リメイクしました第一章プロローグ 第四話「おおプチトリよ」
前回のあらすじ
主人公はキーボードを押してギャグアクションを繰り出した。
翌日の朝。さっそくコントローラーをもらいに修次の家の近くまでやって来ていたオレは、コンビニで買ったコーヒー牛乳を飲みつつ携帯で『アルジャンワールド』の攻略サイトを調べていた。
昨日、修次の脱線しまくり穴だらけの説明しか聞いていなかった分、今この瞬間にも数々の新事実が明らかになっていく。
そしてその中でちょっと意外だったのが、剣やら鎧やらの装備品に耐久性なるモノがある。という情報だった。
数字で表されるソレは武器の場合は使えば使うほど、防具の場合はダメージを受ければ受けるほど消耗していき0になるとボロボロと崩れ消えてしまうらしい。
失敗談として高レベルモンスターと戦っていたら、いきなりパンツ一丁に変身した七三キャラの話が載っていた。大剣を振り上げながらモンスターに向かって行く変身姿はまさに勇者だったらしい。鎧からパンツへの変身は見ていた人々の記憶に焼き付いたらしく、生きた伝説との評価まである。
ていうか七三ってアレだよね。絶対あの人だよね。
……何にせよ装備が壊れるのを防ぐにはいちいち武器屋や防具屋、または[鍛冶師]みたいに装備品を作る事の出来るのセカンドジョブを持った人に[手入れ]をしてもらう必要があると書かれていた。
もちろん例外もあって作るのが難しい超レアな装備や、リアルマネーで買った装備の場合は耐久度事態が存在しないため絶対に壊れないらしい。
「んー、ココでも金か」
この登録料無料でも、ついお金を使いたくなるシステムはゲーム会社の陰謀だな。
そんな事を考えながらやっと見えてきた修次の家の玄関に向かう。
家のすぐ隣には屋根なしの駐車場がある一戸建てだ。
とりあえずインターホンを鳴らしてドアの前で待機。だが10秒、20秒、30秒。いくら待っても何も起こらなかった。
「リアクション無し?」
珍しいな。いつもなら誰かがすぐに出てくるのに。
少なくとも1人は引き籠っているはずだ。念のため留守の可能性も考えて駐車場を見てみる。
「アイツの親さんの車はあるよな」
それどころか見たことも無い車まである。
「もしかしてお客さんか?」
この車の持ち主が家に遊びに来ている。という事ならすぐに出てこれない事も納得はできる。
とりあえずもう1回チャイムを鳴らしてみるか。
ピンポーン
お決まりの電子音が家の中に響く。
辛抱強く待っているとようやくドアが開かれた。出てきたのはヨレヨレで顔の所々にケガをした40歳くらいのおじさんだ。
「あー、修次の親父さん。おはようございます」
オレはずいぶんと変わり果てたお姿になって。というコメントをギリギリの所で飲み込んだ。
一体何があったというのだろう。前にあった時はケガなんて無かったはずだ。……浮気でもバレのだのか?
「やあ鉄平君、ひさびさだね」
親父さんは声にも元気がない。相当お疲れか、さもなければ体の芯までダメージが残っているのだろう。
「その顔、どうかしたんですか?」
「……ちょっと巻き込まれてしまってね」
守護が抜けたせいで、何があったのか全く分からなかった。
「えーっと、修次君いますか」
「ああ、いるんだけど……あいにく取り込み中でね」
「取り込み中って、何かあったんですか?」
「……」
親父さんは無言で首を振る。すると『コレが返事代わりだ!』とでも言う様に家の中から何か叫び声と物音が聞こえてきた。
え、何コレ大丈夫?
けれど迂闊に踏み込める空気でもない。
「じゃ、じゃあ今日の所は帰ります」
「ああ、それがいい」
オレの判断に力なくうなずいた親父さんは、ゆっくりとドアを閉めるのだった。
「ごめんよ親父さん」
面白そうだから帰る気は全くないんだ。
「しかし状況がサッパリ分からん。これじゃあ動きようが無いな」
しかし好奇心がわいた、もとい修次が心配になったので状況確認のために電話を掛ける事にしてみる。
掛けてみるとすぐに修次が電話に出た。
『ハイ、こちら修羅場ぁ!!』
「斬新な受け答えどうも」
声の切迫した感じからロクな目に合ってないことがよくわかる。
電話の向こうからは物音と気合の入った叫び声が聞こえているのがポイントだな。
『テツ、お前今どこで何してる!』
「んー、おまえの家の前で電話してる」
『よし、じゃあ家の駐車場に見慣れない車があるの分かるだろ』
コレはさっき見た見慣れない車の事だろうか。
「ん、まあ分かるけど?」
もしかして親戚が来ているのか?
もし従弟とプロレスごっこ。なんてオチなら回れ右して帰った方が良いだろう。
だが電話越しに跳んできた要求は、常軌を逸したものだった。
『その車を、人質にしてくれ!』
「は?」
人質? 人質って、あの人質?
「お前、何言ってるんだ?」
オレは話についていけず、修次に詳しい説明を求める。
だが携帯から帰ってきたのは予想もしなかったソプラノボイスだった。
『そこまでよヒッキ―ボーイ。無駄な抵抗はやめてそのパソコンを渡しナサーイ!』
「っとお、今なんか聞こえた!?」
まさか女の声か? 元カノと喧嘩とかそういう流れなのか?
「えーと、修次君?」
『テツ、急げ! 早く奴の車を人質に』
「いや、車って人じゃないよね」
ていうか奴って誰だよ。
混乱するオレに対して家の中の修次はまくしたてる。
『じゃ物質だ! いいから早く、これ以上はカウンセラーの攻撃を防げそうにない!』
「カウンセラーの攻撃!?」
確かに耳を澄ませば家の中から何かが壊れる音が響き、続いて流れる修次の叫び声が微かに聞こえてくる。
攻撃されているというのは、あながち嘘でもなさそうだ。
何かしらんがヤバそう。とりあえずカウンセラー(?)のモノと思われる車の方に行ってみるか。
電話の中からは依然として実況中継が続いている。
『クッ、いきなり何なんだこの外人。力づくで人の部屋に押し入っておいて何故堂々としてやがる』
「うっわ見てみて絵」
これはずいぶんと面白そうなことになっている。直で見れないのが残念でたまらないな。
カウンセラーという事は仕掛け人は修次の親さん達だろうか?また思い切った行動に出た物だ。
電話の向こうではカタコト外人カウンセラーが修次の『何なんだ』という質問に答えていた。
『私、新しージャンルのカウンセラーよ』
「『新しいジャンル?』」
カウンセラー業界ってそんなラノベみたいな分類されてんのか?
『説明しまショウ。日本の子供、年々凶暴になって近頃はカウンセラーにも簡単に手を上げル。あなたも覚えがアリアリネ?』
『あ、あれはアッチが悪い』
「……マジで手を上げた事があるのかよ」
初耳だぞ、初耳。
『そこでウチノ社チョさん考えマシタ。「甘やかされすぎてスグ暴れるクソガキ、親の許可トテ鉄拳制裁、需要に飛びつきボロもうけ」ネ』
『「うわぁ」』
そんなこと考えたのか。
何と言う恐ろしい発想の商売。対モンスターチャイルドの最終兵器というわけか。
『そうユー訳で、サバットとシステマ修めた私。コノ国おヨバレしました』
サバットとシステマ?
聞いたことがある。確かサバットはフランスの杖術、足技、柔術を使い分ける格闘技。システマはロシア生まれの、体の使い方を考えた軍隊格闘術だったはずだ。
『「マジで?」』
『マジデー』
んー、コレはキツイ。正直言ってオレ達がどうにかできるような相手ではないだろう。
「しかし現代ってカウンセラーにも武闘派が存在する時代なのか」
オレが衝撃の新事実に驚く中、物音と暴言(主に修次の)が鳴りやまぬ電話の向こうでは、いよいよ展開が動こうとしていた。
電話越しに分かるキッカケはひときわ大きな修次の叫び声と、勝ち誇ったようなカタコト外人カウンセラーの声だった。
『フッフッフ、とうとう手に入れマシターよ』
『しまった。そのパソコン本体を返せ!』
『ノンノンノーン。私、君のご両親からゲームを辞めさせるように頼まれてイマースのでコレは渡せまセン。おとなしくその画面だけ抱えていなサーイ』
どうやら部屋を出たがらない修次のイヤイヤに業を煮やした外人カウンセラーさんが、パソコンの本体を奪い取ったらしい。さっき電話で物質がどうこう言ってたからそのアイディアを横取りしたのだろう。
ちなみに修次のパソコンは本体と画面が別々のお高いデスクトップ。つまり画面はただの画面である。
『やめろ、パソコンはこの家にそれ1台しかないんだ。それがなくなったらオレはネットカフェに通わざるをえなくなってしまう!』
「うっわー、財布に悪そう」
しかしこの状況で嘘でもゲームを辞めると言わないなんて。そのゲーマー根性にはさすがだとしか言いようが無い。
さて、目的地に到着と。
「シュウ、車の前に着いたぞ」
のんびり歩いたからちょっとかかったが、目の前の敵(?)に手一杯だった修次が、オレが薄情にものんびり移動したという事に気付く事は無い。
タイミング的にはバッチリだろうしな。
『よし、ナイスだテツ、携帯を切って仕事に取り掛かってくれ』
仕事? しかしそんな事を言われた覚えはない。
ま、いいか。
「了ー解」
ひとまずノリで返事をしておき、電話は切らないままにしておく。
すると向こうも電話は切ってないらしく。携帯から声が流れて来た。
修次はオレがこういう時に携帯を切らない性格だと分かってる。自分でいうのも何だがこういう時の野次馬根性は人一倍だからな。さっきの指示は相手を油断させるためだろう。
それに何の意味があるのかはサッパリだが……その理由も語られ始めていた。
『立場逆転だぜ三流カウンセラー』
一気に修次の声音が変わる。多分電話の向こうでは修次が不敵な笑みをみせているのだろう。
アイツは仕掛ける気だ。
『……どういう事デスか?』
対するカウンセラーは自分の車がどうこうって話を聞いていただけあってかなり警戒してるようだった。
『今、オレの仲間がお前の車にちょっとした仕掛けをした』
『何デスト!?』
何ですと!?
『もちろん嘘じゃないぜ。証拠を見せてやるよ』
ガラッという音とともに2階の窓が開く。ちょうど窓を開いた修次と目が合った。
一方金髪のきれいな白人の女性。外人カウンセラーさんは緊張した面持ちで電源のついた修次のパソコン本体を大事そうに抱えている。
シュールだ。
「『あ、あのボーイは一体……』」
おお、動揺してる動揺してる。すぐ近くなので肉声もばっちりだ。
もう携帯は切ってもいいな。
「アイツの名前は速水鉄平。俺の親友兼悪友だ」
「フルネームでのご紹介をどうも」
せっかくなのでとりあえず外人風カウンセラーに手を振っておく。
「説明しよう。俺は鉄平、テツにアンタの車のタイヤをいじらせた。事故を起こしやすくなるようにな」
おお、すごいなオレ。そんなヒドイ事したのか。……え、今サラッっと犯罪者にされた!?
「な、何てコトをスルノデス!」
全くだ。人を犯罪者に仕立て上げるなど、もう鬼の所業である。
「もちろん今なら元に戻すことはできる。ただし、そのパソコン本体を返し俺のカウンセリングを諦めるなら。だがな」
「ソンナ……」
恐ろしいこと言うな、ホント。
いきなり仕事とマイカーを天秤にかけさせたのが相当きついんだろう。カウンセラーさんは涙目だ。
それにしてもパソコンのためにカウンセラー相手に心理戦仕掛けるとは、何考えてんだアイツ。
てか車もパソコンもどうだっていいからオレの立ち位置を犯罪者から一般人に戻して欲しい。
しかし今更止めるわけにもいかず、話はどんどん進んでいく。
「渡せ」
「マ、待ッテ……」
「早くしろこの脳筋ハニートラップ五流カウンセラー」
修次はキレてるのかどんどんと言葉遣いが荒くなっていく。
……本当にハニトラを仕掛けられたのだろうか?
詳しい話を聞くためにも、まずは修次を落ち着かせなくてはいけないな。
「修次、さすがにちょっと口が悪いぞ。そこはもうちょっとオブラートに包んだ表現でいかないと」
「口の中で溶けて消えた」
「……そうか。オブラートだもんな」
そういうことなら仕方がない。
一本取られたオレの上で、修次はカウンセラーに詰め寄っていった。
「さあ、渡してもらおうか」
「……」
「さあ!」
「…………」
饒舌になった修次とは対照的にカウンセラーは喋らない。
おそらくウソか真実か、そして真実だった場合の自分自身に対するリスクとメリットを考えているのだろう。それを見て取った修次がここぞとばかりに揺さぶりに行く。
「俺達のことなら気にすることは無い。バレない様、脱輪しても不運な事故として処理される方法を取ったからな」
上手いな。脱輪という単語から自然と頭の中にタイヤのボルトを緩めるイメージが連想された。
素人でも思いつく危険ないたずらだ。タイヤ交換の時に閉め方が甘かったと思われやすい。効果的でバレにくいやり方と言えるだろう。
「ボルトを緩めたのデスカ?」
「さあな」
金髪カウンセラーも同じことを思いついた。いや思いつかされたらしい。
思考の誘導。
「さすが修次、こういう変な所はずば抜けてやがる」
これで性格がもっとマトモなら良かったのだが。いや、本当に残念だ。
そうしてオレが世の理不尽さを嘆く中、とうとう修次が強硬策に出た。
「お前、いい加減にしろよ!」
「チョッ、待ッテ!!」
勢いよく外人カウンセラーに掴みかかるとそのままPC本体を取り戻そうとする修次は、相手と揉めながら部屋の中を行ったり来たり。
再び窓の近くに来た時には、先ほどとは打って変わってPCを窓から落とさんばかりに持った外人カウンセラーさんが窓際に追いつめられるような形になっていた。
そして奇跡が起こる。
「そこだっ!」
「ッキャッ!」
故意か偶然か、PCを取り戻すべく伸ばされ、払いのけられた修次の手がカウンセラーの上半身。つまりR1、もしくはR18ゾーンに当たってしまったのだ。
モロに言えば修次が外人カウンセラーさん胸を揉んだ事になる。
「コイツ最低だ!」
思わず出てしまう心の叫び。
しかし悲しいかな。こうして窓の向こうのエッチな出来事に気を取られたオレは、連鎖的に起こったある出来事に気づくのが遅れ、気付けばソレに対する反応と行動に致命的な遅れを生み出していたのだった。
「「「あ」」」
重なる3人の声。その先にあるのはオレの方へと落ちてくるPC本体の姿。
野次馬根性が……仇となったか。
次の瞬間頭部に鈍く重い痛みを感じたオレの意識はプチッという何かが切れる音と共に目暗転するのだった。
それからどのくらい時間がたっただろう。意識が回復してきて最初に感じたのはとぎれとぎれに聞こえて来る音だった。
「……。……!」
声、なのだろうか? もやもやとした雑音が頭の中に入ってくる。
「……すか? おき……か?」
誰かが倒れたオレを起こそうと肩を揺らしてるらしい。自分の頭が揺れている。
「うっ、痛……」
頭が破裂するように痛い。中に大量の何かをぶち込まれたみたいな感覚だ。
「あ、気が付きましたか。体の方は大丈夫ですか?」
女の声。病院の看護婦だろうか。しかし病院のベットの割には硬くてひんやりとした寝心地。
「大……丈夫です」
無理やり体を起こして目を開くときれいな金髪が目に入る。
まさかあのカウンセラーかと思い身構えるがよく見れば全くの別人だった。
年が若くて、ありえないくらい耳のとがった。髪の長い、目のパッチリした神官風の小柄な美人さんである。
そう、目が覚めたオレが目にしたのは、生まれてこの方味わった事のないレベルの不自然の塊だった。
「……頭が痛い」
色んな意味で心底痛い。
「えっ! どこか痛むんですか!?」
「え、あ、すいません。平気です」
とりあえずロクに働かない頭でも言うべきことは分かっていた。
「何でエルフのコスプレしてるんですか?」
頼む。真面目に答えてくれ。
しかしそう願って言った質問に対して、返ってきたのは予想の斜め上の答え。
「あ、あの、ごめんなさい。コスプレ、ってなんですか?」
「え」
ソレはあまりにも恐ろしい切り返しだった。
「おち、落ち着けよオレ」
まずは現状の確認だ。
とりあえずオレが寝ていたのは床。それも磨き抜かれた真っ白な石の床だったらしい。周りを見て分かるのは連立する大きな柱と祭壇があり、ファンタジー系の作品に出て来る神殿を思い浮かべてしまうような建物だという事。
「……エルフに神殿?」
一応今の状況にピッタリなそれっぽい可能性が無いわけではない。が、それはあまりに妄想っぽくて、ありえるはずがなくて、相当に不味い物になる。
異世界へのトリップ。
「まさか……な」
隣でエルフのコスプレイヤーがオロオロする中、オレはゆっくりと首を振った。
ども、作者の谷口ユウキです(-_-)/
プチトリのプロローグ改造。最後の終着点はこの形となりました。
個人的には新ネタであるオブラートの下りがお気に入りです。
いまさらですが改造修正した内容の話にはサブタイに「リメイクしました」の一言を入れてます。
この先も少しづつ改造修正するつもりです。
前後の内容が修正前と後で食い違うあると思いますがソコはスルーしていただけるとありがたいです。