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プチトリ!!(仮題)  作者: 谷口 ユウキ
23/45

リメイクしました第一章 第十九話「ほう身長差とな」

前回のあらすじ


後衛がダンジョンに入る場合は基本最後

  明らかに多い。


 それが自分達を囲んでいるモンスターの存在を確認したオレの感想だ。

木々の間を飛び交う影といくつもの赤いネームタグ。コレが全部モンスターだっていうのだから笑えない。

「テツ君、囲まれてるってどういう事!?」

 俺の爆弾発言に驚きが隠せないフェレスが詰め寄ってくる。

「どういう事も何も言葉のまんまだって。まだ少しだけ距離はあるけど、コッチを包囲する形でどんどん近づいて来てる」

「うわっ、ソレ最悪だよ」

「同感」

 この[アルカの森]、普通のダンジョンと違って通路が無いためモンスターの行動範囲が制限されていない。だからこそ成り立つ奇襲戦法って事だろう。

「テッペイ君、相手の数は分かるかい?」

「あ、ハイ」

 これが経験の差というやつなのだろうか。トラウマおじさんは囲まれていると知っても全く動じる様子が無い。

何にせよ視界に浮かぶネームタグを数えるだけなら簡単だ。オレはトラウマおじさんの指示に従い周りを見回す事で、木々の間を飛び回るモンスターの数を数えていく。


「4、7、11……全部で14匹です!」

「そうか、正確な数が分かるのは助かるよ。相手は[鉄拳エイプ]かい?」

「正解ですけど、モンスターの名前まで分かってるって事は、囲まれてる事に気づいてたんですか?」

「僕は[忍者]で[暗殺者]っていうのもあってこういった不意打ちには強いからね。あと最初この階に降りた時に離れていく見張りらしき気配があった。っていうのが良いヒントになったしね」

「なるほど」

 つまり分かってたわけですね。

「まあそこまで大した相手じゃないから、囲まれたとしても大丈夫だよ。丁寧に仕留めていこう」

「……はあ、そうですか」

 深読みのしすぎだろうか? トラウマおじさんは今から来る[鉄拳エイプ]の群れを、[サンドワイバーン]戦で見れなかった個々の実力を確認するための当て馬にようと考えている気がする。

 だがそんなオレの思考はフェレスの警告が遮った。

「皆、来るみたいだよ!」

「っ!」

 その声に合わせて緩みのあった空気が引き締まり、全員が警戒態勢に入る。


 次の瞬間、木々の間から幾つもの影が飛び出してきた。


 早い、うえに小さい。しかもこのシルエットは。

「手長猿!」

 奇襲をかけてきた[鉄拳エイプ]の見た目が、『鉄拳』の2文字から想像するようなゴリラではなく、体長120cmくらいの白い手長猿だった事にオレは軽いショックを受ける。

 そういえばこのモンスターはいったいどんな相手なのだろう? 先に[モンスター図鑑]で確認しとくべきだったか。だが今となってはそんな暇もない。

「見た目で判断するしかないってか」

 目の前の手長猿、もとい[鉄拳エイプ]は名前に『鉄拳』と付くだけあって、不自然に大きく、かなり固そうな拳を持っている。まるで腕の先に鉄球が付いているようだ。喰らったら痛いじゃすまないだろう。


 後は……サッパリ分からんな。


 所詮平和ボケした日本人。オレじゃあコレが限界だ。

 だが次の瞬間、そんなオレの知識と経験の不足を補う様に、トラウマおじさんの説明がオレの耳に飛び込んできた。

「相手はCランクとはいえ数が多い。死角から不意の一発をもらわない様に気を付けてくれ! 分かってると思うが弱点は火属性だ!」

 うおおっ、さすがはトラウマおじさん! すげえ、タイミング完璧じゃないか!!

 これで方針は決まった。火属性の魔法で一気に沈める、の一択だ。

「っと、来るか?」

 不意打ちの失敗に気付いて一端立ち止まった[鉄拳エイプ]達は、次の瞬間気を取り直したように散開。オレの方には2匹の[鉄拳エイプ]が横から挟み打ちにする形で近づいて来ている。

 猿ならではの俊敏性を生かして素早く左右に分かれ、ひとっ跳びで距離を詰めてくる2匹の影。

そしてオレのすぐ横に着地した[鉄拳エイプ]達は歌う様に鳴き声を上げながら、その拳を振り切った。


 見える。


 気で強化した動体視力が、殺意を込めて放たれた拳の軌道を正確に捉えていく。

 視た所、どうやらボクシングで言うフリッカージャブに近い攻撃らしい。2匹の[鉄拳エイプ]達は手長猿ならではの長い腕を、鞭のようにしならせ裏拳気味に撃ってきている。

もちろん威力はジャブなんてレベルではないだろう。

 あの大きくて硬いであろう拳の事を考えると、鞭と言うよりも鎖分銅みたいなモノと見た方が良いかもしれない。

 けれど基本性能はオレの方が上。攻撃事態は気で強化した今の身体能力で十分躱せるスピードだ……けど。

「低すぎる!」

 身長差があるため自然と[鉄拳エイプ]達の攻撃がオレの足へと集中するのだが、これが思った以上に躱しにくい。気でいくら動体視力を強化しても視点が違うため普通に躱すのとは勝手が違ってくるのだ。

 引きつけてギリギリの所で躱すってのができない。


いや、だったらここはサクッと切り替えて上に逃げる!


 だがそう判断したオレが上に逃げようとしたその瞬間。まるでその時を狙ったかのように……。


 [鉄拳エイプ]の拳が伸びた。


「っ!」

 手ぇ長えっ!!

 [鉄拳エイプ]自体が小さいため気づくのが遅れたが、このモンスターは手長猿なだけあって異様に手が長い。十分に躱せると思っていたのに、その余裕が素手とは思えない相手のリーチによって一瞬で埋まっていく。

 しかも腕を鞭のようにしならせているせいか、肘よりも若干遅れて打たれた拳のスピードが最後の最後で跳ね上がっていた。


 ヤべッ、ギリギリ躱せない!?


 オレはとっさに気で脚力を強化。思いっきり地面を蹴る事で上へと逃げる。

「っとお!?」

結果として2匹の内1匹の攻撃はかろうじて避ける事が出来たが、もう一匹の拳がふくらはぎに入ってしまう事となった。

当然のごとくHPが削られてしまう。

「……けど、思ったより痛くない?」

 人間の骨何て簡単に折ってしまいそうなその拳は、何故かオレに軽い打撲程度のタメージを与えただけで終わってくれた。


 一体どういう事だ?


 いや、今はそれ所じゃない。このまま下に降りたら袋叩きにされかねないのだ。

 サルに。

「とりあえず……[障壁]!」

 上に飛びあがったオレは[鉄拳エイプ]の攻撃によって崩れた体制を立て直すため、即興で小さな[障壁]の足場を作りそこに着地する。

 すると下にいた2匹の[鉄拳エイプ]はすぐさま空中に立つオレに向かって飛びかかって来た。

 反応が早いうえに、かなりの脚力だ。前の世界の常識を引きづっているオレには目の前のモンスターが化物に思えてしょうがない。

「けど、上に跳んだのは失敗だったな」


 お前ら、空中で躱せるほど器用じゃないだろ。


 オレは跳んでくる2匹に向かって2つの火の上級魔法の陣を展開する。手に持っている杖、[レプリカ・ケーリュケイオン]が組み上がる魔力に同調し呪文の威力を底上げしているのだろう。魔法陣に流れる魔力は自分でもゾクリとするぐらい透き通っていた。


 行けるな。

 不思議な、だが絶対と言い切れる確信に、思わず笑みが浮かぶ。

そして、そんな不思議な高揚感に身を任せたオレは2つの術式を発動。

「[フレイムブロウ]×2!」

 陣から放たれた炎の塊が2匹の[鉄拳エイプ]を一瞬で焼き尽くした。


「うっわ、怖ぇ」

 さっきまで[鉄拳エイプ]だった生き物が音も無く掻き消えた事に。自分の撃った上級魔法の高すぎる威力に、オレの背筋に寒いモノが走る。

「ま、倒せたから良いんだけどさ」

物は考えようだ。オーバーキルできるだけの力があるのは悪い事じゃ無い。

 

 とにかく今は倒せたことを喜ぶべきなのだろう。

 

 今の所は新手の敵も来ない。

ここまで続いていたオレと[鉄拳エイプ]との戦闘が一応の決着を付けたことで、乱戦の中で今ここだけに空白の時間ができているようだった。

 一息つけたことで自然と考える余裕も戻ってくる。


 オレは戦闘の切れ目とも言えるその時間の中 、オレの意識は[鉄拳エイプ]の攻撃を喰らった時に何故ほとんどダメージを受けなかったのかに向いていた。

「んー、やっぱ装備がいいからか?」

 [鉄拳エイプ]はCランク。ランク上は今着ている装備の方が上だ。思い切ってBランクの装備を使ったことがよかったのかもしれない。


 それに撃たれた足を気で強化したのもでかいのだろう。


 コッチに来てから数日間。オレは日常生活の中で、ステータスにあるようなスペックの上昇が自分に起こったと感じる事は無かった。

 だとすればあのステータスは気で自信を強化した時の限界を数値化しているのだと考えた方が納得できる。攻撃力や防御力が気による強化の結果なら、気で足を強化した事がダメージを最小限に抑える事が出来たのもうなずけた。

 オレ自身、と言うよりオレに上書きされた[シュウ]の防御力は、修次曰く紙装甲ならぬ段ボール装甲。段ボールなだけ少しはマシなのだろう。


「っと、また来たか」

 そこまで考えた所で、自分に向かって下から飛び上がってくる3匹目、4匹目の[鉄拳エイプ]に気付いたオレは思考を中断。再び迎え撃つための魔法陣を展開する。


上に飛んでくる相手を撃ち落とすだけならそう難しい事じゃない。[鉄拳エイプ]の対処は思いのほか簡単なものだった。

「っし、終了!」

 効率よく最後の[鉄拳エイプ]を火だるまにしたオレは、他のメンバーの援護に回ろうと状況の確認に入っていく。

「トラウマおじさんとリデルは問題なさそうだな」

 トラウマおじさんは圧倒的なスピードで5匹目を倒した所だ。動きが速すぎて点で追いきれないというかなりビビる光景だが、とりあえずは大丈夫だろう。

「リデル……は意外と強いな」

 自分で将来有望と言うだけあって、3対1でも余裕そうだ。[鉄拳エイプ]とのリーチの差をトンファーを回転、半回転させリーチを伸ばすことで補い、手際よく敵の顔面を殴打している。そのせいか相手をしている[鉄拳エイプ]の顔は形が変わってきているな。

あの腕力と遠心力を組み合わせたテンポの良い攻撃は、ココから見る限りではかなり痛そうだ。

 近距離、超近距離を単純な体術だけで圧倒し数の差を覆してる事から考えて、恐らく勝負がつくのは時間の問題だろう。


「けど、フェレスはちょっとヤバイか?」

 あの猫耳娘は2匹相手にかなり苦戦してるようだ。見た所2匹の連携に防戦一方で、完全に後手に回ってる。フェレスの装備している手甲も、身長とリーチの差のせいで拳打が当てにくくなっているのか防御にばかり使われている。


 コレは援護したほうがいいな。


 さっきの[フレイムブロウ]の結果を思い、ここはあえて火の下級魔法をチョイス。

 フェレスに支持を飛ばすと同時に一気に魔法陣を組み立てる。

「しゃがめフェレス! [ファイヤーボール]!!」

 オレの詠唱に呼応して[レプリカ・ケーリュケイオン]の先に広がった陣から、バレーボールほどの大きさの火球が飛び出した。

 そしてこちらの呼びかけに素早く反応し、結構な速さで飛んでくる火球に気付いたフェレスは……。

「ここでしゃがんだら髪が焦げちゃうよ!!」

 と心底嫌そうにそう叫び慌てて横に飛びのいたのだった。


「あー、なるほど」

 女子にあの魔法を撃って、しゃがめ。は不味かったか。

 とはいえ[ファイヤーボール]自体はちゃんと狙い通りのポイントへと、2匹の[鉄拳エイプ]の内の1匹へと飛んでいく。

狙いを付けた[鉄拳エイプ]は飛びのいたフェエスに気を取られて、現れた火球に反応しきれなかったらしい。火の玉をモロに喰らうと断末魔のうめき声を上げながら光の泡になって消えていく。

「あと、1匹!」

 オレはフェレスへと飛びかかっていく残った最後の一匹に狙いを付ける。

 だが耳に飛び込んできたフェレスの気合の入った叱声が、杖を振り上げたオレの行動に待ったをかけた。

「一対一なら負けない!」

 手出し無用。と言いたいのだろう。

「タイマンなら援護は必要無い。か」

 1対1になってからのフェレスは[鉄拳エイプ]の攻撃を捌き、[鉄拳エイプ]の肘や手首にピンポイントでダメージを与えている。あのトゲ付きの手甲で関節を強打されるのはかなり痛そうだ。

 積み重なる攻撃によって腕の動きが鈍った[鉄拳エイプ]は、あわてて距離を取ろうとする。が、そこに追い打ちをかける形でフェレスのスキルが発動した。

[獣拳(じゅうけん)爪刃そうは]!!」

 大ぶりのモーションから空中を切り裂くように振り切られた手の平。そこを起点にした、5つの衝撃波が[鉄拳エイプ]に殺到し、その体を切りつけ動きを妨げる。

そしてその動きの鈍ったところへと飛び込んだフェレスは。

「[獣拳・刻印突き]!!」

 と、[鉄拳エイプ]の顔面にスキルで強化された凶悪パンチを叩き込んだのだった。



「勝利ー!」

 と言う、フェレスの嬉しそうな声が聞こえてくる。オレは顔に刻みこまれた肉球マークを中心に光になって消えていく[鉄拳エイプ]を見て、『絶対にああはなるまい』と心に誓いつつ、戦闘が一応の終了となったことに安堵していた。

「キツかった」

 戦った時間はそれほど長くは無いが、それでもオレにとっては一大事。周りにモンスターの気配が無い事にこんなにもホッとするとは、我ながら驚きである。

警戒がてら周りを[鑑定]した時に、ただのアイテムをモンスターと勘違いしてビクッとしたりもしたが、今のところは至って平和。

 さっきまであったはずの戦闘の気配は嘘のように消えていた。

「ん、てかさっきのアイテムってもしかしてモンスターのドロップアイテムか?」

 さっきモンスターと勘違いしたアイテムがあった場所は、思い返してみるとさっき[鉄拳エイプ]を焼却したあたりだったはずだ。


 コレは行くしかないな。


 オレはさっそく落ちているアイテムに駆け寄り[鑑定]を使ってみた……のだが。

「何か思ったより期待外れだな」

 Cランクのモンスターだから。という訳かは知らないが、ハッキリ言って微妙である。


 手に入ったアイテムは3種類。

[鉄拳エイプ]にはついて無かったにもかかわらずドロップした、使い道の分からない謎の長いモフモフ。[おサルの尻尾] が1本。

 さらに魔法職のオレが装備しても戦闘スタイルに合わない上に、さっき[鉄拳エイプ]の腕に見た気がするデザインの手甲。[鉄拳パンチ]が2つ。

 そしてどっからどう見てもただのバナナ。[モンキーバナナ]1本。

「オレがちゃんと使えそうなのって食料の[モンキーバナナ]くらいか?」

 命のやり取りした後に手に入れた戦利品で一番良い物がバナナ。

 あの戦いは何だったんだと言いたくなるようなやるせなさが心の中に広がっていく。

「ハア、切り替えるか」

 こんな意味の分からないアイテムでも店で売りさえすれば少しは金になるはずだ。良い売り物が手に入ったと思う事にしよう。


 売れるかどうかは知らんけどさ。


 こうして[おサルの尻尾]と[鉄拳パンチ]はアイテムボックスに入れたオレは、気持ちを切り替えるために何か食べようと、というかバナナを食べようと考えるのだった。


ども、谷口ユウキです(-_-)/


直しに直しを重ねた戦闘シーン。ちょっとはリメイク前よりもマシに見えてるといいんですね。


しっかしこの話も地味に誤字脱字が目立っていた。

……うむ、恥ずかしい。

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