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魔法のクッキー

作者: WAIai
掲載日:2026/10/21

桜沢理はオープンの中を覗いていた。

「ーよし出来上がった」

ミトンをし、オーブンから鉄板を出すと、面白い形をしたクッキーが出てきた。

何と唇の形をしているのである。

理は一つ摘み、キスすると微笑む。

「魔法のクッキーの出来上がりと」

予熱を冷まして置くために、調理台に置いておくと、その前に焼いたクッキーが冷めていたので、ラッピングする。

「リボンの色はピンクと青色」

器用に包んでいき、店頭に並べる。

するともうお客様が待っていた。

不定期にやっているので、理はびっくりしたが、待ってもらえるだけ、ありがたかった。

ー人の噂は良くも悪くも、すぐ広がる。

理は冷静に対応しようと声をかける。

「いらっしゃいませ。出来立てですよ」

相手は可愛らしい女性で、財布を両手で持ち、恥ずかしそうにしている。

それというのも、理は自覚がないのだが、モデルでもいいようなかっこいい姿で、長身だった。

狭い店内なので、たまに頭をぶつけたりするのだが、手広くやるつもりはなかった。

ー自分1人でやれるだけ、十分。

お金を儲けようとか、そういう利益目的ではなかった。

理が見ている前で、女性は心を決めたのか、口を開く。

「クッキーをください」

「はい。うちのクッキーのことはご存じで?」

女性は頬を染めながら、言ってくる。

「食べると両想いになるとか。あと渡した相手の声が聞こえるとか」

「正解です。不思議でしょう?」

理は優しそうに笑うと、女性は意を決したように、身を乗り出してくる。

「1つ食べさせてもらえませんか? 本当かどうか分からなくて」

「分かりました。特別ですよ」

袋を開けて1つ取り出すと、女性は形を楽しむ。

「本当に唇の形をしているんですね。しかも柔らかい」

「本当の唇みたいでしょう?」

「そうですね。いただきます」

女性が恐る恐る口にすると、すぐに笑顔となる。

「美味しい!! 卵の濃厚な味とバターの旨味、ああ、一度食べたら、たくさん食べたくなる」

「ありがとうございます。すぐ効果が表れますよ」

「え?」

女性が驚いていると、喉にもう一つ唇ができ、勝手に喋り始める。

「私、生田あすか。21歳」

「え…」

勝手に喋り始めた唇にびっくりし、喉に手を当てる。すると柔らかな感触に、開いた歯の形が認められ、あすかはうろたえる。

しかし、理はふふと笑うのだった。

「あすかさん、好きな人の名前は?」

「阿藤正くん。1つ年下でも、しっかりしていて、顔がかっこいいの」

「え、え」

困っているのはあすかだけで、理はじっと見つめている。

「正くん、大好き!! 私と付き合って」

「きゃあ!! わ、私…!!」

「もう届いたと思いますよ。だから言ったでしょう、魔法のクッキーだって」

「だ、大丈夫なんでしょうか?」

「さあ? あとは自分次第です。運命を引き寄せるのも、放っておくのも」

「運命…。あ、止まった」

あすかが喉に触れ、平らなのを確認する。

ほっと安堵の息を吐き出すあすかに、理はアドバイスする。

「うちの特徴として、あまり長くは喋られないんですよ。人の心を暴くのも失礼ですから」

「…なるほど。あれスマホが」

あすかは頭を下げると、スマホを取る。

すると相手は今、告白した正らしい。

顔が真っ赤になっていくのが、伝わってくる。

それを理は楽しそうに見つつ、クッキーの袋の封をしていく。

「本当!? 私のことが好きだって、あの、その!!」

「良かったですね。あとは2人で決めていきましょう。他人が入る問題じゃない」

理はぴしゃりと言うと、あすかがもじもじとしつつ、財布からお金を出す。

「お客様1人につき、1つまでです。大量に売っても困りますし」

「はい、お金」

「ありがとうございます」

理はお札にキスすると、レジを構い、お釣りとクッキーを渡す。

「大事に使ってください。恥ずかしいとか、困った時に使うといいですよ」

「分かりました。頑張ってみます」

「はい。それではまた会いましょう」

あすかは綺麗にお辞儀すると、去っていく。

それを見届けてから、理は独りごちる。

「人間だけだからな、嘘をつくのは。嘘をつけないように作ったんだけど、評判が広がるのも早いものだ」

腰に手を当て、春の柔らかな日差しに目を向ける。

「今日は暖かいから、身体の調子もいい。うーん、快調!!」

腕を伸ばすと、理は窓口を閉めたのだった。

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