リメイクしました第一章 第十八話「ほう出遅れとな」
前回のあらすじ
主人公が始めて見たダンジョンは船頭の多そうな船だった
「オウ、着いたぞ兄ちゃん」
「え?」
どうやらダンジョンに目を奪われている間に、目的地。というよりも中継地点に到着したらしい。
いつの間にか馬車は、野球のグラウンドぐらいのちょっと大きな空き地の中に入ろうとしている。進む先を見てみればいくつもの馬車が止まっていた。
駐車場みたいな場所だ。
「ジオットさん、ここは?」
「ガハハハ、そういや兄ちゃんは知らねえのか。実は[アルカの森]に行く場合、馬車で来れるのはココまでなんだ」
「え゛?」
つまりココからは……歩き?
さっき見えてきたばかりの船、もとい[アルカの森]までは見た感じまだ大分距離がある。周りの森([アトロスの森海])にもモンスターは出るらしいし、そこを足で突っ切るというのは結構キツイと思うのだが……。
「何屋根の上で黄昏てんだー、親友。もう皆は門の方に行っちまってるぞー!」
「いや黄昏手はねえからっ! って、え?」
気付けば馬車の中にいたメンバー達が全員同じ方向へと歩き出していた。馬車の上に座っているオレは完全に浮いている。
「でもお前らが歩いていくその方向ってさ……」
どう考えても[アルカの森]と逆方向だと思うんだ。
「ガハハハハ。オウ、リデル。そこの兄ちゃんはここのダンジョンは初めてなんだ。ちゃんと説明してやらねえとダメだろう」
混乱するオレを見てコッチの心情を察したのか、ジオットさんは笑いながら助け舟を出す。
「おおっ、そういやそうか」
オレがイマイチ状況を分かっていないという事をようやく悟ったリデルは『あっ、そういや新参者だっけか。仕方ねえなあ』と頭を掻きつつ、他の2人が向かった方向を指し示しした。
「ここのダンジョンは何故か転移門があっちにあるのな」
そしてリデルは自分の説明に満足気にうなずくと『じゃ、親友も早く来いよ』と、先に行った2人を追って走っていった。
「って説明終わりかよ!?」
結局転移門って何なんだ!?
アレか、ゲームとかでよくある『中に入ればあら不思議、あっという間にダンジョン入り口前でーす♪』みたいなヤツなのか?
多分それで合っているという気はする。が、確認をしようにもリデルはどんどん離れていく。
「アイツめ、要所要所で腹立つな」
「オウ、兄ちゃん」
「ん、どうかしました?」
「皆行っちまったけど。兄ちゃんは行かなくていいのかい?」
あ。
「……行ってきます」
「ガハハハハ!兄ちゃん、さては天然だな!」
「いや、天然とかじゃ無いからっ!」
こうしてオレは自分でも信じられないほどの速さで走り出したのだった。
その後全力で走って十数秒。
オレは他のメンバーに追いつくと同時に広場から伸びる狭い道の先にある、リデルの言う『転移門』の前へと辿り着いていた。
「これもまたデカイな」
どう見ても人間サイズじゃない大きさの門が崖の端に建ってる。どこかシュールで現実離れした光景だ。
案の定と言うべきか、『転移門』と言うだけあって普通の門ではないらしい。装飾は豪華な上に、門そのものが神々しい光を纏っている。しかも門の中には歪み渦巻く様な光の膜が張っているのだ。『この中は特別ですよ』感が半端ではない。
「でもコレをくぐるのって結構勇気がいるよな」
その『この中は特別ですよ』が得体の知れなさも一緒にアピールしているため、中に入るのにはかなりの抵抗を感じる。元の世界のゲームやアニメではこういうのを見ても何とも思わなかったけど、こうして実際に見ると違和感の塊でしかないな。
柱に張られた光の膜が虹色に光る! なんてヤバそうな雰囲気しかない。
「こうして見る分には、変わったシャボン玉の膜みたいなんだけどな」
「ああ、確かにそう思うと見えてくるね」
オレの感想トラウマおじさんはギルドカードを取り出しながらうなずいた。
やはりこの世界の人も変だと思うらしい。
しかし賛同してくれたのは嬉しいが、何故ここでギルドカードを取り出したのだろう?
不思議に思ったオレがとりあえず聞いてみようとすると、口を開く前にトラウマおじさんのカードはゲートの中へと投げ入れてしまう。
「……投げ入れた?」
え、捨てた? 捨てた!?
「ハッ、何を驚いた顔をしてんだ親友?」
「え、だって今ギルドカードを」
「おいおい、何言ってんだ。普通の事だろ?」
「ま、まあそうなんだけどさ」
いやリデル、お前は知らないだろうけどオレはそのダンジョンに来ること自体が初めてなんだって。
聞くに聞けない空気の中、カードを投げ入れたトラウマおじさんを見ていると、その正面に小さな画面が出現する。そしてトラウマおじさんは自分の前に出現した画面を叩き何かの作業を進め始めた。横から見るとまるで携帯タブレットをかまっているようにも見える。
「えーっと、フェレスちゃん。[ゴラムーニョ]が出るのは20階から25階あたりだっけ?」
「そうですね、ウチの記憶が確かならその中の[岩の森]でよく出現したはずですよ」
「そうか、ありがとう。それじゃあ20階からにしようか」
「はい、ウチもそれが良いと思います」
どうやらあのパネルを使う事によって、スタートする階層を決める事が出来るらしい。
しかしとんでもない機能だな。ギルドカードと言いコレと言い、この世界はオレの思ってたファンタジーに対するイメージの斜め上を行く。
「さて、それじゃあいよいよダンジョンに入るけど皆準備は良いかな?」
どうやら作業が終わったらしい。トラウマおじさんは軽いノリで『今なら戻れるぞ』と、質問を投げかけてくる。
その問いに最初に答えたのはリデルだった。
「ハッ、何言ってんすか旦那。旦那を1人で行かせるわけにはいかないじゃないですか」
おお、さすがリデル。若干含みはあるけどこういう時のリアクションは素早い。
そして後に続くようにフェレスが続く。
「ウチも同感。コレが依頼ですしね」
うん、ドライにもほどがあるな。
っと、次はオレなのか。まあ行くのは当たり前として……何て言おう? うーん、まあ正直に言えば良いか。
「何だかんだ言って面白そうですからね。もちろん行きますよ」
そして仲間のタメ息がその場に響き渡った。
「何で!?」
別にそこまで変な事はいてないだろう!?
すると戸惑いを隠せないオレに、皆は口をそろえてこう答えた。
「「「早死にしそう」」」
「あんまりだ!」
「さて、それじゃあ気を取り直して行くとしようか」
「「ハイ!」」
「……ハイ」
トラウマおじさんの呼びかけにオレ達は元気よく返事をする。
さすがトラウマおじさん。と、言うべきなのだろうか。おかしくなりかけた空気を一瞬で引き締めたその手腕はさすが……なのかもしえないけど。
オレってそんなに死にそうかね?
イマイチ納得のいかないオレはそのまま門へと向き直る。
そして門に張られた膜からゴボッと泡のような膨らみ出たのを目撃した。
「は、入りづらい」
だがこんな気の進まなくなるような光景もこの世界では常識の範疇らしい。
「じゃっ、おっ先だぜー、親友」
「先に行くよテッペイ君」
「じゃあテツ君も遅れにようにね」
「え?」
そして次の瞬間にオレが目にしたのは、門の中へと飛び込んでいく仲間達の姿と、オレの周りの空間が無人になったという現実だった。
どうやらオレが門に気を取られている内に全員ダンジョンへと入ってしまったらしい。
「……出遅れた」
気付けば心の準備とかする暇もなく、門をくぐらざるを得ない状況に追い込まれてる。
気局あわてて動き出すことになったオレは、思わず目をつむりながら門の中に飛び込んだのだった。
膜のヒヤッとした感触が通り過ぎると、周りの空気の温度がハッキリと変化するのが肌越しに伝わってくる。暑く、湿った空気だ。
不思議に思って目を開けてみると、待っていたのは湿気が多く気温の高い森の姿だった。
「うおっ、何だココ?」
ダンジョンの中、というにはあまりにも屋外。
予想もしなかった光景に警戒心が跳ね上がる。
「あ、テッペイ君は[アルカの森]に潜るのは初めてなんだっけ?」
そんなオレを見て、先に門をくぐっていたトラウマおじさんは不思議そうに聞いてきた。
「あ、ハイ。そうです」
「やっぱりそうか、なら最初はびっくりするよね。ここは他のダンジョンと違って迷宮型じゃないんだよ。1つの階がそれぞれ箱庭になっている特殊なタイプなんだ」
「箱庭、ですか?」
「そう。他の迷宮と違って通路や小部屋、大部屋が無い代わりに、こういった特殊な環境かつ異様に広い空間が広がっているのが特徴だね」
「へー、変わってますね」
言われてみれば恐ろしく高いものの上には天井が見えるし、相当遠くだが壁らしきものもある。まさに作られた自然。トラウマおじさんが箱庭と言ったのも納得だ。
「ちなみに今僕等がいる階はおそらく[熱帯雨林]。本当は[岩の森]か[鍾乳洞]が良かったんだけど……こればっかりは運の問題だからね」
「そういうモノなんですか」
「ああ。同じ階層でも入るたびにランダムで変わるから、運が良く、というか悪く珍しい部屋を引き当てたら、地形そのものに苦労させられることになる。もっと下の階層。70階くらいになると過酷な環境の部屋もゴロゴロ出るしね」
「おおう、ここって結構キツイ所なんですね」
話を聞く限りだとこのダンジョンを完全に攻略するのはかなり難易度が高そうだ。モンスターの強さ以前に、部屋の環境が過酷だったら、例えば火山とか氷河とかだったら普通に死ねる気がする。
「まあ変わったところと言えばそのくらいかな。このダンジョンでの基本はとりあえず階段を探しながら周囲を警戒。あと基本的に開けた空間での戦闘になるから混戦、乱戦に注意する事だね」
何かダンジョンらしくない注意点だな。外で戦う時と対して変わらない気がする。
「じゃあ[鑑定士]のスキルで周りを鑑定しながら進んだ方がいいですか?」
「ああ、そうだね。それじゃあお願いできるかい? ちょうどリデル君と連携の確認をしておきたかったから助かるよ」
「あ、そうですか。それじゃあ周囲の警戒はオレが[鑑定]でやっときますね」
「助かるよ。それじゃあよろしくね」
「はい」
そうと決まれば行動は早い方が良い。オレは[鑑定]を意識しつつ周りの状況を視はじめ、近くにある採集アイテムであろう草花や鉱石をネームタグとして捉えていく。
今更だが鑑定によって表示されるアイテムや人名は白い文字で、モンスターのネームタグは赤い文字で表示されるようだ。基本白文字は無視していいだろう。
「それにしても1階層が1部屋って言うのはキツイな」
いざ警戒を始めてみると、注意しないといけない範囲が広すぎる事がよく分かる。障害物の多い中を上下左右は見ているうちに首が痛くなりそうだ。
しかもここは外と違いダンジョンの中。当然モンスターとエンカウントしやすくなるため気が抜けない。
今も時々木々の間にいくつもの赤いネームタグが見えているのだ。いつでも戦えるようにしておかないと。
「って、ちょっと待てよ」
「ん、どうかしたのテツ君?」
「あ、フェレス。その、今パパッと周りを鑑定してみたんだけどさ」
それで見た、木々の間から見える赤いネームタグの数と、その距離感によて変わる大きさから考えて……。
「オレ等モンスターに囲まれちゃってるみたいなんだよね」
「「え?」」
オレの爆弾発言に、フェレスだけでなく話し込んでいたリデルまで驚いた反応を示す。
そんな虚を突かれた空気の中、トラウマおじさんの言っていた、このダンジョンの注意点。モンスターとの乱戦が始まろうとしていた
ども、谷口ユウキです(-_-)/
新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
いやー、リメイクが遅れていて申し訳ないです。とりあえず次回は再びバトル路線。
リメイク頑張ります。