リメイクしました第一章 第二話「ほう勇者様とな」
前回のあらすじ
オイシイ所は七三に取られていた。
「テツさん、テツさん! 一体どうなされたんですか!?」
かなりビックリしたのだろう。あわてた様子のティーリアさんが後ろから駆け寄ってくる。
堂々と扉を開けて歩き出した人間が、最初の一歩であっけなく崩れ落ちたのだ。
気持ちは分かる。
「スンマセン、あの勇者像がちょっと知り合いにそっくりだったもんで」
ていうか多分本人だったもんで。
「え?」
「思わぬ不意打ちに気が抜けました」
思い返せば自分でもどうかと思うような理由だ。ティーリアさんのキョトンとした顔が羞恥心を煽る。
「クスッ、何ですかその理由? そっくりなだけなら、勇者様にあこがれてソックリの髪形にしてる子もたまにいるじゃないですか」
「え゛?」
という事は世のお子様方にあの髪形がマネされてるのか!?
そんな親御さんが泣きそうなリスペクトがあるなんて。
「これがカルチャーショックか」
ここは思っていたよりも恐ろしい世界かもしれないな。
衝撃の抜けきらないオレは引きつった笑みを浮かべて、膝をついていた体を起こす。
そんなオレを見てティーリアさんはますます首をかしげていた。
「そんなにお知り合いの方に似ていたんですか?」
「ええ、ホント、あの人が世界救ったのかと思って絶望しかけましたよ」
少なくともさっきまでオレの中にあった夢と希望は砕けました。
「もう、どうせ別人なんですからね。ほら、シャンとしないとですよ!」
「え、ええ。そうですね、今度こそ行ってきます」
「はい。気を付けて下さいね」
万が一、いや億、いや兆が一も無いだろうけど、もしかしたら奇跡的にソックリさんって事もあるかもしれない。とりあえず近くに行って見てみよう。
そして今度こそオレは歩き出したのだった。
そして40秒とちょっとで目的地に着いたのだった。
神殿のすぐ前は近い。
「しっかしモロだよなコレ」
公園の中心を陣取っている勇者像の顔はやっぱりピッチリとした七三ヘアーにモブ顔を合わせたものだった。
こうして間近で見るとPC画面で見た顔とソックリ。もしかしたら別人かも、と思ったがやはりセクハさんの可能性が大である。あの人なら、というかあのキャラならば頭に[変態鬼畜王]が付くからティーリアさんが異世界の王って言ってた事も辻褄が合ってしまうしな。
もしまだこの世界にいるのなら会いたい……ような気もするが、こっちに来たのが百年前なら今生きていてもお爺さんだろう。正直微妙な所だ。
本人にとっては召喚される前、つまり100年以上前に、たった数時間一緒に遊んだだけの相手なのだ。覚えてくれてるとは思えない。
やっぱり探さない方が良いか。
そんな事を考えながら像の周りを歩いていたオレは像のすぐ隣に『名も知れぬ異世界の勇者』と書か札が立っているのを発見した。
何気なく見ていたその看板。だがオレはその裏の意味に気づき愕然としてしまった。
「まさかリアル黒歴史なのか?」
そう、注目すべきはこの『名も知れぬ』の所。
一見するとこのステキヘアーな勇者が『いえ、自分名乗るほどの者じゃないんで』とか言いながらカッコ良く世界を救ったように見える。が、オレには分かる。真実はもっと残酷だったのだろう。
おそらくコレは召喚された勇者の名前が余りにもアレだったんで歴史から抹消した結果だ。
気持ちは分かる。藁をもつかむ思いで頼った召喚で『変態鬼畜王』なんて名称を頭に着けた、『セクハラ―』なんて名前のヤツを呼び出したらそりゃ記録をデリートしたくもなる。
ゲーム最強のプレイヤーが勇者として召喚されるって所まではいわゆる『テンプレ』だったんだろうけど、そこでコレを呼び出したのが運の尽き。きっと魔王よりもヤバかったはずだ。いろんな意味で。
きっとこの看板が立ったのは最終的に魔王には勝ったが、とんでもない秘密を抱えることになったとかそういう理由によるものなのだろう。
しかしこうなるとさっきティーリアさんの言ってた各国の王様達が『これで世界が救われる』って涙したとかって話も嘘くさくなってくるな。『こんなんに救われる世界なら滅んだ方がいい』って泣いたんだと聞く方が納得できるくらいだ。
「そういえば実力の一端に触れたとか何とかも言ってたっけ」
やっぱりセクハさんを殺して無かったことにしようとしたら返り討ちにされた。みたいな話なのだろうか? 恐るべしピッチリ七三。
歴史と史実とは別物って事だな。
「うーん、納得」
だがこの時のオレはまだこのピッチリ七三の本当の恐ろしさを分かっていなかった。
「ってん?」
気づいたのはただの偶然。
せっかくだし何かスイッチ的なものがあったら面白いんだけどなあ。と、勇者像を調べていたら、像の頭にうっすらと白い文字が浮かんで来るのを発見したのだ。
当然読んでみる。
「えーと、何々?」
[変態鬼畜王セクハラ―のオルハリコンゴーレム Lv99]
ああ、やっぱりセクハさんだったか……って違う!!
「本人自作!」
この像って英雄を称えるために作られたんじゃなかったっけ?
いや、良く考えたら世界の黒歴史たるセクハさんの像を街中に立てるなんて普通は無い……のか? 少なくともこの表示を見る限りではこの像はわざわざセクハさん本人がおっ立てたモノの様だけど。
ゲームで話した時ははこんなことする人には思えなかったけど、誰かが酒でも飲ませたのだろうか? いや、むしろ隠れていた本性がコッチで爆発したと見るべきか?
「でもオルハリコンゴーレムは、さすがにやりすぎだろー」
確かゴーレムは魔力で動く人形。オルハリコンは超強力な魔法金属で、どちらもRPGでは定番と言っていい名前だ。だからこそこのゴーレムが相当強力という事は『アルジャンワールド』初心者のオレでも分かる。しかもレベル99という事はカンストだ。
まさかこんな物騒なモノが街の広場のど真ん中に堂々と立っているなんて。色々と大丈夫なんだろうか?
「いや、待てよ」
そういえばティーリアさんは勇者像はたいていの大きい街の広場に立っていると言ってた。という事はこんな危険物がどこの都市にも立っているのか?
「これはもう『魔王は倒されても世界滅亡の危機は終わっていなかった』的なノリだな」
むしろ魔王よりも性質悪いのが街の広場に君臨してるのではないだろうか。
クソッ、国は一体何をしてるんだ!
「とはいえ撤去は……無理だろうな」
間違いなく自力で戻って来る。というか多分それ以前にどかせないかもしれない。
何にせよここに建ったままにしてあるという事は、どうにもできなかったのだろう。
「しっかしこのネームタグ的なのは何で見えるんだ?」
この[変態鬼畜王セクハラーのオルハリコンゴーレム]というゲームじみた長い表示、おそらく他の人には見えていない。そもそもこんな物が堂々と名前を表示していると知れたら各国のお偉いさん達が黙っていないのが普通だ。
まあ、相手が相手なせいで無理だったのかもしれないが。
だが隣の『名も知れぬ』と書かれた看板の事を考えるとやっぱり見えてない事は間違いないだろうな。
じゃなけりゃ看板作った人が泣く。
ならば何故オレには見えるのか。
「同じ世界から来たからとか?」
でもオレの場合って召喚の儀式とかはやってない……はずなので、そういった儀式の恩恵があるとは思えない。
なら次元の壁を越えた影響とかか? って言ってもそもそも超えた覚えが無いしなあ。
何かあったとしても気絶している間に起った事だろうから記憶が無いんだよね。
意識があった時の事で、変わった事と言えば電源付いた修次のPC本体を頭に喰らったことぐらいだろうか。
「待てよ、電源付いたPC?」
修次は多分あの偽カウンセラーが来るまでは『アルジャンワールド』をやっていたはず。そしてオレの今の格好は修次のネトゲキャラそっくり、ていうか多分全く同じものだ。
「……嫌な仮説が浮かびやがったな」
よし、整理しよう。
まず人間は電気信号で動いてる。PCも電気信号で動いてる。ココまではOK。一般常識だ。
さらに昔見た小説に『魂とは電気信号の集合体が生み出す極地的なエネルギーだー』ってのがあった。これもOK。極論とは思うがちゃんと覚えてる。
そしてオレは電気信号で動くオレ自身の頭を、電気信号で動くPCに派手にぶつけた。うん、最後のコレもOK。残念ながらちゃんと覚えてる。
さて、一つ実験してみよう。
オレは周りに人がいないのを確認してこっそりと声を出す。
「ステータス」
……ああ、やっぱりか。
残念と言うべきかラッキーと言うべきか、言うや否や目の前に自分のデータが浮かび上がってきていた。
[テッペイ]
ハーフエルフ 男
age18
獲得称号1243 装備中の称号〈イレギュラーな来訪者〉
HP 498 +70
MP 999 +110
AT 237 +50
DF 196 +150
MAT 999 +180
MDF 867 +100
SPD 363 +40
LUC 532 +10
獲得ジョブ
[魔術師] Lv99
[治療師] Lv99
[召喚士] Lv99
[古術師] Lv99
[仕立て屋] Lv99
[料理人] Lv99
[学者] Lv99
[鑑定士] Lv99
「うっわ、見れちまったよ」
どっかで聞いたステータスが見れちまった。
どうやらあのゲームを起動中だったPCに頭をぶつけたせいで魂に『アルジャンワールド』世界の[シュウ]のデータが上書きされてしまったらしい。
まあ、あくまでそれっぽい仮説ってだけで確定はできないけど……それっぽいな。
オレあの一撃が原因で死んでたらどうしよう。今のこの状況が転生した結果とかだったら泣けてくるんだが。
しかしPCゲーム起動中に頭打って死んだ(?)らステータス持ち越しでそのゲームに転生できるとか、もしホントなら世の中の一部が飛びつくネタだな。社会問題になりそうな話だな。
ま、帰れるかどうかも分からないのにそんな事心配しても意味ないんだけどさ。
それにしてもこのステータスを見ていると人のセーブデータを自分の体にコピーしたっていう実感が湧いてくる。 完全に[シュウ]のジョブと能力値だ。一応ステータス画面に出た自分の見た目が、元のままだったのがせめてもの救い……なのか?
まさかこの歳でメモリーカードの気分を味わう事になるとはな。普通どの歳でも味わう事は無いってのに。
……こういう時に『人間皆人生という名のデータを記録するメモリーカードさ』っていうセリフがパッと出てくると泣きたくなるよね。
オレはため息をついてステータスを閉じた。
「完全にチートと化していたな」
しかしこういうのはあって困るもんでもないだろう。なんだかんだ言ってもこの基本性能の高さはありがたい。
足りないものが多すぎて小説や漫画みたくチート無双みたいにはいかないだろうけど、自分のキャラステータスが最初オール10だったことを考えるとかなり高い能力値だ。
DFとかのプラス分は防具による補正だろうか? 後で色々と調べてみよう。
「ま、コレならどうにか生き延びれるか?」
ちなみに勇者像の名前が見えたのは[鑑定士]のジョブのおかげみたいだった。
その場で周りを観察してみると他にも通行人の装備名やランク、持っているジョブなど色々なものが鑑定できる。
「妙な生き物になってしまった」
自分に対する違和感に凹むな。
とはいえまだ試す事は残っている。こういうファンタジー物のゲームでお決まりとなっているアレ。
アイテムボックスだ。
「アイテムボックス。っとやっぱりコッチもか」
言った瞬間に目の前に広がる分類分けされた大量のアイテム欄。
「ここまでは予想通り。……だけど」
アイテムの量が異常なまでに多い。
アルジャンワールドのアイテムボックスはシステム上999種類を999個づつ入れることができるのだが[シュウ]のデータはその8割がすでに埋まっている。
物に困る事は無さそう。なのは良いが知識がないと使い所に迷いそうだ。
ただ元手があることが分かったのは大収穫。飯の材料になりそうなアイテムもあるし、[料理人]のジョブを使えば飯の問題はどうにかなりそうだ。
「とりあえず、生きてはいけるか」
一応地名や建物の名前はゲームと同じみたいだから、大体の地理はMAPでどうにかなる。
強さの基準方もこの世界が『アルジャンワールド』と同じだとしたら今のオレは結構な実力者のはずだ。
「そう考えるとこの世界に来たセクハさんはヤバかったろうな」
全能力が999でもおかしくない人だ。間違いなく無双できたはず。
呼び出した王様たちにとってはさぞ恐れ多い相手だったろう。
「……それにしても、アレだな」
何故だか知らないが、オレを見る街の皆さんの視線が痛い気がする。特にこの広場で誰かと待ち合わせしてるであろう人達の視線がだ。
いや、本当は分かってるさ。16歳のガキが勇者像の前でぼそぼそ呟いてウンウン頷いてたら不審に思うのも無理はない。それは分かってるんだが。
「居心地が悪い」
そんな痛い子を見るような生暖かい目で見ないで欲しい。
なにせ思わず像に釘付けになってしまうような状況だったのだ。
「ハア、行くか」
今後こういうチェックをする時は周りから見て不自然にならないよう気を付けよう。
こうして一刻も早くこの場から離れたかったオレは、強の宿を探すべく早足でその場を後にした。
「そういえばオレってホームレスなんだよな」
宿を探す理由を考えるとさらに気が重くなる。一泊いくらぐらいだろうか。
「そういえばこの世界の金ってどうなんだろう?」
地理的にはほぼ共通しているのだからお金の種類がゲームと同じでもおかしくは無い。もしそうだったら[シュウ]の稼いだ金で、宿と飯の問題は解決なんだが……。
よし、今の内にその辺の事確認しとくか、とりあえずその辺の露店で金のやり取りを観察してみる事にしよう。
ども、谷口ユウキです(-_-)/
ココでやっと基本設定をそこそこ消化です(断じて七三の方ではない)。
今回の話って実際の動作で考えるとせいぜい5分くらいの出来事。
スローペースです。
とりあえず次話は金と宿と飯の話。ファンタジー要素が欠片も無いですね。