来たれ生け贄!
領主との話し合いでオーガ討伐隊に加わる事を約束した俺たち――いや、正確には俺一人が勝手に受けた感じだが。
あれから5日後の今日、いよいよ騎士団と共にオーガが住み着いたであろう巣穴までやって来た。
金貨1枚
銀貨38枚
銅貨52枚
ちなみに所持金は上記の通り。簡単な依頼をこなしつつ討伐の日を待っていた状態だ。
「ゲオルド団長、ここです。ここがオーガの住みかとおぼしき洞穴です」
「ここが例の……。比較的ピーストレイに近い場所だが、本当にオーガが住み着いていたのか?」
「ハッ! 最初に遭遇した冒険者はダンジョンの入口かと思い突入。奥で複数のオーガと遭遇し、地上へ逃げ帰ったと報告を受けております」
ゲオルド騎士団長の問いに、部下とおぼしき兵士が報告書のような物を片手に答えている。
「あれからオーガの目撃情報は?」
「ハッ! 現在に至るまでの目撃情報は皆無に御座います」
「…………。初期の6体で全滅していれば有難いのだが……」
考え込む騎士団長。そこへ部隊の後方から身長の倍近くある巨大ハルバードを担いだ男が現れた。うん、間違いなくあの人だ。
「ゲオルド、敵のテリトリーを前に何をしておる?」
「こ、これはグローゼリクス様、何故こちらに? いや、そもそも先頭は危険に御座います。ここは我々に任せていただき、後方にて構えていただきたく――」
「バッカモ~~~ン!」
「「「ヒッ!?」」」
「私は辺境伯、戦にて項を立てる武人グローゼリクスであるぞ! オーガに臆して何が武人か! 我こそはと思う者は私に続けぇぇぇぇぇぇ!」
「「オーーーッ!」」
って、ゴルァ! 辺境伯だけならまだしもナツミとカオルも続くんじゃねぇ!
「グローゼリクス様、お待ちを――。クッ、仕方がない。本隊は外で待機、冒険者はパーティ毎に内部を探索、オーガが釣れたら外へ誘きだし一気に叩くのだ、行くぞ!」
数名の騎士を率いた団長が辺境伯を追いかけ、何も無いことを祈りつつ俺もそれに続いた。
ったく、仲間が戦闘好きなり能天気だと苦労させられる。アイツら俺が非戦闘員だって事を忘れてんじゃないだろうな? 頼むぜホント――
シュ――――――――トスッ!
「のわぁ!? て、敵襲ーーーっ!」
「落ち着くのだダイチ殿、それは単なるトラップだ」
「――へ? あ、ああそう?」
団長のゲオルドさんに言われて冷静を取り戻す。けど足元にブッ刺さった時はマジで肝が冷えたぞ。ナツミたちは大丈夫なのか?
「フン! 久しぶりの戦だ、存分に暴れるとしよう」(←背中に刺さってる人)
「お、辺境伯もその気? 俺も負けらんないなぁ!」(←腕に刺さってる人)
「ナツミん飴食べるぅ~?」(←魔法防御で矢を宙に浮かせてる人)
おぅ、圧倒的じゃないか我が軍は。こんなの真似できないし真似したくもねぇ!
「団長、ここがオーガと遭遇した場所だと思われます」
「ここが……」
進むこと数分、体育館くらいの広々とした空間に出た。今はオーガの姿もない。
だがこの場を中心とするように複数の細い通路があり、更に奥へと続いてるようだ。
「よし、ここをベースとする。冒険者たちは各自で分かれ道の先を探索するように」
団長の命令で冒険者がパーティ毎に別れていく。
「よぉし、我々も行くぞぉ!」
「「オオーーーッ!」」
「だぁぁぁっと! お待ち下さいグローゼリクス様、それとお二方!」
またしても先陣を切ろうとした辺境伯を団長が止める。
「皆様にはこの場で待機願いたい」
「何故だ!?」
「いや、逆になんで不思議そうな顔なんですか。総大将は後ろでドッシリ構えるべきです。それに敵が現れたら我々が迎撃せねばならないのですから、どうかご理解ください」
「むぅ……」
不満かよ! 俺としては危険が少ない方がいいし、ここに留まるのは大賛成だ。
「しかしこうしてる間も冒険者たちは獲物を見つけて狩っているに違いない。なんと羨ましいことか」
辺境伯さんよ、そこまで言うなら領主なんぞ辞めて冒険者になった方が良いんじゃないか? いや、国が許さないだろうことは想像がつくけどな。
「チェッ、やっぱ退屈すぎる。なぁダイチ、何か面白いもんないのか?」
「だったらほれ、これで遊んどけ」
文句をたれるナツミに向かって線香花火を放り投げた。前に銅貨ガチャで召喚したやつな。けどこれで大人しくはならないだろうし、何か別の物を召喚してやるか。
チリチリチリ……
「へへ~ん、花火対決でも負けねぇぜ~!」
「ほ~ぅ、これが線香花火というものか。なかなか神秘的なエフェクトではないか」
「ゲオちゃんがビリ、ウチがその後に脱落し、勝負はナツミんとグロちゃんによる一騎討ちだ~! さぁ先に落下するとはどっちだ~!?」
「「「おおっ!」」」
って、メチャメチャ盛り上がっとるやないかい! 日本人より線香花火を楽しんでるのワケワカメなんだが。必死にボードゲームとかを召喚しようとしてた自分がバカみたいやないか。
「だぁぁぁ! あと少しだったのにぃぃぃぃぃぃ!」
「は~い、ナツミん脱落~。勝者はグロちゃんでした~!」
「フッ、いかなる勝負であろうと私は全力を尽くそう」
まるで格ゲーキャラのような台詞を吐き、ガッツポーズを見せる辺境伯。てか何しに来たんだこの人……。
だがそんな下らない事をしていても時間はしっかり過ぎ去るもので、分かれ道を探索し終えた冒険者が続々と戻ってきた。
「何にもねぇ。こっちは行き止まりだ」
「ここもハズレだ。トラップだけはキッチリ仕掛けてあったけどな」
「右に同じ。お宝1つ有りはしないわ」
これで11ヶ所有った分かれ道のうち10ヶ所がハズレと判明。残り1ヶ所に向かった冒険者はいまだに戻らず、その道を睨んでゲオルド団長が呟く。
「ここが本命か」
先が長いのか、それとも既に殺られた後なのか、調べるにも進むしかない。そう、俺たちの戦いはこれからだ!(←END)
タッタッタッタッ!
「ふぅ、戻ったぜ。こっちも行き止まりだった」
なんてことはない。残り1ヶ所の通路からも4人組の冒険者パーティが戻ってきた。
「って事は探索終了か?」
「なんだよ、結局何もなしかよ」
「オーガが貯め込んでるお宝とか期待したんだけどなぁ」
口々に落胆の意を示す冒険者たち。だが俺の脳裏には僅かな違和感が残っていた。何なんだこの違和感は……
「むぅ、仕方がない。ハルバードを振るうのはファティマの穀潰し共にするとしよう」
辺境伯も踵を返して引き上げようとする中、ようやく俺の中にあったモヤモヤが形となり、ハッキリと浮かび上がった。
「待ってくれ、やはりこの洞穴は変だ!」
「むぅ? どうしたのだねダイチ?」
「さっきから違和感が有ったんだ。オーガの住みかなのに先の通路は不自然なまでに細くて狭い。むしろ人間や獣人が通るサイズだ。トラップだって対人戦を意識した作りになっていたし、本当にここはオーガの巣だったのか?」
これは第一の疑問だったが、すぐにゲオルド団長から反論が上がる。
「だが盗賊や犯罪者共が隠れ家として使っていたのをオーガが利用したとも考えられる。対人用のトラップが良い例だ」
確かに。これだけならそう言い切る事は出来ただろう。しかし、決定的な台詞を冒険者は吐いたんだ。
「最後に戻ってきたアンタら、戻ってすぐに何て言った?」
「え? こっちも行き止まりだったと言ったはずたが……」
「そう、それだ。まるでここでのやり取りを全て把握してるかのような台詞じゃないか。アンタらは何も知らないはずなのに――だ」
「「!?」」
ここまで言うと他の冒険者も理解し始め、最後に戻った4人組パーティに向き直り警戒姿勢をとる中、団長が冷静に問い詰める。
「では改めて聞こう、通路の先で何があった?」
「「「…………」」」
「なぜ黙っている? 通路の先に何があったのか答えよ!」
「「「…………」」」
答えない、つまりは答えられないと。
「まさか裏切り者が紛れていたとはな。詰所に連行しキッチリ吐かせてやる!」
「あ、待った方がいいよゲオちゃん。その人たちの身体から奇妙な魔力が出てる」
「奇妙な魔力――ですか?」
「うん。カワイソだけどその人たち、もう助からないよ。ここで倒してあげるのがせめてもの供養かな」
神妙な面持ちで告げるカオル。その様子から冗談ではない事が伝わってくる。
そんなやり取りを目の当たりにした彼らの内1人が、もはや言い逃れは出来ないと悟り本性を晒し始めた。
「あ"~バレちまったか。上手く街に潜り込ませりゃ一発逆転だったのによぉ」
「き、貴様はいったい……」
「俺かぁ? 俺様の名はワトキンス。ここを拠点にしてるダンジョンマスター様よ。わけ有って元のダンジョンから追い出されちまってな、ここに新居を構えたってわけさ」
ダンジョンマスター! そうか、最後のパーティはダンマスの罠に掛かって取り込まれたのか。
つまりこの4人組は完全な操り人形と化してしまったと。
「どうだい辺境伯様よ、俺様と取り引きしないか? 何だったらファティマ王国との戦争に加担してやってもいいんだぜ?」
「断る!」
おおぅ、辺境伯による逞しい即答。
「既に冒険者の犠牲が出てしまった以上、今さら和解というわけにはいかん。おとなしくダンジョンを差し出してもらおうか、さすれば少しはマシな死に方にしてやろう」
「ハッ、交渉決裂だなぁ。だったら俺様の糧となってもらおうか」
ドズ~~~ン!
遠くの方で何かが落ちた音がした。
「今の音は……貴様、何をした?」
「落石トラップを発動したのさ、入口を塞ぐためにな」
「珍妙な真似を……」
「だがそれだけじゃないぜ? 迷い込んだ獲物は狩らなきゃならねぇ。俺様の精鋭たちを相手にとこまで持つかな?」
捨て台詞を吐いて4人組は骨となって崩れ落ちた。とっくに死んだ後だったんだろう。
直後に各々の通路から何かの足音が聴こえ始め、この場に現れた瞬間に辺境伯が号令を発した。
「フン、ゴブリン風情が群を成して来たか。皆の者、互いに背を向け合い円陣を組めぇぇぇい!」
唐突に始まるゴブリンラッシュ。敵の数は多いがこちらも多い。特に辺境伯を含めた3人は円陣を無視して広間を駆け回り、ゴブリンを薙ぎ倒していく。
つ~か辺境伯、円陣組めって言ったのアンタじゃなかったか!?
「どうしたゴブリン共ぉ! 百戦錬磨のグローゼリクス、この程度では刺激が足りな過ぎるぞぉぉぉ!」
いや刺激を求めるな。
「ヒャッホ~~~ゥ♪ いいねいいねぇ、一度でいいから乱闘ってやつを体験したかったんだよねぇぇぇ!」
いや乱闘じゃねぇし。
「いっくよ~~~! キミのハートにエアバーストォォォ!」
風の全体魔法か。ハートどころか身体ごと持ってかれてるゴブリンが多数だが。
「チッ、まぁまぁやるな。だがこのゴブリンはエターナル設定。無限にスポーンしまくるのだ」
苦し紛れなワトキンスの一言。しかし、この一言が自身の寿命を縮めることに。
「ならば本丸を討つのみ! 私に続けぇぇぇ!」
「「オオーーーッ!」」
辺境伯を筆頭にナツミとカオルがワトキンスが潜んでいるであろう通路の先へと突っ走る。
「ま~た勝手に……。ダイチ殿、我々も行きますよ」
「え!? あ、ああ……」
3人を見失わないよう団長が走ると、俺もサイリウムを振り回しつつ後に続く。
すると見えてきたのは通路の脇に点在する複数の宝箱。いや怪しいて。おもっくそ怪しいて。
「やりぃ、お宝じゃ~ん! 開っけよ開っけよ♪」
「おい止めろオバカオル! どう考えても罠だろうが!」
「あ~っ、ヒド~イ! ウチはオバサンじゃないんだよ~!?」
バカは否定しないのかよ……。
「とにかく罠だから」
「え~ぇ、開けちゃダメ~?」
「ダメに決まってる。あの冒険者パーティもこのトラップに掛かったんだろ」
死んだ奴らを悪く言いたくはないが、何だってこんなショボいトラップに掛かったんだか。
「けどカオルの気持ちも分かるな~。俺だって開けたくなるもん」
「だよねだよね? ほら~、ナツミだってこう言ってるんだし~」
「ダメだぞ!」
「私も気になるんだが」
「「グローゼリクス様は黙ってて下さい!」」
「う、うむ……」
ったく団長とハモッちまったよ。
「でもやっぱ気になるからえ~~~い!」
「あ、こらカオル!」
ギィィィ!
「グルァァァァァァ!」
「「うひぃ!?」」
またしても団長とハモる。ちなみに敵は大口を開けたミミックだ。
「ミミックか。箱に吸い込んだものなら制限なくダンジョンに取り込むという。出来るものならやってみるがいい!」
「グルァァァァァァ!」
いや無茶だって! このミミック、蛇みたいに口が広がりますやん! アレに飲み込まれたらジ・エンドだ!
「ナツミ、お前の馬鹿力で重そうな宝箱をミミックの口へ放り投げろ!」
「そんくらならお安いご用だ――オラァ!」
今まさに辺境伯を飲み込もうとしたところでミミックの口を塞ぐように投下。
「グルァァァ!?」
「よくやったナツミ! このまま押し込むぞ!」
「オゥ!」
ミミックも同士を投げ込まれるとは思わなかったらしく慌てて吐き出そうとするも、辺境伯とナツミがそれを許さずついには口の中へと完全に押し込んだ。すると……
ボンッ!
「ギャァァァァァァア!」
派手な爆発音と共にミミックは破裂し、同時に通路の奥から絶叫も響いてきた。そう言えば爆発音も聴こえた気もするし、通路の奥へと急ぐと……
「ここはコアルームか? 扉が……」
絶句する団長。半壊した扉は内側からブチ壊されており、中には何者かの血と肉片が散らばっている有り様。
ワトキンスの姿が無いことで状況を理解した辺境伯はすぐに踵を返し……
「こ、此度の探索はここまでとする!」
唐突な作戦終了宣言だった。
登場人物紹介
名前:ゲオルド
性別:男
年齢:35歳
種族:人間
備考:ピーストレイの街で騎士団長を勤めている男。街の治安を維持するため日々の警邏は欠かさない。真面目で部下にも慕われている傍ら、暴走気味な辺境伯グローゼリクスを止めるのも彼の勤めとなっている。
名前:ワトキンス
性別:男
年齢:?
種族:?
備考:ピーストレイの近くにある森の中でダンジョンマスターとして居を構えていた男。他から逃げてきたと言っていたが詳細は不明。本人が爆死したためオーガとの関係も不明のままである。