新しい隣(2)
皆さん、長らくお待たせしました。
先月の末に高校を卒業し、僕にとっての「ラノベ黄金時代」とも言える日々が遠のいてしまったことに、少し寂しさを感じています。
今回は一週間ほどかけてこの章をじっくりと推敲しました。文字数は多くありませんが、楽しんでいただければ幸いです。
前置きが長くなりましたが、どうぞ物語の続きをお楽しみください。
皆様にとって、良い一日となりますように。
僕は夢から覚めた。カーテンの隙間から差し込む朝日が顔を照らし、窓の外からは鳥のさえずりが聞こえ、その直後、耳元でけたたましいアラームが鳴り響いた。
アラームを止め、ベッドから起き上がって窓を開けると、窓の外の風がカーテンを揺らし、僕の顔に吹き付けた。
外は雨が上がっていた。空気中には雨水と土の匂いが漂い、紺碧の空には白い雲がいくつか浮かんでいる。鮮やかな陽光に照らされて、格別に立体的に見えた。
僕は食卓の方へ歩いていき、テレビをつけた。天気予報のお姉さんが今日の天気を伝えている。僕は冷蔵庫のドアを開け、残り少ない野菜を取り出しながら、昨日の出来事を考えていた。
母の話によると、親戚の娘が僕と同じ大学に合格したらしい。だが、家から遠すぎるため、大学近くのアパートで仮住まいする必要があるとのことだった。
偶然にも、昨日、隣人である藤野さんがしばらく実家に帰ることになった。電話でその話をしたときに、この全てが繋がったのだ。
つまり、何もなければ、このアパートに新しい住人が一人増えることになる。
「残ってるレタスとミニトマトで、野菜サラダでも作るか」
そう思いながら、さらに他の食材を冷蔵庫から取り出す。
「ピンポーン——」
エプロンを着けようとしたその時、玄関のチャイムが鳴った。
おかしいな。まだ八時過ぎだぞ。この時間に来るなんて、随分と早いじゃないか。
「少々お待ちください!」
僕はエプロンを外しつつ、早足で玄関へ向かった。
「こんにちは。私、藤原 花と申します。これからお世話になります」
「え?」
僕たちは、そうやって出会った。
「あなたのおかげで、大学の近くに部屋を借りることができました。通学に時間をかけずに一人暮らしができるので、直接お礼を言いたくて。あ、ありがとうございます」
僕は紅茶の入ったカップを彼女の前に置き、テーブルの向かい側に腰掛けた。
玄関を開けてから今まで、僕の疑念は晴れない。この現象を無視できない。玄関で彼女に会った瞬間に感じた既視感から、だんだんと何かがおかしいと感じ始めていた。
これではまるで、**『彼女』と瓜二つじゃないか。
「浅村さん、さっきからずっと黙っていますけど、私、お邪魔でしたか?」
目の前の少女が手をひらひらと振る。その時、僕は自分の失態に気づき、すぐさま我に返った。
「あ、すみません。ちょっと徹夜明けで…。いえ、全く邪魔じゃないです。気にしないでください」
少女の、顎のラインで切り揃えられたショートヘアと、眉を隠すほど順順とした前髪が汗ばんでいる。二筋のおさげが耳の後ろから肩の前に垂れ、その顔立ちは、ペン先で描かれた漫画のキャラクターのように柔らかく滑らかで、少し尖った顎と相まって、その顔立ちはただ「優しい」としか形容できなかった。
いや、ありえない。『彼女』はただデザインされただけの存在だ。もし『彼女』の背後にいる彼女が、目の前のこの人物と同じくらい『彼女』に似ているのなら、もはや『彼女』の存在意義はなくなってしまう。
しかし、いきなり彼女と『彼女』**との関連性を尋ねたら、変人だと思われるだろう。だから今は、この疑問を心の奥にしまっておくしかない。
「…浅村さん?大丈夫ですか?もしかして、具合でも悪いんですか?」
「あ、すみません、すみません。たぶん低血圧のせいです。まだ朝ごはんを食べていないので」
僕は無理に笑顔を作った。右手の震えが止まらない。右手でキッチンに置かれたまな板の上の食材を指し示す。
早く冷静になれ。このままでは相手に悪い印象を与えてしまう。これ以上このことを考えるな。少なくとも、今は。
「あ、そうなんですか。何か手伝いましょうか?」
「いえ、大丈夫です。一人でできますから。朝ごはんは、もう食べましたか?」
僕は急いで立ち上がり、朝食作りを口実にキッチンへ向かった。脳が過負荷を起こして引きつった顔を、彼女に見られたくなかった。
「実は、さっき着いたばかりなので、まだなんです」
「そうですか…」
僕の周りの空気が、数秒間止まった。
「浅村さん?」
「はい?」
背後で、カップがテーブルに置かれる音がした。
「一人暮らしって、楽しいですか?」
「まあまあ、ですかね。自由にできるのは楽しいですけど、時間が経って新鮮味がなくなると、最初の頃ほど楽しくはないですね」
僕の周りの空気が、数秒間止まった。
「…そうですか」
「あの…」
「紅茶、ごちそうさまでした、浅村さん。もう時間も遅いですし、これでお暇しますね」
椅子を引く音とともに、彼女はそう言って玄関の方へ向かった。
「はい、お気をつけて」
「ええ、さようなら」
「さようなら」
そう言って、彼女はドアを閉めた。
「うーん…」
僕、何かまずいこと言ったかな?完全に変な奴だと思われた感じだ。
まあ、いいか。どうせまだ親しくもないし、二人で気まずく時間を過ごすより、どちらかが先に去る方がいい。これからそう頻繁に会うこともないだろう。
僕は壁の時計に目をやった。針がなんと11時を指している。そんなに時間が経っていたのか?
朝食を済ませた後、眠りにつくまで他に特別なことは何も起こらなかった。