ばされた原因の大半はアイツなんだけどさ。

「どうせならアイツが来ればよかったのにな」

 修次なら持ち前のしぶとさとマイペースで、立派なチート生活が送れただろうに。

「何でオレなのかねえ」

 覚える量はとにかく多いし。ホント、愚痴らなきゃやってらんないよ。

 

 結局スキルの確認が終わる頃には夕方になっていたのだった。


「ん、もう日が暮れるのか」

 朝なのか昼なのか分からない状態が続いていたので大体の時間が分かった事に少しホッとする。よくよく考えると時計がないからここにきて何時間経ったのかサッパリだ。

 どこかに売っているのだろうか?

「しかも腹減って来たな」

 何か食べることにしよう。

 さて、ここでオレが取れる選択肢は2つある。アイテムボックスから食えるものを探すか。下の食堂で何か食べるかだ。……まあここは後者だな。部屋から出ないと恥ずかしくて引き籠ったみたいに思われそうだし。

 それに人の手で作られた温かいものが食べたい。

 先ほど確認した[料理人]のスキルで作れるアイテムには元の世界と同じ料理もあるようだった。味の心配はしなくてもいいだろう。

 せっかくなのでいつのまにか作っていたばかりの[治療師のローブ]を着て階段を下りていく。

 着心地は悪くない。全く手元を見ないで作ったとは思えない、すばらしい出来だ。


 食堂では『準備中』の札があるにも関わらず何人かの客がテーブルに座っていた。よくよく見てみるとさっき話した露天のおばちゃんもドワーフの爺さんと一緒に酒瓶とセットで席についている。

 間違いなく飲みに来てるな。

「そうだ、お礼を言わないと」

 せっかく宿を紹介してもらったんだし例は言っておくべきだろう。なんたってこの世界にいる数少ない顔見知り。人と人との繋がりは大切にしたい。

 しかしそのおばちゃんだがドワーフの爺さんと真剣な顔で何か話し込んでいる様だった。

 声を掛けるタイミングが取りづらい。てか掛けていいのかコレ?


 仕方がない、お礼はまた後にするか。


 だが足踏みしてる間に向こうがコッチに気づいたらしい。

「あ、アンタさっきの子じゃないか」

 と、オレに気が付いた露店のおばちゃんがこっちに向かって手招きをしてきた。

「ホラ、こっち来て座りなさいよ」

「はあ」

 断る理由が無いのでおとなしく席に着く。

「そういえば自己紹介がまだだったわね。アタシはマーサっていうんだ。仕事はさっき話したよね」

「あ、オレは鉄平っていいます。テツでいいですよ」

「そう、よろしくねテツ」

「ハイ、よろしくお願いします」

 それにしてもマーサさんの連れのドワーフ。近くで見るとずいぶん顔色が悪い。手元のコップから漂う匂いからして、今まさに酒を飲もうとしていた所だったみたいだが、飲酒して大丈夫なのだろうか?

「ホラ、爺さんも自己紹介しなよ」

「う、うむ」

 やっぱり声に元気がない。流石に体調が悪いところを無理して来た。なんて事は無いはず。きっとさっきのマーサさんと話していた話題があまりいい内容ではなかったのだろう。

 しかしこのドワーフの爺さん。何処かで見た覚えがある。

 もしかしてさっき声を掛けようとしたけど悪い気がしてやめたあのドワーフなのだろうか。

「えーと、テツです。始めまして」

 さっき声をかけれなかった手前、若干の気まずさはある。が、黙り続けているわけにもいかないので、自己紹介から入ることにしてみる。

「フ、ファブロフじゃ」

 だが声は硬い。緊張してるのだろうか?

 多分年配者だとは思うが……だからこそこの反応は居心地が悪いな。


 やることも無かったのでこっそり鑑定してみると[鍛冶屋][鑑定士][学者][闘士]のジョブが見える。

 さすがドワーフ。[鍛冶屋]のジョブを持っているのはイメージ道理だな。

それに自分と同じジョブを2種類も持ってるってのがいいね。親近感が湧くよ。

 しかし結局お互いの名前しか言わなかったため、場の支配権は再びマーサさんへと戻って行く。

「それにしてもテツ君の名前ってこの辺りじゃ珍しいわよねえ。受付のフェレスちゃんも言ってたけどもしかして何処か遠くの方から来たのかしら?」

 コレが噂の女の勘なのか? いきなり核心を突いてきた。

 地味に目立たずやりたいというのに、まさか飯を食いに来ただけで窮地に立たされるとは。しかも困った事に……。

「えーと、フェレスって誰ですか?」

 知らない人の名前が出てきた。

「ああ、ここの受付やってる女の子よ。ホラ、猫耳の」

「あー、あの猫耳の」

 思わぬ所で猫耳娘の名前が発覚である。

「あの娘『とっても変わった人が止まりに来たんです』って言ってたけど一体何をやったのか詳しく教えてもらえないかしら?」

 そしてフェレスさんにとってのオレのポジションは『とっても変な人』という事も発覚した。

 マーサさんの話がせっかく塞がりかけた心の傷をグリグリとえぐりにくる。

「た、大した事じゃないんで気にしないでください」

 むしろ忘れてください。

「そうかい? なら別に良いんだけどねえ」


 地雷を踏んだことに気付いたのかマーサさんはそれ以上追及することなく話を進めてくれた。

「それでそのフェリスちゃんがね、あなたが宿のサインとして使った文字が読めないってアタシの所にやってきたのよ」

 そう言ってマーサさんは1枚の紙をテーブルに置く。宿に来たときに名前を書いた羊皮紙だ。

 見たところ漢字の綴りも特に間違いはない、ちゃんとしたオレの名前が書いてある。コレで読めなかったという事は、この街は漢字圏ではなかったという事なのだろう。

 この街が中世ヨーロッパ的な街並みをしている時点で気づくべきだったな。

 

 そんな反省をするオレの前でマーサさんは語っていく。

「まあアタシだってそこまで学があるわけでもないからねえ。仕方がないからここにいるファブロフ爺さんに意見を求めたのさ。一応[学者]だからね」

「一応は余計じゃい」

「あー、なるほど」

[学者]を持っているのなら外国語にも詳しくてもおかしくはない。実際オレはそれでかなり助かっているのだ。理には適っている。

「爺さん、せっかくなんだ。アンタの見立てとやらを本人に話してやりなよ」

「うむ。まず初めに言っておくがのう、この世界にこんな文字は存在せん」

「え?」

 ……という事は漢字圏じゃない。のではなく漢字圏そおものが無い?

 ショックを受けるオレを見るファブロフ爺さんはかなり得意げにニヤリと笑う。顔色が悪いのに無理をしているようにも見えるが、固まりかけた思考回路でもイラッと感じるぐらいにはドヤ顔だ。

「お主、異世界人じゃろう?」

 この断言っぷりと、言葉から伝わるこの自信。さっきの漢字の話が本当かどうかはともかく、どこかで自分でも気付かないうちにバレるようなミスはしたのだろう、誤魔化すのは無理そうだ。

「……思った以上に速攻でバレたな」

 ホント、世の中ってのは難しい。

「んで、オレをどうするつもりですか?」

「どうもせんわい。勇者を相手にした時に異世界人の性質の悪さは思い知っとるからのう」

「え?」

 この爺さん今すごいこと言わなかったか!?

「ふふん、驚いとるのう。こう見えてもワシは247歳。非常に残念な事に世間で言われとる『名もなき勇者』の知り合いなんじゃよ」

「……マジすか?」


 さすがにそれは予想外だったわ。



ども、谷口ユウキです(-_-)/ 


ここ2、3日でアクセス数が急増!

お気に入り件数も2桁を超え感想までもらいました。


っていうリメイク前の後書きを見て「ずいぶん遠くまで来たなあ」と思いました。


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