リメイクしました第一章 第三話「ほう世間話とな」
前回のあらすじ
主人公は上書き保存されていた。
広場を素早く立ち去ったオレは、さっそく露店に繰り出し[鑑定士]のスキルで辺りをチェックする。
「商品は割と普通だな」
一応剣や盾もあったが、目新しいどころそこそこ古そうな中古品だった。後の商品は布や陶器、ナイフなどで元の世界でも普通に売ってる物とそこまで変わらない様に見える。
店員の獣人やドワーフにはテンションが上がったけどね。
「珍しいのは店員だけか。残念」
だが本題のお金の方は意外とアッサリ確認する事ができた。
ありがたいことにゲームと同じらしく、この世界の硬貨は魔力でできた鉱石の一種として扱われているらしい。
お金がモンスターを倒すとドロップできるアイテムだという所もゲームと変わっていないらしく、露店の店主とお客が何とかってモンスターを倒したら銀貨が10枚も出たという話をしていた。
お金の種類は小銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、白金貨、紅金貨の6種類。
いくつか見た露店の商品の値段から考えて、それぞれ10円、100円、1000円、1万円、10万円、1000万円くらいの価値があると見て良さそうだ。
1000万もするアイテムを露店で売る根性は分からないが、そこはまあこの世界ならではなのだと思っておくことにしよう。売り物はロマンあふれる魔法の絨毯だったしな。
何にせよ冷やかし万歳である。
そして肝心のオレの所持金だが、修次のデータを引き継いだおかげで一気に億万長者! とはなっていなかった。一応アイテムボックスにお金は入ってるのだが、その金額が思ったより少なかったのだ。
今の所持金は小銅貨143枚、大銅貨78枚、銀貨115枚、金貨17枚、白金貨2枚。合計してみると大体2182万4230円である。
確かに生まれてこの方持ったことない大金だが、これを元手に一生遊んで暮らすのは無理そうだ。
アイテムボックスの中身が充実していた事を考えると、かなりのお金が素材や装備に消えていったのかもしれないな。
「まあ宿代と飯代があれば十分か」
なんだかんだ言っても軍資金としては上等と言って良い額だ。まずは寝床と飯を確保してこれからの事を考えるとしよう。
そしてキョロキョロと街中を見て回りながら歩き続け、30分が経過した。
「何故だ」
これだけ歩き回ったのに寝床が、宿屋が一軒も見つからない。
もしや、迷子になったのだろうか?
だが、そんな事を言ったら神殿を出たところからすでに迷子だった気もする。
「最悪だ。タダでさえ宿の場所が分からないのにその上迷子って」
その上もなにも状況は何一つ変わっていないじゃないか。
「あー、よし。こうなったらその辺にいる優しそうな人に聞いてみるか」
とりあえず手近な所にいるホワイトタイガー顔な獣人さん……とは目を合わせないようにして、すぐそこの厳つそうなドワーフの爺さんに声を掛ける……のも悪い気がするから、向こうからやってく鎧フル装備の人に話しかけ……られなかった。
元の世界だったら間違いなくヘタレと言われていただろう。
もちろん否定はしない。
だけどあえて言わせてくれ。ブロンズ像(実際はオリハルコンだが)になった知り合いしかいない異世界で、他の種族やフル装備の人に声かけるのって思ったよりハードルが高いんだ。最後の人なんて『街中で何被ってんのコイツ。不審者?』って言いたくなるようなフルフェイスメットだったんだ。優しそうもクソも無いじゃないか!
「とにかくキワモノはダメだ。まともな人間を探そう」
見た目から入る異文化交流とか、オレにはハードルが高すぎる。露店で適当な物買って店の人にさりげなーく宿の場所を聞こう。
そうと決まったら善は急げ。さっそく人のよさそうな店主のいる露店を探してみる。
「あった、パッと見優しそうなおばさんが店主の露店!」
オレは第一印象の大切さを思い知る。
どうやら売り物は布らしい。[仕立て屋]のジョブを持っているらしいオレには都合の良さそうな店だ。今の装備は性能は良くても結構人目につくらしく色んな人の視線を引いていたみたいだったし、スキルか何かで服が作れるのなら、ここで素材となる布を買ってなるべく目立たない。地味な普段着を創るのも良いだろう。
こうして物珍しげに街を見て回っていたオレへと向けられていた人の目を。田舎者を見るような周りの生暖かい視線を『装備のせい』という一言で片づけたオレは、宿の情報を得るべく露店へと顔を出したのだった。
「こんにちは、おばちゃん。この布っていくら?」
挨拶もそこそこに、大きな風呂敷(?)の上でたたまれた布の中から適当なものを選んで聞いてみる。
「いらっしゃい、どれも大銅貨2枚だよ」
つまり大体200円くらいか。試しに広げてみると結構大きい。シャツの一着くらいは作れそうな大きさだ。
そのまま手に取った布を鑑定士]のスキルで見てみると[コットンの布]と表示される。
どうやらこの世界にも綿はあるらしい。
「とりあえず3枚ください」
オレはズボンのポケットの中に手を入れてからアイテムボックスを発動し、一番最初のアイテム欄に入っている大銅貨を選択。なるべく自然に見えるよう大銅貨を手に収めることに成功する。
自分でも無駄な裏工作だとは思うが、この世界に来てまだ常識もちゃんと理解してないのだ。どこでどんな違和感を与え、余計な注目を集めるかわからない以上、こういった小さな積み重ねは大事にしたい。少なくとも何もないところからお金を出して支払いをする人を見るまでは、この裏工作は続けるつもりだ。
まあ私生活の買い物で『店主、なんと何もないところから代金が!』みたいな事をするのを見ても、セリフのあるなしに関わらず真似しようとも思わないかもしれないが。
そしてオレがそんなことを考えているうちにおつりが返って来る。
「はい、大銅貨6枚ね。それにしても珍しいね。アンタみたいな若い子がこんな店に来るなんて。その装備は魔法職に見えるけどもしかして[仕立て屋]のジョブも持ってるのかい?」
「一応ですけどね。ちょっと服を作ろうと思いまして」
ジョブレベルを話していかどうかが分からないので、オレは言葉を選んでお茶を濁す。
「偉いねえ。ウチにもアンタと同じくらいの息子がいるんだけど、家業の[仕立て屋]の腕を磨こうともせずに[武闘家]や[闘士]の修行ばかりでちっとも帰ってこないんだよ」
「へー、そうなんですか。大変そうですね」
「全くね」
初対面相手に愚痴る店のおばちゃんは、代金を受け取りながらやれやれと首を振った。
どうやら本当に苦労しているらしい。
でもこのおばちゃん、息子が[仕立て屋]、[格闘家]、[闘士]の3つを自分のジョブとして持っているって言ったよな。
そういえばさっき鑑定した通行人の中にも3、4個のジョブを持っていた人がいた。これはつまり、転生しなくても持ちジョブを増やせるという事を指していると見て良いだろう。
だがそれは『アルジャンワールド』というゲームではありえない事だったはずだ。
これは本腰入れて情報収集する方がいいか。
一般常識を知らなかったせいで大怪我をしたらシャレにならん。というのはもちろんだが、それ以上にゲームとの食い違いがある事が気になる。
とりあえずこのおばちゃんともう少し話しをしてみよう。たしか[仕立て屋]を家業とか言ってたよな。
「おばちゃんも[仕立て屋]なんですか?」
「ええ、アタシはLv72の[仕立て屋]でこの町にある『ラーキィ』って店の店長をやっててね。品質はこの国でトップクラスと自負させてもらってるよ」
「あ、店長さんだったんですか」
でもLv72でトップクラスならオレのLv99って相当ヤバイ事になるよな。……今知れてよかった。
「でも店長なのにこんな所で露店やってるんですか?」
「この街のルールに、アタシ達みたいな自営業の店はフリーマーケットへ参加しないといけない。ていうのがあってね。おかげで店は臨時休業なんだよ」
「なるほど。たしかにフリマで店が少ないとテンション下がりますもんね」
「そういう事だね」
「そういう事ですか」
……情報を聞き出すのって思ったより難しいな。
あまり長引かせるとボロが出そうで怖いし、ここは初心に帰っていい宿が無いか聞いてみる事にしよう。
「所でオレ、この街に今日来たばかりで泊まるところを探してるですけど、何処か良い宿屋って知りませんか?」
これで橋の下とか言われたら泣くしかない。
「ああ、そうだったのかい。それならこの道をちょっと行ったところに『空回り』っていう安くていい宿があるよ」
は?
「か、『空回り』ですか?」
とても良いお宿には聞こえない。
「そう。あんまり有名じゃない魔術師専門の宿でサービスは最高らしいよ。なんでも百年前にこの街に来たっていう異世界の勇者様が故郷の名店を元に改造した宿らしくてねえ。色々と手が込んでる割には格安なんだよ。まあアタシらは飲み屋として使ってるんだけどね」
「お、ゆ、勇者の産物ですか」
魔術師専門店って言うのも気になる所だが、一番の問題は現地の人が改装じゃなくて改造と言った所だろう。
それも多分改造の前に『魔』の一字が付く感じのヤツ。
「一応確認しますけど勇者って広場のアレですよね」
「広場のアレだね」
「ちなみに他にお勧めの宿って……」
「無いね。あの店以上となると全く思い浮かばないよ」
「ハハハ。ハハ、そうですか」
「ど、どうかしたのかい?」
「いえ何でもないです」
「そ、そうかい。ならいいんだけど」
何だよ『空回り』って。しかもあの七三、言葉の意味を伏せて広めやがったな。そんな名前から失敗してる店、元の世界にあるわけ無いだろうが。
性質が悪いにもほどがある。
だが地元の人のオススメという事はホントに良い宿ではあるんだろう。泊まるかどうかは別にしてもチェックは入れといたほうがいい……はずだ。
「じゃ、とりあえずそこに行ってみる事にします」
「一気に顔色が悪くなったみたいだけど大丈夫かい?」
「へ、平気です」
「そうかい? 疲れてるんなら早く宿に行って休みなよ。若いからって無理しなきゃいけないわけじゃないんだから」
「そうします。布、ありがとうございました」
「ああ。気が向いたらウチの店にもよっておくれよ」
「ハイ」
かなり不審に思われたがさっきのリアクションは不可抗力。アレはどうしようもない。
さっさと切り替えて宿行って寝よう。
肝心の宿だが、おばちゃんの言うとおり道なりに歩くとすぐに見つけることができた。
西洋風の旅館って感じの2階建ての建物だ。
『空回り』という名前とは裏腹にちゃんとした宿屋に見える。まあ普通に考えて店の従業員はコッチの世界の人なんだし警戒する事もないだろう。
「とりあえず部屋とって休もう」
ベルの付いた扉を開けてみると開けたスペースにテーブルとイスが並んでいるのが見える。どうやら宿の一階は居酒屋兼フロントらしい。準備中と書かれた看板が立っていた。
そして肝心のフロントには……何とリアル猫耳娘がいる!
うおおおお、すげえ、本物だー!!
オレは心の中で叫び声を上げる。
街ですれ違う獣人はほとんど獣フェイス。人とのハーフっぽい獣人がいてもちょっとすれ違うだけでよく見れない。という状況だったから、このサービス(?)はマジ嬉しい。ありがとう露店の名も知れぬおばちゃん。ココは最高の宿屋だよ!
「……あ、でも部屋取らないとな」
いつまでも外で突っ立ってはいられない。思わぬサプライズに嬉しくなったオレは、意気揚々と宿に入っていった。
「いらっしゃいませ。お泊りですか?」
入店と同時にフロントの猫耳娘がピクリと耳を反応させてコチラを向く。
居れば見るほど触りたくなるな。どうしても視線が耳に行ってしまう。
一応このフロント係さんの名誉のために言っておくが、この娘本人も結構可愛い人だ。
赤い毛並のショートヘアで、おしとやかなティーリアさんと違って活発そうな感じ。なのだが、オレの中では猫耳のインパクトが大きすぎてそういった印象は霞んでいた。
おお、物音に反応してクリッと動く。
正直に言えばものすごく触ってみたい。引っ張ってみたい。だがソレは間違いなくセクハラに分類される行為だ。もしやれば間違いなく変態として見られるだろう。
とりあえず今は猫耳よりも会話だ。会話。
「えと、部屋は空いていますか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「そうですか」
良かった。これで今日は何とかなる。
しかし生まれてこの方16年。こういう所に1人で泊まった事がほとんどなかったオレは、何を喋ればいいか迷ってしまう。 まずは宿泊期間か?
「と、トリアエズ1週間泊マレナスカ?」
そしてカウンターは沈黙に支配された。
ぐああああ、テンパった、最後らへんでナスカって言っちまった! ヤバイ、この空間から逃げ出したい。
「い、今のは無かったことにして、とりあえず一週間でお願いします!」
オレの必死さと勢いに気圧された猫耳娘は、こっちの要求にコクコクと頷いた。
「こ、こちらにサインをお書きください」
こうなったらこのノリで押し切るしかない。渡された羊皮紙に名前を書いて突き返す。
「宿代はいくらですか!」
「ぎ、銀貨7枚になります」
「部屋は!」
「そ、そうですね。二階、階段登って右の突き当りです」
「鍵は!」
「どうぞ。こちらになります」
ああ、猫耳さんがだんだんこのノリに慣れてきている。
「どうもありがとうございましたー!」
「はい。ではごゆっくりどうぞ」
そして鍵をつかんだオレは階段へと逃げ出したのだった。
「あー、やっちまったー」
階段を一気に昇ったこともあってか顔が真っ赤だ。
後ろの方で今の猫耳娘が『外国の人なのかな?』と言ってるのが聞こえて来たが、とても振り返る気にはなれなかった。
「ったく、ひどい目にあった」
宿でのチェックインがトラウマになりそうだ。100%事項自得なところがまた悲しい。
「仕方がない、リアル猫耳娘が見れたから良しとするか」
こういう時はポジティブに考えるものだ。
……何か今日1日で思考の切り替えがスムーズになった気がする。
「とにかく部屋に行こう」
いい加減休みたい。確か場所は右の突き当りだったな。
こうしていそいそと部屋に向かったオレは倒れ込むように扉を開けたのだった。
ども、谷口ユウキです(-_-)/
修正じゃなくて作り直しだと思うと意外と修正ミスなんかがゴロゴロ見つかります。
意識の違いがデカイみたいですね。