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プチトリ!!(仮題)  作者: 谷口 ユウキ
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第二章 第一話「ほうノックとな」

前回のあらすじ


ちょっとだけシリアスの予感

 覗き騒ぎのあった翌日。

 その早朝に[箱舟の岩村]を出て[迷宮都市ラース]へと戻ってきたオレ達は、ジオットさんと別れ、冒険者ギルドへと向かっていた。

 移動手段はあいかわらずの徒歩だが、道ですれ違う人々や武器屋などを始めとした目新しい店のおかげで退屈はしていない。

 むしろ活気のある街並みは興味の対象にあふれていた。

「……集中して見れない」

 隣を歩くリデルが買い食いした肉の串に夢中になっているせいで、時々転びそうになるのだ。

 ヤバイ時は風魔法や[障壁]で受け止めているが、もっと落ち着いて食えないのかと言いたくなるペースで肉を食べる様子を見ると思わずため息が出る。

 しかしリデルの腕に抱かれた紙袋にはまだ大量の串が入っていた。

「ったく、何でお前がオレの2コ上なんだか」

 何せこの男、見た目も言動と行動が普通にバカやってる同年代にしか見えないのだ。

 するとそんなオレの愚痴を聞いたリデルは言い聞かせるように話し出す。

「それはな。俺の方が、テメエよりも早く生まれたからだ」

 聞くまでも無い様な、ものすごく普通のご意見。

 聞いてると『そんな当然のことを大事なことのように話すな』と怒鳴りたくなってくる恐ろしい切り返しだ。

「お前って、さりげなくボケに煽りを混ぜてくるよな」

 いつもの事だがコイツの一癖も二癖もあるボケは、わざとだとしか思えない。

 誰に対してもこうなのだとしたら、ツッコミ慣れていない人は対応できないだろう。


 するとリデルはそう考えたオレの指摘を払いのけるかのように手首を振り始めて言い切った。

「ハッ、まあ親友はツッコミができんだからいいじゃねえか」

 良くないから指摘したのだが、その辺りの事情は察してくれないらしい。

「てか、煽ってる云々に関しては否定しないのかよ」

「いや、そんなちっせえことはどうでも良いだろ?」

「良くねえし、でけえよっ? ていうか煽るんだったら誰か別のヤツ煽れよな」

「おいおい、テメエ。さてはツッコミの出来ないダチを煽るとどうなるか知らねえだろ」

「ツッコミの出来ないヤツを煽る?」

 それは見方によっては。というかどう見てもただ単にケンカを売っているだけなのではないだろうか?

「ソレをやったら殴り合いになりそうだけど」

「ハッ、違えな。知らねえってんなら教えてやる。友達が……いなくなるんだ」

「そっか。闇討ちとかされてそうだもんなお前」

 しかしどう考えても自業自得だった。


 そうやてダラダラとくだらない話をしていくオレ達はそのまま街並みを歩き続け、依頼完了の報告と報酬受け取りのために『?』マークの書かれた看板のある建物の中へと入っていく。


 こうして見ると映画みたいだな。


 再び[迷宮都市ラース]の冒険者ギルドへとやって来たオレは、獣顔や獣耳、鎧姿の人々を見てそんな風に感じてしまう。

 街を歩いていた時にも同様の事を思ったが、こうして武装した人間が集まっている場所に来ると、特にその思いが強い。

 もちろん報告のため持ち込まれる素材や微かに香る血の匂いが、今この場所が現実だという事を証明してはいる。が、この景色になれるには、まだもう少し日数がかかりそうだというのが正直な本音だった。


 そんなオレに比べると、その辺りの事に慣れているほかのパーティーメンバーの3人はさすがである。

 迷うことなく依頼完了の報告を済ませ、パーティーを解散。各自報酬を受け取っている様子が見て取れた。

 そんな中で、トラウマおじさんと少し話し、フェレスに無視されたリデルは一人意気揚々と次の依頼を受けている様だった。

「仕事熱心だな。今度はどんな依頼を受けるんだ?」

 そう聞きながらカウンターでサインを書くリデルの依頼書をのぞき込む。

 依頼内容はファンタジーに出てくる定番のアイテム、薬草の採集らしい。

「ハッ、実は俺これから師匠と修行でよ。ちょうど修業場の近くに薬草の群生地があんだ」

「ああ、小遣い稼ぎって事ね」

 しかしコイツ、師弟関係を結んだのは、ほんのこないだだろ? 昨日の今日で本当にMrフルフェイスと修行をするのか。

「お前ってほんと恐ろしい行動力を持ってるよな」

 こんなのに付きまとわれたりしたら、たまったもんじゃないだろう。

「ケッ、そうやって苦笑いしてられんのも今の内だぜ。一回りでかくなって帰ってきた俺を見てチビんなよ親友」

「チビッ……お前、一回りでどんだけでかくなるつもりだ?」

「ハッ、そりゃあ、海よりも深く、山よりも高く! だぜ」

「大きさのイメージが掴めないっ」

 まあ、そんなよく分からない存在になられたら確かにチビるかもだけど。

 とりあえず『深く』の所を人体でどう表現するのかが気になるな。

「ッハハ、んじゃ行ってくらあ」

 そして何が楽しいのか満足そうに笑ったリデルは、出口に向かって歩き出す。そして後ろを見ないで一度手を振ると、そのままどこかへと去って行った。


 修業によっておかしな方向に成長しないことを。そして、とりあえず人のまま帰ってくることを祈っておくとしよう。


 そんな事を考えて見送ったオレの横を、今度はカウンターで報酬を受け取ったフェレスが歩き出す。

 どうやらトラウマおじさんには、オレがリデルと話している間に挨拶を済ませたらしい。

「じゃあテツ君、またウチの宿でねー」

 と言うと、割とアッサリと出口に向かって行く。

 まあ、フェレスとはこの後も宿の方でも会うだろうから、こんなものなのだろう。

 ……知っている人が店員の店に泊まるのか。何か帰りづらいな。

「それとケーキ楽しみにしてるねー」

「あー、……了解」

 去り際に都合よく忘れていた記憶を蘇えらせていく所が、実にフェレスらしかった。


 そして最後に残っていたトラウマおじさんも、『テッペイ君、今回はありがとうね。本当に助かったよ。悪いけどこの後依頼が入ってるから僕はこれで失礼するね』と言って、手を振りながらギルドを出て去っていく。


 残ったのは今後の予定の無いオレ1人。

「さて、一気に暇になったな」

 しかし新しく依頼を受けようという気にもなれない。

 だが、このまま帰ると高確率でスイーツクッキングだ。

「ま、良い機会だと思って街を見て回ることにするか」

 この世界に来た時よりも余裕を持てるようになった今ならば、ある程度冷静に、割り切って観光できるはず。

 きっと楽しく見て回れるだろう。


 だが、そんなオレの観光の出だしは、初対面の人に呼び止められることで、出鼻をくじかれる事になる。

「テツ様ですね?」

「え、オレですか?」

 話しかけてきたのは赤いメガネの似合うギルド職員らしき女性だった。

「私、当ギルドのサブマスターを務めております。ニナと申します」

「どうも。テツです」

 ニナさん、ね。

 第一印象はキツそうな人ってのがしっくりくる雰囲気だ。そしてサブマスター、と言うにはずいぶんと見た目が若い。もしかして見た目が老けない長寿な種族なのだろうか?

 だが見た感じは普通の人間、それでいて20代くらいだ。でもその歳でその地位はさすがに……いや、後が怖いからこれ以上の詮索はやめておこう。

 何かを察したのかニナさんの目つきが若干鋭くなっている。


 そしてやはり。と言うべきなのか、それ以上の事を考えさせまいとでもするかのように、ニナさんは話を進めていった。

「申し訳ありませんがギルドマスターがお呼びです」

「ギルド、マスター?」

「はい、ギルドマスターです」

 つまりここの最高責任者からの呼び出しと言う事だ。が、オレに一体何の用があるのだろうか?

 今の所、この世界で問題を起こしたことはない。もしあったとしてもリデルと比べたら月とスッポンのはずだろう。少なくともオレ自身には問題行動はないはずだ。

「あのー、ギルドマスターさんが、オレにいったい何の様でしょうか」

「はい。何でも大切な要件があるそうなのですが……来ていただけますか?」

 微妙な反応。どうやらその要件はニナさんには知らされていない。または人の多いこの場では離せない内容らしい。

 まあ、そうでもなければ呼び出しなんてしないか。


 だがそのおかげで自然と嫌な方向に予測が成り立っていく。


 とりあえずステータスの内容が何らかの形でバレたのだとしたら面倒だな。しかしギルドカードの情報をギルドが管理しているのだとしたら、ありえない話でもない。

 ここのギルドマスターがどんな人かは分からないが、オレのスペックを知ったが最後、平然と無茶ぶりをしてきそうだ。

 だだそうなると、ここで断ってもいつかは話す事になるんだろうなとも思う。

「あー、分かりました。行きますよ」

 どうせ話すなら暇な今の方が良い。ここは覚悟を決めるべきだろう。

「助かります。では奥のお部屋の方へとご案内しますね」

 オレはその言葉に頷いて見せ、そのままニナさんの案内でギルドの奥へと入っていく。

 最終的にオレが通されたのは、全体を明るい色調でまとめた清潔感のある応接室だった。


「ではテツ様、すぐにギルドマスターが来ますのでコチラでお待ちください」

 ニナさんはそう言うと、ギルドマスターを呼びにどこかへ去っていく。

 暇を持て余したオレは何となく部屋の中を眺めていく。 


 椅子はソファーが向かい合わせに2つ、テーブルがその真ん中に1つ。比較的広くゆったりとした大きな部屋。

 日光を取り入れ、明るい雰囲気を保ちつつ、居心地のいい空間を作ろうと配慮してあるのが、素人目にも何となく分かる。


 しかし残念ながらこちらの心中は穏やかとは程遠い状態だ。


 呼び出された理由に察しがついている分、場合によっては厄介事を押し付けられそうだという事も理解できてしまっている。

「できれば戦闘系の話は勘弁してほしいな」

 一応チートがあるとはいえ、今のオレの場合、戦闘そのものに関する考え方や判断はまだ素人に毛が生えたレベルという確かな自信と自覚がある。

 強い力をもらったその時からソレを十全に使える。なんて、それこそ天才でもないとできないのだろう。

 対人戦に長けた高レベルの冒険者4、5人に来られたら対応できる気がしない。しかし同じ理由で、ギルドの要求を断った後の事も怖い。

「こうしてみると異世界トリップってチートありでもキツイんだな」

 少なくとも凡人にはハードルが高い。

 小説に出てくるチート無双キャラは皆どんなに平凡に見えても、そう見えるだけの化け物という事なんだろう。


 そんな事を考えている内にギルドマスターを待つ時間は過ぎていき、ついに扉の向こうからギルドマスターの来訪を告げるノックの音が二度響く。

「お待たせしましたテツ様。ではギルドマスター、中へ」

 ニナさんの言葉が終わると共にゆっくりと開かれていく部屋のドア。

 まだ相手の姿をちゃんと確認できない内に、ギルドマスターの者と思われる人物がしわがれた声が聞こえてきた。

「よく来たのう。ワシがこの[迷宮都市ラース]のギルドマスター……」

 年の言った、どこかで聞いた覚えのあるような声だ。姿を見せないうちに会話に入る所が、性格の悪さを予感させる。

 そして完全にドアが開ききった所に現れたその姿は……。


「ファブロフじゃ」


 普通に知っている顔だった。



「え。えー?」

 色々と言いたいことはあるのだが、何から言えば良いのかが分からない。

 驚いているオレの向かいにドッカリと腰を下ろしたファブロフ爺さんは、『してやったり』とでも言いたそうな笑みを浮かべていた。


 最初に口から出たのは単純な疑問。

「爺さん、無職じゃなかったのか?」

 あの気楽な昼下がりは何だったんだ?


 オレの言葉を耳にしたニナさんが、ドアのそばから興味深げにこちらを見る。

 逆にサプライズを仕掛けてきた当の本人は不服そうに首をかしげていた。

「お主、驚いてくれたのはええが、いきなりとんでもない事を言おったのう。何でそうなったんじゃ?」

「そりゃ、こないだの昼間っからビール……」

 するとビールの三文字を聞いた爺さんとニナさんの顔色が変化する。

「おお、ニナ! こっちはワシら二人で大丈夫じゃから、仕事に戻ってくれてええぞい」

 そしていきなり説明を中断させたファブロフ爺さんは、そうニナさんに声をかけると小さい声でこちらに話しかけてきた。

「それ以上は禁句じゃ」

 一組織の長だと納得できるほどの小さくも鋭い、力強い声。

 なのだが、まるで意味が分からない。

「ほれ、あれじゃ、確かまだ未処理の案件が残っとったじゃろう?」

 混乱するオレの向かい席で焦った様子のファブロフ爺さんはニナさんを遠ざけようとアレコレ言い始めている。

 しかし呼び出された挙句、説明をプッチされ、年寄りの焦る姿を見せつけられる今の状況は何なのか?

 ……罰ゲーム?

 人生とは理不尽で非情なものだ。という事がこの年になってなんとなく分かるようになってきた気がした。

 しかしこの爺さん。オレの説明を遮った事といい、この焦り様といいどうも怪しい。こないだはサボリ中だったのだろうか?

「分かりました。私が一緒だと離せない内容もあるようなのでここは失礼させていただきます」

「うむ、そうじゃの。それがええ」

「ですから先ほどの『昼間っからビール』の件ついては、後ほど詳しく聞かせていただきます。ファブロフ様もそのつもりでいてください」

 

 淡々としたニナさんの発言がファブロフ爺さんの顔を歪ませた。


「お主、なかなか嬉しい事をしてくれるのう」

 閉められたドアを呆けたように見つめ、こちらへと向き直ったファブロフ爺さんにはさきほどまでの自慢げな雰囲気など欠片も無い。

 どうやら第一印象が当たったらしい。ニナさんは見た目通り怒らせると怖い人だったのだろう。

 流石に焦ったオレは空気を変える意味合いも含めて本題へと入っていく事にする。

「それで、何でオレを呼んだんです?」

「おお、おおそうじゃったな。おぬしに借りとったアイテムの鑑定が終わったから返しておこうと思っての。おかげでレベルが上がったわい」

「あ、そんな事ですか」

 すると貸し出したアイテムをテーブルに置いていくファブロフ爺さんはさっきまでとは打って変わってたしなめるような口調になっていった。

「全く、『そんな事』とは。さてはお主、Sランクアイテムの貴重さを理解しておらんな?」

「いやあ、この世界の常識に疎くて」

「ふむ、これからの課題じゃの。……ニナを教師につけてやろうか?」

「イラついてる女性を押し付けないで下さい」


 オレはファブロフ爺さんの言葉にツッコミながら、受け取ったアイテムをボックスの中に収めていく。


「でもこの要件だったら、わざわざオレをこの場に呼び出す必要はなかったんじゃないですか? 無駄に人目を引いた気がするんですけど」

「ばかもん。今Sランクアイテムは貴重じゃと言うたばかりじゃろうが。あの日は『空回り』に客がおらんかったから良かったが、今日もそうじゃとは限らんじゃろ? じゃが次のアイテムを借りるためには、アレ等のアイテムをワシがいつまでも持っとくわけにはいかんのじゃ」

「今さり気なく『次のアイテム出せ』って言いやがったな」

 さすがギルドマスター。図太い。


「でも安心しましたよ。オレはてっきりステータスの内容が全部ギルドにばれた挙句、厄介ごとを押し付けられるのかと思ってました」

「ほう、察しがええのう。確かにこっちでもお主のステータスは確認しておるぞい」

「……確認はしてるんだ」

 そのあたりはやっぱ抜かりないんだな。

「まあ仕事じゃからな。とはいえお主のステータスを見た時はさすがに引いたわい」

「え、そんなにおかしかったですか?」

「アホぬかすでないわ。あんなもんは、おかしいを通り越して異常の範疇じゃわい。BランクのレベルでSSランクと引けを取らんなどと……本当にとんでもない存在じゃよ。お主ら異世界人は」

 街の中にあんな石像建てる人と一緒にはしないで欲しいのだが、言っても聞いてはくれなさそうにない。

 この人の中では『異世界人とはそういうものなんだ』という認識が根強く残っているのだろう。

「まあなんにせよ厄介事を押し付けるとかはないんですよね?」

「うむ。まあ今の所は大丈夫じゃよ。魔王でもあらわれん限りはな」

「さ、さいですか」

 今の魔王がどうこうという話がフラグじゃない事を祈るとしよう。

「しっかしこうなると、警戒しまくってたオレがバカみたいだな」

 ギルドマスターであるファブロフ爺さんとの会見は始まってみれば思った以上に平和なものだった。

 もちろんその事に文句はない。


 しかし安心したのもつかの間、再び応接室のドアが叩かれる。

「ファブロフ様、『鳥籠』様がおみえになっております」


 来客を告げるニナさんの声にファブロフ爺さんが表情を曇らせた。


ども、谷口ユウキです(-_-)/


前回のプロローグでシリアスっぽい雰囲気を出し始めたこの話ですが、作者の根っこがギャグ思考なので基本的にはのほほんと行く予定となっております。


とりあえずこの章での目標は、


1、主人公のメンタルを次の段階に上げる。


2、Mrフルフェイスの二つ名の由来を明かす


で一章の伏線を回収し、二章のストーリーをちゃんとした文章で書くことですね。


あんまりギャグばっか続くとクドイ話になるので多少のシリアスは許してください。



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