リメイクしました第一章プロローグ 第三話「おお王よ」
前回のあらすじ
主人公は道連れだ。
[変態鬼畜王セクハラー]は言ってしまえば「ピッチリ七三」だった。
鎧で分かりづらいがよく見ればシュッとした雰囲気の優男風なアバターだと分かる。
自分で[変態鬼畜王]とか名乗るぐらいだからきっとアバターはガチムチなおっさんかだろう。と思ってたので正直うれしい誤算。インパクトが七三しかない。というのは問題かもしれないけれどコレなら普通に接せそうだ。
もちろんトッププレイヤーというだけあって強そうな大剣と高そうなゴツイ鎧を装備はしている。
……ていうかこの人の顔、七三のインパクトを強調するためだけに作られてないか?
顔のパーツすっごいモブな感じだし。多分このキャラのことを思い出そうとしても髪型しか出てこねえよ。鎧と七三しか思い出せないよ。
え、何この予想の斜め上をいかれた感じ。悔しくは無いけどすっごい腹立つ。
『セクハさんチィース』
しかもこの[変態鬼畜王セクハラー]、修次の今の掛け声から察するに、名前が長いのでセクハと呼ばれているらしい。これでは名前を長くした意味が解らない。
それにしてもさすがは修次、サービス開始からこのゲームをやってるだけはある。トッププレイヤー相手にものすごく馴れ馴れしい呼びかけだった。
『やあシュウ君。ずいぶん長いことそこにいたみたいだけど何かあったのかい?』
「……何、だと?」
こ、声が渋くてカッコイイ。何でそんな所はハイクオリティーなんだ!?
『いえ、さっきこのゲームを始めたばかりの親友に色々とレクチャーしてたんですよ。な、テツ』
「え? ああ、うん」
『そうか、なら良いんだ。ずっとそこにいたから何かトラブルがあったんじゃないかと思ってね』
「ああ、そうだったんですか」
やはりもめてるんじゃないかと勘違いしていたらしい。
まあ40分弱も1箇所に留っていたのだ。不自然に思うのも無理はない。
『大丈夫ですよ、仲良く話してただけですから』
『そうか、悪かったね』
うーん、このセクハさん。話した寒色ではいい人っぽいな。何であんな名前にしたんだろう?
「えーっと[変態鬼畜……」
『ああ、そこはセクハで良いよ』
「あ、じゃあセクハさん。いきなりで何ですけど1つ聞いてもいいですか?」
「ああ、もちろん」
「何でそんなアバターネームにしたんです?」
『え、別にふつーじゃん』
「修次くーん、君はちょっと黙っとこうか」
オレは常識の壊れた修次の発言を素早く防ぎ返事を待つ。
しかしいざ修次が黙ってしまうとその場を言いようのない沈黙が支配してしまった。
……ゴメン、やっぱりしゃべってくれ修次。[セクハ]さんが急に黙っちゃったせいで空気が重い。
こうなったらもう話を変えるしかないか?
「あの、言いたくないなら別にいいですよ」
だがセクハさんは首を振ると、苦しそうに語りだしてくれた。
『さ、酒の勢いなんだ』
「は?」
いま何と?
『いや、僕自身あんまり覚えてはいないんだけど、酔っ払った勢いでこのゲームを初めたらしくてね。適当な名前でスタートしたら偶然にも超ド級のレアアイテムをゲットしてしまったみたいで、正気に戻ったときには結構なレベルになっていたんだ』
結構なレベルになるまで正気じゃなかったのか。
「で、やめるにやめられなくなったと?」
『うん、恥ずかしながらその時の記憶は一切無いんだよ』
そしてオレの脳内に[変態鬼畜王セクハラー]ダメ人間説が浮上した。
少なくともセクハさんの知り合いの中では、この人にだけは酒を飲ませてはいけない。という事が暗黙の了解が作られていそうだった。
『テツ、酒飲んだ時のセクハさんには気を付けろよー。別人かと思うぐらい人が変わって普段の面影ゼロになるから』
「えっ、そうなの」
『どのくらいかって言うとだな、酒でダウンしたセクハさんの代わりに別の人がプレイしてるのかと思うほどに変わる』
「そんなにか」
『ああ、シラフでも十分強いんだけどな。酒乱モードのセクハさんは強さの挌が違うんだよ。眠っていた第二の人格(笑)がお酒によって目覚めたと言っても過言ではないね』
「情けない設定だなオイ。ちなみにセクハさん第二の人格はどういった人?」
『ろれつの回らない笑い上戸』
「つまり酒に酔って何を言ってるかよく分からない七三が、笑いながら無双すると」
『そう。このゲームの生きた伝説さ』
それは黒歴史の間違いじゃなかろうか。
ただ、ちょっとだけ見てみたい気はする。
「このゲームの楽しみが1つ増えたな」
動画サイトあたりで過去の伝説を探してみるか。
『あー、君たち。そういう話は本人のいない所でするものだと思うんだが』
『何言ってんですか、これは悪口じゃなくて事実ですよ』
「さすが修次」
言い切りやがった。この断定口調はフォローしとかないとマズイ。
「何かすいません[セクハ]さん」
『いや、気にしてないからいいよ』
おお、やっぱいい人だ……シラフの時は。
『まあ何かわからないことがあったらいつでも聞いてくれ』
「あ、助かります」
『あ、じゃあせっかくだしセクハさんも一緒にテツにこのゲームのすばらしさを語りましょう』
修次よ、お前はまだしゃべるというのか。何かどさくさに紛れてセクハさん誘ってるし。
『ああ、それはいいね』
しかも賛同すんのかよ。
マズイな、このままトークだけで時間が過ぎるとか、もう別のゲームだ。急いで話を変えないと。
だが2人の興味を引けるような話題が無い。何か、何かないのか?
……あ。
「二人とも聞いてくれ。オレ未だにキャラの動かし方が分からないんだ!」
『『……え? そこはメニュー見れば良くね?』』
「ああ」
そういえばその手があったか。
衝撃の新事実だった。
そして10分後。
『と、いう訳でド素人君に戦闘の仕方を教えることになりましたー』
「誰に向かってしゃべってんだお前は」
修次のノリは完全に漫画とか小説の登場人物のソレだ。本人は楽しいのかもしれないが一緒にいると恥ずかしい。
『こういうのは勢いが大切だろ?』
「そこは友人に対する気遣いを大切にしろよな」
普通は親友にゲーム強制させるとか、ゲーム強制させて逃げられない状況にしてから延々と話をきかせるだけとか……やらないだろ。
『いや、お前なら無礼講でもいいかなって』
「少しは礼講しやがれ」
ちなみに事の始まりは少し前。
オレが操作方法の画面とにらめっこしながら恐る恐るキーボードを押してみるという、絵的に地味な時間を乗り越えた所、修次こと[シュウ]が今度は戦闘とスキルについて教えるとか言い始めやがったのが直接の原因だ。
さっそく覚えたばかりのアバター小走り移動で逃げようとしたんだが[シュウ]の魔法でコンタクトを取っていたメンバー全員が町の外にワープさせられるという異常事態が発生。
最終的にオレ達は迷宮都市ラースを出てすぐのフィールド、[ビギナーズ平原]に強制送還させられたのだった。
チクショウ、もう少しゆっくり町が見たかった。
だが雑談ばかりしているわけにもいかない。
『君達、そろそろ戦闘の説明をしたいんだけどいいかな?』
と自制を促すセクハさんに反応してすぐさまキャラを操作してお辞儀をさせる。
「『すんませんでした!』」
謝るアクションとタイミングが、奇跡的に修次とシンクロする。
『息あってるね。』
「『ありがとうございます!』」
『でも何で敬語なの?』
「『なんとなくです!』」
『……何というアバウトな理由』
セクハさんは何だかんだ言ってもこのゲームのトップですからね。
自然と敬語になるんですよ。
『おっし、それじゃあ戦闘とスキルの説明を始めるかー。説明は私、[シュウ]と』
『私セクハがお送りいたします』
『場所はここ。初心者行きつけのフィールド、[ビギナーズ]平原からお送りしまーす』
「アンタ等は何処の解説者だ」
そしてオレのツッコミを受けた2人はノリノリで解説を進めていく。
『それではセクハさん、フィールドな解説をお願いします』
『はい、任されました」
修次、とりあえず説明丸投げはどうかと思うよ。
こうしてできる男、セクハのフィールド口座が始まったのだった。
『そうだね。この[ビギナーズ平原]はその名の通り初心者用に作られていて、ポップするモンスターばザコばかりだから[テツ]君が戦闘の基本を覚える所にはピッタリの場所だろうね』
つまり名前のまんま初心者歓迎なフィールドって事か。
よく考えたら[迷宮都市ラース]も英語のラビリンスのラとスだけ残して伸ばし棒で省略しただけのお手軽ネーム。
このゲームって案外安直なネーミングセンスをしてるのかもしれない。
『お、モンスター見っけ』
「え、マジで!?」
オレは修次の言葉に目を凝らす。
話に集中していて気付かなかったが、頭の上にHPを表すゲージが浮かんでいることも分かる。
少し距離はあるが、キャラクターの移動はあっという間だ。ドキドキしながら近づいてみると少しづつシルエットがハッキリ見えてきた。
「あれは……犬だ」
『厳かなお言葉だな』
「うっせえ」
ちょっと緊張してたんだよ。
初めて遭遇したモンスター。顔がブルドック風のスマートな中型犬に、オレの視線は釘付けになる。
『じゃあセクハさん、あのモンスターの解説よろ』
ん、まさかまた丸投げなのか?
「何度もすいませんセクハさん」
『いや気にしないでいいよ。好きでやってる事だからね』
「ほんとすいません」
『あれは[クールトー]。15世紀のパリ近郊にいたとされるオオカミの悪魔だね。[クールトー]とは尾無しという意味でこのゲームでもあのモンスターには尻尾がついていないんだ』
「『へー』」
「ってシュウ、お前も知らなかったのかよ」
たしかセカンドジョブの[学者]でモンスター図鑑が見れたはずだよな。
『いや、モンスター図鑑にそういうことは乗ってないから』
という事は今のは普通にセクハさんの知識なのだろうか?
『まあ僕はこういうの好きだからね』
『「へー」』
こういう裏話に詳しい人は自分とは違った面でもゲームを楽しんでいるだろう。
ナイス独学である。
「それにしても町やフィールドの名前と違ってモンスター名はまともなんだな」
てっきり手抜きなキャラ名だと思っていたので少し意外に感じる。
モデルがあったからそのまま使ったのだろうか? いつかは開発の裏話も聞いてみたいものだ。
『おーし、んじゃスキルの説明するかー。セクハさん解説よろ』
「お前仕事しろよ」
『スキルというのはファースト、セカンドの各ジョブが一定のレベルに達することで習得することのできる必殺技みたいなモノでね。これには種類が2つあるんだ、その1つのアクションスキルは戦闘中にコマンドを選択することで。もう1つのオートスキルは常時自動で発動するんだけど。この説明で分かるかい?』
「十分ですよ」
ほかのゲームと似たようなモノみたいだし。説明も短いしね。
『それじゃあ今から魔術師のスキル、属性魔法で[クールトー]攻撃するから見とけよー』
「え、いきなり?」
気付けばすでに画面の中の[シュウ]は魔法陣らしきものを展開している。
『不意打ち上等!』
そしてあんまりな掛け声とともに魔法陣から放たれた無数の氷(サイズは人間の頭くらいあった)の1つが[クールトー]に直撃、HPゲージを一瞬で0にした。
倒された[クールトー]は光の欠片となって消滅し、後にはゲーム内で使えるお金とドロップアイテムが残される。
「おお、すげえな」
思ったよりもキレイなグラフィックだ。
『今の[シュウ]君のスキルは[魔術師]の[アイスショット]だね。氷の散弾が広範囲に撃ち出される上級魔法だ』
「へー、さすが魔法職」
『それじゃあ次は僕が近接系のスキルを見せるね』
「あ、お願いします」
こうしてその後30分ほどかけて戦闘の仕方を教えてもらったオレは、さらに2時間ちょっとかけてどうにかレベルを6まで上げたのだった。
「疲れたー」
初心者にモンスターとの連戦はきつい。
最初から覚えていた[シーフ]のスキルが直接戦闘に関わらないタイプの技だったのもその原因の1つだ。倒したモンスターがレアアイテムを残す可能性を上げる[ラッキーストライク]というスキルなのだが、フィールド自体が初心者用のため出てくるモンスターの落とすアイテムはたかが知れてるいたのだ。
つまり今の段階ではこのスキルは宝の持ち腐れ。
「まあ後々重宝するらしいからいいんだけどさ」
しかしこの「ド素人がボウリングをやってみたら偶然ストライクが取れた」みたいな技名はいかがなものか。
いや、言っても仕方がないんだけどね。
「にしても結構疲れて来たな」
ふと窓の外を見るともう夕方である。
「修次。そろそろ終わりにしたいんだけどいいか?」
『あー、確かに。そろそろ飯の時間ではあるな』
『じゃあ今日はこのくらいにしておこうか』
2人の言葉を受けて戦闘続きで肩に入っていた力がゆっくりと抜けていく。
「セクハさん、今日はありがとうございました」
『またねセクハさん』
『ああ、2人ともまたな』
言うや否やセクハさんは光に包まれて消えてしまう。多分ログアウトしたんだろう。
「んじゃオレ達も切り上げますか」
『あ、その前にちょっといい?』
「ん?」
『お前今日キーボードで操作してただろ』
「そりゃまあ、パソコンでやるゲームだし」
それが普通なのではないだろうか?
『実は専用のプログラムかアダプタ使えばテレビゲーム用のコントローラーを使うことができるんだよ』
「え、マジで?」
『ああ、コントローラーの接続口がUSBと同じなんだよ』
「へー、知らなかった」
『で、そのPCに使えるコントローラー。2つ持ってるから1つ貸してやるよ。お前結構操作に苦労してただろ?』
「おお、良く解ったな」
どうやら何だかんだで気にかけられていたらしい。
「悪いな」
『気にするな。まあどうしても気になるっていうんなら一回目の転生を受ける事でチャラ。で、どうだ』
つまり金を払って引き返せない所まで来いと?
「分かった。気にしない事にするよ」
『少しは気にしろよなー』
「課金はゴメンだって」
『……まあ時間はタップリあるさ。それじゃあ明日取りに来いよ』
「りょ、了解」
オレはあのバカを真人間に戻せるのだろうか。というかそれ以前にダークサイドへ道ずれにされないだろうかと不安を覚える。
いや、アイツもなんだかんだで気の良い奴だしそこまではいかない……よな?
『あ、今晩はオレ高レベルのフィールドにレベル上げに行ってるから。サポート無しで頑張ってくれ』
そうか、今レベル98って言ってたから、あとちょっとで最高レベルになるのか。
ん、ちょっと待てよ。
「何でオレが晩飯食ったら『アルジャンワールド』やることを前提に話を進めてるんだ?」
『悩め、少年よ、その悩みが君を強くする』
そう言うと[シュウ]はオレの目の前でログアウトをかまして去って行った。
「オレ等同い年だからー」
ザコモンスターの闊歩するフィールドの中、オレのツッコミが空しく電脳空間に響いていった。
とりあえず前言撤回。気の良い奴だの前にアレさえ無ければを付けておく事にしよう。
ども、谷口ユウキです(-_-)/
ふと思ったんですが厨二病と普通の言葉のボーダーラインって何処らへんなんでしょう?
これはモロだ! ってヤツはすぐわかるんですが時々「ん?」ってのがあるんですよね。
思ったより扱いが難しい表現だなー。と思いました。