第二章 第六話「ほうご加入とな」
色々とお騒がせしました。
今回は試験的に一人称の他者視点を加えてあります。
前回のあらすじ
Mrフルフェイスのドキドキ♪ファッションショー! 開催決定
召喚モンスターの大まかな編成を決めたオレは服のポケットに入れたギルドカードが振動するのを感じ、首をかしげながら手に取った。
どうやらファブロフ爺さんがギルマス権限を使ったらしい。
カードの表示を見れば、ファブロフ爺さんとウィラーさん。そしてカーキン・リアルマと言う人物が自分を含めた4人でパーティー結成したという表示が浮かんでいた。
ギルドカードにこんな機能があった事も驚きだが、それよりもまず……。
誰だよカーキン。
と率直な疑問が浮かんでくる。いや、消去法で考えてこれは多分Mrフルフェイスの本名だろう。
これ本名で言われても分かんねーな。と思う程度にはMrフルフェイスが名前として定着していて困る。
ギルドカードにはそんな新事実と共に、今夜の集合場所とその時刻が書かれていた。
集合場所はこの店。集合前に正体がばれない格好をするように。とメッセージが添えられている。
まあ堂々と犯罪計画が立てれるくらいだ。このバーは爺さんの隠れ家的存在みたいだし。機密・安全面で信頼ができるのだろう。
でもこれ……動く必要が無いな。
集合時刻までまだ時間はあるが、準備することはもう特にない。
というか今の精神状態で外に出たら間違いなく挙動不審になる。
しかしよくよく考えてみよう。むしろこういう精神状態だからこそ、外に出た方が良い、と言えるのではないだろうか。
でも外に出たら挙動不審なんだよなあ……。
予想外のジレンマだった。
何故こんなくだらない事で。とかもうちょっと他に悩むことあるだろう。とも思うが、あまりヘビーに考えると身動きが取れなくなりそうで……。
「ほんと、慣れてないな」
命がけ前提の状況でこういう待ち時間は心底嫌になる。そう思い知った瞬間だった。
その後、少しでも気を紛らわせようと考えたオレは、後々連絡が来るかもしれないと思い、ギルドカードをカウンターの上へ。
ファブロフ爺さんのメッセージに従いアイテムボックスの装備をチェックする。
探すのは見つかりにくそうな隠遁系の能力がある物、そして顔を隠せる覆面系の装備だ。
一秒ごとにプレッシャーがかかる感覚に耐えつつ、良さげな装備を見繕う。
そうやって時間をつぶしていると、不意にカードに振動が走り、『アリスがパーティーに加入しました。ティーリアがパーティーに加入しました』という表示が追加された。
「追加って、この2人?」
表示を読んで間の抜けた声が出る。
おそらくはファブロフ爺さんを経由しての加入だろうが……よりにもよってリデルにのぞかれたアリスさんと、Mrフルフェイスにストーカーされたティーリアさん。
一夜限りのパーティーとはいえ、よく勧誘に成功したな。と驚かずにはいられなかった。
まあ内容が内容だから、参加するまで他のメンバーについて知らされていなかったとみるべきだろう……が、その辺りの事を知らずに要請したのだとしたらファブロフ爺さんの地雷踏みスキルは相当なものという事になる。
……知らないで加入させたんだろうなぁ。爺さんだし。
そんなありがたみの無い信頼に思わず、
「全く、年寄ってやつは」
と何とも言えない愚痴が出た。
するとそんなオレに向けて、
「なに、あのご老体もそう捨てたものではないさ」
と、どこかで聞いた声がかけられる。
不意の声に驚き見れば大剣を背負った鎧姿のダークエルフがこちらを見て楽しそうに微笑んでいた。
「え!? ……と、アリスさん? 何で、ここに?」
「なに集合場所に早めに来ただけだよ。私はもう特に準備する事も無いしな。ああ、今更だが君の言っていた年寄りはギルドマスターで合っているだろうか? ギルドカードを見ていたのでとりあえず言ってみたのだが……」
「はあ、いやまあ、合ってますが……」
それはそれとして、来るの早過ぎだろう。
パティ―加入後に即集合場所入りって……ああ、加入の方はファブロフ爺さんが勝手にやったのか。
二人に許可を取ってからギルドカードにメッセージを送ったのなら、このタイミングでの登場も分からなくはない。
ようやく冷静になったオレを前に、それにしても、と続けたアリスさんは、
「君は少々周囲への警戒が甘いな。まあ魔法職ならばさもありなん、といった所だが、ソロでやっているのならもう少し鍛えた方がいい」
とハッキリとした忠告を告げた。
「き、気を付けます」
アリスさんが店に入った時に気づけなかった以上、返す言葉が無い。
オレが気まずさに頬をかいていると、アリスさんはオレの隣へと着席。マスターにお酒を頼みながら大剣を外すと、カウンターに立てかけた。
そんなアリスさんに、
「その、今回の事件? についてどの程度聞いていますか?」
と聞いたオレは、
「一応事情は聴いている。正直進んで助けたいとは思わない相手だが、な」
という答えに苦笑する。
だがアリスさんの言葉はそれだけでは終わらなかった。
「まあ今回はティーリア……知り合いの神官と、ご老体の頼みだから。と言うのが参加理由と言って良いだろう。今となっては興味の方が大きいがね」
「興味?」
一体何を指しての言葉だろう?
そう考えたオレは今回のパーティーメンバーに珍獣系が多い、という事に気づき愕然とする。
身体の中にモンスターを飼っているSランカーと全身鎧のよく分からないストーカー。
傍からそりゃあ見たら気になるだろう。もの凄く納得できる。
しかし、そうやって内心で頷いたオレに、アリスさんは、
「なんといっても参加者の中に、君がいたからね。障壁で私の大剣を防ぐ魔術師が動くんだ。戦う姿を見てみたい、と思うのは自然な事だろう?」
とこちらを見ながら言い切った。
あのジジイ! 戦力と一緒に厄介事増やしやがった!
予想が外れた事よりもファブロフ爺さんの地雷能力に驚愕したオレは、頭を抱えて爺さんに恨みの念を送りだす。
そんなオレの横で、いや本当に楽しみだ。と笑うアリスさんの目は完全に肉食系のソレだ。
「いやあ、異性にこれほど興味を持ったのは初めてだよ」
と酒を片手に色っぽく微笑するが目が完全に笑っていない。
「あれからフェレスに君のことを聞いたのだが洋梨タルトがどうのこうの。としか言わなくてね。ならばと思って先ほどご老体に聞いてみたのだが……今度は、下着が下着が。とよく分からない事を言い出してな。ああコレはとうとうボケが始まったかと思った矢先、『そんな顔するならおぬしも参加じゃ!』と言われて参加させられることになったんだが……まさか気になっている当人が加わっているとは。全く、何がどう転ぶかわからないものだ」
そう語るアリスさんの口調はいたって冷静。しかし内容が狂っている。
その話を聞いたオレは、フェレスが黙秘してくれたことに安堵。爺に殺意を抱きながら、今度二人にお礼をしようと決意した。
しかし今は目の前のダークエルフだ。
先ほどからここまでの話に、どうにも拭いきれない違和感のようなものが潜んでいた。
これって[詐欺師]の勘だったりするのかなあ。と自虐しつつも警戒したオレは自分の中の違和感をまとめ、確証の無い結論を出す。
それは後々敵対する可能性を考慮しているのでは? という疑念だった。
一番気になったのが、先程の『戦う姿が見たい』という言葉だ。
何せ前回会った時にアリスさんの大剣を防御しきり。彼女から受けたクラン入りの誘いを断ってソロ宣言をしている。万が一オレと戦闘を起こす場合に相応の対応ができるよう、手の内を見ておきたい。と考えることに不思議はない。
こちらのメンタルが一般人でも向こうから見たら能力の高い異世界人。
……いや、異世界人と言う事情を知らないアリスさんにとって、得体のしれない同業者でしかないのかもしれないな。
少し邪推が過ぎるかもしれないが、相手はSランク。しかもクランのトップと言う立場なのだ。
そして何よりこの世界で生きて、結果を出している冒険者だ。そのくらいは考えていると見た方が良いだろう。
怖ぇえなあ。
内心、思わず呟きが漏れる。
思い返せばファブロフ爺さんやウィラーさん、Mrフルフェイス……はよく分からんが、今回捕まったリデルだってオレの予想をあっさりと超えて、オレにできない事をやってのける実力を持っていた。
彼らだって結果を出せるだけの自力を持っている。ただオレがちゃんと意識していなかっただけなのだろう。
その事を今更自覚したオレは、今まで気付けなかった自分に呆れる反面、面白れえな。という好奇心にも近い感想を抱いていた。
そういう凄い人達を見ることができ、その気になれば張り合う事も出来るのだ。
自分の能力は決して本物とは言えない、取って付けたようなものかもしれないが、それでもついていくことができる。
面白くないわけがない。
そんな確信を胸に笑みをこぼしたオレを見て、
「ん? どうかしたのか?」
とアリスさんが首をかしげて聞いてきた。
その言葉に、いえ、と首を振ったオレは、ふとファブロフ爺さんのメッセージを思い出し、
「そういえば正体がばれない格好で。って話でしたけど、アリスさんはどんな装備で行くんです?」
と、にっこり笑って質問した。
●
何が来るかと思ってみれば、よくある装備の確認とは。
テツの質問を受けたのアリスは、その内容に拍子抜けを感じつつ、
「そうだな……」
と答え、グラスで唇を湿らせた。
思うのはテツが先ほどチラリと見せた壮絶な笑み。
おそらく本人に自覚は無いのだろうが……アレは明らかに何らかの覚悟を決め。しかもそれを楽しむものだった。
ご老体。ギルドマスターであるファブロフ殿は『そうじゃな。やつを簡単に言い表すならば、パンツに命を懸ける男、じゃろうか?……ん、なに盗むのかじゃと? 違う、やつは作るんじゃよ』などと、ちょっとよく分からない事を言った後に、『腕は良いが争いに向かない温室育ちの魔術師』と評価していたが……この男。おそらく本質は決闘向きの気質だろう。
これまで生きてきた自分の時間を、ただ目の前を切り開くためだけに使う。先ほどの笑みはそういう類の人間が出す特有のものだった。
まあご老体も年だしな。聞いていた話と違うからと言って文句を言うべきではあないだろう。
どうせ言い訳するし。
と、そう結論付けたアリスは、テツに対する警戒度と今夜の戦闘に対する期待値を上げる。
なにせ隣に座るこの青年は自分の大剣を障壁で止める事が出来るのだ。
ただ魔力を編み、空間に固定しただけの[障壁]であの守備力が出せる。低く見積もってもSランク相当の技術を持っている事は間違いない。
無論、堅いと言ってもただの魔力の塊だ。剣に魔力をまとわせれば破る事は出来るだろうが……もちろん手の内がそれだけという事も無いだろう。
しかしその手の内も、ある程度とはいえ間近で見る事が出来る流れとなった。
さらに敵対する必要が無いと来ているのだから、運が良いとしか言いようがない。
……おっと、今は装備について答えないとな。
そう思い、口に着けていたグラスをカウンターに戻したアリスは、浮き立つ自分に苦笑した。
●
「今夜の戦闘では人質を奪還して初めて正当性の主張が可能となる。そこまで行ければギルド側が我々の立場を保証する事になっているからな。しかし……それはそこまでいかない限り我々の立場は一盗賊でしかない、という事でもある。万が一失敗することを想定すれば、身元特定につながるような普段の装備。という訳にはいかないだろう」
一息おいて話し始めたアリスさんの言葉は、ファブロフ爺さんのメッセージを補強するモノだった。
こりゃあこっちが現場慣れしてないのがバレてるな。
そう悟ったオレは見切られた事実に少し寒気を覚える。
一方、アリスさんは自分の装備が使えない事が不満なのか、苦笑しながら立てかけた大剣の柄を撫でていた。
「そういうわけだから、今身に着けている装備は使えない。一応覆面や皮鎧など、一般に広く流通した物は用意したが、大剣だけは迷宮のドロップアイテムを使うつもりだ。ドロップならば足は付かないからな。とはいえ普段の剣より五・六段は質が落ちる。その辺りは他のメンバーのフォローを期待させてもらうよ」
「あんまプレッシャーかけんで下さい」
「フフッ、まあそう言わないでくれ。それで、そういう君の装備は?」
「手持ちの中からステルス効果のある[カメレオンローブ]と適当なマスクでも装備するつもりです。杖は基本店売りされている [アイアンロッド] でいってヤバくなったら他の物に持ち替える。って感じですね」
オレがそう言うとアリスさんは意外そうな顔で目を見開いた。
「ほお、ステルスとはまた厄介な物を……」
連携を前提にした話、にしては発言が少しおかしい。
「あの、何で敵目線なんです?」
「ん? ああ、気のせいだとでも思ってくれ。ああ、言っておくが私は別にスパイではないからな? そんな事をすればギルドを敵に回してしまう、そんなバカはしないよ。今のは……そう、職業病のようなものだ」
冒険者の職業病。ってソレ、殺る手順を考える的な事なんじゃ……?
思わず警戒の視線を向けるが、アリスさんはこちらを見ない。そのまま、
「ああ、そうだマスター、この奥で着替えさせてもらっても?」
と店主の女性に許可を取ると、店の奥へと去っていった。
どうにも逃げられた感が拭えない。
というかあの人。職業病とか言って笑ってたけど……敵目線な事を一切否定しなかったな。
これは先程の疑問が確信に変わったかもしれん。と衝撃を受けたオレの前に、気を利かせたマスターがジュースのお代わりを差し出した。