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お隣の吸血鬼は俺の血が欲しいだけ~毎日お世話をされて、時々血を吸われるお隣生活~  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中


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第32話 お誂え向きの方法

「あれ? 遠坂くん、今日はお弁当じゃないの?」

「あー……まあな」

「遠坂のお弁当ってお隣さんが作ってくれてたんだよね。忙しかったとか?」

「まあ、そんなとこだな」


 隠岐と篠崎から寄せられた質問にそれとなく答えつつ、ご無沙汰だった購買の焼きそばパンにかぶりつく。


 ……あれ、こんな味だっけ。


 美味しいのは美味しいんだけど……やっぱり、物足りない。

 完全に乃蒼が作ってくれる料理に舌が慣れてしまった弊害だろう。


 表情を変えないように取り繕っているけど、いつもより渋い顔になっているに違いない。


 思い返すのは週末、乃蒼との出来事。

 知っているものだと思い込んで過去のことを話してしまい、色々と拗れてしまった。


 その上、告白紛いのことまでしてしまい、乃蒼に愛してると囁かれたまま抱き着かれたのにしばらく距離を置かせてくださいと告げられ――この通り。


 昨日も、今朝も乃蒼と部屋で会うことは叶わなかった。

 しかしながら学校には登校していて、隣の席に座っているのを見て安堵した。


 言葉を交わすことも目を合わせることもなかったけど、大事がないとわかっただけでいい。


「ちゃんと感謝を伝えなさいよ? 当たり前だと思っちゃダメなんだから」

「瑛梨華が言わなくても遠坂くんはちゃんと伝えてるよね」

「そのつもりだけど、伝えすぎってことはないはず」


 とはいえ、乃蒼と話せなければ感謝の一つも伝えられない。


 乃蒼が言うところの『しばらく』はどの程度の期間なのだろう。

 数日? 一週間以上? 一か月……いや、そんなに長くはならないはず。


 吸血鬼は定期的に血を摂取する必要がある。

 頻度はこれまでだと週に一度くらい。

 前回は週末前だったから、今週中には吸血のために顔を合わせる機会があるだろう。


 ……でも、そんなに悠長にしていていいのか?


 間が長引けば長引くほど気まずくなる。

 頑固な乃蒼のことだから、次の吸血の際になにか言い出すかもしれない。


 そうなったら俺は――


「そいえば今日の早夜月さん、ちょっと様子おかしくなかった? なんか思いつめてるっていうか、ぎこちなさがあった気がして」

「僕もわかるかも。授業で先生にあてられたときも聞こえてなかったみたいだし……早夜月さんのあんな姿は初めて見たかも」


 二人の言う通り、今日の乃蒼は明らかに精彩を欠いていた。

 原因は言わずもがなだろう。

 俺も心配になったけど、乃蒼が俺を意識しないように努めているのが伝わってきたため、話しかけるには至っていない。


 ……本当に大丈夫なのだろうか。


 話を聞き流しながら視線を隣、乃蒼の席へ。

 しかし、乃蒼の姿はなく、教室中を探しても見当たらない。


 また、告白でもされているのだろうか。

 それとも別の場所で昼食を取っているのか。


 ……乃蒼が作ってくれた弁当や食事がやけに懐かしい。

 あの声も、笑顔も、温もりも、何もかもが幻だったのではと不安になる。


 また、乃蒼と日常を過ごしたい。

 その想いが今日、顔を合わせたらより強まった。


 ――こんな想いを抱くのが恋であるのなら、俺はどうするべきなんだ。


「遠坂は早夜月さんと話した?」

「いや、話してないけど」

「いつも挨拶するくらい仲がいいのに?」

「……挨拶するくらいで仲がいい評価はどうなんだ?」

「早夜月さんが他の人に挨拶でも話しかけているところは見たことないから、仲がいいのかなって」


 隠岐の言葉に篠崎も同調して頷く。


 ……まあ、仲がいいと思われているだけなら構わないか。

 俺たちの秘密がバレなければそれでいい。

 二人なら変な邪推をしたり、探りを入れたりもしないだろうし。


「仲いいならとりあえず話してみたらいいんじゃない?」

「……何を?」

「悩みがあるなら相談乗るよ、みたいな感じでさ」

「いきなり迷惑だろ」

「友達に話しかけられて迷惑に感じる人はいないと思うよ」


 肝心要の話しかけるハードルが爆上がりしているんだよなあ。


 しばらく距離を置かせてくださいと言われているし、その言葉通りに乃蒼は俺の部屋を訪れていない。

 なのに俺から話がしたいと持ち掛けて、果たして応じてくれるのか。


 生活音的もしなかったことから、乃蒼は恐らく隣の部屋を使っていない。

 あの後、家に帰ったのだと思う。

 だから帰ってから俺が乃蒼の部屋を訪ねるのも無理。


 乃蒼と会えるのは学校くらいしかない。


 でも、一体どうやって対話の場を設ければ――


「……あ」


 考えてみて、気付く。


 あるじゃないか。

 乃蒼ならばほぼ間違いなく応じるであろう、お誂え向きの方法が。


 問題があるとすれば俺の感情だけ……なんて、これも言い訳だな。


 乃蒼と話したことで、この感情の名前は自覚した。

 そして、認めもしよう。


 だったら躊躇う必要なんて欠片もない。


「遠坂、急に変な顔してどしたの?」

「僕もあんまり言いたくないけど、結構変な顔してるよ」

「ほっとけ」


 いつも通りの二人に感謝しつつ、頭の中で話すべきことをリストアップしていく。


 いざ対話の席に着いても、まともに伝えられなかったら笑われそうだ。


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