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フレンチスフレパンケーキ ( 1 )

今日は僕の18歳の誕生日です。夜はいつも創作意欲が湧いてくるので、睡眠時間を削ってこの章を書き上げました。

朝の最初の陽光が、僕の顔を照らしている。

「おはよう、浅村さん」

「おはよう、藤原さん」

ドアの外には、ゆったりとしたTシャツを着た藤原さんが、両手を前で重ねて立っている。僕はと言えば、パジャマ姿のまま、目をこすりながらあくびをしていた。

彼女の口元が、ぴくりと引きつった。

「浅村さん…昨日の夜、寝てないんですか?」

「いや、寝たよ。明け方にね。はぁ——それにしても、まだ六時過ぎだろ?何か用事?」

「うん。今日はまず野菜をいくつか買って、家に帰ってから昨日買ったお肉を処理しようと思って。でも、気づいたらまた買いすぎちゃいそうだから、浅村さんに声をかけてほしくて。それに、野菜って時間が経つと傷んじゃうから、お店が開いたばかりの朝一番に買うのが一番品質がいいの。そうだ、昨日見ておいたんだけど、近くの八百屋さんは六時半に開くから、今から出れば開店直後に間に合うと思うんだ。どうかな?」

「あぁ…そうなのか。八百屋さんって、そんなに早く開くんだな」

「え?浅村さん、知らなかったの?」

「僕は基本的に、買いたいと思った時に家を出るだけだから。そんなに早起きして開店時間を観察したりはしないし」

「そうなんだ…」

空気が二秒ほど沈黙した。

「それで…」

「嫌だ」

「ええっ!?」

相手の顔に、驚きの表情が浮かんだ。

「眠いんだよ。それに、朝ごはんもまだだし。就算僕が行く気になったとしても、身支度と朝食の準備に時間がかかるから、六時半には着かないだろ」

それに、冗談だろ?こんな時間に家を出て、少しも疲れた様子がないなんて。彼女、本当に僕と同い年なのか?

「大丈夫。浅村さんが低血圧なのは知ってるから、そのために朝ごはんを少し多めに作っておいたの。それと同時に、あなたが急いで身支度を済ませてくれれば、そんなに遅くはならないわ」

「そんなに僕と一緒に行きたいのか」

「そんなに私を手伝いたくないの?」

この人、相手が従わざるを得ないようなことを言うのが、結構うまいな。でも、そうされると余計に反感を覚えてしまう。

でも、本当にこんなに早く出かけたくないんだ——

天気は暑いし、眠いし、もし道端で倒れたらどうするんだ…なんて、冗談だけど。さすがに倒れはしないか。

「わかった。こんなに早くにごめんね」

そう言うと、藤原さんはくるりと踵を返し、階段の方へ歩いて行った。

周りが再び静けさを取り戻す。

僕はドアを閉めて、そのまま終わりにするべきだった。でも…

今の「ごめんね」って、どういう意味だ?彼女、傷ついたかな?それとも、気まずく思ったかな?確かに些細なことではあるけれど、彼女が助けを必要としている時に助けなければ、母さんと藤原おばさんから託されたこの役目というか、期待を裏切ることになるんじゃないか?言い換えれば、彼女の目に映る僕は、些細なことさえ手伝おうとしないなら、もっと大事なことは頼れない、ということになるのでは?

だめだ。絶対にそんな風に思われてはならない。

「待って!わかったよ、一緒に行く」

相手は去っていく足を止め、振り返って僕を見た。

「本当?」

「本当だって」

彼女の顔に、得意げな笑みが浮かんだ。

「浅村さんがそういう人じゃないって、わかってた」

はぁ…。

本当に、敵わないな。



藤原さんはソファに座り、きょろきょろと辺りを見回している。

「浅村さんのお家、すごく綺麗にしてるね」

「まあね。一日中特に何もすることがないから、綺麗なだけだよ」

僕は紅茶の入ったカップを彼女の前に置き、洗面所の方へ歩いて行った。

見られてまずいものはないはずだ。そう思いながら、僕は途中で辺りをさっと見回し、異常がないことを確認してから洗面所に入った。

身支度を終え、洗顔タオルをラックに掛けて、洗面所を出る。

ソファに座る藤原さんに頷く。特に意味はないが、彼女を無視するよりはましな気がしたからだ。そして、そばにある食卓の椅子に腰掛けた。

「それじゃあ、いただくか…ん?」

皿の上に置かれているのは、藤原さんが作ったマッ…いや、違う。

皿には同じ大きさのパンケーキが三枚重ねになっており、見た目は普通のパンケーキより少し小ぶりだが、より厚みがあってふわふわだ。一番上のパンケーキの中央にはホイップクリームが塗られ、そこからメープルシロップが流れ落ちている。脇には付け合わせとしてブルーベリーとスライスされたバナナが少し添えられており、深色の皿が中身の鮮やかさを一層引き立てていた。

こうして、デザート店で高値がつくような一皿のスフレパンケーキが、僕の目の前に現れた。

「フレンチスフレパンケーキだよ」

「ま、まさかこれが、ついでに少し多めに作ったっていう朝食?」

「うん」

マジか。こんなに完璧に作れるなんて、信じられない。もしかして、ソファにいる彼女は、実は料理界の天才なのか?

僕はそばにあるフォークを手に取った。柔らかいパンケーキは、フォークを押し込むわずかな力だけで簡単に切れ、その内部には密集した気泡に満ちた、マシュマロのようにふわふわなメレンゲの生地が現れた。

歯を使うまでもない。舌で軽く押しつぶすだけで、濃厚なミルクの香りと軽やかな食感が口の中に爆発する。

これほど完璧なフレンチスフレパンケーキを作るには、メレンゲの泡立て、混ぜ合わせる技術、そして火加減のコントロール、その全てに極めて高い技術が要求される。一度でも泡が潰れれば完全に失敗だ。低温でじっくりと焼き、中まで火を通しつつ外側を焦がさないようにしながら、ふわふわの高さを維持しなければならない。どんな工程のミスも、生地が潰れてただのホットケーキになる原因となる。そのため、この料理は失敗率が非常に高く、僕ですら一度も完璧なスフレパンケーキを作れたことはなかった。

信じられない。目の前で、僕と同い年で、ソファに座って静かに僕の反応を見つめているこの少女が、家でフレンチスフレパンケーキを作れる人物だなんて。しかも、見た目も盛り付けも一流だ。

「パンケーキの糖分、炭水化物、それとタンパク質は、低血圧の人に良い影響があるから。きっと気に入ってくれると思って」

「すごすぎるだろ。なんでこんなに美味しいんだ。お金、払うべき?」

「ううん、いらないいらない。お金なんてもらうわけないでしょ」

「いや、本気で。これ、『幸せのパンケーキ』でも行列しないと買えないだろ。いや、このクオリティは、もう『幸せのパンケーキ』を超えてるかもしれない。衝撃的すぎる」

僕の反応を見て、相手は思わず笑い出した。

「でも、お金を払うっていうより、実は昔、そういう関連のチャンネルを持ってたの」

「うん?」

「料理関係のチャンネル。結構前に撮ってたんだけど、あまりプロっぽくはないけど、少なくとも作り方はわかると思う。動画の最後は、やっぱり色々あって出来上がったものがそんなに綺麗じゃなくなっちゃったんだけど、すごく興味を持ってくれたみたいだから、もしフレンチスフレパンケーキの作り方を学びたいなら——」

「え?どうして綺麗じゃなくなったんだ?」

「あ、どうしてって…一人で撮影してると、見せたり説明したりするのに時間がかかって、間違いは直せるけど、鍋の中の食べ物は待ってくれないから。だから、出来上がりはいつも普段と全然違っちゃって。最後には、これは時間の無駄だなって気づいて、それで私——」

「絶対に、良いものを撮りたいよな」

「え?」

僕は食事の手を止め、フォークを脇に置き、彼女を見た。

「こんなにすごいもの、たくさんの情熱を注いだもの、絶対にちゃんと撮って、ファンのみんなに見せたいし、友達にも自慢したいだろ。ただ記録するっていう方法のせいで、見た目や品質が損なわれるなんて、絶対に悔しいはずだ」

「え?浅村さん?」

「是非、動画の撮影を手伝わせてください。この手間のかかった食事へのお返しとかじゃなく、僕自身が、こんなに美味しいものを伝えていきたいし、君が動画の中で何の気兼ねもなく全力で実力を発揮して、みんなに認められるっていう、その誇りを味わえるようにしたいんだ!」

僕は立ち上がり、ソファの方向に向かって深々とお辞儀をした。

「何言ってるの…?」

相手が少し涙ぐんだ声で言うのが聞こえ、僕は顔を上げて彼女の方を見た。

「泣かせないでよ。浅村さんが、わけのわからないことばかり言うから」

相手は僕に背を向け、手で顔を拭っている。

またやってしまったのか、この、僕にも痛いほどわかる気持ちのせいで、興奮して。

僕も、数え切れないほど試した。でも、どうしてもパンケーキの内部のふわふわ感を保つことができなくて、最終的な完成品はやっぱりただのホットケーキだった。

でも、目の前にあるこの一皿、僕の心の中ではもう二度と超えることのできないフレンチスフレパンケーキは、彼女が僕以上に苦心し、たゆまぬ努力を重ねてきた証拠じゃないか。

心の中では、絶対に他の誰かに認めてもらいたいと思っているはずだ!

例えば、バスケットボールを愛する少年が、重病の母親の世話のために夢を追うことを諦めなければならなかったり。ダンスを愛する少女が、家庭の負担のために好きなことすべてを諦めざるを得なかったり。

様々な事情や原因のせいで、自分の実力を100%発揮できないこと。それは、誰だってものすごく悔しいはずだ。

自分の中の期待を裏切ってしまい、もっと上手くできるはずなのに人に見せることができない気持ち、やり直す気力はあっても実力が伴わない、この気持ち。動物だって共感できる。

相手がこちらに振り向こうとするのが見え、僕は再び視線を食卓と平行に戻した。

「もう、やめてください。早く座って。わかりましたから。食べ終わったら、野菜を買いに行かないと」

「ごめん、さっきは少し興奮しすぎた」

「いきなりそんなに私のことわかってくれるなんて、ずるい、ずるすぎるよ」



おかしいな。僕の部屋のドア、いつ開いたんだろう?

少しだけ開いている部屋のドアを見て、頭の中では、部屋から出てきた後にドアを開けた記憶がない。

「どうしたの、浅村さん?」

たぶん、考えすぎだろう。

僕は部屋のドアを閉め、玄関の方へ向かった。

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