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お隣の吸血鬼は俺の血が欲しいだけ~毎日お世話をされて、時々血を吸われるお隣生活~  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中


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第12話 何もしてない……わけじゃない、かもしれない

「折角お隣なのに二人で学校まで行けないのは少し寂しいですけど、仕方ありませんね。学校でまた会いましょう」

「早夜月も気を付けてな」


 食事と片づけ、登校の支度を済ませた俺と早夜月は一旦別れた。

 この後すぐ早夜月が出るそうなので、俺は数分開けてからにしよう。


 タイミングをずらしたのは万が一にも同じ学校の生徒に目撃されないため。

 早夜月は構わないと言っていたけど、俺が断った。


 我ながら意気地がないなと思ったものの、下手に騒がれるよりはよっぽどいい。


 それから家を出て、いつも通り学校へ。

 隣の席には見慣れた早夜月が、すまし顔で座っている。


 お互い学校では関わらない。

 それが俺たちにとって正しい選択なのだと疑わず――


「おはようございます、遠坂さん」


 当然のように挨拶をされて、思わず頬を引きつらせてながら振り向いた。


 関わらないはずでは? と視線で訴えるも、返ってくるのはにこやかな笑みだけ。

 どうやらこれは関わらないの範疇ではないらしい。

 挨拶だから誰にでもすることです……みたいな理論だろう。


 間違っていないし否定する気もないけど――早夜月が進んでクラスメイトに挨拶をした機会は、俺の記憶が正しければ一度もなくて。


 教室にいたクラスメイトの視線が一気に集まる。

 それも当然だろう。

 あの早夜月が名指しで挨拶をしたのだから。


 こうなったら返さない方が問題だ。


「……おはよう、早夜月。ところで、どうして俺に挨拶を?」

「したかったからではダメですか?」

「ダメじゃないけど……」

「遠坂さんは隣の席で一番近い方ですから」


 本当の理由は違うだろう、とは言えない。


 既に俺でもわかるくらいクラスメイトからの注目が凄まじい。


 これ以上会話を続けたらぼろが出てしまいそうだ。


 結局何がしたかったのだろう。

 本当の理由は夜に聞いてみようと心に決め、ホームルームが始まるまで針の筵のような思いを味わうのだった。



 そして、昼。


「遠坂くん、今日はお弁当?」

「それ、どうしたの? 自分で作った……わけないよね」


 昼飯を一緒に食べようといつものように集まった隠岐、篠崎の前で早夜月から預かった弁当箱を出したらこれである。


「なんで俺が作った可能性を否定した」

「だって遠坂君、自分で料理出来ないって言ってなかった?」

「……たまたま興が乗ったってこともあるだろ」

「中身を見てから判断するから早く開けてみなさいよ」


 二人に急かされながら、包みの結び目を解く。

 弁当箱はシンプルなデザインの、上下二段になったもの。

 男が使っていても不思議ではないそれを開けると――彩り豊かに敷き詰められたおかずと、梅干しが添えられた白米が現れた。


 黄金色の玉子焼きとアスパラのベーコン巻き、一口大に切り分けられたから揚げ、ほうれん草のおひたしなど、バランスのいいおかずだ。

 これを早夜月は家で作っていたのか……申し訳なさとありがたさを交互に感じてしまう。


「……遠坂が作ったようには見えないけど?」

「俺もそう思う」

「自白しちゃったね。で、誰に作ってもらったの? お父さんは海外だったよね」

「あー……まあ、色々あってお隣さんから貰ったんだよ」

「恩返しにしては手が込んでるね。全部手作りだし。冷食が一つや二つ紛れていたところでお弁当なら気にしないのに」

「几帳面で生真面目な人なんだよ、多分」


 今も間隣にいるけどな、と心の中で呟きつつ、ふと思う。


 俺と早夜月の弁当の中身が同じだったらバレないか?


 隣の席だったらふとした瞬間にどちらかが気づくかもしれない。

 心休まるはずのランチタイムが一気にひりついてしまう。


「へぇ……どんな人なの?」

「どんな人でもいいだろ。あと、他人の個人情報をあっさり漏らすのは信用問題的にな」

「そういうとこ、遠坂くんもかなり真面目だよね。気持ちはわかるけど」

「それもそっか。それより、肝心なのは味じゃない?」


 篠崎が気になる味について俺は疑っていないけど、おもむろに箸を伸ばす。


 感想は口にするまでもなかった。


「……その顔、美味しいみたいね。あたしにも一口くれたりしない?」

「瑛梨華、無理を言うのは良くないよ。遠坂くんのお隣さんが遠坂くんのために作ったお弁当なんだから」

「わかってるけど……遠坂がこんな顔で食べるお弁当の味、気になるでしょ?」

「……気にならないとは言わないね」


 篠崎の問いに隠岐も苦笑しながら肯定を示す。

 そして再び、二人の視線が俺……もとい、弁当へ。


「やらんぞ」

「そこを友達のよしみで一つくらいさぁ」

「やらん」

「遠坂くんがここまで強情なのって中々ないね。そんなに美味しい?」

「美味いね。購買で買ってくるパンも美味しいけど、満足感が違う」


 それからも隙あらば一口を狙ってくる篠崎に睨みを利かせつつ完食し、午後の授業まで雑談をしていたところ、


『二年一組、遠坂灯里くん。至急、学園長室へ来るように』


 穏やかな声音の校内放送が俺を名指しで呼び出した。


 これ、まさか。


「遠坂、学園長室に呼び出しなんて一体何をしたの?」

「俺は何もしてない……わけじゃない、かもしれない」

「心当たりはあるんだ」

「ないこともない」


 早夜月との関係で呼び出されたとは口が裂けても言えず、言葉を濁しながら二人と別れて学園長室へ向かった。


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