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プチトリ!!(仮題)  作者: 谷口 ユウキ
14/45

リメイクしました第一章 第十話「ほう同行者とな」

前回のあらすじ


素手での近接戦闘はアカーン

 事の発端は宿での事。

 宿屋『空回り』の看板猫耳娘であるフェレスさんに依頼で数日戻らないかもしれないことを告げると『そういう冒険者さん達にはお弁当がありますよ』と言われ、お弁当をもらう中、なし崩し的に依頼の事を話してみた所からこのおかしな状況は始まった。

 説明をするやいなや。

「あ、実はウチもその依頼受けてるんですよ!」

 とハイテンションに返されてしまったのだ。

 おかげでコッチはビックリである。『アンタこの宿の看板猫耳娘だろ、何で依頼受けてんの?』という疑問を口にする。

「ていうか、まさかCランク以上の冒険者なんですか?」

「ええ、この宿は実家なので手伝っていますが本業は冒険者です」

「……本業」

 そんな二足のわらじ設定は予想していない。

 そしてフェレスさんは当然のようにこう言った。

「じゃあ、せっかくなんで一緒に行きましょうか」

「え゛?」

 正直に言おう。オレはまだ初日の『泊まれナスカ』引きづっている。

 なのに『一緒に行きましょう』とかどんな罰ゲーム。そんな気まずそうな展開はいらん。

 

 だが断ろうとした所でさらなるトンデモ発言が発射された。

「所でテツさんって本当に異世界人なんですか?」

 ……何で知ってんだよ。


 宿屋『空回り』の看板猫耳娘フェレス。

 その先手先手を取る圧倒的な立ち回りの早さにオレは圧倒されていた。


 とにかく『この異世界人ですか?』はキラーパスだ。はやく処理しないと爆発する。

 そう考えたオレは素早く。

「違います」

 という否定の言葉を返す。

「ふっふっふ驚いてますねっ。実はテツさんがファブロフ様やマーサさんと話している内容が聞こえてしまったのですよ!」

 しかしオレの否定は当然のようにスルーされた。

「理不尽すぎる」

 まあ2日前の話に『異世界人』という単語はポンポン出てたからな。所々声も大きかったし聞かれていたとしても不思議はない。

 不注意だったな。

「ハア、しかし盗み聞きされるとは」

「いえ、聞こえてしまったのです」

「えーっと、つまり盗み聞きしたんですよね」

「いえ、聞こえてしまったのです」

「何この無限ループ」

 精神的なダメージを受けたばかりの心に鈍く響く。

 しかし冗談抜きに考えると、コレは結構マズイのではないだろうか。この猫耳娘がこの事をティーリアさん辺りに話したら、翌日オレは生きた屍にってしまうかもしれない。

「頼みますから他の人には秘密にしといてくださいね」

 てかもう喋ったりしてないよな?

「分かってますよ。じゃあ、せっかくなんで一緒に行きましょうか!」

「え、何で?」

「どうせ行く場所同じじゃないですか」

「……そっすね」

 まあ筋は通っているか。


 で、今に至るわけなのだが……。

「それにしてもテツ君の防具ってこの辺じゃ見ないよね。そんな装備初めて見たよ」

「んー」

「そのコートとか一体何でできてるの?」

「んー」

「持ってるレアアイテム何か見せて」

「んー、却下ですね」

「……おしかった」

「なわけないでしょう」

 甘いな。このパターンはすでに修次とのやり取りで学習済みだ。

「しかしキャラがガラリと変わりましたね」

 おかげでこっちは後手に回りっぱなしである。

「まあ今は宿の仕事がオフだからね」

「ああ、なるほど」

 受付にいたフェレスさんは文字通り猫をかぶっていたわけか。

 素の状態だと興味が勝つのか、さっきからオレの装備を珍しそうに眺めている。

 気まずいというか気恥ずかしいというか。正直リアクションに困る状況だ。

 相手は耳と尻尾が付いた可愛い女の子なのだ。そうやって年頃の男をじろじろ見るもんじゃない。と言いたい気分になるのも分かるだろう?

 どうせ見てるのは装備だけどさ。


「所でフェレスさん。何でオレ君付けなんですか?」

宿ではさんだったよね?

「だってテツ君のギルドカード見たらウチと同い年だったから。……ダメかな?」

 ああ、さっき口止めを条件に見せたアレが原因か。

 称号やらジョブレベルやらを見せるかわりに異世界人である事を秘密にするって約束してもらったんだよな。

 コッチだけ手の内見せるのは嫌だった事もあって当然フェレスさんは鑑定ずみ。決して品定めしたとかではない。

 まあ、ともかく。フェレスさんの持ちジョブは[獣戦士]と[情報屋]の様だった。

 ……2個目のが無ければなー。と思う。

 同年代の異性と仲良くできるのは大歓迎だけど、そんな気持ちをバッサリと切り捨てるようなジョブのお名前がすぐそこに浮かんでいるのだ。

 正直ちょっと怖い。

 猫耳は惜しいがオレの平和には変えられん。この人とは顔見知り程度の関係を目指そう。

 君付けは断固拒否、頑張って止めさせる方向で行く。

「あのー、できれば君付は止めてさん付けのままで……」

「そう言ってもらえるとウチもうれしいよ。よろしくねテツ君!」

「人の話はちゃんと聞きましょうよ!?」

 ホント頼んますから!

 おかしい。会話の主導権が帰ってこない。なんて厄介なんだ。ま、今の所は悪い人じゃなさそうだからいいんだけどね。

 持っているジョブがジョブだからこそ、取引した今、異世界人であることを喋られる可能性は0になったと見て良いはず。オレみたいにイレギュラーなヤツの情報を不用意に喋れば、そのツケが自分に返って来る可能性が高い。という事くらいはさすがに分かってるはずだ。

 少なくとも顔と家がコッチに知られてるんだから一線を越えるような事はしないだろ……多分。

「まあ万が一の時には適当に逃げ回るか」 

 そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にか街の終わりが見えてくる。

「見えてきたね。アレが馬車便乗り場だよ」

「お、やっとですか」

 目的地だった馬車乗り場は元の世界でいうチョット大きい田舎の駅みたいな所だった。

 何となくバス停みたいな所を想像してたから、思ったより大きめの規模に少し驚き、一息ついて歩みを止める。

 宿からここまで結構歩いた。やっぱり交通手段が歩くか走るだと一苦労だな。

「いいなあ、こういう時に足がある人は」

 さっきからチラホラとモンスターに乗ってる人を見たが皆ずいぶんと快適そうだった。

 そういう人たちに共通しているのは[魔物使い]のジョブを持っていること。

「[魔物使い]か」

 我ながら俗な感覚だとは思うが、モンスターに乗って人混みを書き分ける姿は、元の世界で言う車の免許持ちみたいな立ち位置に見えた。

 

 取り方は知らないけど、取ったら便利そうなジョブである。


「そういえば今回の依頼ってどのくらいの期間が掛かるんです?」

「んー、[アルカの森]近くの村まで馬車で半日。森でトラウマおじさんが[ゴラムーニョ]を倒す事を考えると少なくとも1日は滞在するからね。帰りを合わせると大体3日ぐらいかな」

「へー、そんなもんですか」

「うん、早ければ2日で帰れるとは思うけどね」

「ありがとうございます、助かりました」

「……うん」

「あれ?」

 お礼を言ったのにフェレスさんは何故か不機嫌そうだ。

 何か変な事でも言ったっけ? 


 意味が分からずに見ていると、怒った顔のフェレスさんが唐突にビシッとオレを指さして話し始める。

「テツ君さあ、その敬語いい加減やめた方がいいと思うよ」

「え?」

「いや、ウチ等って今からお互いの背中任せて戦う訳でしょ。それなのに敬語っていうのは納得がいかないのよ。テツ君がウチよりずっと年上で歴戦の戦士だっていうならともかく、ウチと同い年でしょ?」

「あー、そういう理由ですか」

「ホラまた! 君って敬語がクセになってるみたいに見えるけど。[詐欺師]のジョブがあるって言っても貴族って訳じゃない……んだよね?」 

 最後がちょっと自信無さげだ。オレってそんなに貴族っぽく見えるのだろうか?

「ん、確かに平民です」

「な ら! もうちょっと砕けた感じで行きなって。その方がお互い気楽でしょ?」

「んー」

 気楽かどうかは分からないけど、言ってる事は正しそう。

「わかった。忠告通り敬語はやめる。えと、ありがとう。とその、よろしく……フェレス」

「うん、よろしく」

 今話して思った。この娘、普通にいい人なのかもしれない。

 どうやら持っているジョブで先入観にとらわれていたみたいだな。気を付けよう。

 そうして反省するオレの横でフェレスは安心した様にニッコリと笑う。

「うーん良かった。コレでダメだったら最終手段を使う所だったよ」

「……最終手段?」

何だその不吉な言葉は。

「一応聞きますけど、まさかオレの素性を言いふらすつもりだったとか言わないですよね?」

「け い ご?」

「……最終手段て何」

「まあ安心しなよ、さすがに素性をバラすつもりは無いから。君みたいな高ステータスの化物にケンカ売る度胸ウチにはないしね」

「今のは喧嘩売ってるって言わない!?」

「これは心のスキンシップだよ」

「違う、今のはそんな素敵な表現が当てはまるやり取りじゃない!」


 しかし当然の講義をしたはずなのに、フェレスは『いやー、テツ君は話してて楽しいよ』と言う不本意な評価を下してしまう。

「ホラ、テツ君って沸点高い、善人タイプでしょ? 何処かの誰かさんみたいに嫌味なくらいプライドか高いわけじゃないし、このくらいなら大丈夫かなって思うじゃない」

「今オレ褒められた? それともけなされた?」

「褒めてる褒めてる」

「ホントかよ……」

 ムスッとした気分で睨み付けるが楽しそうなフェレスの表情と揺れる猫耳は尖りかけた心をガンガンと丸く削ってくる。

 気恥ずかしい事この上ない展開だったので話題を逸らしに行くことにした。

「一応前の世界の知り合いに見栄やプライドに関しては使い所が肝心だって教えられたんだよ」

 そう、元の世界の残念王子こと修次先生には色々と教わった。

 修次の言葉を借りれば見栄とプライドはあくまで自分を見せる手札の1つ。使うとほぼ確実に考え方の傾向や言われたい事、たくない事を広めてしまうバットカードだ。無駄に高いと損をすることは間違いない……というアイツの力説のせいでその考え方はオレにも染みついている。

「なるほど、そりゃ詐欺師になるわ」

「まあ否定はしないな」

 そういえばヤツは詐欺師の勉強もしていたっけ。

 アイツがこの世界に来てればさぞテンションを上げた事だろう。


「で、結局最終手段て何?」

 逸れすぎた本題を元に戻すべく先ほどの質問を繰り返す。

「昨日の会話の内容をご近所さんに広める。かな」

「昨日の会話?」

 つまりはMrフルフェイス?

「あれを言い触らして困るのはティーリアさんだと思うんだけど」

「ああ、そっちじゃなくて」

 ……どっちにしろ知っているのか。

「ウチが言ってるのは昨日のファブロフ様との会話。つまりテツ君が[ゴラムーニョ]を狩る目的の事だよ」

「あー、そっち」

 つまりはパンツトークか。確かにあの場には給仕としてフェレスもいた。

「なるほどね」

 オレの事をパンツのために中級モンスターに戦いを挑む男として街中に広めちゃうぞっ(ハート)的な事を言いたい訳か。

「お前マジ鬼畜」

 人には尊厳があるってこと知らないだろ。

「事実を言うだけよ、事実を」

「そりゃ傍から見たらそうかもしれないけどさ」

 さすがにちょっと折衝が過ぎる。

「所でさー、テツ君って[料理人]のレベルも高いよね?」

「まあ、そうだけど?」

 だからそれが何だというのだろうか? オレは胡散臭い視線を投げかけて続きを促す。

「女の子にはね、ふと甘いモノを食べたくなる時があるんだよ」

「ほう」

 つまり今の情報を盾にされたオレは、この女のスイーツに対する食い気のために脅されている。という事か。

 ……最終手段の内容なんて聞かなきゃよかった。

 今となっては何もかもが虚しい。そんな気分になる。

「せめて材料費と調理場はソッチ持ちで」

「OK、契約成立だね」

 ハッとするような笑顔で嬉しそうにオレの右手を取ったフェレスはそのまま嬉しそうにオレと握手をする。

 なんかコッチの我慢できる一線を見切られたような感じだ。だからこそ、いわゆる『一線』は超えないだろうがやりにくい事この上ない。

「なんだかなー」

 そんな言葉がしっくりくる相手だとつくづく思わされるやりとりだった。


 と、そんな時だった。

 不意にフェレスの猫耳がピクリと動く。

「……せー」

「ん、今なんか野太い音が……」

「俺のフェレスから手を離しやがれコラァー!」

 これは……怒鳴り声だ。何処からか怒鳴り声が聞こえて来る。

「うっわ最悪」

「え、最悪?」

 今の声を聴いたフェレスがすごい嫌そうなリアクションを取る。知り合いなのか?

 思わず音を頼りに怒鳴り声の発信源を探してしまう。

「は な せって言ってんだろー!!」

「あ、アレか」

 距離は25メートルくらい。

 厳つい顔した青年で逆立てた短髪はいかにもなアウトドア派な感じだ。


 ソレが走りこんでくる。


「テメー、コラ。ふざけた空気作りやがってよぉ!」

「いや、ふざけてたのはオレじゃなくて……」

「んなこと言ってんじゃねーからぁ!」

「ちょ、話がしたいんならちょっと落ち着いて」

「……その『はなす』じゃねーよっ!」

 そして青年は勢いよく跳び上がり。オレに向かって回し蹴りを放ちやがった。

「危なっ」

 慌ててフェレスの手を放したオレは、けりが体に届く前に[治療師]の[魔力障壁]をどうにか展開。空中で攻撃を弾いて距離を取ってから、杖を前に構えを取る。

 今の[障壁]は昨日寝る前に少し練習をしたスキルで、紙装甲に定評がある魔法職である[治療師]の持つ防御技だ。

 魔力の盾を空間に固定するスキルで、込める魔力量で強度が大きく左右されるらしいので、今回は念のために100のMPを込めて発動した。

 今の感触だとスキル自体の使い勝手は中々良さそうだな。

「へえ、魔法職とは思えないほどの反応速度じゃねえか。やるじゃねえの」

「あー、まあ、昨日も似たような目に合ってるからな」

 前日に行った予習のおかげで素早く反応できた事を喜ぶべきか悲しむべきか。

 しかし昨日と言いい今日といい何でこうガラの悪いのに絡まれるのだろう。目の前の青年からもなんとなくMrフルフェイス臭を感じる。

「一応聞くけどお前等付き合ってんの?」

「まだだ、だが心の中では結婚をしている!」

「あり得ない。心の中では死んだ人間にしてるよ」

「「……え?」」

 どっちがどっちの言葉かは言うまでもないだろう。故人宣言を喰らった飛び蹴り男は涙目になっている。

「生きた屍……か」

「うっせー、てめっ、しゃべんな!」

 青年の受けた傷は深そうだ。どうすればいいか分からないといった顔で立ち尽くしている。

 しかし次の瞬間、そんな青年に救いの手が差し伸べられた。

「おーい、リデルくーん?急に走り出してどうしたんだーい?」

 男の人の声だ。少し離れているのか遠くから聞こえてくる。

「てかこの声どっかで聞いたことあるな……?」

 疑問に思っていると、飛び蹴り男の来た方向から武装したおじさんが走って来るのが見えてくる。

「昨日の自称お兄さん!」

 どうりで聞いたことがあるはずだ。話してんだから。

「フェレス、あの人も今日の依頼に?」

「そ、依頼人だからね」

 ……あの人が依頼人?

「てことはあの人が、例のトラウマおじさん!?」

 昨日話したが正直トラウマに苦しむようなタイプには見えなかったぞ。

「うん、見まごう事なき本物だよ」

「そう、なのか」

 我ながら人を見る目が甘い。という事か。

 トラウマおじさん。本名トラ……何とかさんは小走りで馬車便乗り場の前に来るとオレを一瞥して足を止める。

「君は、たしか昨日ギルドに来ていた子だよね?」

「はい。えと、今日からよろしくお願いします」

「ああ、よろしくね」

 昨日会った人が今日の依頼主。世間が狭いのは異世界も一緒ということか。

「まあ世の中なんてそんなモンだよな」


 こうして集まったオレ達はひとまず馬車便乗り場の中に入っていったのだった。

「死んだ……俺が? いや神が?」


 救いの手に気が付けなかった約1名を残して。


ども、谷口ユウキです(-_-)/


今回はこの作品唯一絶対の良心であるトラウマおじさんの正式な登場回です。


全体の流れをそのままにセリフやオチを少し差し替えました。

変われば変わるもんです。


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