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雨は、まだ窓の外で降り続いている。


僕はいつものようにパソコンデスクの前に座り、両手がキーボードを叩く軽快な音が、小気味よく響いていた。ディスプレイの向こうの窓から雨音が聞こえ、一枚のガラスを隔てていても、その勢いは衰えない。


「ちっ、ロマンチックな要素とリアリティに欠ける、だと…」


キーボードを叩く音は、僕の独り言と共に、唐突に止まった。眉をひそめ、僕はスクリーンを睨みながら考え込む。


数分間考えた後、自分の小説の企画が編集者にボツにされたのだと改めて認識すると、僕は背もたれの椅子に全体重を預け、不満をぶつけた。


その瞬間、ふと、視界の端にある本棚に、フォトフレームに収められた一枚の写真が立てかけてあるのが見えた。


え?あれは、何だ?


その疑問を抱いたまま、僕は本棚の前へ歩み寄った。フレームには埃が積もっている。手で軽く払いのけると、僕は、その写真をじっと見つめた。


それは、一枚の集合写真だった。中心には、若い男女のカップルが写っている。二人は浴衣を着て、肩を並べて立ち、カメラに向かって微笑んでいた。彼らの背後では、夜空に花火が咲き乱れ、その下の湖面にも、絢爛な色が映り込んでいる。よく見ると、男の子の肩のあたりに、ピースサインをした手が見える。それは、明らかに、写真の端に片手だけ写っている女の子のものだ。そして、カメラに微笑む男の子は、そのことに気づいていない。シャッターが押され、この美しい瞬間が、切り取られていた。


あの年の、花火大会か。


僕は、はっとした。全身に鳥肌が立ち、ぞくりとした悪寒と共に、無数の記憶が、一気に蘇ってきた。


これは、僕が愛した人とのツーショットだ。彼女と出会ったあの時間は、僕の人生で、最も美しい時だった。


僕は再び席に戻り、指は、思考と共に、キーボードの上で踊り始める。


メッセージはすぐに既読になり、少しして、相手から、こんな返信があった。


「君が、彼女を死なせた本人か?」

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