孤児院を救え
「アンナッチおっは~♪ 今日も堅苦しい顔して頑張ってるね~」
「おはよう御座いますカオルさん。今の発言たと私が無機質な性格だと言われているみたいに感じますが。というか第一声がソレなのはおかしいでしょう」
「ありゃりゃ、そう? 別に悪気はなかったんだけどな~」
ってなわけで、ウチは今冒険者ギルドに来ているのでした~。ひゅ~ひゅ~!(←特に意味はないらしい)
「やはり貴女もダイチさんから悪影響を受けているようですね。もう少し他人との接し方を学んだほうが良いでしょう」
「そうなの~? じゃあアンナッチが教えてよ~、Yo~Yo~♪」
「ですからそういう口振りを――はぁ、もういいです……」
アンナッチ、何か疲れてる~?
あ、そだ! せっかくのスキルだし有効に使っちゃお!
ポン!
銅貨52枚→銅貨51枚
「は~い、エナドリ~。美味しいから飲んでみて~」
「え……は、はい、ありがとう御座います。――あ、美味しい……」
「でしょ~? それ飲んで疲れなんか吹っ飛ばそ~!」
無機質だった顔(←やっぱりそう思ってたのか)がキラッキラに輝く笑顔に。せっかくの美人さんなんだし、こうでなくちゃね。
「すみませんカオルさん」
「ん、何々? 何で謝るの~?」
「私、カオルさんの事を誤解してたみたいです。エルフなのにどんな人にも絡んでいく節操の無い人だと思ってて……」
「そ、そんな風に思ってた? 逆にショッキングなんだけど~」
「ホントにすみません! でもお仲間のダイチさんは隙あらば猫耳を触ろうとしてくるし、ナツミさんも遠慮なく肩をバンバン叩いてくるので……」
あ~それは想像出来ちゃうな~。てかダイチはアウト~、乙女目線でアウト~。お仕置きはナツミんのヘッドロックで決まりかな~?
「それはメンゴ。二人にはちゃんと言っとくよ~」
「はい! ――あ、ところで肝心のお二人はどうされたんです?」
「それね~。昨日臨時収入が入っちゃって、朝方まで飲み明かしたみたい」
「まぁ……」
最初はナツミんだけガバガバ飲んでたんだけど、ダイチが止めようとしたら飲み比べで対決するみたいになったんだよね~。結局2人とも酔っちゃって止める人が居なくなった感じ~。
カオルは飲まないのかって? 残念、カオルはまだ未成年なので、お酒は飲めないので~す。
ちなみに所持金は以下の通りで~す。
金貨6枚
銀貨38枚
銅貨51枚
討伐隊の参加者全員に金貨1枚が与えられたから金貨は3枚プラスでしょ~、更にダンマスを撃破した報酬でウチらパーティに金貨5枚プラス~の、昨日の飲み食いで金貨3枚マイナス~。
あ、でもでも~、ウチが貰った金貨1枚はウチのものだからダイチには渡してないよ~。
「ですが驚きました。カオルさんってダイチさんみたく召喚も出来るんですね」
「あ、それは誤解。今日はダイチがダウンしてるからウチが権限を貰ってるだけ~」
これね~、ダイチが行動不能な場合に限り一部権限を得られるってヘルプの欄に書いてあったんだよね~。だからダイチに頼んで今日だけ自由に出来るんだよ~。羨ましいっしょ~?(←ダイチは元よりお前も大概やな)
「何にしても今日はダイチの代わりに依頼をこなしちゃうよ~。何か面白い依頼とかな~い? ゴブリンを実験台にして色んな薬物反応を検査しちゃうとか~」
「サラッと怖いことを言わないで下さい。それに面白い依頼なんて――あ」
何かを思い出したらしいアンナッチが1枚の依頼書を持ってきたよ~。
「えっと……孤児院のお別れ会。立ち退きを告げられた孤児院で、最後くらい孤児たちを笑顔にしてあげたいのです。資金不足によりあまり報酬は出せませんが、せめて孤児たちの遊び相手をお願い致します。院長より」
「期限が今日までなんですけれど、報酬が銀貨1枚のため誰も引き受けないんですよ」
あ~ね。冒険者も生活がかかってるからそこはシビアかもしんない。ウチもダイチからよく言われてるんだ、水は有料だから絶対に買うなって。
でもでも~、孤児たちを笑顔にってのは激しく共か~ん。
「良いよ~。最後の頼みなら聞いてあげちゃうよ~」
「すみません、大変助かります」
「うん、それは良いんだけど~、さっきからウチのことを遠目で見てる人が多いと思わな~い? ウチって何かした~?」
気になってたんだよね~。ナンパでもしてくるのかな~って思ってたら、女の人までジロジロと見てくるんだもん。
あ、もしかしてウチが若いのが羨ましかったり~? それかそっちの気がある人だっかも~。(←重ね重ね失礼)
「え、まさかご存知なかったんですか? 先日の討伐隊参加で大量のゴブリンを風で飛ばしてたそうじゃないですか。もう冒険者の間で【暴風】って渾名が付いてますよ~」
ありゃりゃ、そっち? ならどうでもいいかも~。(←いいのかよ!)
★★★★★
「おっは~♪ 依頼を引き受けた【暴風】だよ~。悪い子は飛ばしちゃうぞ~」(←自ら渾名を名乗っていくスタイル)
軽~く挨拶したら孤児院の中から女の人が出てきた。
「貴女が引き受けて下さったんですね。わたくしは院長のルーシアと申します」
「ウチはカオルだよ~。でもってルーシアさんの耳」
「はい見ての通りエルフの血が混じっています。つまりはハーフエルフですね」
落ち着いてる感じでウチより上品な感じがする~。ダイチもこういうタイプが好みなのかな? 後で聞いてみよ~っと。
「それはともかくカオル様、御足労いただき本当にありがとう御座います。大したおもてなしは出来ませんが中へどうぞ」
「は~い、おっじゃま~♪」
ウチが入ると中で遊んでいた子供たちが目の前に集められたよ~。
「皆さん、来てくださったカオル様に御挨拶を」
「ようこそカオルちゃん!」
「カオルちゃん、いらっしゃ~い!」
「こんちは~、早く遊ぼ遊ぼ!」
「おぅ、俺好みの金髪エルフや!」
おお~ぅ、なかなか個性的な子供が7人もいる。こいつぁ楽しめそうですな~。
ついでに生意気そうな男の子、ウチは誰の女でもないぞ~?
「そんじゃ時間も惜しいし始めちゃうよ。みんな外に集まれ~!」
「「「おおーーーっ!」」」
さ~てと、んじゃ一丁やりますか~。あ、やるって言ってもウチじゃないよ~? こういうのは適材適所~、ちゃ~んと出来る人を召喚しなきゃね~。
銀貨38枚→銀貨37枚
シュシュシュシュ~~~ン!
「は~い、みんな並んで並んで~。ボクが順番にお手玉してあげるよ~」
「「「わーーっ!」」」
名前:御手ダマ
Lv:1
HP100/100
MP50/50
性別:無
年齢:?
種族:機械
属性:投5、打3、風1
備考:ピッチングマシンの両サイドから腕のように2つのアームが伸びているメカ。アームの先には巨大なキャッチャーミットが付いている。穏やかな性格だが敵を前にすると鬼のピッチングマシンと化し、豪速球とアームの打撃で敵を粉砕する。
注)中身は元プロ野球選手。優勝のかかった試合で自身のお手玉により敗北したのがトラウマ。今は当時のミスをネタにして前向きに生活している。
おっきいグローブで子供たちをお手玉にしてる~。これって遊んでるって言うより遊ばれてるんじゃ? でも楽しそうだからいっか!
「おっとすまない、もう時間のようだ。縁があったらまた宜しくね!」
シュン!
「あ~あ、消えちゃった」
「姉ちゃん、次は何して遊ぶ~?」
「う~とね……じゃあ――」
銀貨37枚→銀貨36枚
シュシュシュシュ~~~ン!
「滑り台だゾ~ゥ。さぁみんな、順番に並ぶんだゾ~ゥ」
「「「おおーーっ!」」」
名前:装甲象
Lv:1
HP:520/520
MP:10/10
性別:雄
年齢:9歳
種族:象
属性:突7、踏5、鼻3
備考:二階建ての一軒家ほどのサイズがある象で、更に全身を装甲により強化されている。物理攻撃に特化しており、並のゴーレムですら一撃で壊してしまう。
注)中身は子供の頃から象が大好きだった中年サラリーマン。象の生態に詳しく、自身のチャンネルで特集を組むほど。休みの日に全国の動物園を巡るのが唯一の楽しみ。
鼻を器用に使って滑り台を演出してる。でも背中に乗るまでが大変で危険だから、そこはウチが子供たちを抱えて背中に乗せてあげてるよ~。
「おや、もう時間だゾ~ゥ。みんな、また会おうゾ~ゥ!」
シュン!
「あ~あ、また消えちゃった……」
「ねぇ、次いこ次!」
「次~? はいはい、ちょ~っと待っててね~」
銀貨36枚→銀貨35枚
シュシュシュシュ~~~ン!
「さぁみんな~、トランポリンの時間だぞ~。元気よく跳んでみよ~ぅ!」
「「「いぇ~~い!」」」
名前:煩悩トランポリン
Lv:1
HP:30/30
MP:50/50
性別:漢
年齢:10代半ば
種族:その他
属性:跳3
備考:対象をひたすら跳ばす事に存在意義を感じているトランポリン。彼を使えば高い塀も難なく越えられる――かもしれない。
注)中身は性欲盛んな高校生男子。修学旅行で女子風呂を覗くために自作のトランポリンを持ち込んだ猛者。しかし塀だと想われた仕切りは天井まで伸びており、彼の企みは脆くも崩れ去った。
好き勝手に飛び跳ねる子供たちをトランポリンが上手く調整して外へ飛び出ないようにしてくれてる。安全設計は嬉しいね~。
「楽しんでくれたかな~? じゃあまた会おうね~!」
シュン!
「また終わっちゃった」
「ね~、短いよ~ぅ。もっと遊びた~い!」
「「「もっともっと~!」」」
「あ~、うん。そうだね~、もっとあそびたいよね~」
もう考えるのも疲れちゃったし~、同じ奴をループさせちゃえ。
銀貨35枚→銀貨34枚
シュシュシュシュ~~~ン!
「やぁみんな~、再び登場だぞ~!」
「「「わ~~~い!」」」
名前:御手ダマ
Lv:2
HP:120
MP:55
あ、2度めの召喚はレベルが上がってるんだ。これはダイチにも教えとこっと。
銀貨34枚→銀貨29枚
結局同じのを3回繰り返しちゃった……。
「あ"~づがれだ~。ちょっち休憩~ぃ」
「お疲れ様ですカオル様。こんなに楽しそうな子供たちは初めて見るかもしれません」
「そ~ぉ? でもウチも召喚するだけなのに疲れちゃったよ~」
「フフ、これでこの子たちにとって良い思い出となるでしょう。ええ、きっと……」
ルーシアさん、複雑そうな顔してる~。そう言えば立ち退かなきゃならないって言ってたっけ?
「ねぇねぇ、何で立ち退くの~? 孤児院潰れちゃう~?」
「いえ、運営自体は領主様のご支援により成り立っておりました。ですがこの辺りの土地を買収した商人がおりまして、その方に立ち退くよう迫られていたのです」
うわ~出た出た悪徳商人。孤児院とか良心でやってる事なのに出てけとかドイヒ~だよね~。
「でも領主の許可が下りてたから運営できたんでしょ~? その商人としっかり話してみたら~?」
「それが、領主様から土地を自由にしてよいというお墨付きを貰ったようで、わたくしにはどうする事も……」
ん~~~ん?
領主様ってグロちゃんの事だよね? あのグロちゃんがそんな勝手なことするかな?
「ルーシアさん、その商人が誰なのか教えてもらってもい~い?」
「……はい?」
★★★★★
「――で、人が寄り付かないスラムへわざわざ来たってわけか」
ウチの目の前で偉そうにソファーに座っているのが例の商人さん。周りには10人くらいの部下も居る。でも商人にしてはガラが悪いな~って感じ~。
「それでね、え~と……デブさん?」
「ディブだ!」
「そだっけ?」
「本人が言ってるんだから本当だ!」
「でも体型が名前を物語ってるよ~?」
「て、体型の事を言うんじゃねぇ! 俺は生まれつき胴が太いんだ!」
「じゃあ生まれつき豚さんみたいなお腹だったってこと~?」
「そ、そうだ。伊達に幼少期の渾名がチビオークってわけじゃねぇんだ!」
「じゃあチビオークさん」
「だからディブだ! 過去の傷を抉るんじゃねぇ!」
「まぁまぁ。それよりあの土地は孤児たちが住んでるから」
「……何ぃ?」
「だから~、孤児たちが住んでるんだけら諦めてって言ってるの~」
「ああん!?」
ガタ――ガタガタ!
デブさんの威圧と共に一斉に立ち上がる部下さん。でも残念、そんなんじゃウチは動じないんだよね~。
「これだけの手勢に囲まれながら冷静に座ってられるのは感心するがな、こっちだって商売なんだ、あの土地を諦めるわけにゃいかねぇ」
「そうッス、せっかく見つけた手頃な土地ッス。上手く騙せりゃこっちの――」
「おいバカ!」
「――ウッププ……」
あ~、分かっちゃった。部下の口がすべって分かっちゃった。やっぱりグロちゃんからのお墨付きは嘘だったんだ~。
「つまり領主も騙してたって事だよね~? これ、バレたらどうなると思う~?」
「ハッ、バレやしねぇよ。何せテメェの命はここまでだからな!」
ザザッ!
本性を表したね~。みんなダガーを持って身構えちゃった。
「へ~ぇ、やる気満々じゃん。商人がこんな事していいの~?」
「いいんだよ。何故なら商人は表向き、裏は犯罪者共を束ねる裏組織――狂った料理人なんだからなぁ!」
パニックシェフね、一応覚えとくよ~。
「殺すにゃ勿体ねぇ体つきだが、組織の運営が第一だ。この場で仏になってもらうぜ」
「ふ~ん? じゃウチも本気出しちゃおっかな~。――ビットシェイバーカモ~ン♪」
名前:カオル・ネコヤナギ
HP:120/120
MP:340/370
フィンフィンフィン!
ウチの周りを衛星みたいに回る複数の球体。これは身を護るのにとっても便利な魔法なんだよ~。
「ああ? 何だこの妙な球体は」
「止めたほうがいいよ~? 甘く見てるとキレちゃうから」
「へっ、構うこたぁねぇ、やっちま――」
スパァッ!
「――え…………ふぎゃぁぁぁ!? う、腕がぁぁぁぁぁぁ!」
ウチに斬りかかった1人の腕がスッパリと斬れ落ちる。だから言ったのにな~、このビットシェイバーはウチに対して強い害意を持った相手に風の刃を放つんだ~。
「じゃ、みんな斬っちゃおっかな~♪」
「ひぃぃぃ、助けてくれぇぇぇ!」
「来るな、こっちに来――ギョエェェェ!」
あ、そうそう、害意が無くても触れたら斬れるからね――ってもう遅い?
「な、なんて奴だ、俺様の豚――じゃなかった、俺様の部下たちがみんな殺られちまうとは……」
「後はキミだけだよ、チビデブさん」
「チビオークだ! こうなりゃ勝ち目はねぇ、あの土地は好きにしな」
「ホント? オッケ~、なら2度と手出ししないでね~、手を出したらチョン切っちゃうぞ~」
「分かった、分かったから首チョンパのジェスチャーは止めろ!」
これで孤児院は大丈夫かな? 後でダイチに褒めてもらお~っと!
登場人物紹介
名前:ルーシア
性別:女
年齢:32歳
種族:ハーフエルフ
備考:ピーストレイの街にある孤児院の院長。グローゼリクス辺境伯からの支援で孤児たちの世話をしている。悪徳商人により立ち退きを強制されていたが、後日その商人から撤回すると告げられ閉院は免れた。
名前:御手ダマ
Lv:3
HP160/160
MP56/56
性別:無
年齢:?
種族:機械
属性:投5、打3、風1
備考:ピッチングマシンの両サイドから腕のように2つのアームが伸びているメカ。アームの先には巨大なキャッチャーミットが付いている。穏やかな性格だが敵を前にすると鬼のピッチングマシンと化し、豪速球とアームの打撃で敵を粉砕する。
注)中身は元プロ野球選手。優勝のかかった試合で自身のお手玉により敗北したのがトラウマ。今は当時のミスをネタにして前向きに生活している。
名前:装甲象
Lv:3
HP:610/610
MP:13/13
性別:雄
年齢:9歳
種族:象
属性:突7、踏5、鼻3
備考:二階建ての一軒家ほどのサイズがある象で、更に全身を装甲により強化されている。物理攻撃に特化しており、並のゴーレムですら一撃で壊してしまう。
注)中身は子供の頃から象が大好きだった中年サラリーマン。象の生態に詳しく、自身のチャンネルで特集を組むほど。休みの日に全国の動物園を巡るのが唯一の楽しみ。
名前:煩悩トランポリン
Lv:3
HP:60/60
MP:65/65
性別:漢
年齢:10代半ば
種族:その他
属性:跳3
備考:対象をひたすら跳ばす事に存在意義を感じているトランポリン。彼を使えば高い塀も難なく越えられる――かもしれない。
注)中身は性欲盛んな高校生男子。修学旅行で女子風呂を覗くために自作のトランポリンを持ち込んだ猛者。しかし塀だと想われた仕切りは天井まで伸びており、彼の企みは脆くも崩れ去った。
名前:ディブ
性別:男
年齢:55歳
種族:人間
備考:犯罪組織【狂った料理人】の幹部の1人。ピーストレイの支部長でもある。本人はカオルに対して凄まじい恐怖を持つのだが……。