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1-1 クラン追放

MMOが衝動的に嫌にやりギャンブル、そしてなぜか成功。よくありますね。

異世界×VRMMO物です。よろしくお願いします。



「パワーバッシュ!」


 白銀の鎧を纏った神聖騎士(ホーリーナイト)が威勢の良い声を上げると、「フォーカス! フォーカス!」という怒声が俺を取り囲む。

 頭から太い釘でも打たれたかのように、その場から動けない俺は4人の男達から袋叩きにされる。

 仲間からの支援により俺の身体は激しく光り続けるが――あぁ……これは駄目だろうな……。


「ダークメテオ!」


 黒魔術師(ダークメイジ)伝説級(レジェンダリー)魔法を食らった俺は、すさまじい瞬間火力(バーストダメージ)でHPバーが2割ほど消し飛び、絶命した。







「はぁぁぁ……強化スタン長すぎるだろ……。(Cool)D(Down)が短いパワーバッシュが7割で強化スタンになるとか、もう終わりだよこのゲーム……」

 

 先週のアップデートでスキルを強化するスキル書『パワーバッシュ:猛打』が、遂に1回8万円で成功確率5%の製作ガチャに加わり、猛威を振るっていた。

 俺はこの数年で加速し続ける(Pay)(to)W(Win)に文句を言いながら、灰色が一面に広がる空間で待機していると、ポップアップウィンドウが出現した。

 

 蘇生しますか? と聞かれたらそれはもちろん、生き返るに決まってる。

 俺は迷わずに『はい』を選択すると、最寄りの街へと生き返った。

 

 生き返った俺はすぐさま虚空に向かい、指で『K』と『2』の文字を描く。するとジェスチャーショートカットに登録してある『アジト帰還スクロール』が発動し、俺はアジトの大広間へと帰還した。

 そのまま大広間にいる倉庫番NPCへと走り出し、戦闘で消費したポーション類を補充する。

 既に消費アイテムだけで並みのプレイヤーの1週間分の稼ぎを消費しているだろう。完全な赤字だがこうでもしないと敵対クランである『Reboot』からボスは奪えない。

 自己エンチャントをかけたらすぐにダンジョンに……。


〈さつまいもみかん: おおおおおおおおおおおおおお〉

〈ツリウム: やば〉

〈maelstrom: うっまっwwwwwwww〉

〈Jin: うますぎwwwwwwwwwww〉


 ああ……この全チャはまずい……。


〈システム: 匿名の冒険者が 魂裁者 シャドウリーパー から 冥界のシャドウサイズ を手に入れました。〉

〈システム: 匿名の冒険者が 魂裁者 シャドウリーパー から スキル書: エクスキューション・ノヴァ を手に入れました。〉


〈ワンちゅう: 伝説二つとかwwwwwwwwwww〉

〈法置倒: ありがとう〉

〈maelstrom: 手伝ってくれてありがとうwwwwwww〉

〈Jin: 今日人数少なすぎだけどどしたん? みんな夜勤のバイトでもしてるの?w〉


 はぁぁぁぁぁぁ……クラン員が少ない今日に限って何で伝説(レジェンダリー)が2つも出るんだ……。

 

 

 敵対が全体チャットに書き込み続ける煽りに、俺は苛立ちより虚無感を抱いていた。

 奴らが手にした『スキル書:エクスキューション・ノヴァ』はこの『タルシオン(Tarsium)オンライン(Online)』において、また入手が現実的なスキルの中では最も瞬間火力(バーストダメージ)が高いスキルだ。

 黒魔術師(ダークメイジ)なら絶対に欲しいスキルであり、俺が今一番欲しいスキルでもある。

 流れ続けるチャット欄を呆然と見ていると、突如水色の文字が現れた。

 

〈よしよっぴー: >アジトいい?〉


 囁き(wis)が来たけど、これは空気悪いだろうな……とりあえずクランアジトに戻るか……。

 

 

 ♢ ♢ ♢



 アジトには主要クラン員が十数人だけ集まっていて、他の数十人はログアウトしたようだ。なにせ平日深夜の6時間に及ぶ長時間戦闘の後で、時刻は既に朝の7時を回っている。普通の会社勤めの人は出勤の時間だ。

 

 みんな暗い顔をしてるけどそうだよなぁ……。俺らが負けた時に限って、伝説(レジェンダリー)アイテムが2つ出るんだもんなぁ……これはちょっと酷いよな……。

 

「ユウヤ、今月の課金額いくら?」


 俺らのクランマスター『よしよっぴー』こと『ドラニテ』は、唐突に訪ねてきた。

 よしよっぴーというのはこのクラン『よっぴーアイスランド』を作った人物で、今は中身が違う。

 何でもよしよっぴーさんは不動産投資が失敗したとかで、少しお金が必要になり、アカウントをドラニテさんに2,000万円で売っていた。

 とんでもない金額のように思えるが、全身伝説(レジェンダリー)装備でレベルも総合ランキング2位のアカウントなら2,000万は破格の値段だ。

 

 この『タルシオン・オンライン』に限らずどのMMOでも、頂点に君臨するガチ勢は仲間同士のアカウントのやり取りや業者との(Real )M(Money)T(Trade)をするのは当たり前のようだ。

 確かにお金に余裕があるのなら、ゲーム内装備を現金で買った方が最も効率が良い。

 このゲームでは3年ほど前から経営方針が変わり、ガチガチの(Pay)(to)W(Win)ゲームになったことにより、更にキャラ格差が生まれてしまった。

 元は微課金でも気軽に遊べたのだが、今ではボスからしか入手することが出来ないアイテムが平均150万円で手に入ってしまう、闇のゲームになっていた。

 

「10万です……」

「相変わらずすくなっw」


 隣にいた『Strafe』さんが俺を馬鹿にしたように笑ってくる。この人はひと月の最高課金額が500万で、クラス別レベルランキング3位の神聖騎士(ホーリーナイト)だった。

 神聖騎士(ホーリーナイト)は圧倒的防御力を誇る典型的タンク職だ。同じタンク職である暗黒騎士(ダークナイト)と比べ、自前での回復力(サステイン)があるため、全職業で一番の硬さを持つ。

 並みのプレイヤーならストレイフさんを倒すことは不可能、というか一般プレイヤーはどれだけ上手く剣を振ろうが、攻撃命中率が低いため、そもそもシステム的に攻撃が当たらない。

 

 けれどガチ勢同士の戦いになると、そんなランカーキャラでも、あっさり死んでしまうことがある。ガチ勢同士の戦いは恐ろしい……。

 

「お前、普通の装備が良くても課金してねえから弱くね? マリーンどう思う?」

「もう古いボス装備と課金装備の性能差がないし、アーティファクトは実質課金専用だから……正直ユウヤさんのスペックは足りなくなってきてる。火力があっても柔らかすぎるしヒールが追いつかない」


 そんな事実を、おとぎ話の名をもじった『タコのマリーン』さんは指摘する。聖神官(アークビショップ)であり、クラス別レベルランキング9位の彼は回復や支援の要だった。

 どんなに最強の前衛がいたところで、ヒールがなければ死んでしまう。

 ゲームというのは火力職が花形のように見えて、実は後衛職の練度も重要だったりする。前衛の生き死にを管理する以上、後衛も高い(Player)(Skill)や装備が求められる。

 そんな彼の指摘は、ちょっと悲しい。


「けど俺は黒魔術師(ダークメイジ)でAGIINT振りだし……」

「何だ? 言い訳か? タイマンでの火力はあっても、結局は耐えられなきゃ火力は出せねえんだよ!!! 大体、後衛であるお前が前衛と殴り合ってる方がおかしいんだよ!」


 ストレイフさんの言うとおりだ。確かに俺のクラス、黒魔術師(ダークメイジ)は本来、後ろで攻撃魔法を使用する後衛火力職だ。

 しかし俺のステ振りや装備は全て前衛向きのステータス配分で、戦闘も近距離で行う殴り魔術師だった。

 

 これはとある伝説(レジェンダリー)武器と、近接攻撃時に与える魔法ダメージを確定ダメージに変える伝説(レジェンダリー)スキルを持っている俺だから成り立つ戦法で、どんな防御力を誇るタンクでさえも高い秒間火力(DPS)で倒すことが出来た。

 確定ダメージで手数を稼ぐ戦法は尋常ではない火力があるのだが、キャラが魔術師である以上、防御力にマイナス補正がかかり撃たれ弱いことや、移動スキル(ブリンク)が乏しい欠点があった。


「だから適宜メイジの立ち回りをしたり、アサシンとして相手の後衛を狙ってるじゃないですか。そんなこと言うなら、ストレイフさんは自分の硬さを過信して前出すぎじゃないですか? 人数不利な状況で、雑に突っ込んだら普通に死にますよ」

「はぁ? だから俺が突っ込んで相手のリソースを吐かせてるんだろうが」

「その考えは良いんですけど、周りを見ずに明らかに前に出すぎなんですよ。ストレイフさんと一緒に付いて行ってヒールが出来る人って、クラン内でも数人しかいないと思うんですけど」


 俺はマリーンさんを見ながら言う。ヒーラーの主力である彼なら思うところもあるはずだ。


「まあ、ストレイフさんは前に出すぎかな。今日のメンバーだと僕しか一緒に付いていけないしね」

「それは……そうだな……」


 正論を言われたストレイフさんは悔しそうに自身のミスを認めた。

 確かに俺の(Player)(Skill)だって完璧じゃないし、柔らかすぎる欠点はあるけど、自分の役割はこなしていた。

 みんな少なからずミスはあるのに、まるで負けたのは俺のせい、俺の課金額が低いせいみたいに言われるのは、納得がいかない。


 分が悪いストレイフさんは助けを求めるように、リーダーであるドラニテさんに話しかけた。


「それで……ドラニテさん……今後はどうするんすか?」


 そして、長テーブルの上座に座っていたドラニテさんが衝撃的な発言をする――


「今後このクランは、課金額低い奴は全員切り捨てる」


 俺はその発言に耳を疑うしかなかった。


「課金をしていない奴らは余りにもやる気がない。今日の戦争に最後まで参加していたのは課金者ばかりだ。士気もない、課金も足りない、装備も弱い……参加せずに肉壁の役もこなせないなら、そんな奴らはクランには不要だ」


 ドラニテさんの発言に、ストレイフさんはニヤニヤしながら俺に話しかけてきた。


「はっ、だってよユウヤ! それじゃあこいつも切り捨てるんすか?」

「ああ」


 ちょっと待ってくれ……! 俺は課金額が少ないけど、長年最前線にいたおかげで資産はかなりある。だから課金要素のない装備ならみんなと引けを取らないはずなのに……。

 


「待ってくださいよ……! 俺、課金装備は弱いですけど火力はあるじゃないですか……! なのに切り捨てるって……IN率だってかなり高いのに……!」


 一人暮らしなのに働いていないというMMOに最適な職に就いていた俺は、ボスを巡った(Player)(Kill)の参加率はクラン内でも高い。

 その上でタンクキラーとしての役割をこなせる俺を、クランから脱退させる理由はないはずだ。

 しかしドラニテさんは俺の唯一のアイデンティティを認めた上で、俺を否定してきた。


「そうだ火力だけだ……お前は火力しかない。今日だって結局、横から入っても数人倒した程度で終わっていた。耐久が低すぎる以上、一度固められたら終わりだ」

(行動)(妨害)にも弱すぎるからな!」


 ストレイフさんは付け加えるように笑う。

 最近の課金装備にはやたらとCC(行動妨害)耐性が付いていることが多く、相手をスタンやホールドさせるのが(Player)(Kill)の基本戦術である以上、CC(行動妨害)耐性はあればあるだけ困らない。

 俺の装備はCC(行動妨害)耐性が少なく、さっきもスタンからの総攻撃で死んでいた。だから俺はその事実を受け入れるしかなかった。


「それは……そうですけど……クラン員を切り捨てたら、廃課金者だけ残って先鋭化すると思うんですけど。今日だって人数が少なかったのに、更に人数が減ったら……」

「そうだ、先鋭化させるのが目的だ」


 ドラニテさんはサラりととんでもないことを言う。


「リブートと『武神』は連合を組んだばかりで、内部関係がまとまっていない。人数が多すぎて既に分配の配分に不満があると聞く。そんな中で廃課金者だけクランが出来れば、俺らに興味を引かれた離散者が必ず現れる」

「そんな離散者が出る確証、どこにもないじゃないですか」

「リブートの何人かには既に話を付けてある。クランに寄生している奴らを追放するのは、加入枠を空けるためでもある」

「へっ! 俺らがてめえみてえな寄付もしねえ奴のことを何て言ってるか知ってるか!? てめえは……『寄生虫』なんだよ……!」

「寄生虫って……!」


 俺は確かにクランへの寄付をほとんどしていない。クランには課金通貨を使い恒常的なバフを強化する成長システムがあるのだが、少額の課金しかしていない俺は寄付をする余裕がない。

 課金通貨で寄付出来るようになるまでは毎日上限までゲーム内通貨で寄付をしていたし、そもそも俺は『よっぴーアイスランド』の最古参で昔からの貢献度を考えたらクラン内の過半数より上だ。

 

「俺は今までこのクランで……」

「このクランの古参だから貢献してきた……って言いてえんだろ?」

 

 ストレイフさんは俺の言葉に割って入るように煽ってきた。


「へっ! くだらねえ言い訳だな……! 今は全く寄付もしてねえ、金がねえから装備も更新出来ねえ、統制もしねえ……。よええくせにボス狩りのPKだけ参加してきて分配は貰う……どう考えても寄生虫だよなぁ!?」

 

 声を荒げるストレイフさんはテーブルに乗り出し、威圧的に俺を睨み付ける。

 周りの人は無言のままだったが、ニヤつく雰囲気から察するにストレイフさんと同じ考えのようだ。

 ストレイフさんが意見を問うように、ドラニテさんの名前を呼ぶと、俺は想像通りの宣告をされる。

 

「ユウヤ、お前はクランから抜けろ」

 

 俺は『タルシオン・オンライン』始めてすぐによしよっぴーさんに誘われ、『よっぴーアイスランド』に加入した。

 初期メンバーで楽しく遊んでいるうちに、いつのまにかエンドコンテンツに挑むクランになっており、ゲーム性の流れに従ううちにボスの利権を争う(Player)(Kill)クランになっていた。

 そんな思い出のクランから抜けろと言われても、当然抜けたくない。

 だが同時に、最近の戦いに付いて行けてないことも自覚していた。インフレする課金装備に対して、並みのボス装備で戦うのが明らかに厳しくなってきている。

 (Player)(Kill)はある種、究極のエンドコンテンツだ。戦いについていけなくなったプレイヤーが脱落するのは自然なことだ。

 俺もここらが引き際か――


「分かりました……」


 まあ仕方がないな……。不安定なネット収入だけで一人暮らしをしている現状、月に10万課金するのが限界だ……。


「なら、お前の『妖精王のエレメンタルブレード』も置いてけよ!」


 は? 伝説(レジェンダリー)を置いていけって……何を言ってるんだ……?


「いやあれは俺が買ったやつで……」

「あれはお前にクラン員として安く売ったのだから、脱退するなら返却するのが道理だ」

「けど、」

「そういうことだユウヤ! 抜けるなら置いていけや!」


 自身の意見が指示されたストレイフさんは、歪んだ笑みを浮かべ俺を煽る。

 俺は再び他のクラン員を見渡すが、やはりほとんどが2人の意見と同じのようだ。他の人も廃課金者であるため、侮蔑するような目付きで俺を見ていた。

 

 当たり前だが伝説武器を絶対に置いていきたくない。クラン員価格で少し安く買ったとはいえ、日本円で換算すると100万以上は確実にする代物だ。それを置いていくわけにはいかない……!


「ユウヤ、ゲームを続けたいなら武器を置いていけ。このクランの統制がどれだけ激しいか、お前なら分かるだろ? 従うなら統制狩場での狩りは許可しよう」

「置いていかねえなら……へっ……分かっているよなぁ……? 俺の統制がどんだけしつこいか? 逆らったらお前はマトモな狩場で狩りは出来ねえし、他のクランに入っても、そのクラン員は全員敵対対象だ……! お前はもう……この世界でやっていけねえ……! 俺が一生粘着してやるよ!」


 そうだ。今のこのクランは敵対だけではなく、効率の良い狩場で狩りをしている一般プレイヤーもPK対象だ。

 そして一度でも反撃をしたらそのプレイヤーだけではなく、クランそのものが敵対対象になってしまい、多額の仲裁金を払うまで敵対認定を解除をしない非道なクランだ……!

 

 よしよっぴーさんは煽らずに楽しくPKを心掛けていたが、このドラニテさんの方針は……正直酷い……。ストレイフさんは敵対に煽りが酷いし、一般プレイヤーの狩場統制も一番積極的にやってる無差別なPK厨だ。

 PKランキング1位の害悪極悪PKクラン変わり果て、嫌気が指した初期メンバーは俺以外全員抜けてしまった。

 

 今の『よっぴーアイスランド』から敵対認定をされたら、他にクランに入ることも美味い狩場で狩りをすること出来ず……俺は……ゲームそのものが出来なくなる……!

 何でこいつらの為にゲームが出来なくなるんだ……!


 俺は今初めてPKでゲームを畳んだ人の気持ちが理解できた。


「お~いてけ! お~いてけ! お~いてけ!」


 ストレイフは手を叩きながらコールをすると、ノリの良い何人かのクラン員は同じように俺を煽り始める。

 俺はインベントリから『妖精王のエレメンタルブレード』を選択すると、鞘に収まった青いロングソードが出現した。



【天照輝耀: 魔力溢れる +5 精霊王のエレメンタルブレード】


・武器攻撃力:230

・武器魔法攻撃力:250

・追加魔法ダメージ:650

・火属性値:60

・水属性値:60

・風属性値:60

・土属性値:60

・光属性値:200

・OP:追加魔力+200


・追加攻撃成功率:20%

・追加魔力+350

・DEX:+8

・AGI:+12

・【魔法発動: 精霊の裁き】 一定確率で対象の全ての属性耐性を 30% 低下

・【魔法発動: エレメンタルストライク】 対象の最も低い属性耐性に対する 破壊的なダメージ を与える

・【パッシブ: バリアブルアトリビュート】 1度だけ自身に付与された エレメンタルスタック を無視してスキルを発動することが出来る。(CD:45秒)

・【パッシブ: 加速する属性変換】 エレメンタルバースト への移行が4巡目からに変更される。

・【パッシブ: マジックガード】 一度だけ魔法による攻撃を無効化する。 パッシブが有効な間はDEXが 5 上昇する。(CD:55秒)

・【パッシブ: エルブンインサイト】 60秒おきに自身から 30m 範囲内の設置物を可視化する



「おおそれでいい。案外素直じゃねえか」

「これが100万以上するなんか……改めて考えると狂ってるよな……」

「はぁ?」

「俺はただゲームがしたくてこのゲームを始めた……」

「はぁ……? お前なに訳の分かんねえこと言ってんだ」


 そうだ。俺はただ単純に現実から離れ、この非現実の世界を楽しみたかった。


「なのに結局、ゲームの中でも現実の金、金、金……もううんざりだ!」


 はぁぁ……頭にきた……! こんな武器……こいつらに渡すぐらいなら……燃やしてやるよ!

 俺はインベントリから『神秘的な武器強化石』をあえて実体化させると、周りに見せつけた。


「おい……なに考えてんだ……やめろよ!」


 装備強化の安全圏は+5だ。それ以降は2/3で失敗となり装備は消滅してしまう……だかこんなゲーム……もうどうでもいい。

 それでも俺は皆にまざまざと見せつけるように強化石を使用し――

 

 

 剣が赤く光り輝いた。



〈システム: 匿名の冒険者 が+6 精霊王のエレメンタルブレード を作成しました。〉

〈maelstrom: だれ?〉

〈Jin: 俺らじゃないあいつら負けて悔しくて限界強化してらwww〉

〈ワンちゅう: あれ多分ユウヤのだろ〉


 全チャが敵対のチャットで賑わっていた。

 けど何だろう、こんな状況だからかそこまで嬉しくないな。


「なに成功させてんだよ……いいからそれを渡せよ……! それは俺らのもんだ……!」


 自分たちの物と言い張るストレイフに嫌気がさす。どうせこの武器を持ってても、もうこのゲームを遊べないんだ……それならもう一度っ……!!!

 俺は再び『精霊王のエレメンタルブレード』を強化すると――

 

 

 剣が赤黒く光り輝いた。

 


 え、ちょっとまてよ……! 赤黒い閃光ってことは……!


〈天照輝耀: 魔力溢れる +6 精霊王のエレメンタルブレード は 赤く鼓動する――それはフレゴスキノスの心臓のようだった。〉

〈システム: 匿名の冒険者 が+8 精霊王のエレメンタルブレード を作成しました。〉

〈蝸牛ちゃん: すごい……! おめでとうございます……!〉

〈Zランクパーティーを追放された一般人田中: おめでとう!!!!!〉


 今度は敵対のチャットはなく、強化成功を祝う一般プレイヤーたちの祝福チャットが流れ続けた。

 『神秘的な武器強化石』を使用したとき1/12で起こる2段階強化が成功してしまい、周りのクラン員は唖然とする。


「おい……お前……」

「んふ……んふふふふ……」


 武器のステータスを見た俺は、流石に笑いを抑えられなくなった。

 ゲーム自体に嫌気が指していたのに、流石に3段階強化となれば話は変わってくる。天国と地獄とはこういうことなのか……!



【天照輝耀: 魔力溢れる +8 精霊王のエレメンタルブレード】


・武器攻撃力:397

・武器魔法攻撃力:432

・追加魔法ダメージ:1123

・火属性値:103

・水属性値:103

・風属性値:103

・地属性値:103

・光属性値:200

・OP:追加魔力+200


・追加攻撃成功率:20%

・追加魔力:+604

・DEX:11

・AGI:15

・【魔法発動: 精霊の裁き】一定確率で対象の全ての属性耐性を 48% 低下

・【魔法発動: エレメンタルストライク】 一定確率で対象の最も低い属性耐性に対する 破壊的なダメージ を与える

・【パッシブ: バリアブルアトリビュート】 1度だけ自身に付与された エレメンタルスタック を無視してスキルを発動することが出来る。(CD:42秒)

・【パッシブ: 加速する属性変換】 エレメンタルバースト への移行が4巡目からに変更される。

・【パッシブ: マジックガード】 一度だけ魔法による攻撃を無効化する。 パッシブが有効な間はDEXが 8上昇する。(CD:52秒)

・【パッシブ: エルブンインサイト】 60秒おきに自身から 48m 範囲内の設置物を可視化する



 武器は強化するたびに性能が15%上がるのだが、伝説武器は上がり幅が20%になっており、完全にゲームを壊すレベルの代物が出来てしまった。

 伝説武器の限界強化+3はサーバー内に5本もないという噂だ。クラン員で唯一ドラニテさんだけ+3強化の伝説武器を持っている。


「はっ……ははっ……!」

「てめえ……! なに笑ってんだよ……!」


 急激すぎる情緒の変化に、俺は思わず乾いた笑いを上げてしまった。


「この武器を渡せって? 渡すわけないだろ! 欲しければ『タグ』を持ってないときに狙って、自力でドロップさせるんだな! じゃあな!」


 サーバー内で最強の魔法剣が誕生し調子付いた俺は、捨て台詞を吐きながらすぐさまログアウトした。



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