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プチトリ!!(仮題)  作者: 谷口 ユウキ
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リメイクしました第一章 第二十四話「ほう壁走りとな」

前回のあらすじ


主人公は人様のマイホームに放火した

 炎が広がり蜘蛛の巣が消えた事で、天井そのものの様子が変わり始めていた。

 巣に囚われていたモンスターの中で、体力の残っていた個体だけが九死に一生を得て逃げていき、すでに死んでいたモンスター達は地面に落ちる前に光となって消えていく。

 代わりに落ちてきたドロップアイテムは、まるで置き土産の様だ。

「すげえな……」

 命の消え、光が立ち昇る幻想的な空間。

 だが目の前の光景に浸るほどの余裕を、今のオレは持ち合わせてはいなかった。

「まさかアレで落ちてこないなんて……さすがに予想外だよ」

 それは隣にいるフェレスも同じようだった。

オレ以上に余裕が無いのか、地面に落ちたアイテムなど気にも止めず、猫目を見開いて[ゴラムーニョ]を見つめている。

「全くだな」

 オレはフェレスの言葉を肯定しながら先ほどの[ゴラムーニョ]の動きを思い出していた。


 さっきまで[ゴラムーニョ]のいた位置は巣の中心付近。つまり下には何の障害物も無く、巣を燃やしてしまえば確実に下に落ちると思われるポジションだった。

 事実、さっきの[フレイムショット]に不意を突かれ、足場を無くしたゴラムーニョが落下し始めていた所をオレはこの目でちゃんと見ている。

 だが[ゴラムーニョ]は落下の途中、下腹部から天井に向かって糸を射出。

 バンジージャンプの要領で自分の体を上へと飛ばすと、今度は足から糸を放ち、あっという間に横壁に着地したのだった。


 今は粘着質な足音を立てながら壁を闊歩している。

 

「そんな顔をする必要は無いよ、テッペイ君。いい攻撃だったじゃないか」

「ハッ、旦那の言う通りだぜ。ちょっと知恵の回る個体ってのは、どんな種族にもたまーにいやがるからな」

 衝撃を受けたような、気の抜けたような、そんなフワフワした気分で天井を眺めていたオレに、すぐ近く、しかし上の方からフォローが飛んで来る。

「2人とも。ずいぶん余裕ですね」

 視線を2人に移すと案の定トラウマおじさんに抱えられたリデルが手を振っていた。

さすがに手放すことにしたのだろう。上から降りてきたトラウマおじさんがリデルを下ろす。

「一番厄介だった巣が無くなったからね。[魔術師]の君がいる以上ココから先は簡単なはずさ」

「そう……ですか? っと[障壁]」

「ああ、蜘蛛型のモンスターは走りながら糸を出す事が得意ではないからね。こちらに砲台にも盾にもなれる君がいる以上、もう苦戦する事もないと思うよ」

「なるほど。ほい[障壁]。そういうもんですか」

「ああ、とりあえず上には僕が行くからテッペイ君とリデル君は射撃に集中。フェレスちゃんは相手が下に落ちた時にそなえて、追い討ちのためのスキルの準備をしておいてくれ」

 言いたいことを言い終わったトラウマおじさんは、返事をする間もなく上に向かって駆けて行く。

「スゴイね、トラウンさん。この戦いでトラウマを完全に克服してるよ」

「ハッ、さすが旦那だぜ」

「……お前等。うおっ[障壁]。感心するのは良いからさっさと行動しろよ!」

 さっきの会話の最中からずっと[ゴラムーニョ]の糸の攻撃を防いでいたオレはのんびりと感心する2人に若干飽きれながらコメントするのだった。


「ハッ、しゃあねえな。そんじゃあ俺の[神聖魔法]を見せてやるよ!」

 オレの指摘を受けたリデルが『神聖』という言葉の組み合わせにものすごい違和感を感じさせながら前に出る。

遠距離射撃の出来るヤツが増えるのはありがたいが、コイツにかかると[神聖魔法]という言葉の聖なる響きも台無しだな。

 オレは口に出しかけた嫌味を飲み込んで障壁を解除、[二重詠唱]と[詠唱破棄]を使って素早く攻撃の準備を整えていく。


「神よ、信仰の槍よ……」

 リデルも詠唱に入り、上に跳んだトラウマおじさんは攻撃を開始したらしい。ココはごり押しでダメージを与えるよりあの蜘蛛を引きづり下ろす事に集中しよう。

 属性の選択は風。ダメージよりも足場崩しを重視する。

「まずは1発目、[ウインドショット]!!」

 杖を構えたオレはスキル名を宣言。用意していた片方の魔法を発動し、切れ味の鋭い風の散弾を壁に向かって一気に飛ばしたオレは、続けてもう片方の手に展開していた魔方陣を操り、その魔法の持つ特性を使って陣を天井の方へと移動させる。


 そしてオレが最初に撃った魔法、[ウインドショット]が[ゴラムーニョ]にかすり……もせずに壁を深く切り付けた。

 近くの2人が『このノーコン!』とでも言いたそうな目で見てくるがもちろん無視。

 

一拍おいて仕切り直しとでも言わんばかりに、リデルの攻撃が放たれる。

「わが敵に裁きを! 喰らいやがれ[ホーリーランス]」

 リデルの拳から撃ちだされた濁りのある魔方陣から、光の柱が勢いよく[ゴラムーニョ]の方へと飛んで行った。

 だが残念ながら、その魔法も惜しくい所で[ゴラムーニョ]に躱されてしまう。が、あらかじめ[ウインドショット]で切りつけた壁に着弾する事で、オレが狙っていた現象を引き起こしてくれた。


 壁の表面の崩壊。


 さきほどオレが撃ちこんだ魔法攻撃は敵本体ではなく地形を狙ったモノだ。

 着弾点はトラウマおじさんに翻弄され、軌道が単調になった相手の進路を読んで選んだ場所。


 まあコッチの意図を素早く理解してくれたトラウマおじさんの協力あってこその策だし、成功するかどうかも賭けだったので、実はあんまりデカイ面はできるわけでもない。

 けれど[ゴラムーニョ]は崩れる足場といっしょに引きずり下ろされようとしているのだ。少しぐらい達成感に浸っても罰は当たらないだろう。


 そんなオレの横で何が起こったのか理解していないリデルは動揺しながら口を開けていた。

「うおおお、何だありゃあ!?」

「アレは[ウインドショット]で切りまくって脆くなった所に、お前の一撃が決まった事で起きた現象だな」

「つまり俺の最後の一押しが効いたと?」

「おいしい所だけ持ってったクセに妙に偉そうに言うなっての」

 間違いではないだけに腹が立つ。戦闘中じゃなかったらタライで埋めてるな。


 いっそ機会があったら不意打ちでも仕掛けてやろうか。


 何となく誰かの『不意打ち上等!』という歌い文句を思い出した。が、そんな事を考えていられたのはそこまでだった。

「あっ!」

 というフェレスの声で一気に目の前の敵に意識が引き戻される。

 フェレスが声を上げた理由は簡単で単純。[ゴラムーニョ]が2度目の足場崩壊で空中に崩れた体制を、8本の足を使った奇妙なバタ足立て直し、再び天井に糸を放ったのだ。

「ま、予想の範囲内っちゃ範囲内だけどな」

 賢いって言ってもアレは多分、『知能の低いモンスターとしては』の話だ。

 元々がCランクのモンスターである以上、いざという時に打てる手がいくつもあるわけがない。

「悪いけど引きづり下ろさせてもらおうか」

 オレはニヤリと笑うと、ずっと天井で待機させていたもう1つの魔法を発動させる。

「[フレアボム]」

 天井に広がった魔方陣から生み出された力強い炎の爆発が、今にも天井に届こうとしていた[ゴラムーニョ]の糸を焼き飛ばした。


「よっし」

 爆風に弾かれ、低く大きな風切音を鳴らし地面に落ちてくる[ゴラムーニョ]を見たオレは、小さくガッツポーズを取る。

 さっき使った[フレアボム]は念のため二段構えの策として用意した、今までで一度も使った事の無い設置型の魔法である。

 とはいえ体勢を立て直すための糸が発射されるのは分かっていても天井に来るかほかの壁に行くかが分からなかったため、設置場所を確定したタイミングは本当にギリギリのギリギリになってしまった。

 うまくいったのは運が良かっただけと言っても良い。けれど、だからこそ成功した事を素直にうれしく感じる。


 だが、オレのそんな浮ついた気持ちは重く響く音を立てて着地した[ゴラムーニョ]によってアッサリと壊された。

「でか……いや、キモい!」

 同じ高さの土俵に立ったからこそ、距離感や先入観の錯覚無しで見る事が出来る、大型の虫タイプモンスター[ゴラムーニョ]の外見。それは『あのまま上に居てくれたらよかったのに』と思うような見た目だった。

 昔話に出てきそうな不吉な存在感……というか近寄りたくないと思わせるだけの気持ち悪さがある。

 

でかい虫とかマジで無理。

 アレに近づくとか心底嫌。


 だが今は戦闘中、当然逃げたくても逃げられない。最初から下にいたオレ達3人は[ゴラムーニョ]の着地に合わせ、敵の狙いが分散するよう、まとまっていた状態から相手を取り囲むように散開する。

「頼むからその複眼をコッチに向けるなよ」

 この距離でアイコンタクトするのは、オレの精神衛生上絶対によろしくない。

 するとそんなオレの願いが通じたのか、 [ゴラムーニョ]はオレと反対方向を走るリデルの方へと頭を向ける。そしてそのまま口から糸を射出し……それと同時に下腹部からオレに向けても糸を撃ち放った。


「おまっ、よりにもよってケツからとかっ」

 死ねる、コレを喰らったら精神的に死ねる!

「[障壁]ぃ!」

 そして飛んでくる糸を障壁で防いだオレは、全速力で[ゴラムーニョ]の射線上から退避した。

 どうせオレは魔法職。基本的に離れて戦うのがセオリーなので、別に問題は無い。

「魔法職で良かった」

後衛職バンザイ。心の底からそう思う瞬間だった。


 だが前衛職はそうもいかないのだろう。

「うう、気持ち悪い。お願いだからこっち見ないでよー!」

 と、心底いやそうにしながら[ゴラムーニョ]の側面に回り込んでいたフェレスが勢いをつけて相手の腹部へと殴りかかっていく。

「[獣拳・十弾てんだん]!!」

 大蜘蛛の巨体が浮く強烈な一撃。さらに手甲で殴った場所を中心に現れた9つの衝撃を表すエフェクトが、リボルバー式の銃を連想させるようなエフェクトで順に追い打ちを掛けていく。

 [ゴラムーニョ』の体から低く、そしてかなり鈍い音が鳴り響いた。


「ヒッ、痛そうだぜ」

 フェレスに続いて[ゴラムーニョ]に接近していたリデルが心底嫌そうな顔で吐き捨てた。

 リデル、さては自分が殴られる所を想像したな。


 そしてフェレスの[獣拳・十弾てんだん] を喰らって吹き飛ばされた[ゴラムーニョ]がどうにか堪えてブレーキを掛けたその瞬間。自らのショートソードに[ゴラムーニョ]の弱点属性である雷をと纏わせたトラウマおじさんが、上空から急降下。

 圧倒的なスピードによる不意打ちの強襲が、[ゴラムーニョ]の頭部を貫いた。


「戦闘が……終わる。か」

 こと切れた[ゴラムーニョ]は光の欠片となって消えていく。

「すげえな」

 暗殺を得意とするジョブらしい一撃必殺を主とした戦法。きっと最後の瞬間、あの[ゴラムーニョ]は何が起こったのか理解できなかっただろう。

「怖え世界だなホント」

 オレは床に散らばったドロップアイテムを拾いながら思わず呟いてしまう。


 トラウマおじさんの一撃はもちろん、さっきフェレスが使ったスキルだってそうだ。アレはあのリボルバー風の連撃エフェクトからして、ものすごくヤバそうな技に見えた。

 まさか同い年くらいの見た目は美少女であるフェレスが、あんな凶悪そうなスキルが使えるとはな。


 とりあえず今のスキル、そして[鉄拳エイプ]との戦い方を見た時の事を合わせて考えると、フェレスは戦闘技術よりもスキルの使い所で勝負するタイプなのかもしれない。

「処刑人モードだけじゃないって事か」

 オレは自分の中で付けていたフェレスの人物評価に大幅な修正を加えておく。

「テツ君ー、今何か聞こえた気がしたんだけどー」

「フェ、フェレス……さん。えと、気のせいなんじゃないですか?」

 そういやこの猫耳娘は地獄耳だったっけ。

「やだなー、敬語なんていいから」

 戦々恐々とするオレとは対照的にフェレスはにこやかな笑顔を振りまいている。

 一瞬『正直に話せば許してくれるかな?』と思ってしまうような、かわいらしい表情。

しかし何故だろう。軽いノリなのに、その一言一言がもの凄く重い。

「そ、そうか。それにしても今回はCランクモンスター相手だったのに、[サンドワイバーン]の時よりも手間取ったな」

 オレは棒読みにならない様にと意識しつつ、とりあえず話題を放り込む。

「まあ今日相手にした[ゴラムーニョ]は『待ち』を得意とするモンスターだからね。相手の土俵に飛び込んだ以上、手間取るのは仕方がないよ」

「あー、そういうモンなんだ」

 たしかに[サンドワイバーン]戦の時はコッチが迎え撃つ形だったから戦いやすかったのかもしれない。

 蜘蛛の巣という下準備ができている相手だったから、あんなにも手こずったって事か。

「蜘蛛型のモンスターは、そういう戦い方に特化してる事が多いしね」

「あ、ソレは分かる気がするな」

 獲物が巣に掛かるのをジッと待つ生き物だしね。


「しかしCランクでアレか」

 どうやらモンスターと戦うという事は、思っていたよりも一筋縄ではいかないものらしい。

 対[ゴラムーニョ]戦。ソレは元の世界で平和に生きていたオレが、思った以上に色々と考えさせられた戦いだった。


ども、谷口ユウキです(-_-)/


一章での戦闘パートはこれでほぼ完全に終了。


ここまで書けたのもお気に入り登録して下さったたくさんのユーザー様達のおかげです。ここまで読んで下さって本当にありがとうございました。


ココから先は愛しの(?)説明&ギャグパート。心残りだったネタを消化しつつ話を進めたいと思います。


〈追伸〉

この話の序盤で使った[ゴラムーニョ]の『粘着質な足音』。アレ実はタランチュラみたいな大型の蜘蛛が足から糸を出して体を支えるという小話を元にした小ネタだったりします。昔は糸を出してるのが足か腹かで学説が別れていたらしいですよ。


まあ作者はぶっちゃけ蜘蛛ニガテなんで初めてその話を聞いたときは「どっちでもいい!」とか思ってましたけどね。


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