リメイクしました第一章 第八話「ほうご都合とな」
前回のあらすじ
大人は小さい子の前だとキャラが変わる事がある
その後ティーリアさんとの合流を果たしたオレはとりあえず速攻で謝る事にする。
「すいません、かなり待たせちゃいました」
カードの作成自体はあっという間だったが、そこまでが長かった。職員さんも子供たちもスローペースでしゃべっていて内容の割にかなり時間が掛かったからな。
待ってもらった身としては申し訳ない気持ちで一杯である。
「いえ、子供達がいたんじゃ仕方ありませんよ」
「あ、見てたんですか」
まあ気にしてないって言ってくれるのはありがたい。
「でも今度からは無くさないよう気を付けて下さいね? カードが無いとレベルやステータスは分からないんですから」
「ハイ、気をつけます。何か不便そうですもんね」
という事はやっぱりこの世界の人は自分のステータスを見る事が出来ないのか。
まあカードがあるからいいんだろうけどさ。
貰ったギルドカードをかまってみると、カード自体がタッチパネル付きの身分証明証に近いモノだと判明した。レベル、名前、年齢、称号、種族、性別と持っているジョブ一覧が表示されていて、名前をタッチすると自分のステータスを見ることができる。
同じように称号をタッチすれば持っている称号が。ジョブの1つをタッチするとそのジョブのレベルがジョブ名の隣に現れる仕組みらしかった。
データを意図的に隠せないみただが、どうやらCランクであるLv99は珍しいわけでもないみたいだし、ステータスが見えっぱなしという訳でもないから別に問題は無いろう。……[詐欺師]のジョブ以外は。だが。
ちなみに詐欺師の1つめのスキルは[とっさのウソ]だった。
効果は読んで字のごとく。身に覚えがありすぎて泣きたくなる。
確か攻略サイトでは隠しイベントを派生させたり、通常のイベントの分岐ルートが増えるタイプのジョブだとあった。現実にもってくると犯罪以外に使い道のなさそうなジョブだな。
神様だがゲームシステムだかは分からないが、とんでもない仕事を斡旋されたものだ。
けどまあ[盗賊]や[暗殺者]なんてジョブがある世界なのだ。ジョブレベルも1だし、ここは人に知られても問題がないと信じよう。ギルドカードを見せれないって方が犯罪者みたいだし。
「それでどうでした? [ゴラムーニョ]の討伐許可はもらえそうでしたか?」
「はい、ちゃんとCランクのはずです」
ちゃんとLv99って表示されてるしコレなら大丈夫なはずだ。
オレはカードを見たそうにしているティーリアさんに文字の浮かんだ面を見せて確認を取る。
「あら、あと少しでBランクじゃないですか。テツさんってお強いんですね」
そうか、BランクはLv101からだっけ?
「あはは、まあそこそこですかね」
コッチで戦った事が無いから何て言っていいのか良く分からない。
ランクを考えればLv99くらいで中堅くらいか? 転生分の能力補正を考えるとこのレベルでは普通ありえないくらいのチートではあるはずだ。
ただソレはあくまでゲームの話。いろんなところで食い違いが出てる以上、過信、慢心は禁物だ。
現実に考えれば、先天的な才能とかで能力による個人差もあるだろうし、修次曰く段ボール装甲らしいこの体だ。状況や相手次第でいくらでも負けれるだろう。
まあ魔法だけは相当なもんだろうとは思うけど。
「それにしてもテツさんって沢山ジョブを持ってるんですね。9つだなんて驚きました」
「え、ああ。よく言われます」
思い返せば人を鑑定した時は大抵2つか3つ。多くて5つくらいしかジョブは表示されていなかった気がする。
やはりゲームのようにホイホイとジョブを極める事はできないのだろうか。
「それに[詐欺師]のジョブを持っているなんて。テツさん。もしかしてどこかの貴族なんですか?」
「えっ」
そのジョブにツッコんできたのは分かる。カードを見せた時点で覚悟はしていた。
けど何がどうなって貴族の疑いに発展したんだ?
「あーっと、なんでそう思ったんですか?」
「ああ、[詐欺師]のジョブは経歴や身分を偽った経験がある事、[学者]と[鑑定士]のレベルが一定以上の高さの事、特殊な知識を知っている事、そしてとっさの判断力や機転がないと取得する事が出来ないと昔聞いたことがあったので、そうなのかな? と」
「く、詳しいですね」
「ええ、知り合いに[詐欺師]のジョブを持っている訳ありな人がいますから」
「訳ありですか」
「ええ、とっても」
これは……気になるが会いたくはないって感じだな。
しかし身分の偽装や特殊な知識と来たか。ティーリアさんがオレを貴族だと疑ったのは、おそらくこの世界の文化でその条件に当てはまるのは貴族ぐらいだから、ということなのだろう。確かに修次の言っていたゲームの説明で貴族になれるとか聞いた覚えがある。
そしてフムフムと頷くオレに向かってティーリアさんは締めくくるようにこう言った。
「少なくともただの嘘つきには獲得できないジョブのはずですよ」
「さ、さいですか」
まさか選ばれし嘘つき扱いされるとは。今すぐ辞退したいな。
しかもティーリアさん、人をスーパー嘘つき呼ばわりしたくせにずいぶんと楽しそう。
「テツさん、もし良かったら何処の国の貴族なのかだけでもコッソリ教えてくれませんか? 絶対秘密にしますから」
「貴族なのは決定ですか」
それにやっぱりと言うか、ティーリアさんのテンションがいつになく高かい。
この人、貴族のお忍び的なゴシップとかが好きなのだろうか?
まあ誰にでも野次馬根性というモノはあるだろうし、確かに女の人がそういうのが好きなのは分かる。
だがそれは今の内に釘指しておかないと後々オレについての変な噂が流れるかもしれないという事だ。今の内にキッパリ否定しておいた方が良いだろう。
「ティーリアさん、何か期待してるみたいですけどオレは貴族なんかじゃないですからね。平民ですよ。へ、い、み、ん」
「……そうですか」
そしてティーリアさんは目に見えて落ち込んだ。
いや、ただ落ち込むだけではない。ちょい涙目だ。
引き起こされる罪悪感が半端ではない。
まさかアレなのか? 期待がでかかった分外れた時のショックもでかかったというアレなのか!?
まるで子供から玩具を取り上げたような気分。
……仕方がない。ちょっとだけそれっぽい事言ってフォローしよう。
「まあ、訳アリなのは当たってますけどね」
「やっぱりそうなんですかっ!」
「復活が早い!」
フォローする必要なかった?
しかもこの食いつき様。もし詳しい事をウッカリ話したら『ここだけの秘密ですよ』っていう前置きの後に近所の公園とかにいるオバサンとかに全部話されそうな気がする。
この人に秘密を洩らしてはいけない。
コッチはオレのジョブレベルが広く知られたら確実に厄介なことになるってマーサさんとファブロフ爺さんに太鼓判押されているのだ。
そんな簡単に言い触らす人には見えないが、噂好きの人は人と話すのが好きな人でもある。用心しておいた方が良いだろう。
「テツさん、どうかなされましたか?」
「え、あ、すいません。ちょっと考え事してました」
「もう、女性といる時にボーっとしちゃダメですよ?」
ここで『あなたの事について考えて考えていました』とか言ったらどんな反応するのかな。美人な人だし、きっと面白いリアクションが返ってくるはず。
そんな現実逃避するオレだが、この現状ではティーリアさんの忠告に頷くしかない。
「次からは気を付けるようにします」
余計な事は言わないように……ね。
「ハア、掲示板行って依頼探そう」
こうして嫌な予感で一杯のオレは、不吉な予感を振り切るようにCランク用の掲示板を覗くことになったのだった。
ちなみ にティーリアさんとは依頼主用のカウンターの前で別れている。
本人いわく『私の事は気にしないでいいですよ』との事だ。多分本人は自分の予想斜め上な形でオレに気にされている事を分かってはいないのだろう。
恐ろしい子。本当に恐ろしい子である。
「それにしても依頼の量が思った以上に多いな」
間近で見るまで実感が湧かなかったが、でかいでかいと思っていた掲示板は、予想以上にでかい。またそれに比例してかなりの数の依頼が張り出されている。
掲示板と言うよりも壁に掲示物が貼られているみたいだ。
「壁一面中紙、紙、紙。一体どこから見ればいいんだか」
こう言う時に1人だとキツイ。
ついガイドとかアシスタント的な人が欲しくなる。
「気の良い職員さんとかが困ってるのを察して助けてくれたら楽なんだけどな」
と、そう思った瞬間だった。
ポンッという音と共に肩に感じる手の重み。誰かがオレの肩を叩いたらしい。
あわてて振り返ってみれば、そこには昨日声を掛けそこなった全身鎧でフルフェイスメットの人が立っていた。
このタイミングでこの対応。もしかして手伝ってくれるという事なのだろうか?
思っただけでヘルプが来る。これがご都合主義、もといチートの力という事か。
オレがおかしな方向に感動する中、Mrフルフェイス(名付けた)はその兜を取ってその素顔を見せる。
きっと初対面相手に兜姿では威圧感を与えるだけだと判断したのだろう。すばらしい行動選択だ。
出てきた素顔はちょっとガラの悪そうなヒューマンの男性。威圧感に大した変化はない。しかし、しかし何となく兄貴って感じのオーラが出ている気もしなくはない。気がする。
うん、もう兄貴でいいだろう。
そして兄貴は自らをサムズアップに指さしながら、息を深く吸いこう言った。
「オイ、ガキィ。テメェさっき俺様のティーリアさんと仲良さげに話してやがったなぁ。お前ら一体どういう関係だぁ?」
「……見損なったよ兄貴」
何がこのタイミングでこの対応。何がご都合主義。
都合が悪いににもほどがある。
「おぉい、人の話聞いてんのかコラァ!」
「あーハイハイ、聞いてます聞いてます」
仕方ない、何とかして切り抜けるか。
「えーと、一応室温なんですけどあなたティーリアさんとはどういうご関係で?」
さっき散々持ち上げたオレが言うのもなんだが、お似合いには程遠いと思う。言っちゃあ悪いが性格もろくでもない感じだ。
そしてMrフルフェイスはそんなオレの印象を裏付けるかのように断言する。
「おう、話したことも無いがコレでも未来の恋人だぁ!」
「また清々しく言い切りやがりましたねー」
すっげえ、この人話したことない時点でせいぜい顔見知りなのに『おう』とか言いやがったよ。
きっとこのMrフルフェイス(戻した)はティーリアさん狙いの……何なんだろう。
本人のいない所を見計らって絡んで来る所が地味に女々しい。
「それで結局の所どうなんだコラァ、あんな楽しそうにしやがってよぉ。まさか付き合ってんのかぁ!?」
「しかも要件はソレですか」
どうやらさっきのやり取りがオレとティーリアさんが楽しく話してるように見えたらしい。
コッチは『ドキッ♪地獄の異世界生活!! オレの馬車馬日記』的な何かが始まるかもしれない瀬戸際だったというのにだ。まあアッチが楽しそうだったのは認めるけどいい気なものである。
とにかく誤解を解く事にしようか。
「言っときますけどオレとティーリアさんはただの知り合いで、困ってたオレを見かねて助けてくれただけですから」
「ハア? そんなモン信じられるわけねえだろうがぁ」
「じゃあ何で聞いたんだ!」
それじゃあ会話する意味がないじゃないか。
何にせよMrフルフェイスはこっちの話を聞く気が全く無いらしい。
「とにかく面貸せやコラァ、ギッタンギッタンにしてやるからよぅ!」
怒りたいけど何か怒る気になれないという絶妙な言葉選びでケンカを売って来る。
難しい。
こういう時は何て言い返せばいいんだろう? やめろよ? ふざけんな?
何を言えばいいのか見当もつかない。
「……こういう時って何て言うのが正解なんですかね?」
気が付いた時には質問をしていた。
「っテッメェ、ナメてんじゃねえぞコラァッ!」
どうやらオレの質問は挑発と受け取られたらしい。
顔を真っ赤にしたMrフルフェイスがオレを殴り飛ばそうと拳を振り上げる。
「死ねやぁ!!」
風を切り鳴り響くMrフルフェイスの鉄腕。
そしてここから先はあっという間。一瞬の出来事だった。
持っていた兜を捨てて勢いよく殴りかかって来るMrフルフェイス。
どうせテレフォンだろうというオレの予想を裏切る、腰の入ったちゃんとしたパンチがオレの顔面に向かって伸びてくる。
そのパンチを目で追えている自分に驚きながらも、とりあえず身構えるオレ。
そして飛び込んでくる光の弾丸。
ん? 光の弾丸が何かって? そんな事は知らん。けどバレーボールくらいの大きさの何かが恐ろしい速度で飛んで来たんだ。
そしてその光の弾丸がMrフルフェイスの横っ面に直撃した。
「おぶぁっ!!」
真横からの不意打ちを喰らったMrフルフェイスは、回転しながら3バウンドして床の上を滑ると掲示板に激突。顔に似合わないアクロバティックな動きで周りの注目を集めた後、あっという間に赤い液体を垂れ流す障害物に変身を遂げた。
神業だ。
念のため棒読みで「生きてるー?」と聞くとピクピクとした反応だけが返ってくる。
半殺しどころか9割がた死んでるんじゃないだろうか? まあここは異世界。元の世界なら即救急車だが、ここなら治療系のスキルを持った人がいるだろう。死にはしないはずだ。
オレはそう思いつつ、せめてもの供養として近くに落ちてた兜を後頭部に乗っけておく。
「かわいそうなMrフルフェイス」
彼の敗因はMrフルフェイスなのに兜を脱いだ事だろう。
Mrフルフェイスなのに。
「しっかしさっきのは一体何だったんだ?」
あの光の弾丸。あんな高い威力の魔法(?)がギルドの中で撃たれるなんて怖すぎるだろ。
さすがはファンタジーな異世界というべきなのか。治安の維持方法は凶悪なようだった。
「てか待てよ。高い威力、つまり大きなダメージ……大ダメージ?」
何となく予感がして光の弾丸が飛んで来た方向を振り返ってみると、案の定と言うべきか[神殿秘蔵のワンド]を持った神官がオレに向かって手を振ってくるのが見える。
「テツさーん、お怪我はありませんでしたかー?」
まるで悪者をやっつけたヒーローのような正義感と達成感が見て取れる大振りな挙動。
「ティーリアさん……」
あの光の弾丸をぶっ放したのはやっぱりアンタですか。
途中から気づいてはいたものの、どこか力の抜けるようなオチにオレは思わず苦笑してしまうのだった。
それにしてもリアクションに困る。
苦笑するオレとは対照的、コッチに駆け寄ってくるティーリアさんは何処からどう見ても満面の笑みだ。『私やり遂げましたっ!』って言いたそうな顔をしている。
「えーと、ずいぶんうれしそうですね」
「ハイ! この人私と話した男の人にいちいち絡んでいて、とっても迷惑してたんです。退治できて本当によかった」
聞こえたかいMrフルフェイス。今退治って言ったよ。
オレはギルドの職員によって運ばれていくMrフルフェイスに思わず黙祷を捧げる。
どうか安らかに眠っていてほしいものだ。
そして何事も無かったかのように会話は再開された。
「それで良い依頼は見つかりましたか?」
「あー、それが邪魔が入ったせいで全然探せてないんですよ」
「安心してください。そうだろうと思って職員さんに[ゴラムーニョ]関係のオススメな依頼を聞いておきましたから」
「え、本当ですか?」
さすがティーリアさんだ、頼りになる。でも『そうだろうと思って』ってどういう意味なんだろう。
言葉道理に取ったら駄目人間に見られてるみたいだし、絡まれて探せなかった事を言ってるならソレはソレでひどい気もする。
まさか自分と話した人に絡むMrフルフェイスを現行犯で処分するために、オレを囮にしたのだろうか?
いや、きっとこれは世の中にある触れてはいけない事の1つなんだ。
「うん、切り替えよう」
今は依頼の方が大事……だ。
「あ、これですね。これがオススメらしいですよ」
そんなオレの微妙な内心には気づかないティーリアさんが指をさしたのは、『その他』の掲示板にある1枚の依頼書だ。
さっそく取って内容を確かめてみる。
『 「今こそ乗り越える時No483」
いいかげんトラウマナンバー483、[ゴラムーニョ]との決着を着けようと思う。
しかしヤツの住む[アルカの森]には群れで行動するモンスターが多く、僕1人で挑むのは正直無謀だ。
そこで一緒に戦ってくれる仲間を募集したい。
条件はランクC以上。気が向いた人がいたらよろしく頼む。
依頼主 トラウン 』
「……何ですかコレ?」
またずいぶんと濃さそうな依頼人だ。それに依頼の名前の隣にあるNo483という数字は何だ?
トラウマナンバーって事はまさかこの数字は今まで手に入れてきた(?)トラウマの数なのだろうか。
「会ってみたいような関わりたくないような」
何て言うか、すごいが嫌な所で悩む依頼だ。
「ああ、そういえばテツさんはこの街に来たばかりでしたね。この依頼主のトラウンさんという方はこの街で有名なヒューマンの男性で、Bランク冒険者の方です」
「へー、そうなんですか。所で、このトラウマナンバーっていうのは何なんです?」
プロフィールは良いからコッチを教えて欲しい。
「それがこのトラウンさん。その、少々運が悪い方でして、幼いころから大なり小なり、ありとあらゆる様々な心の傷を作ってきたそうなんです。このトラウマナンバーというのは恐らく依頼として人の手を借りねば乗り越えられない類の483番目のトラウマという事だと思いますよ」
それはまた凄い人だ。どう解釈しても少々なんてレベルの運の悪さじゃない。
それに依頼としてって事は多分依頼にならなかったトラウマもたくさんあるという事のはずだ。
「すごいアンラッキー体質ですね」
このコメントにはティーリアさんも笑うのみだった。
「でも町の人からの人気は高いんですよ。『トラウマおじさん』の愛称で色んな人から親しまれてますし」
「それむしろダメなんじゃ……」
やっとの思いでひねり出しだフォローなのだとは思うが、愛称なのに若干イジメが入ってる気がする。
そしてオレの言葉を聞いたティーリアさんは遠い昔を思出だすようにこう言った。
「否定は……できませんね」
ああ、そういう事か。
オレはティーリアさんの反応を見て確信する。
きっとこの愛称も1度トラウマになったのだろう。と。
ども、谷口ユウキです(-_-)/
何とお気に入り件数が三ケタを超えました!!
というコメントが修正前のこの話の後書きにありました。
なつかしい。
そして気づく。昔の後書きコメントが今見ると結構ハズイ。
これが感想でもらった黒歴史云々なのか……。