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4 - 忘れられない、あの笑顔(2)

「静かだな。まだ七時なのに」


道路の両脇の街灯が前方に伸び、店の並ぶ横丁と交差している。


アパート近くの騒がしい商業エリアとは違い、ここを歩いている人々の多くは、仕事帰りのサラリーマンや、僕のように料理が面倒で、帰ったら寝るだけだからとファストフード店で簡単に済ませようとする会社員だ。少し余計に歩く必要はあるが、ここに来れば商業エリアの路上でうろつく奇妙な若者に絡まれる心配もないし、商品は何でも揃っていて、値段もまあまあ手頃だ。


高校二年の夏休み、近所をジョギングしていて偶然ここを見つけたのを覚えている。ここの店はほとんどが見た目も香りも味も良く、しかも値段も手頃で、心を動かされずにはいられなかった。そのせいで、僕の体重はそれ以来ほとんど減っていない。運動しても、結局は食べた分で元に戻ってしまうのだ。


僕はT字路で立ち止まり、道の向こう側の店を眺めながら、今夜のメインディッシュを選ぼうとした。


うーん…ピザは先週食べたし、おでんは飽きた。ハンバーガーは一昨日食べたような。ローストダックか…あまり食べないな。


道路両側の車の流れを確認した後、僕は素早く横断歩道を渡って反対側へ走った。


ローストダックを売りにする中華料理店か。懐かしいな。ガラスケースの中に吊るされたローストダックはつややかに輝き、とても食欲をそそる。


「すみません、これを一つ持ち帰りでお願いします」


「はいよ、少々お待ちくださいね」


店主はにこやかに頷き、手際よく作業した後、スライスされたダックを綺麗な箱に詰めて僕の手に渡してくれた。


まだ湯気の立つローストダックの香りが鼻を突く。この空腹の夜には、まるで無防備な迷える子羊が、ちょうど三日三晩何も食べていない虎の穴に迷い込んだかのようだ…なんだかこの例えは変だな。


「それにしても、やっぱりこういうのは冷たい飲み物と一緒にじゃないと——」


店のドアを出て、近くのコンビニを探そうと左右を見渡そうとした瞬間、隣の精肉店の前で、見覚えのある通行人と目が合った。


彼女は両手に大きな袋を一つずつ提げている。袋から突き出た葉物野菜や、袋の表面の不規則な突起から、野菜や肉類だとすぐにわかった。彼女は袋の持ち手をしっかりと握りしめ、その持ち手が肉に深く食い込んでいる。楽ではなさそうだ。


「浅村さん?」


「こんばんは」


「うん、こんばんは」


互いに頷き合って挨拶した後、二人は黙って赤信号の横断歩道の前へと歩いた。


目の前を車が走り去り、後ろの歩行者たちはそれぞれの話をしている。草むらや木の上から虫の低い鳴き声が聞こえる。向かい側の歩行者信号はまだ秒数を表示していない。


僕が観察していたこのわずか数秒の間にも、隣の藤原さんは何度も袋の持ち方を変えていた。


「ん」


僕は相手の手元に、空いている左手を差し出した。


「え?」


相手は怪訝そうな声で僕を見た。


「えっと…荷物、重そうだから。手伝おうかと思って。変なことはしないから安心して」


「あ、大丈夫です。自分でやりますので」


「そう」


相手は非常にビジネスライクな作り笑いを僕に向け、素早く会話を打ち切った。


僕は仕方なく顔を正面に戻し、青信号のカウントダウンが終わると前へ歩き出した。僕たちは同じペースで夜道を歩いている。


待てよ。今朝の姉貴との会話で、僕の問題点はもうわかっている。謝るなら、今が絶好のチャンスじゃないか?


僕は昨日の朝と今朝の二つの会話を急に思い出した。姉貴の丁寧な分析のおかげで、事態が少し理解しやすくなった気がする。要するに、あの時何も考えずに適当な返事をしたせいで、会話が急に終わってしまったのだ。


それとも、これは僕が一方的に考えすぎているだけで、実は彼女はあの日の会話なんて全く気にしていないんだろうか?だとしたら、僕が訳もなく謝る方がかえってまずいのでは?


しかし、あの時の彼女の不機嫌そうな態度は、僕の考えなしの回答に不満だったことの間接的な証明でもあるはずだ。どちらにせよ、彼女が気にしていないことに賭けるよりは、彼女が本当に気にしていると想定して対処する方が、より確実だろう。


そう思うと、僕は咳払いをした。


「あの…昨日の朝のことなんだけど、言いたいことが——」


僕は横を向いたが、周りには僕一人しかいなかった。


僕ははっと振り返って周りを見渡すと、彼女は僕から街灯三つ分離れた場所に無傷で立っていた。袋は足元に置かれ、彼女自身は街灯の光の下で、おそらく食い込んで痛くなった両手をこすっている。


正直、さっきは見捨てられたのかと思った。何を馬鹿なことを考えてるんだ…でも、いずれにせよ、この状況で何事もなかったかのように振る舞ったら、彼女がどんな気持ちになるか想像もつかない。


「それに、まだ話もちゃんとできていない」。そう思い、僕は踵を返し、彼女の方へ歩いて行った。





「大丈夫?」


「あ、はい、大丈夫です。ただ、ちょっと重いだけで」


「そうか。ここからアパートまでまだ距離があるから、手伝おうか?」


しばらくの沈黙の後、彼女は申し訳なさそうに頷いた。


「あ、ありがとうございます。それじゃあ…お言葉に甘えてもいいですか」


「うん」


彼女が両手で差し出したビニール袋を受け取ると、彼女はもう一つの袋を両手で持ち上げ、一緒にアパートの方向へ歩き出した。


僕は右手をぐっと握りしめた。


「あの…昨日の朝のことなんだけど、謝りたくて」


「え?どうしてですか?」


しまった。経験が乏しすぎて、相手を不快にさせない話し方がわからない。とっさにどう言葉を組み立てればいいのかわからなくなった。


「えっと…その…あの時、何も考えずに口から出た言葉で…。今思うと、あの答えはあまりに自分勝手で、君の気持ちを考えていなかった」


街灯の光に照らされて、地面に二つの黒い影が現れる。歩くにつれて、影は後ろから徐々に前へと移動していく。


「僕は物事の複雑さを見落としていたし、相手の立場で考えることもしなかった。後で分析してみて、君が本当に聞きたかったのは、きっとこの辺りの治安とか、僕が思う一人暮らしの良いところだったんだろうって。あの時の軽率な返事を、謝りたい。そういうことです」


僕は深く息を吸い、そしてゆっくりと吐き出した。声は出なかった。


「本当ですか?」


耳元で、少し驚いたような声がした。


彼女は横から小走りで僕の前に回り込み、向き直って僕を見つめた。


「本当に反省したんですか?私が昨日、態度に少し不満そうだったから?」


「そう。あ、やっぱり不機見だったんだ!」


「ぷっ」


僕が思わずツッコミを入れると、相手は急に吹き出した。


相手が不意に見せた笑顔を見て、僕は自分が今何を口走ったのかに気づき、必死に笑いをこらえた。


相手はくるりと背を向け、うつむいて、震える肩が落ち着くまでしばらくかかった。


「ごめんなさい、浅村さん」


落ち着きを取り戻した後、彼女は横を向いて僕に言った。


「私が一時の機嫌でそうなっただけなのに、私の状況や考えを理解しようと、そんなに気を使わせてしまって」


「ううん、大丈夫。今回の経験で、少なくとも君とどうコミュニケーションを取ればいいかわかったから」


「本当にちゃんと反省したんですか、浅村さん?」


街灯が彼女の顔を照らし、その横顔を眩しく縁取っていた。


「本当にちゃんと反省しましたよ、藤原先生」


「よろしい」


僕たちの間に再び静寂が戻った。アパートの前に着くまで、僕たちはそうして、一人が前、一人が後ろで帰り道を歩いた。





玄関の前で、僕たちは今日が終わる前の最後の会話を交わしていた。


「そういえば浅村さん、よくお惣菜を買うんですか?いつもだと、体に良くないですよ?」


「あ、今夜はたまたま作るのが面倒になっただけで、普段は簡単な料理はしますよ」


「そうなんですね」


僕は彼女が買った食材を両手で持ち、彼女がドアを開けるのを待ってから手渡す。


「あの…浅村さん?」


「はい」


「私、普段から料理を研究するのが好きで、つい夢中になってこんなにたくさん食材を買っちゃったんです。店を出てから多すぎたって気づいて…。でも、よく試作品を作るんですけど、自分で食べるより、他の人の評価を聞いてみたくて。もしよければ、私の最初のゴードン・ジェームズ・ラムゼイになってくれませんか?(テレビ番組『ヘルズ・キッチン』で、出場者にいつも怒鳴り散らしているあの有名なスコットランド人シェフのこと)」


「彼みたいに激しく怒ったりはしないと思うけど、喜んで君の最初のゴードン・ジェームズ・ラムゼイになるよ」


「本当ですか?ありがとうございます!」


鍵が錠の中で回り、カチリと澄んだ音を立てた。


「少し待っててください。一つずつ運び入れるので」


「わかった」


僕は袋の一つを手渡す。すぐに彼女がドアの隙間から顔を出し、もう一つの袋を受け取った。


でも、確かに少し重いな。一分も経たないうちに、肘の内側が少し痛く感じてきた。


僕は身を返し、腕の痛む筋肉を揉みながらポケットから鍵を取り出し、自分の部屋のドアを開けた。


隣から、またドアが開く音がした。隣に住む彼女がドアの隙間から出てきて、僕を見た。


「送ってくれてありがとうございました、浅村さん!」





和解。


送信ボタンを押す。


スマホを放り出し、僕はベッドにうつ伏せになる。気持ちが、なかなか静まらない。


なんだよこの感じ。恥ずかしいじゃないか。


何に対してかって、それは、あの「ありがとう」の後に見た、僕が永遠に忘れられない、あの笑顔に対してだ。

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