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お隣の吸血鬼は俺の血が欲しいだけ~毎日お世話をされて、時々血を吸われるお隣生活~  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中


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第35話 つまり初夜ですか?

 学校で乃蒼に告白し、無事に結ばれた俺たちは、初めて二人で帰路に着いた。

 躊躇いとか恥ずかしさとかもあったけど、人生初めての彼女という存在に浮かれていたのか、断ることなく受け入れてしまった。


 結果、放課後ということもあって道中で同じ制服を着た学生と遭遇し、驚愕と羨望の混じった視線をずっと感じていた。

 きっと明日、学校に行ったら見た奴らから問い詰められるのだろう。


 早くも気が重い……けれど、乃蒼との関係を隠さなくてもいいことの方が喜びとしては比重が大きい。

 これまではなあなあの関係だったけど、今はれっきとした恋人なのであって――変に隠すより堂々としていた方がいいというのが乃蒼の言。


 俺もそれに賛同したのは腹を決めていたから。

 変に誤魔化したくはなかったし、何より断ったら告白した意味がない。


 そんなわけで帰宅し、乃蒼と一緒に数日ぶりの時間を過ごすことになったわけだが。


 俺の肩にぴったりと肩に凭れかかるようにして座る乃蒼。

 体温と、確かな重さが乃蒼の存在を目で捉えずとも伝えてくれる。


 以前よりも明らかに近くなった距離感。

 鼓動が若干早まるのを感じながらも、こうしていることに幸福感を覚えてしまう。


 収まるべきところに収まったような感覚。

 今までと似ていて、確かに違う関係性に、まだ頭がついていけていない。


「乃蒼」

「どうしました」

「ちょっと変なこと言ってもいいか?」

「私が欲しい……と?」


 こてん、と小首を傾げながら蠱惑的に微笑む乃蒼。


 どう解釈したらそうなるんだ。

 乃蒼もちゃんとした関係になったことで頭が馬鹿になっているのかもしれない。

 ……元からこんな感じだっけ?


「違う。なんか凄い落ち着くなあ……ってさ」

「そうですか? 私、全然落ち着きません。胸がずっとドキドキうるさいくらいです。頭もふわふわしていて、私が私じゃないみたいです。顔も赤くないですか?」

「……確かに赤いな」


 乃蒼は色白だからぱっと見でわかる。


 それにしたって……そんな風に言われると、俺も意識してしまう。


 変わったのは関係性だけ。

 されど、その影響力は計り知れないもの。


 友達から、恋人へ。

 そう、恋人だ。


 たった一人の愛する人へ向ける感情の整理がつくのはいつになるだろう。


「……ところで、灯里さんから告白されたのが嬉しすぎて完全に忘れていたのですが、私も言いたいことがあったんですよね」

「そういえばそうだった」

「まさか先手必勝されるとは迂闊でした。なので、これは感想戦とでも思って聞いていただければ幸いです」


 そんな風に前置きを置いて、一呼吸。


「――休日の後に考えてみたのですが、どうやっても灯里さんへの好きを否定できませんでした。吸血鬼と人間、血を啜る者と与える者、その関係性として恋人は適切ではないと思っていました。だから私は灯里さんに身を捧げることで気持ちを誤魔化し、それでいて傍に居続けようと考えたんです」

「……今までみたいに?」

「最後には私が死んでもいいんですか? なんて泣き落とすことも視野に入れていましたけど……それは好きな相手にしていい態度ではありません。矛盾しているじゃないですか。私を好き勝手、道具同然に扱っていいと言っているのに、その頼みを受け入れてくれる前提は灯里さんが私を大切に想っていることなんですから」


 滔々と語る乃蒼は自嘲気味に笑い、息をつく。


 必ずしも明かす必要のなかった想いを伝えてくれるのは、乃蒼なりの誠意か。


「ですが、灯里さんは私を粗末に扱ったりはしません。血も私が望むときに与えてくれます。なのに私が与えられるのは家政婦の域を出ない奉仕だけであれば、釣り合いが取れません。ですから、多少強引にでも私の全てを貰っていただかなければと思っていました」

「…………それってつまり」

「既成事実というやつです。吸血衝動だと嘘をついて直接噛みつき、性欲を煽れば可能でしょう。灯里さんは何も悪くなくて、私だけが悪人になれる。されど灯里さんは責任を取ろうとするはず。――そこまで考えていたのですが、私の悪だくみは必要なくなってしまいましたね」


 かなり強引な一手を聞かされ、流石に身が硬くなる。


 それほどまで乃蒼は追い詰められていた証左なのかもしれないが、果たしてそこまでするほどのことかとも思ってしまうのは俺が与える側の人間だからだろうか。


 吸血鬼は血を摂取しないと生きていけない。

 頼みの綱が俺だけの乃蒼は、どうあがいても俺の助力が必要。

 だからなんとしてでも俺を繋ぎ止める必要があり、そのためには身体を差し出すのも辞さない……となるのは理解しよう。


 乃蒼が極端な思考に至ったのは、そこまでの対価を必要としない俺の態度に焦ったからかもしれない。

 普段は冷静で頭のいい乃蒼にしては短絡的な思考であるものの……命がかかっていたら仕方ないことだとも考える。

 そこに個人的な好意まで混ざったら、色々とぐちゃぐちゃになるのも無理はないか。


 ――で、あるならば。


「実はさ、俺も一つ提案しようと思ってたことがある」

「初夜ですか?」

「違う。一度、直接吸血してもらうのはどうだ?」

「……つまり初夜ですか?」

「だから違う……と言うための努力はする」

「私的には陥落していただいた方が嬉しいのですが。……というか、直接吸血なんて本当にいいんですか? そしたら灯里さんも副作用が」

「わかってる。だけど、それなら乃蒼も俺を信用できるんじゃないかと思ったんだ。どうする?」


 真面目に訪ねてみれば、乃蒼は悩ましげに瞼を伏せた。


 直接の吸血、そのリスクは承知しているつもりだ。

 だが、これが一番手っ取り早い手段でもあると思う。


 俺の腹はもう決まっている。

 万が一そうなろうとも、責任は取るつもりでいた。


 親がどうとか世間体がとかはどうにかしよう。

 頭を下げるくらい何でもない。


 それで乃蒼が笑っていてくれるなら、それでいい。


「――わかりました。しましょう、直接の吸血を」

「それじゃあ……どこでしよう」

「ベッドをお借りした方が良さそうです。倒れても大丈夫なようにであって、間違っても流れで既成事実を作ろうだなんて思っていませんからね」

「言われると逆に警戒するんだが」


 一つ計算違いがあったとすれば……馬鹿みたいに緊張することだけだな。


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