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第五十六話 決着 

郁が撃った銃弾はカイン・クロフォードの核を貫き、核は粉々に砕け散り、少しずつ消え始めた。

夕凪はカイン・クロフォードの身体から刀を引き抜き、刀から血を振り落とした。

カイン・クロフォードの身体は床に倒れ込むと、ピクリとも動かなくなった。


「はぁ……はっ…」


 夕凪は肩をゆっくり上下に揺らし、酸素を自身の肺に多く入れようと、呼吸する。

 カイン・クロフォードを倒すために多く血を使ったせいなのか、少し顔が青褪め始め、次の瞬間フラッと力が抜けた様に夕凪は倒れそうになる。


「夕凪ちゃん……!」


 郁は夕凪に向かって、手を伸ばし駆け寄るが数センチ足りない。

 

 このままだと、頭から床に落ちる。そう、嫌な考えが郁の脳裏に過ぎった時、耳元に何かが横を横切る音がすると、視界に白銀の毛に覆われた狼が現れた。

 郁は驚きのあまり手を伸ばしたまま立ち止まり、ぽかん口を開いた。

 白銀の狼は夕凪を自らの背に背負うと、郁の元に戻って来た。


「え……っ? あ、ありがとう」


 白銀の狼は郁の手に頬擦りすると、瞬きを繰り返す郁に向かって、口を開いた。


「どういたしまして、郁くん!」

「……リリィ?!」


 郁はそう驚くと、リリィは嬉しそうに大きな尻尾を振りながら郁の周りをウロウロとした。


「郁さん……!」

「東雲くん!」


 東雲真緒も郁達の方にかけてくると、その後ろから八百と七瀬の姿も見えた。

 七瀬は郁と目が合うと、気まずそうに笑顔を見せた。

 すると次の瞬間、七瀬は突然口を押えた。

 少し先を歩いていた八百は驚いた様に振り返った。

 口を押えている七瀬の手の指の間から黒い血が大量に溢れてくる。


「カイン・クロフォード……?!」


 郁はその黒い血を見て、そう言葉を漏らした。


「これなら儂が喰っても腹は壊さないかのぅ」

「……そうですね。

それはカイン・クロフォード様の残骸ですから、アナタが喰っても多分平気ですよ暴食マリア。

……嘘じゃありませんよ?

《《リリス》》は彼に従う理由はないですから嘘はつきませんよ」


 七瀬から吐き出された黒い血は床へ落ちると、数本のフォークやナイフに固定される。

 黒い血が少しでも動くと、そこから次々にフォークが刺さり、床に固定される。


「わんころー! 手の平を広げて両腕を前に出せぇい!!」

「えっ? はい?」


 郁は咄嗟に言われたように両腕を伸ばすと、ふわりとマリアが郁の腕の中に落ちてきた。


「ナイスキャッチじゃよ! わんころ

一度体験してみたかったんじゃ、姫抱きというものをなぁ」


 マリアは郁にウインクする。

 その近くで黒いワンピースに白いピナフォアを着たリリスが床にゆっくりと着地した。


「マリアさん……!」

「そうじゃよ、キュートでビューティーで腹ペコの暴食の悪魔なマリアじゃ!」


 マリアは右手の人差し指と中指を立てると、自身の目尻に添え、郁に向かって笑顔でウインクした。


「只の蠅のくちぇにきゅーとやらびゅーちぃーとか要らにゃいです。

あ、エバの口調が出て来てしまいました。

うっかりです」


 マリアは口を尖らせると、リリスを見た。

 リリスはふぃとそっぽを向いた。


「七瀬……大丈夫か?」


 八百は七瀬にそう声をかけると、七瀬はキッと吐き出した黒い血を睨み、口をゴシゴシと服の袖で拭った。


「……ふっ、最初から保険の為にも私に多く自身の血を飲ませたのか。

それも私の中の鬼の力も喰らって大きくなって……どこまでも利用するつもりだったのね」


 七瀬は眉を下げると、悲しそうにふっと笑った。


「カイン・クロフォード。

……始まりの時、私は孤独のあまりに自らの一部から君を創造してしまった。

君は自我が芽生えたと同時に強い力を得た。

独裁欲、支配欲、そして創造者エリーゼ・クロフォードに対する異様までの執着に覆われた。

君は許されるラインを越えてしまった。

君は多くのことわりを壊しすぎたんだよ、カイン・クロフォード。

最後の最後まで君は醜く足掻いて、他を犠牲にしてでも自らが生存することを考えていた。

君が自らの意思や希望、それ以外の何かを残そうと画策しようとしても、もう君は何も残すことも許されないのだから。

消滅する瞬間のその時も君の言葉一つたりとも残せないよ。

……すべてが君のせいだなんて、私は言える立場じゃない。

すまなかった。

私の半身、もう一人の私自身」


 少し遠くでその光景を眺めていたエリーゼはそう呟いた。


「エリーゼ……」


 エリーゼの膝で横たわるラヴィの声がし、エリーゼは視線を落とした。


「カイン・クロフォードはどうなった……? 

夕凪は? ワンコくんは……」

「……大丈夫。カイン・クロフォードは今度こそ本当に消滅したよ。

二人も多少負傷はしているけど無事だよ」


 エリーゼの言葉にラヴィは胸を撫で下ろし、安堵の微笑をもらした。


「そうか……良かった。

少し前から《《目が開いてないみたいなんだ》》。

ずっと、真っ暗で……おかしいよね。

近くにいるエリーゼの声は微かに聞こえるけど……他の音が聞こえなくて」


 エリーゼはぐっと唇を噛むと、ラヴィの手を強く握った。

 マリアは郁の腕の中から降りると、小走りに捕らえた黒い血の方に駆け出していった。

 しかし捕らえた黒い血は少しずつ崩れ、散り始めており残念そうに肩を落としていた。

 マリアの隣でリリスはクスクスと笑っていた。

 郁は視線を夕凪の方に向けると、夕凪は目を覚ましたようで郁の方に微笑んでいた。

 隣には人間の姿に戻ったリリィが正座しながら、東雲に説教を受けていた。

 よくよく見ると、リリィは上着を羽織っているが、あとはパンツ一枚だけだった。

 郁は咄嗟に鼻を抑えながらそっぽを向いた。


「なんで……っだよ!

リリィ……」


 夕凪はそんな郁を見て、「……鼻血出すんじゃないわよ、郁」と呆れた様にポツリと呟いた。


「ー……」


 微かに声みたいなものが聞こえ、倒れていた世釋の身体がピクリと動いた。

 郁達はバッと警戒態勢になった。


 世釋の身体から小さな光の様なモノがふわりと出てくると、ふよふよと夕凪の方に向かっていく。

 郁は小さな光を目で追いながら、夕凪の方に視線を向けた。

 夕凪も害が無いものだと瞬時に判断したのか、小さな光を両手で包み込んだ。


「……」


 夕凪は少し驚いた顔をすると、小さな光は次に猿間の方に向かっていった。

 郁は猿間の方に歩みを進めようとして、夕凪の横を横切ろうとした際に腕を掴まれた。


「……大丈夫だよ。夕凪ちゃん」


 郁は自身の腕を掴んでいる夕凪の手をやんわりと解くと、歩みを進めた。

 小さな光は猿間の周りをゆっくりと浮遊すると、猿間が差し出した人差し指にふわりと着地した。


「猿間さん」


 猿間は郁の方に視線を向けると、ふっと笑った。


「郁。

そんな唇強く噛みすぎると、血出るぞ。

大丈夫だ。まだ消えるまで猶予がありそうだ」


 郁は唇を噛む力を緩め、一度首を振ると、猿間の方に顔を向きなおした。


「……とりあえず、歩きながら話すか。

俺は此処の建物には一応住んでいたし、詳しいからな。

それに、あちらさんにとっても俺らが此処に居ると気まずいだろうしな」


 猿間はエリーゼの方を見ると、一瞥した。

 小さな光は猿間の指から離れると、エリーゼ達の方に向かって行ってしまった。


「俺にも律儀に挨拶くるなんて、しっかりしてる子だよ」

「……そうですね」


 郁も頷くと、猿間を追う様に部屋を後にした。




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