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熱が引くのを待っているといつの間にか眠っていて、起きた時にもまだラウロから抱きしめられている状態でニコラは目が覚めた。
「わ、わっ……!」
「ん……起きましたか?」
「ご、ごめんっ! 一晩中抱きついてた……!」
頭がすっきりしているので、自分が昨晩なにをしでかしたのか思い出したニコラは慌ててラウロから離れた。ニコラの慌てる様子を見ながら「そんなに急がなくても……」とラウロは苦笑する。別の意味で心臓がバクバクしていて、ニコラは羞恥に頬を染めた。
「とにかく、ごめん……あんなことになったの、初めてで……」
「謝らないでください。発情期がきたほうが正常だと思いますし、抑制剤が効いてよかったです」
ラウロからそう言われ、ニコラはやっと自分の体の変化に気がついた。
「そういえば、昨晩みたいな熱っぽさが全然ない……」
「フェロモンも落ち着いてますし、俺のほうも薬が効きました。おおごとにならなくて安心しましたね」
「迷惑かけてごめんなさい、本当に……」
熱が引いたのと一緒に、記憶もなくなってほしかったものだ。ラウロに対して抱きしめてほしいとかキスをしてほしいと懇願した挙句、うなじを噛んでほしいとまで言ってしまった昨晩の自分を殴りたくなる。
さすがにラウロから気持ち悪がられただろうなと肩を落とすニコラの手を、ラウロはそっと取って手の甲に口付けた。
「な、なにっ?」
「……主には、この世界中の誰よりも幸せになってほしいと願っています」
「え?」
「だから、あなたを大切にしたいのです。勢いに任せて傷をつけるのではなく、慈しみたい――それが今の俺の気持ちです」
「ラウロ……?」
手の甲に口付けたラウロの唇は、今度はニコラの手のひらに押し付けられ、最後は紋章がある手首へ触れた。チラリとラウロが見上げると、ニコラは胸がきゅうっと締め付けられた。
「……体に負担をかけず、ゆっくり進みましょうか」
「ゆっくり……?」
「あと二、三日もすれば次の国の国境付近に着きます。そこで一度、リンメロ王国の情報収集をしたほうがよさそうですね」
「あ、ああ、そっちの話……!」
――恥ずかしい勘違いをしてしまった。
ゆっくり進む、というのが自分たちの関係のことかと思ってしまったのだ。どうやらニコラの頭はまだ、昨晩の熱が残っているらしい。冷たい水を飲んで熱を覚まし、余計なことは考えないように邪念を追い払った。
「……失踪の噂は出てたけど、兄上たちはそんなに必死に探さないと思う」
「主がただの結婚を逃げ出しただけならそうかもしれませんが、ウルガルとの同盟の証としての結婚です。同盟の話がなかったことになればリンメロ王国にも火の粉が降りかかる……きっと血眼で探してますよ」
確かにラウロの言う通りだ。同盟の話がなかったことになれば、恐ろしいことになるのは分かっている――この件に関してはなんの非もない国民を危険に晒すことになるのかと、ニコラは今さら自分の行いに迷いが生じた。
「……民のために自分を犠牲にしようと思うのは美しいですが、あなたの意思ではないことを思い出してください、主。あなたはあの地下牢で逃げたいと願った――それが全てです。自分の気持ちに素直でいてください」
「ラウロ……」
「民のことを思うのなら、国王がきちんと行動するはずです。王子でオメガだからといって、道具でいる必要はないんですよ」
ラウロは出会った時から、ニコラを正しい道に戻そうとしてくれている。彼の言葉はどれも重みがあって、けれどスッとニコラの中に入ってくるほどシンプルで清らかな言葉だ。ニコラが迷った時に『こっちだよ』と手を引いてくれるような、そんな温かさをラウロの言葉や行動から感じる。やはり、ラウロを信じたのは間違いではなかったのだと思わせてくれた。




