5
それから移動した二人は、緊張した面持ちで国境を越えていた。
「顔を見られないように、できるだけ深くフードを被ってください。俺の後ろから離れないように」
「うん、分かった」
国境警備隊の目を欺き、エルフが住まうカルテア小国のとある町に侵入した二人は、できるだけ息を殺して町中を散策した。
「……ラウロ、あれ……」
町に入ってすぐに見つけた張り紙に、ニコラは思わず立ち止まってラウロの腕を引いた。
「懸賞金、ですか」
張り紙にはニコラの似顔絵が描かれていた。髪の毛や瞳の色の特徴や、失踪した時の服などの情報が細かく書かれてある。
【ニコラ・リンメロ 生きたままリンメロ王国またはウルガル帝国へ連れてきた者に懸賞金として金貨百枚】という張り紙にニコラは唖然とした。懸賞金を出してまで、犯罪者のように探されていることに驚いたのだ。
そしてその隣には【犯罪者 見かけたら即刻殺し、首を持参するように】という文言と一緒に、どことなくラウロと似ているような手配書が貼られていた。
「なぁ、あれって……」
立ち止まって張り紙を見ていたニコラたちを遠巻きに見ている男たちが、コソコソと何か話していた。それに気がついたラウロがニコラの手を握り「エルフの作る妖精の粉を手に入れましょう」と言って、早足に歩き出した。
「妖精の粉ってなに!?」
「一定時間、姿形を変えられる魔法の粉です。エルフの地に生息している妖精からしか作られない粉で、どこかに売られているはず――」
ラウロの魔法をもってしても、人の外見まで変えられないらしい。二人は妖精の粉を入手するため、この町の商会に行って話を聞こうとしたのだが、惜しくもそれは阻まれた。
「お兄さん方、少しお話をいいでしょうか?」
物腰柔らかい口調のエルフの男性が二人の行手を阻み、優しい笑みを浮かべている。ただ、二人は前も後も囲まれてしまい、簡単には逃げられなくなった。
「通行証はございますか? または、国境警備隊に支払った証明書などをご提示ください」
「なぜですか?」
「それがですね……とある方を探しておりまして。あなたの後ろにおられる方と似てらっしゃるので、確認したいだけなんです」
――確実に、バレている。
エルフの男はにんまりと微笑んでいるが、切れ長の瞳は笑っていない。ニコラはラウロのローブを掴んでいることしかできず、これからどうしたらいいのか解決策を練ってみるも、咄嗟に良い案は浮かんでこなかった。
「……主、俺に抱きついてください」
「えっ?」
「移動魔法を使います。取り残されないように、しっかり捕まっててください!」
ラウロの言葉を理解するより前に、本能的にニコラは動いた。ラウロにきつく抱きつくと、瞬時に辺りの景色が緑色に包まれる。町のすぐ外にある森に移動したようだが「逃がさないぞ!」という男たちの声が聞こえてきたので、遠くには逃げられていないようだった。
「移動魔法は近距離でしか使えないんです、捕まって!」
「は、はいっ!」
ラウロはニコラを横抱きし、森の中を駆ける。だが、エルフたちにだんだんと距離を詰められているように感じた。
「エルフは人間よりも足が速い。どこかに隠れない限り、追いつかれるのは時間の問題で――」
開けた場所に出たかと思えば、崖だった。その下には川が見えて、さすがのラウロも息を飲んだのが分かる。どうするべきか二人が迷っていると、森の中から数人のエルフが姿を現した。
「私たちのように不死身でもないただの人間が、まさか飛び降りる気ではあるまいな?」
先ほど声をかけてきたエルフが馬鹿にしたように笑う。彼らはじりじりと二人に寄ってきて、弓を構えているエルフが指を離した、その瞬間。
「――主。俺を信じてください」
そんな声と共に、ニコラの世界はひっくり返った。




