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18 - 叫ぶ少女と咲き誇る花畑( 2 )

僕は、バスタオルを体に巻きつけ、浴室から出た。


風呂上がりは、本当にさっぱりする。


僕は鏡の前に立ち、タオルで髪と上半身を拭いた。


鏡の中の自分を見る。インドア派だから、普段の運動といえば、ダンベルで腕と肩を鍛えるくらいだ。腹筋は特に鍛えていないが、食生活のおかげで贅肉はなく、うっすらと割れているのが見える。


温泉に行きたいな…あ、でも、母さんたちの手伝いをしないと。こんなに長く風呂に入ってて、約束を破ったと思われてないだろうか。


早く服を着て、手伝いに行かないと。最初は、頭と手だけをさっと洗うつもりだったのに、いつの間にか、湯船に浸かってしまっていた。こんなに時間が経ってしまったなんて…


僕はタオルで腕を拭きながら、脱衣かごの中を探った。しかし、本来ならきれいな服が入っているはずのかごの中に、上着がない。


くそっ。着替えるなんて、考えてもいなかったから、替えの服を持ってこなかったんだ。


とりあえず、このまま二階に上がって、取ってくるか。そう思い、僕は素早く振り返り、後ろのドアを開けた——


「うわっ!」


まさか、そのドアの前に、見慣れた人影がいるとは。ドアの外に立っていた藤原さんは、僕を見て、まずびくりと体を震わせ、すぐに数歩後ずさった。しかし、背後の壁にぶつかるとは思わなかったようで、奇妙な声を上げ、両手を胸の前に掲げ、顔をそっぽに向けた。


「あ、あ、浅村さん!?わ、私は、探しに…」


僕は浴室から出て、彼女に、不思議そうな視線を向けた。


「藤原さん、どうしたの?」


相手がその姿勢のままなのを見て、僕は、不思議に思いながら、一歩近づいた。


「藤原さん?」


「…あ、あなた、来ないで。ダメ。服、服を」


僕が近づく足音を聞いたのだろうか。彼女の顔は、みるみるうちに赤くなり、喉の奥からは、猫のような唸り声が聞こえた。そこでようやく、原因に気づいた僕は、自分の体を見下ろした。バスタオル一枚じゃないか。


照れてるのか?まあ、彼女のこの様子を見るのも、なかなか面白いけど…なんてことを考えてるんだ!からかうのは、やめておこう。


僕は浴室に戻り、さっき脱いだばかりの服を着て、藤原さんの前に戻った。


「今、服、着たから。ごめん、さっきは…頭がぼーっとしてて。本当に、ごめん!」


彼女は、半信半疑といった様子で、片目を薄く開けた。僕がちゃんと服を着ているのを確認すると、ようやく、ゆっくりと両手を下ろし、涙で潤んだ瞳で僕を見上げた。


「大バカ」


彼女は俯き、握りしめた拳で、僕のお腹を、ぽん、と軽く叩いた。


「ごめん。君がドアの前にいるなんて、思わなかったから。とっさに、反応できなくて…本当に、申し訳ない!」


僕は両手を合わせ、何度も頭を下げて謝った。


彼女は手を下ろし、僕を見上げた。


「ていうか、浅村さん。何か用事、あるの?もしよかったら…散歩でも、行かない?私、親戚の人たちといるの、なんだか息が詰まっちゃって」


「あ、そうなのか。でも…ごめん。夕飯の準備を手伝うって、約束しちゃったから。今は、無理なんだ」


「そっか…」


彼女は、ゆっくりと俯いた。親戚たちの談笑が、リビングの方から聞こえてくる。僕が彼女を慰めようと口を開こうとした時、彼女は、再び顔を上げ、何かを決心したかのように、僕を見た。


「私も、手伝いに行きたい!」


相手の態度の、あまりの変わり身の早さに、僕は、思わず少し後悔した。


どうやら、ここに来てからずっと、親戚たちと一緒に座っていた彼女は、相当、辛かったんだろう。母さんとの約束なんて、しなければよかった。もっと、彼女と一緒にいてあげるべきだった。


断られても諦めない藤原さんを見て、僕の心に、複雑な感情がよぎった。


「ありがとう、藤原さん。すごく、助かるよ。でも、先に、二階で着替えてくるから、少しだけ、待っててくれるか」


「うん、わかった!」





二階に戻ってきれいな服に着替えた後、僕は、階段の踊り場で待っていた藤原さんと一緒に、キッチンへ入った。


「ただいま」


「お邪魔します」


「あら、浅村、やっと来たのね。ほら、これ、味見してみて。…藤原さん?リビングで休んでなくていいの?」


そう言って、藤原さんのおばさんは、箸でつまんだ一口を僕の口元へ運びながら、隣に立つ、まだ耳に赤みが残る藤原さんに尋ねた。


「今は、大丈夫です。本当は、浅村さんを散歩に誘おうと思ってたんですけど、手伝いに行くって聞いたので、私も来ました」


「そうなの。あなたたち、もうそんなに仲良くなったの?それとも、これは、まだ氷山の一角なのかしら?うふふ、いいわねえ」


僕は、口の中のものを咀嚼しながら、横目で、同時に僕を見ていた藤原さんを見た。


「い、いいなんてこと、ないです…ただ、浅村さんが、少し寂しそうに見えただけですから!」


僕は少し驚き、隣で慌てて弁解する藤原さんを見た。相手が、奇妙な理由を口実にしているのを聞いて、もう少しで吹き出すところだった。


お母さんの前の藤原さんって、なんだか、いつもの藤原さんと違うな。


「ほーんとうに?」


キッチンにいた三人が、異口同音に疑問の声を上げた。藤原さんは、慌てて僕を見た。


「浅村さん、どう思う?」


「うーん…本当かな、嘘かな?どう思う、佐藤の坊主?」


僕は、探偵ごっこの刑事のように、僕の足元に立つ子供——叔父さんの家の、男の子の方に、視線を向けた。


「お姉ちゃん、嘘ついてる!」


佐藤の坊主は、的確に答えた。僕は、以心伝心とばかりに頷いた。


「佐藤刑事も、俺と同じ意見のようだ。やっぱり、嘘をついていたのか、藤原さん?」


僕は、もっともらしく、頷いてみせた…。


その言葉が終わるやいなや、キッチンにいた三人は、一斉に、抑揚のついた「ふぅ〜ん」という声を上げた。


一方、隣の藤原さんは…。


僕たちの冗談を聞いて、彼女の顔と耳は、体温が上がって、さっきよりも、もっと真っ赤になっていた。僕を見つめる瞳は、少し涙ぐんでいる。その視線には、少しの恨みと、悔しさが混じっている。唇は、拗ねた子供のように、きつく結ばれ、膨らんだ頬は、恥ずかしさで、ほんのり赤い。まるで、今にも泣き出しそうだ。


「…浅村さんまで、私をいじめる」


ほとんど泣きそうな声で、震えながら、そう僕に囁くと、彼女は、すぐにキッチンから早足で出て行った。


「ふじわ…」


僕は手を伸ばして引き止めようとしたが、彼女の方が一歩早く、顔をそっぽに向けて、僕を無視した。


僕は、二秒ほど、呆然とした。脳が再び動き出した後、僕は、すぐに、藤原さんが去っていった方向へ、後を追った。


「藤原さん、待って、説明させてくれ!」

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