第二章 第五話「ほう着替えとな」
前回のあらすじ
久しぶりすぎて作品設定が作者の頭から羽ばたいた
「あー、ところで『絶対不破』よ。ええ感じに方針が決まった所じゃし、そろそろお前さんの話を聞かせてもらって良いかのう?」
ファブロフ爺さんの言葉で、明後日の方向に傾いた空気が少しづつ真面目な雰囲気を取り戻していく。
話を向けられたMrフルフェイスは思い出した様にポンと手を打ち、
「おおぅ、そういやそうだったなぁ。ってもアレだぜぇ、俺様が見たのは抱えられて連れ去られる弟子の後ろ姿だかんな?」
と仕切り直した話の根っこをへし折った。
思わず口から指摘が漏れる。
「あー、Mrフルフェイス、さん? それ情報としてはあんまり使えないんじゃ……」
「ところがどっこい、そこが俺様のすげえ所よぉ。逃げに走るヤツを追い。山越え、谷越え、川を越え。あ、バカスカ、バカスカ……ちっ、揃いも揃ってんな睨むなっての」
ただ注目しただけで別に睨んだつもりはなかったのだが、当人はそう感じたらしい。
仕切り直すように一つ、わざとらしい咳払いをしたMrフルフェイスは説明を再開する。
「リデルを抱えて運んでた野郎だが、ちっとばかし見覚えがあってな。追いかけついでに確認したんだが。やっこさん、俺様の予想通り大層な腕を持っていやがった、何製かは知んねえがな」
今の話、相手の腕が良いという意味で言ったわけではないらしい。
横に座っている見かけより歳のいった2人が目つきを少しづつ変えていく。
「アタリの付いたやつもいるかぁ? まあ何にせよ、ソイツにくっついてたのは生きた作り物の腕。つまりは義手型のゴーレムだ。それも左腕の肘から先がドラゴンの頭を模した特注品よぉ」
左腕に竜の頭。と聞いて一瞬身じろぎしたファブロフ爺さんは、険しい顔をしたウィラーさんと目を合わせた。
「義手の龍腕。となると心当たりは一人じゃな」
「それ自分も見覚えあんねー。確か『怪機仕掛け』の下でバカやってる野郎だろ?」
『怪機仕掛け』。少し前にフェレスとの会話で出てきた名前だ。
思わぬ世間の狭さに驚くオレをよそに、2人の答えを聞いたMrフルフェイスは笑いながら頷いて見せた。
「正解だぁ。マントのフードで顔は隠してたが腕のデザインはそのままだったから分かりやすかったぜぇ」
「あのー、納得してるところ申し訳ないですが。説明もらえます?」
オレの疑問を受けて肩をすくめたウィラーさんがのんびりとしたペースで『怪機仕掛け』について話しだす。
「まあ、あえて言うなら『怪機仕掛け』ってのは最近伸びた犯罪組織の裏ボスみたいなヤツでねー。装備の良さに気を良くしたガキ共を下に置いてんのさ」
「装備……さっき言ってた義手みたいな?」
「そ。武器や鞄、服なんかを小型のゴーレムとして作るのが『怪機仕掛け』の十八番でね。その仲間達は『怪機仕掛け』からそういった装備を貰っている、つーわけ」
「ゴーレム……って事は装備そのものにもレベルがあるわけですか」
オレはこの街の広場に置かれた最悪の兵器、例のアレを思い出して苦笑いする。
素材や作り手のレベルが高いほど作られるゴーレムの性能が上がるのはゲームのセオリーと言って良い。しかもゴーレム自体にレベルがあるのだから、そのゴーレムと一緒に所有者のレベルを挙げればさらに戦闘能力は高くなる。
もし相手にするとなれば相応の準備が必要になるだろう。
「ま、ようは数ある闇ギルドの1つだね。『絶対不破』の見たソイツは依頼を受けて動いただけかもしれねーし、そういう奴等の横槍が入る可能性がある。くらいの認識でいいんじゃねーの。裏取る時間もねーしな」
と、苦笑したウィラーさんはファブロフ爺さんに声をかける。
「ま、あらかた情報も出たっぽいし。作戦の準備に入ろーや。ジジイ、指示よろしくー」
ウィラーさんの言葉にファブロフ爺さんは微妙な顔をして見せた。
「全く、仕切るのか、任せるのかハッキリせん奴じゃな。……まあええわい。ウィラー、お主は向こうの要求を呑むふりして潜入じゃ。他が外から仕掛けるタイミングに合わせて好き勝手やるとええ。リデルがおったら救ってこい」
「うーい」
「そしてテツよ、お主には『絶対不破』と共に突撃要員をしてもらう。それと奇襲用も兼ねた戦闘の頭数になる召喚獣を用意してもらいたいんじゃが」
「はい、大丈夫だと思います」
召喚できるモンスターはまだ一匹もいないが、契約に必要なアイテムは十分な数がある。
問題はない。
「うむ、と言っても街中に大型モンスターが出現するのは少々不味い。あまり大きくないのに絞る方向で頼むぞい」
「了解です」
オレの返事を聞いた爺さんは自分の胸を軽くたたく。
「次にワシじゃが、こちらはお主らの他に協力してくれそうな腕利きに声をかけておく。あとは情報収集に集中させてもらうがの。『怪機仕掛け』について何か分かったら連絡を入れるから、そのつもりでおってくれ」
その場にいた全員が、爺さんの言葉に深く頷いた。
戦意は上々。そして最後の指示が飛ぶ。
「それで、最後に、『絶対不破』じゃが……」
「おっしゃぁ、何でも来いやあっ」
「うむ、では衣装合わせをしておくように」
各自がその場に固まった。
爺さんはそんなオレ達に、
「では全員正体のばれない格好で集まるように。じゃ、各自解散してええぞ」
と指示を出すが、オレやウィラーさんはもちろん、指示を受けたMrフルフェイスも信じられないと言いたげな顔でファブロフ爺さんを見続けていた。
すると視線に耐えかねた爺さんが軽く自棄になって話し出す。
「仕方ないじゃろ! こやつを何か羽ばたけそうな感じにせんと、いざという時に恰好がつかんのじゃ!」
三人揃って、理由それかよ、と声が出た。
そんな周りのリアクションを聞いて、爺さんはかなり微妙な顔をする。
「お主ら中途半端に息が合うの」
話の流れを食らって自然と口から出た言葉だったのだが、元凶にその手の自覚は無いらしい。
しかし衣装合わせとはなあ。
確かに先ほどの話し合いの中で、Mrフルフェイスには『羽ばたき仮面』が盗みに入るとか言う、よく分からん設定が付け足された。
そして今回の作戦における要は『怪盗羽ばたき仮面』にならざるを得ない以上少しでもそれっぽくしとかないと格好がつかないという事なのだろう。
真面目な話をしていたのに、どうしてこうなった。
面子……いや、敵のせいか。
じゃあしょうがない。
何にせよ嫌な現実だが、それをどうにか受け止める。
ウィラーさんが、
「まあ第一印象は大事だもんねー」
と一言、賛同とも取れる感想を漏らしたので、
「言ってることは間違いじゃないってのがキツイですね」
と諦め交じりに同意。内心で一息ついた俺は軽く疲れた気分で心に決めた。
リデルの救出はもちろんだが、この設定考えた奴に文句をぶちまけるためにも、準備には気合を入れる事にしよう、と。
そんな決意をするオレの横で、ファブロフ爺さんが大きく咳払いする。
「うおっほん。というわけで作戦は以上じゃ。ここからは各自は支度に入るように。テツよ、お主の方もしっかりと調達しておいてくれ」
「分かってますって。今っから始めますよ」
グラスに残っていたジュースを飲みほしたオレは、お替わりを注文してステータス画面を視界に開く。
すると外に行こうとしたウィラーさんが不思議そうな顔でこちらを見た。
「お、何テツ坊。この店に残んの?」
「まあ、編成考えるだけならどこでやっても一緒ですしね、もうちょっと飲んでます。そう言うウィラーさんは?」
「うーん、悪いけど潜入まではブラーッとしてるわ。まあ昔の知り合いに顔でも見せてくるよ」
「そうですか。じゃあまた後で」
「おーう、そっちは任せた」
とお互いに挨拶を返し、オレは表示を。ウィラーさんは店の扉へと目を向けた。
「ヒャッハー、お家でファッションショーだぁ! ……クソッタレがぁ」
むしろ現実から目をそらしただけなのかもしれないが、その現実も家に帰ったので良しとしよう。
「しかしどうするかな」
召喚モンスターとの契約に必要な契約アイテム。
アイテムボックスにあるは21種類だ。
その中から明らかに大きすぎる、もしくは目立ちすぎるドラゴンやクジラ、不死鳥を抜くと11種類。
説明から見るに一度の召喚は一種類一匹。しかも召喚すると、もれなく制限時間とクーリングタイムがセットで付いてくる。
召喚の制限時間は全モンスター一定、クーリングタイムはで種族やレベル、モンスターのランクで時間の長さに差が付く仕組みだ。
召喚する個体が強いほどクーリングタイムは長くなる。
召喚できる時間は一回30分、限度数が6体。ローテーションを組んで運用することを考えクーリングタイムが近いモンスターを区切っていくと、それがそのままモンスターランクに現れていた。
問題は襲撃が30分で済むかどうかだが、済まなかったら結構な確実に衛兵を呼ばれて、下手したら指名手配だ。
「悩むなあ」
モンスター同士が連携しやすいように考えた方がいいのだろうか?
正直高火力を揃えてドーンと行く方が考える側としては楽だと思う。
だが召喚魔法の燃費はあまり良くはない。Bランクくらいのモンスターでも6体呼んだら総MPの半分は食われる。召喚コストの高い、高ランクモンスター6体に絞ったらもう少し行くだろう。
それに、できる事なら人殺しは避けたい。
事情を知らない敬語の冒険者を生かすなら、火力の高い高ランクモンスターをけしかけるのは危険。……と言っても。
「それこそ今更、か。覚悟……決めるしかないのかな」
そうせざるを得ない状況ではあるだろう。自分の中の冷静な部分が告げている。
それに、人を殺した時、自分はどうなるのだろう? という疑問は、今自分が動かなければならないという焦燥感に比べると大した事には感じられなかった。
「まあ、モンスターは殺してるもんな」
今更な話だ。
しょうがないのなら、決めるしかない。
例え今現在のソレが口だけだとしても、決行の時はすぐにやってくるだろうから。
ども、谷口ユウキです(-_-)/
色々あって全然執筆できていませんでしたが何とか持ち直しました。
久しぶりに読み返して当時の自分、キチガイだな。などと思う作品ですが、何とか続けていきたいと思います。
亀更新ではありますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。