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洞窟の中でニコラが目覚めてから初めて、温かい料理で二人は腹を満たすことにした。
「こういう時、本当にこのポーチがあってよかったと思うよ。食糧があって助かった」
道中に狩りをして解体していた肉や、町に寄った時に買い足していた野菜たちがニコラたちの命を繋いでくれている。ニコラが何か料理を作ろうかと模索していると「主が作った、あのスープが飲みたいです」とラウロからリクエストされた。
「クリームスープ?」
「はい。あれの味が忘れられなくて」
「そんなに気に入ってくれたの? 材料はあるし、食べられるなら作ろうかな」
まさか、ニコラが作ったスープをラウロが気に入ってくれているとは思っていなかった。味は悪くなかったが、どこにでもある普通のスープだったのに。ただ、ラウロがまた食べたいと言ってくれたことが、ニコラは素直に嬉しかった。
「――やっぱり、このスープは美味しい。体の芯から温まります」
「本当? それならよかった……傷に障るから、体を冷やさないようにしないと」
ポーチの中に予備で入っていた服を着せ、ラウロの体に毛布を巻き付けているニコラを見ながら、彼はくすりと小さく笑った。
「なに?」
「いえ……いつもと逆だなと思って」
ラウロの言うように、いつもならニコラのほうが世話を焼かれている立場だ。ラウロがもともとそういう性格なのか、ニコラが主人だからなのか分からないが、最初からニコラも自然と彼の言うことや行動を受け入れていた。冷静に考えると、ニコラのほうが年上なので、今までのほうが変な状況だったのかもしれない。
「でも、僕のほうが年上なんだから……お世話くらいできるよ」
「ふ、そうですね」
「あー! 馬鹿にしてる?」
「してません。ただ、新鮮でいいなと思っただけです」
「本当かなぁ」
くすくす笑っているラウロの顔色がよくなってきて、ニコラは密かに安堵した。夕飯の片付けを終えて眠る準備をしていると、ラウロが何か言いたげにニコラを見つめていることに気がついた。
「どうかした?」
「いえ、あの……できれば側で眠ってもらえると、嬉しいのですが」
「そ、側で?」
「毛布を独占するわけにはいかないですし、くっついているほうが暖かいかと思いまして……」
川で濡れたローブが乾いていたので、ニコラはそれを毛布代わりにしようと思っていた。でも、ラウロがどことなく寂しそうな顔をしているものだから、ドキドキと脈打つ心臓を抑えながらニコラは彼の元に近づいた。
「えっと……じゃあ……」
「わがままを言ってすみません。ありがとうございます」
ラウロに背を向けるようにして横になると、後ろから抱きしめられた。ニコラの心臓がドッと一際大きく跳ね、じわじわと体が熱くなっていく。それを知ってか知らずか、ラウロは「はぁ……安心する……」と呟いた。
「……主が年上の人が好みなのが分かるような気がします」
「え?」
「包容力のある人が、って。この前の夜に言っていたでしょう?」
「あ、あれは、エルネスの話なだけであって……! 別に年齢は関係ない、よ……」
守護契約を結ぶために性行為をした時にも、ラウロは『エルネス』を演じようとしていた。ニコラの好みは年上なのかと何度か聞かれたが、改めて考えてみると違うような気もする。
極端なことを言うとニコラは愛に飢えていて、第二性や家柄などで判断しない『ニコラ・リンメロ』を受け入れてくれる人が理想の相手なのだ。そんなふうに受け入れてくれる人は包容力のある人で、気持ちに余裕がありそうな年上なのかな、というイメージだっただけである。
でもラウロと出会い、自分のことを受け入れてくれる人は必ずしも年上ではない、と感じた。大事なのは年齢ではなく、性格などの相性だと分かったのだ。




