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プチトリ!!(仮題)  作者: 谷口 ユウキ
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リメイクしました第一章 第二十六話「ほう4千万とな」

前回のあらすじ


ブラックな中小企業は社長の頭の中がブラックなことが多いと聞いたことがあります

「毎度ありがとうございましたー!」

 クランについての話を聞いた後。リデルの買い物に付き合い、店員のお決まりな掛け声を背に店を出たオレは、[箱舟の岩村]の中を歩きながら一休みできそうな場所を探していた。

「で、何買ったんだ?」

 店の売り物がどれもアイテムボックスに入っている。という驚愕の事実に気が付いてしまい、冷やかしだけで何も買わなかったオレはリデルの持つ袋の中身が気になってしまう。

「フッフッフ、よくぞ聞いてくれた親友」

 だがリデルはオアイテムの入った袋をあさると、水晶のような物体を手に取って見せつけてくる。

「ハッハー、コイツが俺の貯金をはたいて買ったスペシャルなアイテム! [空のマジックストーン]だ!」

「……自信満々なお披露目して『空』?」

「意外と冷めたリアクションすんのな」

「いや、大体マジックストーンが何か知らないし」

 クラン話で説明パートは終わりだと思っていたオレはまさかの新しい単語の出現に戸惑ってしまう。

「ったく、まあ魔法職は自分の魔法以外はあんま使わねえからなぁ」

 仕方ない。とでも言いたそうに説明を始めるリデル。


 だが、よくよく考えればこの[空のマジックストーン]はアイテムなのだ。[学者]スキルの[アイテム図鑑]を使えばどんなアイテムなのかくらい簡単に分かる。

 そう、オレはリデルの腹の立つ説明を受ける必要は無い! ……と、いう事に気が付いたのはリデルに懇切丁寧な説明をされた後だった。


 [空のマジックストーン]リデル版の解説を要約すると好きな魔法を数回分閉じ込める事が出来るものすごく値段のお高いアイテムという事になるらしい。

 どのくらい高いかと言うと、リデルが5年かけてコツコツ貯めた貯金を1個でチリにするくらい。

 金額聞いたら元の世界で言う1千万チョイだったため若干ビビったが、本人が満足そうなのを見るとそれが適正価格なのだろう。

「でも何でそこまでしてそのアイテムを手に入れようとしたんだ?」

 魔法を一つ封じ込めて、いつでも使えるように事で戦いの幅が広がる。というのはオレにも理解できる。が、そのアイテムを買うお金を、他のアイテムや装備にお金を使っても良いのではないかとも思う。

 実際リデルは[神官]として[神聖魔法]も使えるわけだし、遠距離攻撃ができないわけでもないだろう。


 だがオレのそんな疑問に対するリデルの答えはとてもシンプルだった。

「簡単に言えば防御面を強化したかったから。だな」

 珍しくマジメな雰囲気だ。

「具体的に言うと?」

「ハッ、そうだな。言ってしまえば手軽に出せる盾が欲しいって所か。親友の[障壁]や[陰陽師]の使う[結界]、そのどっちかが使えるだけでも安定感が全然違えからよ」

「え、でも武器とか防具とかに金を回した方が良かったんじゃない?」

「コイツだったら武器や防具と違って重くねえし、少し離して発動できるだろ? そこらの盾よりも使い勝手が良いんだよ。親友みたく色んな使い方もできるしな」

「あー、足場にしたりクッション代わりにしたりって事か」

 なるほど、話は理解できた。

「でもリデル。今の話だと根本的な所が欠けてるだろ」

「ハア、何が?」

「いや、そのマジックストーンって空なんだろ?」

 ソレ今の段階だと使えないって事なんじゃ……。

 するとオレの指摘を受けたリデルは意味深な微笑を向けてくる。

「俺にできるのはココまでだ。後は任せたぜ、親友」

「こんな下らない話で名ゼリフっぽい事言ってんじゃねえっ」


 どうやら空のマジックストーンに魔法を込めてもらう事が、リデルがオレを魔道具屋まで連れて来た理由らしかった。


「よし、宿に戻るか」

 面倒になって帰ろうとするオレの前に、あわてたリデルが周り込む。

「だー、待て待て。そんな事言わずにコイツにパパッと魔法を込めてくれよ」

「お前な、さっきの店の棚にはちゃんと込めた後のヤツも置いてあったろうが」

 そう、ちゃんとした完成品は冷やかしの時に何種類も見ているのだ。オレが手を貸してやる理由は無い。

 しかしリデルにとっては話が違うらしかった。

「頼む親友! マトモに[障壁ストーン]を買うとこの[空のマジックストーン]の5倍くらいしちまうんだっ!!」

「え?」

「だからー、値段が5倍くらいするんだよっ!」

「……魔法職ボロ儲けじゃねえか」

 さっきの話で出た[空のマジックストーン]の値段が役1千万。その5倍って事はほぼ5千万だろ?

「ハッ、まあ魔力をマジックストーンに込める事が出来るのはレベル70以上にならないと無理だからな。正直ウザッてえが、この値段はどうしようもねえさ」

「へー、そんな事情があるのか」

 そういえばコイツの母親のマーサさんもジョブレベル72の[仕立て屋]でこの国トップクラスとか言ってたな。そんなに珍しいのか、レベル70以上。


「ん? てかリデル。お前何でオレのジョブレベルが70以上ある事知ってんだ?」

 魔法を込める作業を俺に頼むって事はオレのジョブレベルを知っているって事だよな。誰かに聞いたのか?

「ハッ、[サンドワイバーン]の尻尾や[ゴラムーニョ]の糸の連続攻撃を、[障壁]1枚で防いだくせに何言ってやがる。アレ見せられたらどんなバカでも気づくぜ?」

「……そっかー」

 そういうのが基準でバレるのか。もう何に気を付けたらいいか分からねえな。


 まあいいや。ここは切り替えて本題に入ろう。


「分かった[障壁]の魔法入れるからその[空のマジックストーン]貸せ。そのかわり飯屋で言っていた『どうしてオレの攻撃(初撃)が見切られやすいのか?』の理由。ちゃんと説明しろよ」

 マジックストーン購入の動機は意外と真面目みたいだし、魔法を込めるくらいは大した労力じゃない。まあ協力してもいだろ。

「ハッハー、さっすが親友、器がでかいぜ!」

「……せっかくだからネタ魔法込めていい?」

「ハッ、勘弁してください!」

「鼻で笑ってから謝るとか、何だその無駄な器用さ」

 オレはリデルと下らないやり取りをしつつ、受け取ったマジックストーンに意識を向ける。

 そうして視界に浮かんだ『魔法を込めますか?』の質問に脳内でYESと答え、魔法のリストから[障壁]を選択。とりあえず300の魔力と一緒にマジックストーンへと込めてみた。

「ホラ、終わったぞ」

 [鑑定]で確認した所ちゃんと[障壁ストーン]になっている事を確認して、リデルの方へ放り投げる。

「おお、仕事が早いっ。サンキューな親友、マジで助かるぜ」

「じゃ、説明な」

「おう、わーってるって」

 こうして嬉しそうに[障壁ストーン]を受け取ったリデルは『どうしてオレの攻撃(初撃)が見切られやすいのか?』というオレの問いに答えるため、上機嫌で解説モードに入るのだった。



「おーし、それじゃあ親友。ちょいといつも通りの感覚で、俺に向かって構えてくれねえか?ああ、もちろん臨戦態勢付きでな」

「いきなりだなオイ」

 説明のため。と言う理由で村から少し離れたフィールドに連れてこられたオレは、何の前フリも無く飛び出したリデルの発言に戸惑ってしまう。

「何で構えないといけないんだ?」

「ハッ、んなもん説明が手っ取り早いからに決まってんだろうが」


 どさくさに紛れて殴ったろかコイツ。


 まるで鼻で笑うかのような切り返しをして来るリデルを見ていると、ふとそんな選択肢が頭に浮かんで来る。


 とても素敵な考えに思えた。


「よし、目の前の相手に集中」

 そしてあわよくば殴り倒す!

 オレは今までの接近戦を思い出しながら杖を構えて目の前のおバカに全神経を向ける。

敵意と怒りと殺意も向ける。

「おーっし、そんじゃ親友。その集中した状態を維持したまま動いてみろや」

「はあ?」

 何が言いたいんだコイツ?

 だがあからさまに疑問を持ったオレを見たリデルは『ハッ、まあやれば分かるからよ』とだけ言うと、のんびり見学モードに移行し始めていた。

 ニヤニヤ笑いが腹立つな。見てろよこの野郎。

 だがいざ殴りかかろうとした所でオレはあることに気が付く。


 動けないのだ。


 いや、正確には今の状態。つまり相手に全神経を向けたままだと動くことができない。と言うのが正しい。

「何がどうなってるんだ?」

 いざ『動こう』とするとリデルに向けていた集中力の何割かが、どうしても自分の体に向いてしまう。リデルの出した条件の中で動く事は不可能と言ってもいいくらいにだ。

 そしてリデルは混乱するオレに向けて勝ち誇った顔でドヤ顔を披露した。

「ハッ、分かったか親友。そう、テメエの構えは『臨戦態勢』じゃなくて『威嚇』だったのだよっ!」

「……そんなザックリとした説明で何を理解しろと?」

 てか説明序盤で締めに入るなよな。


 こうしてオレにさらなる説明を促されたリデルは、より詳しくオレに問題点について話していく。

「ようは意識の問題つう事だな。普通なら『いつでも動ける』って状態になってねえといけねえ時に、親友は『すぐには動けない状態』になってたって事なわけよ」

「つまり相手に集中しすぎるとダメって事か?」

「だな。あの状態は言っちまえば『威嚇』の一種で。気迫でドンッっと圧力与えて相手をビビらせるテクなわけだからよ」

「あー、何となくイメージ湧くかも」

 リデルの言う威嚇を受けた[モノクロバット]なんかは最初から逃げの一手だった。恐らくはアレが威嚇の効果なのだろう。

 それに意識してなかったから何とも思わなかったけれど、元の世界にあったマンガとかでも、立ち止まった状態から『気迫でドンッ』という描写は見た覚えがある。アレはそういった威嚇による威圧感を表現してたんだな。

「まあ後の話は簡単だな。威嚇だと気迫の圧力みたいなので相手をビビらせることができる分、集中力の大半を相手に向けちまうからとっさに動けねえ。逆に言えば威嚇の後に動くときには気迫が絶対に緩むから、必ず圧力が弱くなるってこった」

「つまりその圧力が緩くなった瞬間に動けば、相手の攻撃が躱せてしまう?」

「そういう事。モンスターはそういう感覚が鋭いから、気迫が緩んだ瞬間を察知して攻撃の動きだしを読んでくる。親友の攻撃が当たらなかったのはソレが理由だな。冒険者でもある程度勘の良いヤツは普通に読めるぜ。俺とか旦那もな」

「なるほど、そういう事だったのか」

 そういうのが分かるのって人としてどうなんだ? とは思うが説明の内容は何となく分かる。今度からは気を付けるようにしよう。


「ああ、ついでに言っとくと普通2撃目からは皆動きながら戦ってるから、このテクは意味ねえぞ。止まった状態じゃねえと気迫で威嚇なんてできねえし」

「つまり初撃専用の裏技って事?」

「そういうこった」

「へー」

 なんだかんだ言っても前衛職なんだなコイツ。


「ん、おかげで納得できたわ。ありがとなリデル」

「ハッ、気にすんじゃねえよ。コイツでおあいこだろ?」

 そう言って[結界ストーン]を顔の前で振るリデル。

「そうだな。そう考えれば確かにおあい……いや待て、良く考えたらそのアイテムと今の話じゃ釣り合いがとれてなくないか?」

 [結界ストーン]の相場が元の世界の通貨で5千万チョイ。基礎になった[空のマジックストーン]の値段を引けば4千万くらいはオレの魔法分という事になる。

 つまり今の所々で腹立つ説明が4千万分の価値。


 無いな。


「しかもリデル。そういえばお前、最初は『一緒に魔道具屋に行ったら、初撃の当たらない理由を教える』みたいな事を言ってたよな」

 つまりいつの間にか『何で魔法を入れたら教える』に条件がすり替えられたという事になる。

「……てことはマジックストーンに込めた4千万円分のオレの仕事はタダ働き?」

「フッ、何を言うか親友。友情っていう二言は、お金には変えられない素晴らしい宝物じゃないか」

「火に油を注ぐような切り返しをありがとう」

 やっぱお前は腹の立つヤツだよ。マジで。

 こうなったら今習ったことを生かしてオレの成長の成果を叩きこんでやる。いい機会だ。まだ使った事のない魔法の実験台にしてやろう。

「さーて、ど れ に し よ う か な……」

 オレは視界に浮かぶ魔法の一覧を見て、使う魔法を吟味する。

「ハッ、礼にはおよばないぜ。そんじゃまた会おう!」

「っ! しまった!」

 不穏な空気を感じ取ったのかリデルは逃げ出したらしい。声に反応してリデルを探せば、ヒラヒラと手を振りつつ全速力で走っていく後ろ姿が見える。


 ……けど、この距離なら行けるな。


 逃げるリデルをターゲットとし、バカみたいに多い魔力とにモノを言わせて力づくで魔法陣を遠距離展開。[無詠唱]で攻撃の準備を整える。

「その程度のスピードでオレの魔法から逃げられると思うなっ!」

 そして[ネタ魔法]、[古典的(クラシック)罰ゲーム(パニッシュメント)]を[多重詠唱]で発動したオレは、リデルに向け無数のタライを雨の様に降り落としたのだった。


「クッ、[柔拳……]」

「遅い!」

 おそらく何らかの防御系スキルを発動させようとしたのだろう。だがそれよりも早く、初めて使う、それでいて何となく内容の予測できたネタ魔法。[ インスタントスリップ(即席の滑りボケ)]を選択して、発動。

 リデルの足元に巨大なバナナの皮が出現する。

「うおおっ、何だぁ!?」

 上から降ってくるタライに気を取られていたリデルに足場を意識するような余裕はない。足を滑らせ体勢を崩した状態で放ったリデルのスキルは明後日の方向へと飛んでいった。

「残念だったな」

「っ! チックショー!!」

 悔しそうな叫びが聞こえてくる。

 

こうしてリデルはタライの山に生き埋めになったのだった。


「いやー、スッキリしたわ」

 目の前に出現したタライピラミッドを見てオレは満足げにうなずいた。

 さんざんイライラさせられたのだ。このくらいはやり返してもいいだろう。

 肝心のタライはすぐ消えるし、所詮はお笑い魔法のためダメージもそこまでじゃない……はずだしな。

 その証拠にタライが消えるとリデルは素早く復活。コッチに向かって抗議の声を上げてくる。

「な、何すんだ親友、死ぬほどビビったじゃねえか!」

「んなビックリするか?」

「ハッ、頭の上から大量のタライが釣り天井みたく降ってきたんだぜ? ビビるに決まってんだろ!」

「あー、なるほど。言われてみれば心理的ダメージは大きそうかも」

 [ネタ魔法]、お笑い思考な名前と内容だけど、タイミング次第では意外とえげつなく使えるかもしれない。

「使い方次第じゃかなり面白いことになりそうだな」

「親友、俺の話聞いてる!?」

「ん、聞いてる聞いてる」

「ハッ、そんな風には見えねーけどな」

「……お前、復活早いな」


 こうして予想外の収穫を手に入れたオレは、リデルの抗議を受け流しつつ、宿に戻ろうと村の中心に向かって歩きはじめるのだった。


ども、谷口ユウキです(-_-)/


今回はフラグ回収+ネタ魔法などのフラグ建てな話でした。

内容が分かりにくかったらゴメンナサイです。


ちなみに人にもよりますが、一応今回の話は学校の剣道の授業とかでリアルに使える(かもしれない)ネタ……のはずです。

最初の一撃を華麗に躱してウケを取ってくれたら作者冥利に尽きますねw


まあそんなどうでも良い事は置いといて。いよいよ第一章、最後の山場(?)まであと少し!


読者のみなさんは最後のギャグパート内容の大まかな予想はついたでしょうか?

ヒントはそこそこ散らしてあるので『予想がついた』という人もいるかと思います。


もし正確な予想ができてしまった人は主人公視点によるツッコミの+αに期待しといてください。


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