リメイクしました第一章 第十四話「ほうお呼びとな」
前回のあらすじ
村長の家へと客寄せパンダがやってくる…。ゴメンよ、中身はおじさんなんだ。
「お客様のお部屋は110号室になります」
「あ、はい、わかりました」
リデルから元の世界でいう所の『放課後、屋上にて待つ』を喰らったオレは、無事チェックインを済ませて奥へと進む。
そして宿の個室へと入ってから、ゆっくりとベットに倒れこんだ。
悪くはない部屋だ。
内装や設備は『空回り』と比べて数段落ちるが、水回りに魔道具を使用。部屋自体も広くゆったりとしていてリラックスしやすい雰囲気に作られている。
きっとそこそこお高い部屋なのだろう。部屋代が『支える会』持ちで助かった。
「って言ってもくつろげないんだよなあ」
フェレスに聞いたところ、今から明日の早朝までの時間はダンジョンに入る準備と最終調整、そしてトラウマおじさんの精神回復のための自由時間という事になっている。
が、今のオレにはその自由がない。
そう、リデルのお呼び出しである。『部屋に行ったら建物の裏に来い』パターンは数々の漫画やアニメで使われてきた決闘フラグの代名詞。フラグっていうかもう宣言である。
つまりこの呼び出しにホイホイ応じたらバトルになる可能性が高いわけだ。
「でも行かなかったらソレはソレで面倒な事になりそうだしなあ」
トラウマおじさんが傷ついている今、明日のパーティー行動に影響が出るようなマネはよろしくないだろう。
「何でこんな漫画みたいな展開が降って来るんだか」
まあ事前にバトルが来ると分かっている分ソレ用の準備はできるけどさ。
オレは比較的ダメージの低そうな[ネタ魔法]の中から、[古典的罰ゲーム(パニッシュメント)]を選び出す。
内容はただ空からタライを落とす。というだけだが、そのタライには当たると一時的に身動きが取れなくなる追加効果がある。
[多重詠唱]とセットで使えばかなり凶悪なコンボになるだろう。
「ハア、さっさと終わらせるか」
面倒事を先延ばしたくないオレは仕方無くドアを開けて廊下に出る。
「あ、テツ君。偶然だね」
「げ」
そしてラフな格好のフェレスと鉢合わせるのだった。
「ちょっとテツ君。ウチみたいなか弱い女の子を見た第一声が『げ』は酷いくない?」
「あー、まあ『パッと見は』って前フリを付けるなら『か弱い女の子』の所に賛同してもいいかな」
「……評価に棘があるね」
「そ、そうですかね」
しまった。口を滑らせた。
お互いが笑顔を顔に張り付けたまま、空気が張り詰めていく。
押し寄せてくる無言のプレッシャーがヤバイ。しかし[サンドワイバーン]相手に躊躇なく殴りかかる女を断じて『か弱い』などとは認めるわけには……。
「ま、いいか。今は聞かなかったことにしてあげるよ」
まだ若干不服そうな顔のフェレスは、諦めたように肩をすくめてプレッシャーを緩めていく。
助かった。か。
「それで、テツ君はどこに行くの?」
どうやらフェレスはオレの行き先に興味を持ったらしい。説明に困る。
「まあ、ちょっとこの村の様子を見て回ろうかな。ってね」
「ふーん」
ヤバイな。
当然ながらフェレスにはコッチの都合など知ったことではない。
この状況でもし『パンツ』という魔法の言葉を知っているフェレスに『暇なら買い物に付き合ってよ』とか言われたらオレに選択肢はない。つまりリデルの所には行けなくなる。
そうでなくてもリデルのお呼び出しと女の子との買い物を天秤に掛けた場合、リデルのお呼び出しがチリ紙レベルの価値しか持たない事はこの世の真理なのだ。
むしろ誘ってくれと言いたい。
だがそうなった場合、パーティーのチームワーク。少なくともオレとリデルの関係は今以上に悪くなってしまう。
ある意味究極の選択だ。
しかしそんなオレの都合を知らないフェレスは、容赦なく話を進めていった。
「そっかー、ウチはてっきりリデルのバカに呼び出しを喰らったから、嫌々ながら宿の裏に行くのかと思っちゃったよ」
……デートフラグって何だろうね。
「何でコッチの都合を知ってんだよ」
これはもう藪蛇なんてもんじゃない。
つついてないのに向こうから飛び出して来る。もっと恐ろしい別のナニカだ。
「そういえばお前ってオレとファブロフ爺さんの話も盗み聞きしたんだっけ」
あの時もカウンターとテーブルの間には結構な距離があった。それでも聞こえていたという事はかなり高性能なお耳をお持ちなのだろう。
だとしたらさっきのリデルの内緒話なんて筒抜けだったはずだ。
「だーかーらー、何度も言ってるでしょ。偶然聞こえてしまったんだよ」
「何度も同じこと言ってるのはお互い様だろ」
ホント、よく言うよ。
お互いの表情が苦笑に変わる。が、次の瞬間マジメな顔つきになったフェレスは、オレに念を押すように忠告をした。
「行くなら気を付けた方が良いよ。アイツ、おバカ加減と腕だけはズバ抜けてるから」
「そんなにか?」
嫌っている相手にもかかわらずフェレスのこの評価、これは正直驚きだ。
「ウチ等の年代のジョブレベルって言ったら平均で20くらいなんだよね。天才って言われてる人でも40弱」
「なる、ほどね」
確かリデルのレベルは[武闘家]が50、[闘士]と[神官]が40代だったはず。つまり天然モノのチートって事だ。
「ん、てかそうなるとほとんどのジョブレベルがアレ(レベル99)のオレって……」
「世間に広まったら陰謀の嵐に巻き込まれたり、札付きの悪と腹黒い人達の注目の的にはなる感じだね」
……聞かなきゃよかった。
「テツ君、とにかく今回はバトルにならないよう気を付けるんだよ。勝っても負けても人目が集まっちゃう」
「そ、そうだな」
そうじゃなくても明日の探索に支障を出さないためにもお互い怪我をすることがないようにその場を収める必要はあるだろう。
まあ正直ボコっても[回復魔法]で治せる気はするけどね。
「まあもし万が一が起こってもテツ君なら問題ないだろうから、その辺は安心だけどね」
「まあ証拠隠滅くらいはできそうだよな」
「アハハ、まあガンバ。ウチはこれから買い物だから」
「いいご身分だなオイ」
「なんだかんだ言っても探索は命がけだからね。今の内に準備できるものは買っておかないと」
「……そっか、そうだよな」
命がけ、か。
その一言が妙に耳に残る。
「ホラ、そう暗い顔しないでさ。手加減して戦うのが嫌だったら裁縫勝負とか持ちかけて、テツ君の[仕立て屋]としての腕を見せつければいいんだしさ」
「あ? ああ、えーと」
黙ったオレを見てリデルの所に行きたくないのだと思ったのか、気付けばフェレスがおどけた様子で舌を出している。
その見立ても間違いじゃないのがちょっと笑えるな。
オレはらしくなくネガティブになる所だった思考を切り替え、フェレスのセリフを思い返してニヤリと笑う事にした。
「それで出来た防具に感動して『ボクを弟子にして下さい!』ってか? ありえねえだろ」
まあ確かにあの高速作成を見たらビビリはするだろうけどさ。
「あ、疑ってるね? テツ君は知らないだろうけどあのバカの単純さと熱血さはすごいんだよ。真面目な話、弟子入り希望だって十分あり得るんだから」
「マジでか?」
「大マジ。だから完膚なきまでに実力差を思い知らせてやって。テツ君だってマーサさんが悲しむのは見たくないでしょう?」
いつの間にか裁縫勝負をすることが前提で話が進んでいる。
「ってかそっか、マーサさんか。そういえばアイツが噂のバカ息子だったな」
思わず異世界に来て初日、露店での会話を思い出してしまう。
初対面のオレを相手に愚痴ったくらいだからな。[仕立て屋]の修行をしないリデルに対してストレスが溜まってるのは間違いないだろう。
何だかんだで世話になった人だ。そう思うと手助けしたくなってくる。
「ま、そういう事ならガツンとかましてやる事にするよ」
「よろしくね。なんだったら依頼が終わった後でもいいから」
「ん、了ー解」
そうだな。依頼の後ならそう気負う事もなく[仕立て屋]の凄さを思い知らせることができるだろう。
だがしかし、そうなるとしたらちょっと待てよ。
依頼が終わった後、最初に作るのはとりあえず[勝負パンツ・男]になる予定なのだ。
そうなると依頼が終わってすぐにリデルを[仕立て屋]ルートに戻そうとしたら、戻った理由が『素晴らしいパンツ作りに感動したから』になるのではないだろうか。
ソレは人として良いのか?
タダの変態じゃないのか?
マーサさん新たなストレス抱え込まないか?
様々な疑問が頭の中を駆け抜けていく。
しかしだからと言って他のアイテムを新しく作るのもアホらしい。どうして印象最悪なリデルのためにアイテムボックスの素材を無駄遣いしなければいけないのか。
[治療師]をコケにしたバカや野郎のためにそこまでしてやるつもりにはなれない。
最悪の場合は前にマーサさんから買った[コットンの布]で何か作る事になりそうだな。
「ま、何とかやってみますかね」
『しょうがない』と肩から力を抜くオレを見てフェレスも安心したようにホッと笑う。
「それじゃあ頑張ってね。アタシは買い物に行ってくるよ」
「ハイハイ、いってらっしゃい」
「それじゃ、期待してるねー!」
この猫耳娘、他人事だと思って好き勝手言いやがるな。
いっそリデルが戦闘を仕掛けてくるような非常時のために盾代わりとして連れて行ってやろうか?
だが何かを察したフェレスは素早く走り去ってしまう。
「……行くか」
なんだかんだで諦めの境地にたどり着いたオレはリデルの待つ場所へと歩き出し、そしてある事に気づき愕然とする。
「そういえばこの建物の裏って何処なんだ?」
前途多難だった。
その後いろんな人に聞いて宿の裏口を出てみたオレは、とうとう腕を組んで立っているリデルを見つけてしまう。
いつでも障壁が張れるように準備しながら近づいて見ると、オレの足音に気付いたのかリデルがこっちを睨み付けてきた。
「ハッ、来やがったか。遅えからビビッて逃げたのかと思ったぜ」
いかにも決闘前なセリフ。
「この宿に泊まるのは初めてだったからな。ちょっと迷ったんだよ」
「む、そうか。悪りいな手間取らせて」
「お、おう?」
何故だろう。リデルの態度が柔らかい。トラップなのか?
……あ、読めた。
「リデル、お前何か変なモノ拾い食いしただろ」
何せココはファンタジーな世界。どんなキノコがあっても不思議じゃない。
変な物を食べる事で体に様々な変化が生じるのは某ゲームソフトを筆頭とした王道中の王道である。
いや、ここはあえての飲み物か? 腐りきったポーションをがぶ飲みして人格に影響が出たとかかもしれない。何にせよ十分にあり得る話だ。
だがオレの拾い食い説を聞いたリデルは、イラッとした表情で首をかしげる。
「テメ、ソレどういう意味だコラ!」
「あ、普通に戻った」
こういう不良っぽいしゃべり方こそリデルだよな。
でもちょっと待てよ。コイツ、フェレスの前ではこんなんだったけど、ほかの人の前でもそこまで尖ってただろうか? 確か心にダメージを負ったトラウマおじさんのサポートもコイツがしてたはずだ。
まさか実は意外と気配りとかできちゃうヤツなのだろうか?
だとしたら一時的とはいえ仲間になった相手に手を出すとは思えない。オレを呼び出した理由もコッチの予想とは違ってくるだろう。
ここは試しにかまを掛けてみるか。
「まあ、拾い食いうんぬんは置いとくとしても。お前、オレに一体何の用なわけ? 別に喧嘩しようって事じゃないんだろ」
「ケッ、若干気になること言ってやがるが、分かってるなら話は早えー。実は……、その、テメエに頼みと相談がある」
「頼みと相談?」
という事はココに呼ばれたのは他の人。特にフェレスあたりに話の内容を聞かれたくなかったからって事か?
オイ、コイツただのシャイボーイじゃねえか。
警戒して損した。
「ま、喧嘩じゃなくてホッとしたよ」
「ハッ、パーティーメンバーに手え出すようなバカと一緒にすんじゃねえよ」
んー、口調に合わないマジメな意見。
「勘違いして悪かったな。で、肝心の本題は?」
一方的な思い込みで誤解してた罪悪感もある。今なら大抵の頼みに応じれそうだ。
しかしいざ悩みを話そうという段階になって、一気にリデルの歯切れが悪くなる。
「う、あー、そのだな」
口から音をタレ流すだけで言って全然本題に入る気配がない。
「に、似合わねえ」
聞いていると『高校デビューしてちょっと不良っぽくなりました。な外見でモジモジすんなや! おのれは思春期の男子か!?』と言いたくなる
……何でだろう、多分その認識で間違ってないという事に何とも言えない悲しさを感じた。
「じ、じじ、実は俺、フェレスの事がす、すすす」
「あー、好きなわけだ?」
「っ! 何でそれを!!」
「いや、半分言ってたし。見れば分かるから」
バカで単純で熱血か。
こうして話しているとリデルに対するフェレスの人物評価が的を射ている事がよく分かる。
「んでだな、そのだな、テメーがフェレスと話しているのを見てよう。その……」
「『自分もあんな風にパッと見仲良さそうな会話がしたーい』とか?」
「せ、せせせ正解だ。よ、よく分かったじゃねえか」
「いや、動揺しすぎだろ」
本当に年上なのだろうか?
そういえば妙に打たれ弱かった覚えもある。さすがにガラスのハートとまではいかないと信じたいが。
……何でだろう、多分その認識で間違ってないという事に何とも言えないむなしさを感じる。
「お前ってアレだろ、周りの人から分かりやすいって言われるタイプ」
「な、何故それをっ!」
「それは、まあ、分かりやすいからな」
パーティーメンバー、『トラウマおじさんを支える会』会員のリデル。
どうやらこの男はフェレスのいない所では意外と素直なヤツらしい。
「な、なるほど。そうか、分かりやすかったのか」
「いや納得するのかよ」
でもあんまりマトモではなさそうだった。
そしてそのマトモではなさそうな男は、恥ずかしそうに話しを続けていく。
「そ、それでその、会話の事なんだが」
「あ、答えないといけないのか」
また面倒な話だ。
「頼む。朝に[治療師]をバカにしたこと謝るからっ、だからどうかオレに教えをくれ!」
「んー、調子が狂うな」
わざわざスキルチェックまでしたのに、とんだ肩すかしだ。だがそのおかげでリデルに対するイメージと不信感はガラガラと崩れていく。
しかしどうしようか?
「一応聞くけどオレのジョブをバカにしたのもフェレスの前でカッコつけたかったとか、そんな理由?」
「うっ、まあ、そうなるな」
「じゃあとりあえずそういうの止めろよ。それ逆に好感度下げてるから」
「……そうか」
「後はー、そうだな。変にカッコつけようとするのも止めた方がいい。人間自然体が一番だからな」
特にこいつの場合はそうだろう。
「そ、そうか。……そうか」
「おま、さすがにそれは凹みすぎじゃないか?」
そんなに身に覚えがあったのだろうか。
オレの助言を聞いたリデルはガックリと肩を落としている。
「あーもう、そんな落ち込むなって。ちゃんと助言はしてやるから」
「うう、すまねぇ」
と、言ったものの、オレがフェレスがマトモに話したのは今日が初めてだ。会話のきっかけも基本向こうからだし、特に何かを教えるなんてできそうもない。
しかし何も言わない。というわけにもいかないだろう。
んー、いっそこの状況をチャンスと捉えて話を組み立ててみるか?
少し黒めな考えに傾いたオレは意を決してアドバイスを開始した。
「リデルよリデル、リデルさん。フェレスみたいなタイプの女が男に求めているモノを君は知っているかい?」
「求めるモノ。……ハッ、そりゃやっぱ強さだろ?」
「ハイ、予想通りの答えをどーも」
しかしそうは問屋が降ろさない。し、降ろさせない。
恋愛経験がないのに恋愛相談を受けるという地獄を体験中のオレは、『オレ何やってるんだろう?』という心の声を聞こえなかったふりをして黙殺。
会話のアドバンテージを握っているのを良いことに、適当なホラ話を話しだす。
「でもな、リデル。女が男に求めるものは将来性なんだ!」
「しょ、将来性!?」
「そうだ。ザックリ言ってしまえばこの先一緒にいる価値があるかどうか、そこを重点に人を判断している!」
もちろんフェレスがそんなドライな人間だとは思っていない。
しかしちょっと、いやかなり嘘くさい話だが、コイツを説得するにはこのくらいくらいオーバーな方が良い。ような気がする。
「で、でも俺は[格闘家]ジョブレベルが……」
「ああ、ソレは知っている。さっき馬車で聞いたしな」
せっかくのチャンスなのだ。オレは動揺した隙をついて間髪入れずにまくしたてる。
「でも甘い、甘いんだリデル! 確かにお前は戦闘面での将来性はバッチリだ。だがもし、取り返しのつかない怪我を足や手に負ったらどうする!?」
「うっ、それはー、そのー」
「そう、だからこその生産職だ! サポートジョブだ! 万が一を考えて打てる手を打つ。それは生きてく中で必要なスキルなのだ! かくいうオレも[鑑定士]や[仕立て屋]のジョブを持って、それなりの高レベルに仕上げてある!」
「な、何だと! テメエ、仕立て屋なのか!?」
盲点! とでも言いたげな顔で喰いついて来るリデル。
ヤバイ、ちょっと楽しくなってきた。
「思い出してみろリデル。フェレスはお前が[仕立て屋]の修行をしない事をネチネチと責めていただろう! 逆を考えれば[仕立て屋]をちゃんと修行すればお前にもチャンスはあるって事だ!!」
「お、おお!」
冷静に考えればツッコミ所はだらけだ。が、別に間違ったことは言っていない。
少なくとも戦闘職一本の現状では相手にされてないわけだし、これから先、生きていればチャンスの1つや2つくらいはあるだろう。
後は最後の一押しだ。
「[仕立て屋]の腕を磨くんだリデル! お前が戦闘だけでなく、生産でもトップクラスになった時。その時にはフェレスともいつの間にか仲良くなっているはずなのだから!!」
「うおおおおお! そうか、そうだったのか! ありがとう親友、おかげで希望が見えてきたぜー!!」
うん、単純熱血バカ万歳だな。
しかし言い切っておいてなんだが、その場のノリで本人に聞かれたら殺されかねない事を言ってしまった気がする。適当言ってもソレっぽく聞こる[詐欺師]のジョブが……というよりアレを心の底から信じてしまえるリデルは恐いヤツだ。
しかしコレでリデルも[仕立て屋]のレベル上げに取り組むようになるだろう。
「マーサさん、借りは返しましたよ」
オレはキラキラした顔で感謝の言葉を並べるリデルを見ながらうなずくのだった。
……ってちょっと待てよ。
「リデルそういえばお前、頼みと相談があるって言ってたよな?」
結局さっきのが頼みだったのか、それとも相談だったのかは分からないが、もしかしなくてももう1つ話が残っているのではないだろうか?
「ああ、そうだったな。聞きやがれ親友、こっからが本番だぜ」
「え、いつの間に親友?」
コイツ、友達を含めた色々な段階を全部飛ばしてやがる。
しかし目の前のバカは人を怒らせる才能を発揮してオレのコメントを完全スルー。
いっそすっぽかして部屋に帰るか?
とも思ったがリデルの表情は真剣そのもの。先ほどの相談の時よりも鬼気迫る雰囲気だ。
これから話す事がソレだけコイツにとって重要だという事なのだろう。大真面目なリデルにつられてオレの表情も自然と硬くなる。
そして、ついにリデルは言い切った。
「実は今晩、この難攻不落な鉄の砦を攻略しにかかろうと思う」
「どこの指揮官だお前は」
シリアスにもったいぶった割に、話が全く見えてこない。
おかげで一気に場の空気が緩んでしまったじゃないか。
「まあ聞けや。順を追って話してやるって」
正直話は良いから殴らせて欲しい。が、今はまあ騙した事もあるし我慢しよう。
「とりあえずはよ言え」
「フッ、せっかちなヤツめ」
……我慢する必要があるのだろうか?
「まあテッペーはこの宿は初めてで知らねえかもだが。知ってのとおり、この宿最大の売りは『とある場所』が厳重に守られている事と言われてる」
「へえ、守られている。ね」
確かに見た目からして防御力高そうだもんな、この宿。
「そうだ、そこで親友。オメーにはその『ある場所』へと侵入する手伝いを頼みたい」
何となく話が見えてきた。つまりその『ある場所』とやらはそれほどまでにすごいモノがあるという事なのだろう。
「で、その『ある場所』でお前は何する気だよ。まさか盗みじゃないだろうな」
もしならストレス解消もかねて、コイツをココでぶちのめせる。
「ハッ、そう警戒すんじゃねえよ。ただちょっと男のロマンを拝みに行くだけだ」
「男のロマン?」
って言うと強力な武器やマジックアイテムが、この宿の倉庫あたりに封印されているという事だろうか?
それだったらオレもちょっと見てみたい気はする。
「でもそこは宿の人に頼めば良くないか?」
「無理だな。掃除にすら入れてもらえねえ」
「ん、まあそりゃそうか」
やっぱり部外者をホイホイと入れる訳にはいかないのだろう。
だからこその強行策。
「よし、分かった。そういう事なら手伝ってやるよ」
武器……とは限らないけど、まあ何かすごそうなモノは見れそうだ。
「おお、助かるぜ親友!!」
手伝うといったことがよほど嬉しいのか、リデルはガッツポーズをして震えている。
そして次の瞬間、腕を突き上げたリデルは期待に満ちた声で宣言した。
「いざ、男のロマン『女湯へ』!!」
そうだ! 男のロマン……。
「って女湯かよ!!」
どうやらオレはとんでもない事に参加宣言してしまったらしい。
ども、谷口ユウキです(-_-)/
執筆当時の殺伐とした? 会話をふざけた感じに再編集しました。
フェレスがそばにいないときのリデルはあいかわらず書いてて楽しいです。
しかし今読むと奇をてらいすぎた感があるかなあ。
うーん、難しい。