表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/28

夏祭り( 7 )

あれほど燃えていた夕焼けはもう山の向こう側へと消え、光を失ってひときわ濃い青色に染まった空には無数の星が瞬き、そよ風が吹き抜けるたび、後ろの紫薇サルスベリや他の灌木がさわさわと穏やかに揺れていた。


夏祭りだというのに、住宅街のせいか、此时の路上まだ人影はまばらで、道端の電柱がうねうねと続く道に沿って奥へと伸び、家々の間で見えなくなっていく。


都会とは違い、ここの路端には街灯がなく、そのため周囲の家々の窓から漏れる微かな明かりだけが唯一の光源となり、闇が目の前の景色を孤寂と憂鬱のベールで覆い尽くし、周りにはただ風の音と虫の音だけが響いていた。


時刻は、午後六時三十二分。私はスマホをハンドバッグに戻し、道の傍らに立って道路の両側を望んだが、はっきりとは見えないまでも、この誰もいない道に私一人だけが立っていることだけは、かろうじて確認できた。


念のため、私は自分の服装を見下ろした。


花柄の浴衣がいつもの服に取って代わり、長い時間をかけてようやく結んだ帯が腰のあたりをきつく締め付け、右手には財布とスマホを入れたハンドバッグが勾げられている。完璧とは言えないまでも、実際には私とママがかなりの時間をかけて準備した結果であり、私としては、まあまあちゃんとしている方だと思う。多分。


あ、足が痛い…。


足元から下駄の硬い感触が伝わり、合わない板の上を踏みしめる体に、その重みが加わって、両足がもうじんじんと痛み始めていた。


もう、浅村さん、どうしてまだ来ないの。


私は少し腹が立って振り返り、浅村さんを探そうとした、その時——


「お、藤原さん…」


「わあっ!」


まさか、誰かがとっくに私のすぐ後ろに立っていたなんて。周りの暗闇に包まれてひときわ恐ろしく見え、無防備だった私は不意を突かれて飛び上がった。


私は慌てて半歩後ずさると、後ろに立っていたのが浅村さんだと分かり、ようやくほっと息をついた。


「あれ、驚かせた?」


「もう、さっきのは私が演技してたっていうの?準備できたなら声かけてよ。どうして後ろに立ってるの、わざと私を驚かせようとしたの?あ…」


私は彼にふんとそっぽを向き、ぷんぷんしながら右足で地面をドンと踏み鳴らした。でも、下駄を履いていることを忘れていたせいで、足の裏が硬い下駄と衝突した瞬間、激痛が走り、思わず小さな悲鳴を上げてしまった。


そんな私を見て、浅村さんはさっきまでのからかうような笑みを収める。月明かりが彼の顔に降り注ぎ、その心配そうな表情をはっきりと映し出した。


「藤原さん、大丈夫か?足、怪我したか。少し休むか?」


「なんでも、なんでもない。ちょっとさっき不注意で。足がずっと痛くて」


足だけじゃない、足首からもじんじんとした痛みが伝わってくる。まずい、古傷だ。これじゃ、ちゃんと歩くことさえできないかもしれない。


「それなら、やっぱり休んだ方がいいだろ?夏祭りに行くなんて、明日でもいいんだから——」


「だ、大丈夫!こんなの大したことないから。それに、浅村さんと約束したのに、夏祭りは今日だけじゃないけど、もしこのまま帰ったら、私が雰囲気を台無しにしちゃったって思って、私、きっと気まずくなっちゃうから」


夏祭りが明日もあるとしても、それは昨日一緒に行けなかったっていう後悔を埋め合わせることはできない。况して、せっかく彼と約束したのに、私がこんなに気分屋で、いつも彼に折れてもらってばかりで、そんな私ってすごく迷惑じゃないかな。


もし今、私が浅村さんの提案を受け入れたらどうなるだろう、と想像してみる。家に帰って脱ぎ捨てた浴衣を片付けた後、スマホには家族のグループチャットから親戚たちが楽しそうに撮った写真が次々と送られてくる。心の中の、あの、まるで自分だけが孤立しているかのような感覚が少しずつ強くなっていき、みんな楽しそうなのに、私だけが取り残されて…。浅村さんに置いていかれるのは嫌。私は、嫌だ。


だから、どうすればいいんだろう。



「で、でも、これからたくさん歩くんだぞ。そんなに無理したらますます痛くなるだろ。石段街の階段だってすごく長いんだ、このままじゃ本当に痛くなる。やっぱりやめよう、藤原さん」


逆光のせいで、藤原さんの表情がよく見えない。ただ、藤原さんの視線が俺を見ていることだけは分かった。真っ白な月明かりに輪郭を縁取られた彼女は、顔面蒼白に見える。


それは、痛みで諦めたいっていう気持ちと、でも、もし休んだら俺との約束を果たせなくなるっていう、二つの気持ちの間で揺れ動いているからだろうか?


相手の右足が震えている。でも、俺はどう慰めればいいのか分からなかった。もし相手が同性なら、肩でも叩いて慰められただろうし、それが俺にできる唯一の最善の方法だ。でも、相手は藤原さんだ、いきなりの身体的な接触はかえって逆効果になるかもしれない。助けにならない口先だけの慰めじゃ、きっと藤原さんを安心させることはできない。だから俺はその場で固まることしかできず、必死に頭を働かせた。


どうすれば、藤原さんは安心して休むことを受け入れてくれる?


ただの祭りで、藤原さんもそんなに遊びたがるタイプには見えない。だから、小学生が次の日の遠足が中止になった時みたいに悲しんでいるわけじゃないはずだ。


じゃあ、家が空っぽで一人でいるのが怖い?それも違う。一人暮らしをあんなに長く続けてるんだ、環境が変わったからって怖がるようになるとは思えないし、ましてや実家なんだから、怖がる理由がない。


約束を果たせないことへの罪悪感?それも違うだろ。だってあの時の約束は「夏祭りの初日に行く」じゃなかった。だから明日でも約束を果たしたことになるはずだ。


だとしたら、おかしいぞ…もし上の全部が原因じゃないとしたら、藤原さんほどの人間がここまで固執する目的は、なんだ?


…あ、俺に嫌われるのが怖い、とか?昨日の朝、藤原さんが俺にぶつかってきた後、言ってたあの言葉が頭をよぎった。


でも、こんなことで藤原さんを嫌な奴だと思うわけないだろ、だって彼女の責任じゃないんだから——俺はそう思う。でも、もしかしたら藤原さんは違うかもしれない。俺が実際どう思ってるか知らない藤原さんは、昨日の彼女と同じように、俺に嫌われたんじゃないかって不安になっているとも限らない。


他に可能性は?もしこれをテスト問題みたいに深く考え続ければ、他の可能性も見つかるだろう。でも、「解答時間」も無視できない。もう藤原さんを随分待たせているし、このままじゃ雰囲気は完全に凍りついてしまう。もしこの答えが間違っていたとしても、少なくとも次の思考のための時間は稼げる。


今はとにかく、藤原さんを嫌っていないと態度で示せばいいんだろ。俺はそう結論を出し、口を開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ