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1-2 異世界転移?

 

 

「はぁぁぁぁ……あぶねあぶねっ!……セーフっ!!!」


 現実に戻った俺は狭い1Kの洋室で小躍りしていた。


「普通に考えて100万の武器を強化するのはヤバいぞ! +8を日本円で換算すると……100万が3倍で3倍で3倍だから……2700万……!」


 神石(かみいし)を使えば1/12で2段階強化だし、『妖精王のエレメンタルブレード』自体は弱い部類の伝説だからもう少し安いだろうけど……それでも2,000万はするかもしれない!


「ふぅぅぅぅ……! MMOで一発逆転するなんて夢みたいだ……! 金、金、金ぇ……! っとか言ったけど、(Real )M(Money)T(Trade)も悪くないなぁ……!」


 自分で言っておきながら、俺はとても現金な人間だった。

 すぐさまPCで(Real )M(Money)T(Trade)のサイトを検索するが、ドーパミンが切れ始めたのか、やや冷静な思考が戻ってくる。


「ちょっと待てよ……今売ると流石に俺だとバレそうだな……」


 『タルシオン(Tarsium)オンライン(Online)』の運営会社である『Mylo』は何故か(Real )M(Money)T(Trade)の取り締まりが厳しくない。

 ただ(Real )M(Money)T(Trade)によるBANがないわけではなく、ごくまれに見せしめのためなのかBANされるアカウントもある。


「安全の為にまだ様子見だな……BANなんかされたら冗談じゃ済まない……それに……!」


 大金が手に入ったと同時に、俺は最強になった『妖精王のエレメンタルブレード』を試したくてたまらなかった。

 こればかりはMMOプレイヤーだけではなく、新しい装備を試してみたいというのは全ゲーマーの性だろう。


「腹減ったけどちょっとだけ試してみるか……!」


 俺はすぐさまベッドに飛び込み、次世代のVRヘッドギア『Aps』を頭に装着した。

 『Aps』は『タルシオン(Tarsium)オンライン(Online)』の運営会社でもある『Mylo』から発表された代物だ。仕組みは脳波を仮想空間に投影しているとかで、視覚に訴えかけてきた既存のVRデバイスとは技術のレベルが全く違っていた。

 偉い技術者によると、原理が不可解すぎてまるで魔法のようだとかなんとかで、まだ『Aps』を模倣した製品は登場していない。

 

 それなのに8万円台で買えるとか……安すぎる! まあそのせいでMMO中毒になったんだけどな……。

 

 

♢ ♢ ♢



 『タルシオン(Tarsium)オンライン(Online)』に復帰すると、すぐさま現バージョンで最高経験値効率を誇る『竜人皇帝の地下墳墓』の5層にテレポートした。

 このダンジョンは敵が痛い、硬い、多い、という三重苦で耐久も殲滅力も求められる、ランカー御用達の狩場だ。


「入ってすぐ湧いてるのかよ……」


 俺がテレポートした5層の出入り口には、既に『ホリフィック スケルトンソード』や『ホリフィック スケルトンウィザード』などのスケルトン系モンスターが6体も出現していた。

 

「ウィザードの氷魔法が当たるとマズイんだよなぁ……」


 攻撃魔法に加えウィザードが使う『ソウル ウィザー』は対象者の物理攻撃と防御を下げる搦め手だ。

 殲滅力が下がると『ソウル ウィザー』のデバフ時間が切れる前に、新たに湧いてきたウィザードに再びデバフをかけられるという負のループに陥り、ポーションの減りが加速するどころか、帰還する羽目になってしまう。

 

 俺は空に向かい指でモーションジェスチャーを行うと、『最上級 ヒーリングトニック』の小瓶が出現しそれを飲み干す。

 ジェスチャーを行うたびに、一定時間MPを回復し続ける『最上級 ブルートニック』やINTを上げるポーション『インテレクト・エッセンス』などが出現する。

 狩りに必要なアイテムをすべて使うと、次は()()()声を上げてスキルを詠唱する。


「メディテーション! ミスティック・コンバージェンス! ミスティック・アクセラレーション! 」


 俺は5分間自身の魔力を上げるスキルや全行動速度を2%上昇させるスキルを唱えていく。

 スキルは声に発さずともスキル固有のモーションや指先のショートカットジェスチャーで行えるのだが、多くのスキルは声で使用した方が効果時間やスキル性能が上がる。

 アイテム類も同じく自動使用やインベントリ上のUIで使用するより、実体化したアイテムを飲んだり、スクロールを開いたりする方が効果が強化される。

 そのため行動に余裕があり性能を重視するべき状況では、多くのプレイヤーが現実に近い行動でアイテムやスキルを使用していた。

 タルシオン(Tarsium)オンライン(Online)を始めたばかりのプレイヤーはスキルを発声することに抵抗を持つのだが、俺はもう完全に慣れてしまっていた。


「アーケインサージ! パワーライズ! ダークレゾナンス!」


 黒魔術師ダークメイジとって重要なINTとWISを2上昇させるメイジクラス共通スキルの『アーケインサージ』

 同じくメイジクラス共通スキルでSTRとVITを3上昇させる『パワーライズ』

 黒魔術師ダークメイジ専用スキルで自身の与えた闇属性のダメージで発動し、追加の闇属性ダメージを与える『ダークレゾナンス』

 

 狩りに必要なスキルを全て使用すると、HUD上にスキルのアイコンがびっしりと並ぶ。

 モンスターはダンジョンに入って1歩も動かないプレイヤーに対してノンアクティブ状態なので、狩りが始まる前にスキル名を唱えるのはある種の『儀式』である。

 そして俺は腰に携えていた『妖精王のエレメンタルブレード』を引き抜くと、白銀の剣身を撫でるように伝説的に希少なスキルを使用する。

 

「アブソリュート・バリュー……!」


 自身の与える近距離通常攻撃時の魔法ダメージを確定ダメージに変える伝説(レジェンダリー)スキル。

 変換量は魔法ダメージの50%で残りの魔法ダメージは切り捨てられてしまう。

 しかしそれでも相手に確定的に定数でダメージを与えることが出来るのなら、自分の攻撃力がたとえ1でも相手の防御力が無限だろうが関係ない。

 それが確定ダメージ――

 俺に攻撃力低下のデバフは無意味だ……例え相手が最強の硬さを誇るタンクでも、俺の攻撃が通るなら……ダメージも通る……!

 

 全てのエンチャントを終えた俺は徘徊するスケルトンたちに左手を向け、スキルを使用する。


「ブレイジング・ボルテックス!」


 狙いを済ませた1体のスケルトンを中心に地面から火炎の渦が巻き起こり、スキル範囲の直径6m内にいた2体のスケルトンも火炎で包まれた。

 攻撃したことによりスケルトンたちが一斉にアクティブ状態に切り替わり、俺を認識する。


「グウェェェィアアア!!!」

「初動はアイスランスだろ……!?」


 『アイスランス』は当たると確率で1秒間10%の全行動速度低下を引き起こし、更に運が悪いと2秒間その場から移動が出来なくなる『ホールド』状態になるため、可能な限り避けなければならない。

 

 2体のスケルトンウィザードが杖を振ると、それぞれ前方に紫色の氷槍が形成され始める。

 スケルトンウィザードはプレイヤーを認識した直後に高確率で『アイスランス』を使用する。

 その氷槍の弾速は比較的速いが槍の形成までタイムラグがあり、スキル使用時に定めた地点に飛ぶため偏差撃ちが不可能だ。

 

 そのため、『アイスランス』の対策は1つ。

 詠唱直後に動く……!

 

「はぁぁ!」


 『アイスランス』の使用と同時に走り出していた俺は、最も近くにいたスケルトンソードに斬りかかると、手首を切り返し素早く2撃、3撃と素早く剣を振る。

 確定ダメージと言っても、ゲームの仕様的に剣の振りに込めた力加減によってダメージが増減するため、手数を求めて剣で軽くツンツンするような姑息な攻撃では全くダメージが出ない。

 

 そのため俺は剣の柄をしっかりと握り締め、剣撃の締めに重めの一撃を繰り出そうと柄を強く握るが――


「えっ……」


 目の前にいたスケルトンソードは既に砕け散り、骨が床に転がっていた。

 もう一度試すべく、すぐに近くのスケルトンソードに斬りかかるが、同じような結果だった。

 

 スケルトンを倒すのが余りにも早い……!

 

 いつも戦闘感覚よりワンテンポもツーテンポも倒すのが早かった。

 

 俺は『ブレイジング・ボルテックス』のダメージを受けたスケルトンたちに斬りかかる。

 すると今度はたった2回の攻撃でスケルトンたちは骨と化した。


「つ、強すぎる……! 強すぎるぞ……! だって追加魔力が604だもんなぁ!」


 明らかな火力アップを感じた俺はインベントリを開き、『妖精王のエレメンタルブレード』のステータスをじっくりと眺める。

 

「グウェェ……! グウェェィアア!!!」


 残ったスケルトンソードが浮かれていた俺に垂直に剣を振りかざしてくる。

 俺は寸でのところで身体をよじりながら剣撃をいなすと、回避する回転力を利用し剣を水平に大きく薙ぐ。

 青白く発光していた剣身はいつの間にか燃え滾る様な真紅の炎に変わっており、それはこの剣の魔法発動の合図だった。

 

「はぁっ!」


 スケルトンソードの胸元を裂いた炎撃はほとばしる紅い火花を残し、直後スケルトンソードの胸から炸裂するような業火が燃え盛った。

 鳴り広がる炸裂音と共に、俺はすかさず剣をレイピアのように刺突させスケルトンソードの腹部を突き刺した。


「グゥイェア……」


 今の攻撃でHPが0になったスケルトンソードは骨を撒き散らすようにバラバラに砕け散った。


「魔法発動と2撃で倒せるのか……!」


 エレメンタルソードは通常の攻撃時に強化数×2%の確率で魔法を発動させる。

 その1つである『エレメンタルストライク』は相手の最も低い属性耐性に対して属性が変化する攻撃を与えるため、今は火属性の魔法が発動した。

 今まで通常攻撃のみだと10回は斬り付けないと倒せないスケルトンだったが、限界を超えて強化された武器だと魔法発動とたった2回の攻撃で倒せてしまった。

 20%の能力向上を3回行っため数値だけみると78%の火力向上なのだが、攻撃モーションによる強弱の補正は乗算で計算される。

 そのため今のように回転し力強く剣を振ると、その分だけより能力向上の恩恵を得られる。

 

「ははっ! これはヤバいぞぉ!?」


 

 俺は世に爆誕してしまった強すぎる剣の柄を強く握り締め、モンスターをひたすら狩り続けた。

 


♢ ♢ ♢



〈システム: ホリフィック スケルトンウィザード から 884 ルーンを入手しました。〉

〈システム: ホリフィック スケルトンウィザード から 815 ルーンを入手しました。〉

〈システム: ホリフィック スケルトンウィザード から 防具強化石 を入手しました。〉

〈システム: デモニック レイス から 986 ルーンを入手しました。〉

〈Egria : >4ねよ後で56すからな〉

〈システム: ホリフィック スケルトンナイト から 872 ルーンを入手しました。〉

〈メス牡蠣: なんかログアウトできねえんだが〉

〈システム: ゲームをプレイして 11時間 経過しました。適度に休憩を取り、のめり込みに注意しましょう。〉

〈エリニュス: ログアウトの項目がないですね〉


 ちょっと試し斬りをするつもりが余りの無双状態で止められず、ログインして11時間も経ってしまっていた。

 働きもせず独身……そしてMMO中毒……となれば24時間起きて12時間寝るという常軌を逸した日常も当たり前。

 気が付いたのは頭痛の後で、昨日から一睡もしていないのであと1時間起きていれば24時間稼働になってしまう。

 

「はぁぁ……疲れた……頭痛いし流石に止めるか……」


 狩りの途中、狩場の巡回をしていた元クラン員と何度か出くわし戦闘になったが、何度も撃退することが出来ていた。

 流石に6,7人で一斉に襲われると帰還せざるを得なかったが、4人程度の相手だとこちらの火力が高すぎて全て撃退出来ていた。

 

 思ってたよりルーンが減ってないな……あいつらが落とした護符で収支はちょいプラってところか……。


 『竜人皇帝の地下墳墓』の6層以下は完全な経験値特化狩場でゲーム内通貨である『ルーン』の稼ぎは全く望めない。

 常にポーションを自動使用し収支がマイナスになる狩場なのだが、火力が上がったことによって殲滅速度が大幅に上がり、モンスターに囲まれる頻度が低下。その結果実質的な耐久力向上でポーションの消費量が低下。

 ポーションの減りが抑えられればルーンの収支改善になるため、狩りだけで考えた場合は少しの赤字で済んでいた。

 その赤字がプラスに転じたのは、元クラン員を倒した時にドロップした『魂の認識票』のおかげだろう。

 

 『タルシオン(Tarsium)オンライン(Online)』はデスペナルティが非常に重く、ペナルティが発生するエリアで死んだ場合、現在の経験値量の10%を損失。そしてプレイヤー同士の(Player)(Kill)で死亡した場合は更に50%の確率で装備を1つ落としてしまう。

 そんな重すぎるデスペナルティを『魂の認識票』は肩代わりしてくれるため、ほぼ全プレイヤーがこの通称『タグ』を所持している。

 『タグ』は自身が死亡した場合、確定でその場に落としてしまい他人が拾うこと出来る。『タグ』の作成費用は300万(3M)、売値も300万(3M)のため(Player)(Kill)で多く拾うことが出来れば、それなりの稼ぎになる。

 『タグ』には落としたプレイヤー名が記載されているため、中には敵対を煽るために売らないプレイヤーもいる。

 まあそんなプレイヤーは元敵対の『Reboot』や『武神』、そして元クランの『よっぴーアイスランド』の連中なのだが……。

 

「くっあぁぁぁ……疲れた……」


 街に戻っていた俺は両手を上げて大きく伸びをする。非現実の世界であっても長時間プレイをしていると身体のダルさ、特に頭痛を強く感じてしまう。

 強くなりすぎた自分に興奮していた俺は狩りを終えた途端に脳内麻薬が切れ、疲労をドッと感じていた。

 

 さあログアウトして、急いで飯を食って今日は……。


「あれ……ないぞ……?」


 いつもならあるはずの位置に、ログアウト用のUIが存在していなかった。



「何でログアウトの項目が消えてんの?」


「まじで消えてんじゃん」


「GM早くしろよ。俺明日早いんだけど」


 どうやら他のプレイヤーもログアウト出来ないのか、チャット欄もすさまじい勢いで流れていた。


〈しすい: なにこれマジじゃん〉

〈ノドン: ログアウト出来ねえええ〉

〈Itokon: いや俺はログアウト出来るぞ?〉

〈Meruca: (´・ω・`)メルさん、明日も仕事なのら。終わりなのら〉

〈小猫仔: apsってどうやって強制ログアウトすればいいんですか?〉

〈沈黙の日曜: 流石にこのまま出られないってことないよな?〉


 いや、『Aps』は24時間接続で強制的にログアウトされる……。

 無いとは思うが万が一不具合が治らなくても、24時間経てば大丈夫なはずだ……。

 

〈Meruca: (´・ω・`)メルさん、明日も6時起きなんだけどかえして〉

〈レイ0714: マジでどうすんのこれ?〉

〈システム: これより 転移魔法 Realm shift を発動します。〉

〈Googapple: は?〉

〈ツナケチャ佐藤: (ヽ´ω`)メルさん、仕事やめにょされ〉

〈Cologne: ?〉

〈やまもん: !?〉

〈Zest: ?〉

〈大木刑事8181:ha???〉


 は? 何このログ?

 全体チャットに見慣れないログが流れると、俺は視界が真っ暗になり意識が遠のく。

 そして強制テレポートされた感覚だけが最後に残った。

 




〈システム: タルシオン へようこそ。〉

〈システム: ここはゲームの世界ではなく、全く別の法則によって成り立つ現実の世界。〉

〈システム: タルシオン へようこそ。我々はあなた方を歓迎します。〉

〈システム: これより キャラクタークリエイト を開始します。〉










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