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第十六話 道化師

ウォッカを後にした郁達は同じ宿屋にもう一晩泊った。

 仲居さんにウォッカはどうでしたか。

 何をされに行かれたのですか。と色々尋ねられたが、郁は上手くかわし続けた。

 ノアの箱舟に帰路の際も郁は船酔いをし、何度か年下である東雲に面倒を診てもらい申し訳ない気持ちになった。


「うまく吐けない場合は言って下さい。

郁さんにはこの数日色々と迷惑をかけてしまいました。

俺がノアの箱舟に戻る道中、郁さんの側に常に付いています」

「……ありがとう東雲くん。

でも、本当に大丈夫だよ。

寝てるときは気持ち悪くならないと思うから……」


 船の館内は簡易二段ベットがあり、本来は上と下にそれぞれ眠ることが出来るのだが心配してなのか東雲がちょくちょく郁の様子を見に来てくれる。


「寝ているときも船酔いになって嘔吐物で窒息する方もいるそうです。

郁さんも疑っているわけではありません。

只、そうなってしまってからじゃ遅いです。

だから、なるべく寝ている郁さんを起こさない様に様子を見に来ますので」


 東雲は真剣な眼差しで郁を見る。

 東雲の気持ちは正直有難い郁だが、そのときだけふと猿間もあのときこんな気持ちだったのかな。と過去の自分の猿間に対する行動に少々郁は反省した。

 ノアの箱舟に到着すると報告の為にラヴィのところにすぐに向かった。

 ラヴィの部屋のドアを開けると、ラヴィの他にリリィの姿があった。


「リリィ……!

もう大丈夫なのか?」


 夕凪はリリィに近付くと、ぎゅっと抱きしめた。

 郁もリリィの姿に一瞬戸惑ったが、リリィのいつも通りの笑顔を見るとほっと息を吐いた。


「心配かけちゃってごめんね……もう大丈夫だよ!

リリィちゃん復活!!

……自分でリリィちゃんって恥ずかしいね。

夕凪ちゃん傷つけちゃってごめんね……」

「私は大丈夫だ。

……よかった、リリィ」


 リリィは夕凪を抱き返すと郁の方を見る。


「郁くんもごめんね。

今度はちゃんと一緒に頑張るからね」

「俺はリリィに何も出来なかったから。

でもよかった、リリィが居ないと俺も淋しいからさ」

「えへへ、ありがとう」


 郁達の後から入って来た東雲を見つけると、夕凪から離れ、東雲のところまで近づく。

 リリィは東雲に控えめに笑顔を向けた。


「真緒ちゃんもおかえりなさい。

……傷だらけだね。っきゃ!」


 東雲はリリィの腕を掴むと、引きずるように部屋を出ていこうとする。

 咄嗟に郁は握られていないリリィの腕を取った。


「すいません、郁さん。

俺リリィに聞かなくちゃいけないことがあって……」

「それってここでは聞けないことなの……?」


 東雲は一瞬俯くが、ゆっくりと首を横に振った。


「もう二人とも痛いよ?

強いよ力が……離してほしいな~」


 郁はリリィから手を離したが、東雲は先程よりは握る力は弱いが腕を握っていた。


「リリィ、俺に隠してることあるだろう?

例えば……強欲の悪魔シキ・ヴァイスハイトのこととか」


 リリィは目を見開くと、東雲に握られた腕を振り払った。


「何隠し事って……?

隠してることなんてないよ~?」


 東雲は一枚の写真をリリィの目の前に突き出すと、一人の人物を指さす。


「この人がお前の会った強欲の悪魔シキ・ヴァイスハイトで間違いないんだよな?」

「……違うよ」


 リリィはそう言うと、右頬に手を置く。

 東雲はぐっと眉を下げると、唇を噛む。


「……嘘だね。

お前嘘つくとき自分の右頬触る癖があることなんて昔から知ってるんだよ。

……そんなに俺は昔みたいに頼りないかよ」

「これは私のせいなの。

私決めたんだ、自分でやってしまったケリは自分で決着つけようって決めたの。

だから真緒ちゃんは何も心配しないで、ね?」

「っ、どうして無理して笑うんだよ。

……俺はお前のそういうところが嫌いだ」


 東雲は拳を強く握ると、部屋を出ていく。

 郁は東雲を追うように後をついていく。



「まって、東雲くん!」


 東雲は立ち止まると、壁にもたれ掛かりその場にしゃがむ。

 郁は東雲のところへ駆け寄ると、顔を覗き込んだ。


「……泣いてると思いましたか?」

「少しだけ。

あの写真の人、誰なの?」


 東雲は小さく溜息をつくと口を開いた。


「あの人は俺とリリィの大切な人です。

……すいません郁さん、少し昔話に付き合って頂けませんか?」


 郁は頷くと、東雲の隣に腰かけた。

 東雲は郁が腰かけたのを確認すると、自身の膝の上で組んでいた指を緩めた。


「俺とリリィは幼い頃からあの施設で他の子供達と過ごしていたんです。

両親が居ない孤児院でした、あそこは。

……その施設がどんな所だったのか周りの方は色々言いますが、俺にとっては良い思い出が詰まった場所なんです。

みんな家族の様に過ごしていたんです。

そこで特に俺とリリィは兄として慕っていた青年がいました」


 東雲はぽつりぽつりと話し始め、郁は静かにそれに耳を傾けていた。

 郁達が肩を並べている頃、部屋に残された夕凪、リリィ、ラヴィ間では沈黙の時間が流れる。

 リリィは郁達が出ていった扉を見つける。

 夕凪は床に落ちた写真を手に取ると、リリィに渡す。


「これはリリィに渡しておく……」

「ありがとう夕凪ちゃん」


 先ほどまで黙っていたラヴィが口を開いた。


「さっきの東雲くんの話……続きを聞いてもいいかなリリィ」


 リリィは受け取った写真を胸の方でぎゅっと抱えると、ラヴィの方を見た。


「……私があの日会った強欲の悪魔シキ・ヴァイスハイトは私が殺した兄、ユキノという人物です」


 リリィはにこっと笑った。


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