リメイクしました第一章 第十一話「ほう馬車旅とな」
前回のあらすじ
この作品唯一絶対の良心『トラウマおじさん』とオマケがあらわれた
動物園の匂いだ。
馬車便乗り場の中に入ると微かに漂ってくる獣臭が漂ってくる。
外見もそうだったが中の作りも駅に近い。少し離れた所に何も繋がれていないいくつもの馬車が固めて置かれ、その向こうには馬車をひかせる馬やモンスター用の宿舎、そして作業着を着た何人もの[魔物使い]の姿がある。
興味が勝って色々と見て回るオレの横ではフェレスとトラウマおじさんが話し始めていた。
「挨拶が遅れましたがおはようございますトラウンさん。テツ君とは知り合いだったんですか?」
「ああ、おはようフェレスちゃん。実は昨日ギルドの助っ人に呼ばれてね。その時にちょっと彼の手続きを手伝ったんだ」
「ふーん。そうなんですか」
と、トラウマおじさんっ!
2人の会話が聞こえていたオレはトラウマおじさんのオブラートに包んだ説明に思わず感謝の念を抱く。
オレがギルドカードを無くした。とは言わず、あえて手続きの手伝いと言ってくれるとは、なんて良い人なんだ。
そんな事を考えていると外にいた飛び蹴り男も乗り場の中に入って来た。
確か名前はリデル……だったはずだ。
リデルの姿を確認したトラウマおじさんは移動についての説明を開始する。
「全員そろったみたいだね。今日乗る馬車はアレらしいからそのつもりで頼むよ」
トラウマおじさんの指さす先からは4頭の馬が繋がれたちょっとゴージャスな屋根付き馬車がやって来ていた。
「すごいですね」
重厚な扉に手の込んだ装飾、乗り場とは不釣り合いなほどのゴージャスな存在感に自然と目がいってしまう。金がかかってそうな馬車だ。
驚くオレにフェレスがコッソリと耳打ちをする。
「テツ君、知らないと思うから説明するね。アレは『トラウマおじさんを支える会』の持ち馬車。普通は馬車便って言ったらもっと地味なヤツなんだけど、この人が動くときは特別なんだよね」
「支える会?」
「うん。トラウマおじさんの援助団体で、この街だけで7000人近くの会員がいたはず。あの馬車もかなりの会費がかかってるはずだよ」
「すげえなオイ」
つまりは政治家でいう所の後援会。この人はそこまでの影響力持っているというのか。
トラウマ云々な愛称からは考えられないほどの大物っぷりである。
「2人とも、いいかな? リデル君も」
「「あ、はい」」
「今回は僕を含めたこの4人での行動になるから、皆そのつもりでよろしく。とりあえず準備ができた人から馬車に乗り込んでくれ」
「「ハイ!」」
4人か、賑やかな旅になりそうだ。
しかしどうしたというのだろう。依頼の始まりを告げたトラウマおじさんは首をかしげている。
「おかしいな。いつの間にかリデル君がいないくなっている」
「え?」
いきなりトラブルの発生?
だがフェレスは何も聞かなかったかのように馬車の中へと入っていった。
「テツ君ー、乗り込むよー」
「お前冷徹だな」
しかし一番騒がしそうなあの飛び蹴り男は何処に行ったのだろうか?
そんなオレの疑問に答えるように、大きな声が飛び込んで来た。
「だー、は な せっちゅうにっ!」
「なんだ?」
何処かで聞いた声とフレーズだ。
見るとリデルが少し離れた所で、他の馬車に繋がれている大きなカメ型モンスターに装備したレザーアーマーの先を喰いつかれている。
[鑑定]で視ると服は[ブーストレザー]。モンスターのほうはDランクで[ランタートル]という名称らしい。
飼われているからか[ランタートル]の表示の色が昨日の[クールトー]と違って青色。しかも[♀《メス》]という記号が名前の隣についている。 [学者]の[モンスター図鑑]によると昔から運搬の足として使われる、沼地に強い何でも食べる雑食のカメと書かれていた。
ちなみに現在進行形で噛まれている[ブーストレザー]の方は[アイテム図鑑]によるとなんとAランク。SPDに高い補正が掛かるAランクモンスターから採れた皮で作られた装備らしい。
「にしてもさすが雑食のカメ。モンスターの皮くらいは普通に食うのか」
[鑑定]で視ると[ブーストレザー]の耐久力が微細ながらもしっかりと減っていくのが見て取れる。
これが防御力が低いFランクあたりの装備だったらあっという間に食われていただろう。
着ている本人は鎧を食われないよう[ランタートル]の顎をこじ開けて振りほどこうとしているが、[ラントータス]は気にも止めずさらにもしゃりと皮を噛み含めていた。
「チョッ、待てやバカ。ま確かに俺の一張羅は魅力的だ。分かる。つってもコイツは漢の勝負服。お前みてえな何処のカメさんとも知れねえ野郎に喰わせてやる気は、っておま、マジ噛むな!」
「あ、その子、野郎じゃなくてメスですよ」
「どうでもいいわっ! てーかカメ子ぉもそれ食おうとすんじゃねえコラァ!!」
おお、どうでもいいという割にはちゃんと呼び方を変えている。
厳つい見た目の割には意外と素直な人らしい。
「2人ともどうしたんだい? ってうわっリデル君!?」
「あ、トラウマおじさん」
どうやらいつまでも乗り込まないオレ達の事が気になったらしい。
トラウマおじさんはリデルの食うか食われるかな現状にかなり驚いていた。
「ヘルプ、ヘルプっす旦那!」
「……とりあえずテッペイ君は中入っとこうか」
「あ、はい」
「それとジオットさん、ヘルプをおねがいします!」
おお、ヘルプがヘルプを呼んだ。
「オウ、ちっと待ってろーい」
トラウマおじさんに言われて仕方なく。後ろ髪を引かれる思いで馬車の戸口に足を掛けると、御者席にいたホビットの男性が面倒臭そうに立ち上がるのが見える。
何て言うか、アレだ。
「フェレス、ちょっと楽しいなこの面子」
「他人事になると結構のんきだね、テツ君」
自然とニヤけるオレを見て馬車にいるフェレスは呆れぎみである。
さて、そうこう言っている内に飛び蹴り男が[ランタートル]のカメ子引き剥がしに成功したらしい。
馬車の窓から外を覗くとジオットと呼ばれていたホビットに引きずられたリデルが[ランタートル]に向かって怒鳴り散らしている。
「覚えとけよカメ公―! いつか鍋にして食ってやっからな!!」
どうやらあの[ランタートル]、最終的な名称はカメ公になったらしい。
「ガハハハハ、[ランタートル]の肉にゃ毒があるから調理するのは手間だぞー」
「……肉、不味いんすか?」
「いや、ちゃんと処理すりゃあモチッっとして、かなりイケる」
「ッシャア! 聞いたぞテメー。絶対食ってやっからな!!」
微笑ましいコメントだ。リデルの嬉しそう(?)な声が馬車の中まで通ってくる。
「これは依頼が楽しみだな」
やっぱ面白いって、このメンツ。
そう思っていた時期がオレにもありました。
乗り場を出発した今、[迷宮都市ラース]を出た馬車は[ビギナーズ平原]の反対方向にある[ビギナーズ林]という場所を走っている。
個人的には『何処の芸人!?』ってツッコミたくなる名前だがまあソレは良い。
問題は中の雰囲気だ。
向かいの席に座るフェレスはリデルの同行が気に入らないらしくかなりムスッとしていて、隣のリデルにいたっては何故かオレに対して敵意剥き出し。とにかく空気が重い。
あと何時間かはこの馬車に乗りっぱなしだって話なのに出発して10分くらいでコレとか泣けてくる。
こういう時はアレだ。年長者のリーダーシップに任せよう。
いたたまれなくなったオレは視線でトラウマおじさんに助けを求める。
お願いだトラウマおじさん、その豊かな(?)人生経験でこの空気をどうにかしてくれ!
するとどうだろう。おじさんはオレのアイコンタクトにニッコリ笑って頷いてくれたではないか。
このタイミングでこの対応。もしかしてこの空気を何とかしてくれるって事だろうか?
いいね、考えるだけで楽しい馬車の旅が近づいて来る足音が聞こえるようだよ。
思っただけで空気清浄人が来る。これがご都合主義の力なのか。
……でもこのパターンで昨日おかしなのが釣り上がったからなあ。あんま期待しないでおこう。
こうしてオレがコロコロと考えを変える中、トラウマおじさんの話が始まった。
「今回は初めて一緒に仕事をする人がいるからね。今の内にお互いがどんなジョブを持っているのかを知っておくべきだと思うんだ。そこで3人とも自己紹介を兼ねて戦闘に使っているジョブを話していって欲しいんだけどどうだろう」
と、トラウマおじさーん!
ありがとう。マジでありがとう。まさか本当に助けてくれるとは。
これなら、この流れなら何の違和感もなく雰囲気を変える事ができる。
「それ、良いと思います」
そう考えたオレは真っ先に提案に食いついた。
「それじゃあまずは言いだしっぺの僕から始めようか。知っているとは思うけど僕の名前はトラウン、今回の依頼主だ。ランクはBでレベルが117。戦闘の主軸としているジョブは[忍者]と[アサシン]だね。他にも色々とジョブは持っているけどこの2つが僕にとっては一番使い勝手がいいんだ」
「へー、そうなんですか」
優しそうな見た目に反してずいぶんと黒いイメージのジョブだ。
ササッと鑑定してみると本人の言う通り[忍者]と[アサシン]、その2つの他に[騎士][槍使い][陰陽師][薬剤師]を持っている事も分かる。
多才な人なのか、この世界で鑑定した人の中では今の所一番持ちジョブが多い。
「それじゃあ次はテッペイ君。でいいのかな?頼めるかい?」
「え、あ、はい」
オレが2番手か。まあ、他2人の雰囲気を考えたらオレになるのは当然っちゃ当然かもだけど……何言えばいいかなんて考えてないぞ。
「えーと、レベル99、Cランクのテツです。戦闘の主軸は……」
とりあえずトラウマおじさんに習って紹介を組み立てていく。戦闘の主軸になりそうなジョブは1つ、いやもう1つ言うくらいにしておくか。
「……[治療師]と[魔術師]の2つです。よろしくお願いします」
しかし言い終わったオレの方を何か言いたげなフェレスがメッチャ見てきている。『お前後2つもレベル99の魔法職を持ってるだろ?』って顔だ。
機嫌の方は全く読み取れないが、やりづらいことこの上ない。
しかしフェレスに気を取られていられるのはそこまでだった。
「ハッ、[治療師]が主軸かよ。なよっちい野郎だな」
……オイ、今ふざけたこと言ったの誰だ?
気付けばリデルがオレを見てニヤニヤ笑っている。
「リデルだっけ。じゃあお前はどうなんだよ?」
「あ、俺か? 俺はお前と同じCランクだが一緒にすんじゃねえぞ。18歳にしてなんとレベル50の[武闘家]、さらにレベル40代の[闘士][神官]のジョブも持ってる超有望株にして『トラウマおじさんを支える会』の会員だ!」
最後のまとめがおかしいと思う。
いや、まあそれは置いとくとしても一番高いジョブレベルが50か。コイツの口ぶりだと18歳にしては高い。って所なのか?
基準が分からないからこういう時は何も言う事ができない。
何よりこの男がオレより2コ上だという衝撃の事実。
外見通りの年齢といえばそれまでだが、これまでの行動、言動を見た感じだととても年上には思えないのにだ。
「ッハー、思い知ったかこの野郎」
……年上かぁ。
当の本人はオレが黙ったのをナナメに勘違いしたらしくかなり得意げだ。
そんな中、調子に乗っているリデルを止めるため、沈黙を保っていたフェレスがとうとう話し出す。
「あー、テツ君。この屍が調子に乗っていても気にしないでね。実家の仕立て屋継ごうとせずにマーサさんから怒鳴られてばかりの親不孝者だから」
「え?」
マーサさんって、あのマーサさんの事か?
「てことはコイツがマーサさんの言ってた『帰ってこない息子』? お前、『支える会』の会員ならちゃんと親さんも支えてやれよ」
「っせえな、俺には[仕立て屋]の才能が無かったんだよ!」
「大して努力してないのに才能とか言われてもねー。マーサさんから聞いたけど覚え自体は良かったんでしょ?」
おお、これはフェレスがかなり押してるな。
リデルが自爆したというのもあるが、それ以上にフェレスの追撃が怖い。
「うぐっ。……だって[仕立て屋]だろ!? ダッセーじゃねえか!!」
「マーサさんって流行のブランド品や貴族用の服なんかも仕立ててるんでしょ?それをダサいって言うアンタのセンスが分かんないんだけど」
さ、さすがは[情報屋]。持ち駒の使い方が上手い。あっという間に王手って感じだ。
「と、とにかく[治療師]みたいなジョブを取るもやし野郎なんざバカにされて当然なんだよ!」
「ハア、やっぱウチあんたの事キライだわ」
「へっ? ……そんなっ」
バッサリと切り捨てられたリデルは、抜け殻のようにへたり込む。そして何故か死人のように青く無表情な顔がオレの方に向けられる。
フェレスが死人呼ばわりしたのも今なら分かる。コッチ見ないで欲しい。
しかしこの『換気したら毒ガスが流れてきた』みたいな空気はどうすればいいのだろう。
トラウマおじさんの空気クリーン大作戦(名付けた)は完全にマイナス方向へ機能してしまっている。
これはもう空気の洗浄を諦めた方がいいのか?
「……いっそ屋根行くか」
「「「え?」」」
オレがポツリと言った一言で馬車にいた3人の視線が集中する。
「そ、それじゃあ最後にフェレス君の使うジョブを教えてもらえるかな?」
しかしトラウマおじさんは勇敢にも質問を続行するつもりらしい。
「オレ、フェレスのジョブは知ってるんで自己紹介は無くて大丈夫ですよ?」
「そ、そうか。ならまあ別に紹介する必要も無い……のか」
さて、それじゃあサッサと行くとしよう。
オレは扉に立てかけていた杖を持ち、窓を開けて足をかける。
「て、テッペイ君、本当に屋根に行くのかい? 君はこの空気の中僕を1人にするっていうのかい!?」
すまないトラウマおじさん。この空気の道ずれになるのは御免なんだ。イライラの頂点に達している女子と、精神死にかけの男子の間に入る優しさは持ち合わせていない。
と、いう訳でココはサラッと突き放す。
「やだなあ、そこにまだ2人いるじゃないですか」
軽く、そうホントに軽く空気汚染の元凶と化しているけど。アレ等もまだちゃんと人のはず。後援会を持つようなカリスマ。トラウマおじさんならばきっと大丈夫なはずだ。
そう判断したオレは戸口を蹴って気で強化した腕力を頼りに一気に屋根へとよじ登っていった。
「て、テッペイくーん!?」
ゴメンよトラウマおじさん。
とりあえずトラウマにならない事を祈っとくから安心して逝ってくれ。
「おー、風が気持ち良い」
屋根に上った所に待っていたのは、思ったより強い追い風とまさかの振動だ。
いつのまにか林を抜けていたらしい。外の景色はだんだんと荒れ地に変わりつつある。
「にしても、やっぱ馬車自体は結構揺れるもんだな」
イスの下に大量のクッションがあった中と違って外は直で振動が来る。あまり居心地が良いとは言えそうもない。
「ま、中の居心地よりはマシ……なのかな」
なんとも微妙な所だ。
「オウ兄ちゃん。屋根に上るとは、えらい身軽じゃねえか」
「ん、ああ。こんにちは御者さん」
声をかけられた先にある御者席には、さっき見たホビットのおじさんが乗っていた。
子供のような背格好だが手綱を握る手つきには老練さを感じる滑らかさがある。
「えーっと、ココに上がったのって不味かったですか?」
いきなり屋根に上ったのだ。もしかしなくても驚かせてしまっただろう。
「ガハハハハ。そんな気まずそうな顔してんじゃねえよ。兄ちゃんみたいに屋根が好きってやつは少数派だがいない事は無い。コッチも気にしねえから兄ちゃんも気にすんな」
「そ、そうですか。オレは今日初めて登ってみたんですけど、ココって思ったより揺れるんですね」
「へー、そうなのかい。走ってる最中に上ったことがねえから知らなかったぜ。そういやオイラの知っている屋根に上るヤツ等はどいつも風の魔法や精霊なんかでうまく衝撃を殺してたっけか? 見た感じ兄ちゃんも魔法職だろ、試しにやってみたらどうだい」
「あ、そうなんですか。ありがとうございます……えっとジオットさん。でしたっけ?」
「おお、合ってるぜ。よろしくな坊主。一応オイラも『トラウマおじさんを支える会』のメンバーだ」
「さ、さいですか」
そういえばこの馬車って『支える会』の持ち馬車だったな。
「あの、気になってたんですけど、『トラウマおじさんを支える会』ってどんな人たちの集まりなんです?」
「んー、オイラ達か。そうだなー」
ジオットさんは前方から視線を逸らさないまま少し悩むと、オレの質問に答えだす。
「まー、なんだ。オイラ達『支える会』ってのはトラウンのあまりの運の無さとタイミングの悪さから支援を決めた有志の集まりでな。基本的に寄付金で活動しながらトラウンの冒険をサポートしてる集団だな」
「へ、へえ。何かスゴイ集まりですね」
特に動機がずば抜けている。
「おう、まあ会のメンバーじゃなくてもトラウンの繊細さと心の強さに感動して寄付をしてくれる奴は結構いるから資金だけは結構あんだよな。どいつもこいつも『あの人に笑いと勇気をもらいました』とか言ってんだ。笑っちまうだろ?」
その冒険者達は一体何を見たというのだろう。
「えーと、ちなみにジオットさんが入った理由は?」
「そうだなあ。ありゃあ5年前、オイラが[迷宮都市ラース]で[サーベルタイガー]のサべ太に乗って歩いていた時の事だ」
「……サベ太?」
「サベ太」
「……あ、続けて下さい」
「オウ。するとどうだ、進行方向の先にバラの花束を持った男が街中に立っているじゃねえか。そう、トラウンだ」
「はあ」
「ちょうどバラの花束持って告白! ってぇ時だったんだなあ。近くに行くとアイツは背中に花束隠してオイラとサべ太にケツ向けててよぉ」
「まさか……」
「オウ、そいつが鼻にあたって機嫌を悪くしたサべ太が、花束に向かって猫パンチ。タイミング悪くその次の瞬間にトラウンのヤツは『好きです、付き合って下さい!』って告っちまったんだよ」
「つまり想いの丈と一緒に花無しの花束を差し出したと」
「そういうこった」
「で、それでその返事は?」
「まー、バラの花びらの舞うロマンチックなシチュエーションが良かったんだな。一番ヤバイ『ふざけないで!』とかいう拒絶じゃあなく『くき?』だったぜ」
「うっわー」
ソレはソレでキツそうだ。何て言うか……。
「トラウマになりそうな話っすね」
「ガハハハハ、実際なりやがったからなあの野郎は。ま、そういう訳でこんな面白い奴をほっとくわけにゃ行かねえだろうとオイラは『支える会』に入った訳だ。事実会報なんかは大人気だしな」
「あー、なるほど」
立ち上げた動機の半分くらいは野次馬根性なのだろう。きっとネタに困らない人なんだろうな。
「まあ兄ちゃんも気が向いたら募金してやってくれや」
「まあ気が向いたらでいいなら考えときます」
「オウ、それじゃあ衝撃を殺すのがんばってな」
「はい」
それじゃあジオットさんのくれたヒントを試してみるか。
イメージは風のクッションだ。実際にやっている人がるというのなら初級魔法の威力と効果範囲を調節すればいけるだろ。
「んじゃ、とりあえずー、[ウインド]!」
まずは体の下から風が上に向かうよう足元に魔法陣を展開。オートで噴出される一定の威力を魔力に無理やり制限をかける事でセーブする。
これで生み出される風の威力がかなり落ちる……と思う。
すると呪文を省略したのが意外だったのかジオットさんがコッチをガン見しているのが見えた。
「ジオットさん。よそ見運転はやめて前見てください、前」
「はー、[詠唱破棄]とは兄ちゃんやるじゃねえか」
「いや、前向いてって! ……まあこれでも結構腕は立つんですよ」
オレ自身の力じゃないってのは微妙だけどね。
まあそんな事を言ったら世の中のチート小説は大抵がそうだけどさ。
とにかく今は実験だ。オレは魔法陣が完成したことを確認して発動に入ることにする。
「よっし、それじゃあ発動!」
そしてオレの体は下からの突風に吹き上げられた。
「おお、ホントに浮く!」
このフワッてなる感じがちょっと楽しい。……楽しいが。
「コレやばい、置いていかれる!」
体が上がったとたんに乗っていた馬車がオレを放って進んで行ってしまっていた。
「逃すかーっ!」
必死になって腕を伸ばしたオレは、手の届く届くギリギリの所で屋根のへりを指でつまみ。気で強化した腕力にモノを言わせてどうにか屋根へと舞い戻る。
「あ、危なかった」
あと少しでも手を伸ばすのが遅れていたら何もない所で浮かぶバカが1人誕生していただろう。本当にギリギリだった。
「ガハハハハ」
「いやジオットさん、笑い事じゃないですからっ」
そりゃ傍から見たら楽しいかもしれないけど、コッチは必死だったのだ。
「オウ、悪い悪い。しっかしやるなあ兄ちゃん。ありゃ相当なもんだぜ」
「ったくどこに感心してんですか。さっさと前向いてくださいよ」
「ヘイ、ヘイ」
しかし迂闊だった。この魔法、単純に上に飛ぶと痛い目見るな。
今度はちゃんと前のほうで屋根のヘリを掴んでから使おう。
そしてそう考えたオレが仕切り直しにと屋根を掴んだ時だった。
「アレ?」
視界の端で何かが動いたような違和感が沸き起こる。
「何だ今の?」
目に映る景色のどこかが変わった。それだけは分かるが、それ以外が分からない。
「オウ、どうした兄ちゃん?」
「いや、今なんか遠くの方で……何かが動いた気がしたんですよ」
そうだ、だんだんと分かってきた。その動いた何かは今も動き続けている。
「そりゃ怖いな。モンスターかもしれねえ。兄ちゃん、この馬車に[鑑定士]のスキル持ってるやつはいるか?」
「あ、オレ持ってます」
「おし、んじゃ、とりあえずその何か見えた方に向かって鑑定してみてくれ」
「了解です」
言われた通り、意識して[鑑定]してみると遠くに浮かぶいくつかの赤いネームタグが見えてくる。
間違いない。モンスターだ。
少しづつ表示が大きくなっているのはこの馬車に向かってきているからだろう。このまま行くと鉢合わせになる可能性が高そうだ。
「ジオットさん、やっぱりモンスターがいます。1、いや2匹。コッチに向かって来てるみたいです」
「兄ちゃん、名前はわかるか?」
「ちょっと待ってください。 えーっと[サンドワイバーン]?」
「チッ、Bランクの肉食モンスターか。兄ちゃん、悪いが中の連中に戦闘準備だって伝えてやってくれ!」
「迂回できないんですか?」
「コッチは風上向こうは風下。オイラ達は多分獲物としてマークされちまってる!」
「っ! そういう事かよ」
しかし戦闘は避けられないが幸いまだ距離がある。迎撃態勢を整える時間は十分あるはずだ。
今ならまだ間に合う。
オレは非常事態を伝えるため、急いで馬車の中へと飛び込んでいった。
ども、谷口ユウキです(-_-)/
今回も修正改造でエピソードを追加。会話をよりらしくなるようにイジリました。
時間をおいてから自分の作品を見ると結構新鮮だったりしますね。
文章に人柄が反映されるので『ぐああああ、オレ性格悪!!』とちょくちょくと凹みます。
意外な落とし穴でした。