マシュー
特になしです。
彼の本名はマシューと言った。ファミリネームも教えてもらいたかったけどファミリネームはお前が一人前になってからだ、と教えてもらえなかった。一人前といわれても彼の一人前の基準はわからないし、それに私は剣をかじっていたというだけど、そんなに稽古も受けていなかったのだからどれほど先になるのか分からない。つまりは諦めろという意味なのだろうか? なんとなく、心残りがあるな
そんなことを思いながら私――メイルは彼が住む屋敷の話を聞いていた。これから住んで行く屋敷だ、どんな外装・内装をしているのだろう。
そう思いながら龍に乗せられ、鋭い風を受けながらマシューの話を聞く。
「今まで私と龍二匹だけで住んでいた屋敷だ。少々せまくなるかもしれん」
「え? 龍、二匹いるんですか?」
「気付かなかったか? 言っておくが、お前は私の龍を既に両方見たんだぞ?」
「嘘……。」
まったくの瓜二つだった。やはり、長年(?)付き添っているとその違いが分かるのだろうか。例えば、雰囲気とか僅かな匂いとかで。私も、昔飼っていた犬でそんな経験があった。確かにいくら似ていても其の犬が生まれたときから見ているのだからなんとなく、経験で分かったりした。それを、この男は経験で理解しているのか?
「私を最初に乗せてきた龍は鳴き声がこちらより高い。それによくよく見るとこちらの龍は歯に『K』と記してある。これはコイツの名前のイニシャルだ」
その予想は呆気なく散ったようだ。
鳴き声と、歯。今度からそれで見分ければいいのだと私は頭の隅で把握した。
じゃあ、今度もう片方の龍と見比べてみよう。何か面白い発見でもするかもしれないし。
くすりとなんとなく笑うと龍が低い咆哮をあげて、急降下していった
「わわっ」
吃驚した私は、急いでマシューにしがみつく。マシューはいきなりのことに驚きもせず、平然に、何にもつかまらずに目閉じ、腕を組んでいる。なんで落ちないのだろうか、そんな疑問が生まれたががくんとこれまた急停止した反動に驚き、それは何処かへ吹き飛んでいってしまった。
目の前に広がるは、映画で見たような大豪邸と綺麗に世話された薔薇の園だった。
「う、わぁ……」
時が止まっているような綺麗な敷地。本当にこれが戦場の伝説の屋敷なのだろうか?
イメージとは百八十度違った。薔薇だって、比較的白が多い。クリムゾンには似合わないなぁ。
「何をボケッとしている。早く来い」
「はーい」
クリムゾンさん、貴方のイメージ今日ですごく変わるかもしれません。
屋敷の中も綺麗だった。床に敷き詰められた大理石が歩くたびに耳に心地いい音を鳴らす。綺麗な白で埋め尽くされた壁は汚れ一つない。そして、何より目をひきつけられたのは屋敷に入ってすぐに見える大きな大きな絵画だった。優しい女の人の微笑みと屈強な男の嘲り。正反対の二つが並べて飾られていた。優しい女の人の絵画は勿論だが、屈強な男の絵も何処か美しいと思える要素があった。それが何なのかは正確にはわからないが、何処か……。
「案外、綺麗好きなんですか?」
「案外とか心外だな。私はそんなに汚れたイメージか?」
「噂に聞いたのじゃ、誰でもそう思いますよ」
「成る程、私の噂はよくは聞いておらんかったが、そんな内容なのだな」
「まぁ……あはは。」
ヤバい。マシューは黒い笑みは浮かべて立ち止まった。背後には黒いオーラが見える
「あっ……でも」
「あははははははっ!」
「はい?」
慌ててフォローしようとするといきなりマシューは笑い出した。その不思議な光景に私は思わず腑抜けた声を出してしまった。
「そうか、なかなか人間というのも面白い。」
にやり。
やはり、良く分からない人だ。
何ぞ、これ