平和破棄Ⅱ
彼女達は伝説といわれる龍に眼を引かれていたのではない。かと言って、彼に見惚れているのではない。
そう、目を離そうとしても不可能なのだ。その恐怖ゆえに刻み付けられた姿、その姿を見ていなければいけない。そう暗示がかかってしまう。白髪に見える銀髪のそれは龍の羽根によって起きた風に靡き、その鋭くはなく緩やかでもない紅の目は何処を見ているのかも何を考えているのかも分からなくさせてしまう。
「そこの少女。我が見えぬか? 我は存在する故怯えは必要不可欠となる。そう、其処の少年のようにな」
彼が指差す先にはイルナ。怯え、震え、言も発せないほどに怯えきったイルナであった。
「あっ……う――」彼は目を見開いて言葉にもならない声を出す。
そして、一言叫んだ。
「クっ……リムゾン!」
ところで、人間が完全に怯えるとどうなるか。知っている人間はいるのだろうか?
それは、誰も解明はできないだろう。怯える人間の限界などないのだから。
それは勿論、メイルも理解していた。だけど、その光景は本当の人間の恐怖を見たような物だった。自分の腕をかきむしる。力強く、素早く。
つぅ、と赤い血が彼の腕を通る。痛みを忘れたかのようにその行動を繰り返す。肉、最後には骨までも、見えてきたではないか。
「やっ……やめて。イルナ」
彼女はイルナを止めようと腕を掴む、するといるなは人が変わったようにニイッと笑い、こう囁いた。
「人の上に人を作らず。彼はそうなんだ。壮大すぎて…………あはっ、あははははははははっ!」
その笑いは何処か、叫びにも聞こえた。SOSの
「さぁ、彼のように少女も怯えるがいい。我の前で」
その目に欲など無い。必ず……叶うと心の中で決めてしまっているから。