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プチトリ!!(仮題)  作者: 谷口 ユウキ
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リメイクしました第一章 第二十八話「ほうイチゴとな」

前回のあらすじ


一度決めた事は必ずやり通す! がカッコイイのは時と場合による。

 何とも言えない沈黙の中、素早くショックから立ち直ったリデルが悔しそうに呟いた。

「クッ、本命のフェレスが風呂に入っていないだと? ハッ、『人生山あり谷あり』ってのはこういう事か。ぬかったぜ」

 ……こう、なんだろう。女湯を覗いた後にその格言を使わないで欲しいと思うのはオレだけだろうか?

 山も谷も見て来たのは分かるけど。


「それにしてもお前、マジで覗きに行ったんだな」

 元々そういうヤツだとは分かっていたつもりだったが、こうして実際に女湯から転がり出てくる姿を見るとさすがに思う所がある。

きっとオレは心のどこかで『さすがに実行には移さないよな』というこのおバカに対する希望的観測を持っていたのだろう。


 そんな訳ないのにな。


 だがオレの冷めた目線を一身に受けるリデルは、悪びれる様子もなく胸を張る。

「ハッ、ソレは違うぜ親友。コイツはオレが修行している最中にたまたまガーディアンと戦闘に入り、負けそうになって逃げだした先が不思議にも女湯だったというだけの話。そう、いわゆるラッキースケベってヤツだ!」

「そんなアグレッシブなラッキーがあるか」

 そういうのを世間一般では『わざと』って言うんだよ。

「大体その説明をオレにするなよな。するとしても順番が間違ってる」

「順番?」

 不思議そうなリデルを前にオレは新たに買ったイチゴ牛乳を飲みつつ苦笑した。

「ちょっと後ろ見てみ」

「後ろ……ロ゛!?」

 言われた通り、振り返ったリデルは硬直する。


 無理もない。

 なにせ振り返ったリデルの目の前には魔道具屋で見たSランク冒険者。ダークエルフのお姉さんことアリスさんが立っているのだ。

 だからせめてもの情けとしてこの言葉を贈ろう。

「頑張れよリデル」

 何をかはサッパリ分かんないけどな。



「そこを動くなよ外道」

 アリスさんの冷たい叱声がリデルの勢いをストップさせる。

「し、親友、ヘルプを! ヘルプを下さいっ!!」

 どうやら相当ヤバいらしい。リデルの口調は必死すぎて裏返っていた。

「でもゴメンなリデル。今のオレはこのイチゴ牛乳を味わう事で精一杯なんだ」

 そう、オレが今飲んでいるイチゴ牛乳には、思った以上にイチゴの風味が強く、さらにクセになりそうな乳製品独特のコクがあるのだ。元の世界でたまにある『イチゴ牛乳』とは名ばかりの風味重視のモノとは、比べ物にならないこのイチゴ加減。

 これはもうデザートと言って良い、大事に飲まなければいけない一品と言って良いだろう。

 激しい動きをしてこぼすなんてナンセンス。

「いやー、ホント、動くどころじゃないわ」

「クッソ、この野郎! 最低な理由で裏切りやがった!!」

「いや、そもそも裏切るような協力関係にないし」

「テンメ、後で覚えてろよコラ」

 舌打ちをしたリデルは諦めたのかアリスさんへと向き直る。

 そんなリデルに向け、片手で大剣を振り上げたアリスさんは、凛とした声で言い放った。

「何か言い残す事はあるか?」

 心に突き刺さるような鋭さを持った冷たい声だ。

 そしてアリスさんの問いと怒気と殺気を一身に受けたリデルは、恐る恐る質問の答えを口にした。

「いきなり死ぬ前提ってどうよ」


 ……そのどこまでもマイペースな所は素直にすごいと思うよ。


「いや、貴様にこんな問いをするのは無意味だな。サッサと終わらせてしまおう」

「ハッ、無かった事にされた!?」

 どうやらアリスさんはリデルとの口論を諦めたらしい。

 まあ何だかんだで頭の回転が速い奴だから、話しているとやりにくい。というその気持ちは分からなくもない。

「チックショウがっ! やってやるぜこの野郎!!」

 女の人を野郎呼ばわりと芸が細かいのもある意味流石……なのか?

 そんな斜め上な感心をするオレの前でリデルが構えを取る。

「私たちの入浴を覗いたのだ。覚悟してもらうぞ」

「ハッ、そいつは誤解だぜダークエルフ。確かにチラリとサービスシーンを見た気はしなくもねえが、俺の本命はあくまでフェレス。テメーを見た時に思った『濡れた肢体と、上気する頬、意外と着やせする体。お、髪下ろした姿がまたいいじゃねーの』みたいな感想は全て些末なんだよ!」

「チラ見でその感想は無えよ」

 ガン見してんじゃねえか。


 おかげでアリスさんは可哀想なくらい真っ赤になっていて、ちょっと可愛い。

 無理もないだろう。表現が無駄に生々しかったからな。

「このド変態!」

 どうやら最初から切れていた堪忍袋の緒が、さらに細切れにされたらしい。

 アリスさんは大剣を後ろに置くような形で走りだし、間合いを詰めると同時に大剣を横に振り抜こうとする。

 対するリデルは体制を低くして距離を取ろうとしていた。

 しかしそんな2人を少し離れた所で観戦するオレ……は、このタイミングである事に気が付いてしまう。

 アリスさんの使う大剣は文字通り大きく、そして長い。そしてその大剣がこちらの方に動いたリデルを追う形で横に振られようとしているのだ。

「オレ、もしかして大剣の間合いに入ってる?」

 いや、オレだけじゃない。数種類の牛乳瓶が大量に置かれた冷蔵庫のような魔道具もだ。

「マズイ、このままでは数少ないオレの癒しが砕かれるっ」

 だが2人は頭に血が上って周りが見えていないらしく、アリスさんは切り付けようと踏込みを入れてしまう。

 唸りを挙げてブレる大剣と、よりによって冷蔵庫の方に跳躍するリデル。

「何故ソッチに跳ぶ!」

 

 気付けば体が動いていた。


 オレはとっさの判断で魔力を練り上げ[障壁]を展開。巻き込まれるのを覚悟してアリスさんの前に飛び出していく。

「ああ、結局こうなるのか」

 頭の中が真っ白になりそうなこの状況の中、オレは現実逃避気味にただ一つの事を考えていた。


 『どうせ巻き込まれるのならラッキースケベな所からが良かった』と。




 お仕置きタイム。

 コレは一般的にギャグ漫画やアニメなんかで使われる風景と悲鳴のセットシーンを指した単語で、リデルみたいな変態が『罪には罰なのだよ』とかいう自然な流れとノリの元、ものすごく痛い目を見る。という典型的なオチの一種であり、現在この旅館で起きている残念かつ意味不明で理不尽な状況を一言で説明できるすばらしい言葉でもある。

 だが傍から見れば微笑ましい。夜空をバックにしがちなその絶叫シーンの裏で、やらかしてしまったコメディーキャラへの放送できないような制裁が行われている事は想像に難くない。

 そんな事があったのに翌朝になったらピンピンニコニコしてる漫画の主人公達は超人と言っても良いだろう。

 つまり何が言いたいかと言うと……。

「こんなん喰らったら死ぬて」

 こんなギャグの欠片も無いお仕置きの一撃が凡人に耐えられるわけがない。


 オレは喰らったら翌朝どころか永遠にニコニコできないであろう一撃を[障壁]を展開させ受け止める事に成功。盾にした[障壁]をきしませがらも冷蔵庫のような魔道具を守りきる。

「何、防いだだと!?」

「うおおおお、信じてたぜ親友ー!!」

 リデルとダークエルフのお姉さんの顔が驚きの色に染まるが知った事ではない。オレは言うべきことをキッパリ言って守るべきモノを守らなければならないのだ。

 動きを止めてコッチを見る2人を睨み付けたオレは、この場の空気を支配しかねない勢いでまくしたてた。

「お仕置きシーンは外でやれ外で! コッチはまだパイン味とみかん味を飲んでないんだよ!」


これ以上はやらせない。


オレのそんな決意を込めた言葉が2人の胸に響いた瞬間だった。

「貴様、そんな理由で私の剣を……」

「そんな水に流せば消える様な理由で助かる俺の命って……」

 リデルもダークエルフのお姉さんもコッチの勢いに飲まれたのか、地味にショックを受けている。

 そして静まり返った空間の中、オレの隣の猫耳娘は神妙な顔で口を開いた。

「前にも思ったけどテツ君の本音って何か残念な感じだよね」

「余計なお世話だっての」

 大体ここで防がなかったら床だって大惨事になっていたのだ。文句を言われる筋合いはない。


「てかフェレス。片方はともかくもう1人の方はお前の所属しているクランのリーダーだろうが。むしろお前が止めろよな」

「ウチの実力じゃ絶対に無理。あの人はウチなんかよりもずっと格上だからね。大剣を止めようとしたら腕ごと切り飛ばされちゃうよ」

「……マジで?」

 オレそんな所に飛び込んだの?

「あのねえ、仮にもSランク冒険者だよ? そんな人の一撃を喰らって無事で済むわけないじゃない」

「た、確かに」

 オレも所詮は魔法職。DFがそこまで高いわけじゃない以上喰らったらタダじゃすまないのは同じだろう。

 「生きてて良かった」

 牛乳を守るために死ぬとか。危うく親やご先祖様に顔向けできなくなる所だった。


 安心してホッとするオレの横で、リデルが『へぶらっ』という声と共に壁まで吹き飛んでいった。

「え」

 今リデルが吹き飛ばされた?


 目の前で起きた事が浮世離れしすぎていたせいで、一瞬理解が遅れる。

 どうやらある程度冷静になったアリスさんが大剣の峰でリデルをブチ叩いたらしい。ハエ叩きにはたかれた蠅のように飛び、壁に激突したリデルが床に沈んでいく。

 そして現状を引き起こした張本人であるアリスさんは、恐ろしい事にオレの方へと歩み寄ってこう言った。

「すまないが君。君はどこかのクランに所属していたりするのかい?」

 クラン? 所属? 一体何が言いたいのだろうか?

 オレは深く考える前に『え、いや無所属ですけど』と反射で答えてしまう。

「そうか、ならば私のクランに入らないか? ちょうど腕のいい壁……じゃない、[治療師]を探していたんだ」

「今なんか本音的なのが聞こえた」

「気のせいだ」

「いや、今もやしっ子の魔法職を壁役にするとか言いましたよね?」

「大丈夫。気のせいだ」

「フェレスの元ネタはコイツか!」

 これはいくらツッコんでも『気のせいだ』ループのパターンだ。

 正直この手の相手はやりにくい。

「あの、ありがたい申し出ですけどソロでいいです……わざわざ誘てもらったのに、すいません」

 だがお姉さんは特に気にした様子もなく会話を続けていく。

「ふむ、まあそれだけの腕でソロなのだからな。こんな勧誘で動くとは元から思ってはいない」

 つまりからかわれたのか。

 体験を防いだ理由が理由だったし、もしかしたらちょっと根に持たれたのかもしれない。

「……で、それだけの腕ってのは?」

「とぼけなくていい。私の一撃を防いだ先ほどの[障壁]を見れば君がタダものでない事は誰にだって分かる」

「あー」

 そうか、そういえば似たような理由でオレの[治療師]のジョブレベルが高い事をリデルにも看破されてたんだっけ。

「ただ先ほどの防ぎ方はいただけなかったな。剣士としてのプライドに泥を掛けられた気分がした」

「それは……すみませんでした」

「フフ、別に君が謝るような事じゃないさ。私の未熟さが招いた事だ」

「そ、そうですか」

 未熟じゃなかったらオレ死んでたんですけどね。


 しかし穏便に済みそうでよかった。リデルと違ってアリスさんは大人だな。

 だがそんなオレの淡い希望は次のセリフで打ち砕かれる。

「しかしだからこそ君の実力の程を確かめておきたい。少し手合せしてくれるかな?」

「アンタ何だかんだ言って全然納得してないじゃねえか」

 しかし手合せは避けたい。


 オレは無事に逃げ伸びるためにも、ひとまずは相手の情報を探ろうと[鑑定]を発動。[アリス]というネームプレートと一緒に[精霊術師]と[魔法剣士]のプレートを確認する。

「……どこぞの女主人公かっ」

 名前と言いジョブといい主役感が半端ない。おかげ様で、ただでさえゼロに近い戦意がマイナスに突入する。

 しかしコッチのやる気の在る無しなど気にせずに、じりじりと距離を詰めてくるアリスさん。


 状況が違ったらうれしいのに。

 とも思うが仕方がない。オレは[障壁]を張ってやり過ごそうと覚悟を決めて準備する。


 と、その時だった。

「よくもやりやがたなコラァ! [《剛拳ごうけん・鳶《とび]!」

 というもはや聞きなれてしまった声と共に何処からか鳥の、それも猛禽類のようなシルエットの何かがアリスさんに向かって飛び込んでくるのが視界の端に映る。

「チッ、[シルフ]!」

「うわっ」

 目の前で突風が吹き荒れる。


 [精霊術師]のスキルか!


 アリスさんは前の世界でも聞き覚えのある風の精霊、シルフを使役して攻撃を迎撃。

 その余波を[障壁]で防いだオレの横で、吹き荒れる風が周りのイスと机。そして野次達を吹き飛ばしていく。

「また貴様か。本当に懲りない男だな」

 自分を攻撃した存在、リデルの姿を確認したアリスさんの目つきが険しくなる。

「ハッ、不意打ち喰らって引き下がるってのはどうにも性に合わなくてな」

「ああ、正面から叩き潰されるのがお好みか」

「言ってろ着やせ女」

 リデール、多分着やせは悪口にならない!


 ってツッコめる雰囲気でもないな。

「フェレス、こいつ等店の中で戦闘をするとか言わねえよな」

「2人とも頭に血が上ってるから多分言う。どっちもすごいマイペースなところあるしね」

「それかなりダメじゃん」

 店の中がボロボロになりそうだ。

「テツ君、何か都合の良い魔法とかないの?」

「だー、チョイ待ち。多分なんかあると思う」

 オレはフェレスに急かされながら慌てて使えそうなスキルを調べていく。

「そうだな……あ、2人を宿から追い出すだけで良いなら多分行けそう」

「じゃあソレでお願い」

「了解です。っと」

 オレはキレた2人を何とかすべく、視界に映る使用可能な魔法の一覧からある魔法を選び出した。


 [古術師]の使う[時空間魔法]。


 色んな意味で『廃れた魔法を使う』という設定のせいで[ネタ魔法]のインパクトの強い[古術師]のジョブの、比較的マジメで使える魔法である。

 この[時空間魔法]はアホほど大量のMPを消費する事で、時間を止めたり、視界内のどこか、今まで行った事のある街、村、ダンジョンの入り口などに飛ぶことのできる優れモノで、対象や移動距離によっていくつかパターンのある魔法だった。


 オレはそんな[時空間魔法]のカテゴリの中から、魔法陣の上にいる任意の対象を選択して転移させることのできる[エリミネイト]を選択。

 必要以上につぎ込んだ魔力によって、巨大化した魔方陣を2人の間に展開させる。

「キャッ! 何、この魔法!?」

「ハッ、この出鱈目で、ふざけていて、人に喧嘩を売るような舐めた魔法は……親友か!」

「正解だけど気に喰わねえっ。お前人の魔法を何だと思ってんだ」

 当のリデルは何を安心したのか、武器をしまい腕を組んで傍観モードに入っている。

「んでこの魔法は? 見た感じこの食堂の半分くらいを魔方陣が陣取ってやがるじゃねえか」

「ん、魔法陣の上にいる任意の対象を村の入り口まで飛ばす魔法だけど」

「あっ、なるほど。つう事はこのダークエルフにおさらばいただくって事か」

「ああ。じゃあお二人さん、後は別の場所でごゆっくり」

「……アレ、俺も入ってる?」

 オレは『まさかね』とでも言いたそうな顔でこちらを見るリデルに返事代わりのサムズアップ、つまりグーサインを返して魔法を発動する。

「それ意味的にはサムズダウン!」

 サムズダウン。つまり親指を下に向ける『地獄に落ちろ』的なハンドサインの事を言っているのだろう。

 そして飛ばされる瞬間に発せられたリデルのツッコミを残して、2人はその場から消滅した。

「成長したな、リデル」

 昨日会った時は見た所ボケ一筋。にも関わらず、最後の言葉はナイスなツッコミだった。

 あいつならお仕置きシーンに突入してもきっと生きて帰って来れる。

「さて、トラウマおじさんは大丈夫かな」

 正直命の危機云々に関してはトラウマおじさんの方がオレの中では危険度が高い。

 のれんの向こうで何発のスキルを受けたかは分からないが、あの叫び声だ。早い所治療しておいたほうが良い。


 こうしてオレはどこからか聞こえて来る断末魔の叫び声をBGMに、男湯と書かれたのれんに向かって歩き出したのだった。


ども、谷口ユウキです(-_-)/


と、いう訳でこの辺りの話を大幅に修正、改稿しました。


修正前の話は今見るとかなりくどかったです。

感想で指摘して下さった方には感謝の言葉しかありません。


非常に為になりました。


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