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商機と討伐隊

 ざわざわざわ……


「な~んかアレだな、今日の冒険者ギルドはやけに騒がしいじゃないの」


 朝っぱらから壁に張り出された告知書を見て冒険者たちがザワついてるんだ。揃って険しい顔をしている事から歓迎される内容ではないんだろう。


「他人事みたいに言ってるけれど、あの告知はキミにも関係する事よダイチくん」


 俺の独り言に割って入ってきた冒険者ギルドの受付嬢。アンナさんは非番らしい。


「えっと……貴女は?」

「馬獣人のハールフィアよ」

「ひゅ~ぅ♪ ウ○娘ってやつだね!」

「はい?」

「あ~いや、こっちの話」


 うん、アンナさんの猫耳も良いがハールフィアさんの馬耳も捨てがたい。分かるかな~この気持ち(←知らんわ)。もしも推しが召喚出来なかったら代わりにナデナデさせてもらっちゃおう。それで心の傷は癒される。


「私の耳に対して執着するような視線を感じるのだけれど……」

「き、気のせいじゃないすかね、ね」

「……まぁいいけれど。それよりキミも見といた方がいいわ」


 ハールフィアさんに促されて告知書に目を通していく。


「何々……しばらくの間、泉の森には入らないよう警告する。オーガと出会しても倒せる者だけで入るように。また平行して討伐隊も募集する。加入意思のある者は騎士団詰め所まで」


 あ~はいはい、昨日のオーガね。1体ならともかく複数を同時に相手するのは並の冒険者には難しい。昨日の快進撃はナツミが居なければ起きなかっただろう。

 そして街の安全を確保するため騎士団も動き出し、水を汲みに行く冒険者は複数のパーティで森に入ると。どうりで集団で出ていく奴らが居ると思ったぜ。


「で、キミはどうするのダイチくん。討伐隊に入るのかしら?」

「いえいえ、大人しく吉報を待ちますよ」


 俺は戦えないからな、入っても邪魔になるだけだ(←よく言った)。それかナツミだけ送り出すのも有りっちゃ有りか? その辺は検討しておこう。


「あら残念ね。ギルマスは期待していたみたいだけれど」

「街が危険に晒されたら流石に協力しますよ」


 言ってて思ったけどフラグにならないだろうな? 頼むぞホントに。出来るだけ命を賭ける戦いはしたくないからな。


「そう、一応は考えてるのね。ところで水汲みには行くのかしら?」

「あ~それなんですがね、昨日の夜に水の召喚に成功しまして、汲みに行く必要が無くなったんですよ」

「まぁ!」


 フフン、驚いてる驚いてる。実は昨日の夜に宿で銅貨ガチャを5回ほど回したんよ。そうしたら上手い具合にミネラルウォーターが出てくれてな、これで銅貨1枚でいつでも手に入るっつ~わけですよ。

 もうね、銅貨ガチャ万歳! ショボいとか思っててマジごめん!

 そして所持金は以下の通りだ。


 金貨3枚→金貨2枚

 銀貨1枚

 銅貨35枚


 うん、言わなくても分かるぞ。金貨が減ってる原因だろ? まぁアレだ、色々あるから後で説明する。


「ダイチくんって――」


 おおぅ、キタキターーーッ! 俺って天才とか思われてたり? はたまた有能な召喚士だと再認識されたりとか? どっちにしろお誉めの言葉は大歓迎ですよ、さぁカモ~~~ン!


「――本当に召喚士だったのね。てっきり嘘を付いたまま引っ込みがつかなくなったんだと思ってたわ」

「グハァ!」ズデン!


 元々マイナスになっていた評価がイーブンになっただけでしたと、めでたしめでたし。


 ――って、めでたくねぇぇぇ!


「イテテテテ……。まさかそんな風に思われていたとは……」

「だって、いかにも駆け出しの冒険者って感じだし、服装だって奇妙なんだもの」


 服装は……まぁ当たってるか。いずれガチャで召喚出来ればいいな。


「それで……本当に召喚士なの?」

「まだ疑うんかい! でしたらほら、この通り――」



 ポン!


 銅貨35枚→銅貨34枚



「へぃ、ミネラルウォーター!」

「へ~~~ぇ。見慣れない入れ物だけれど、これって飲めるの?」

「飲めますって!」


 ペットボトルは知らないだろうからな、不振がられるのも当然か。

 ――と思った直後、横から出た謎の手がペットボトルを掴み取っていく。


「コイツぁありがてぇ、ちょうど喉が渇いてたんだ」

「って、誰かと思ったらギルマスかよ」

「ンク――ンク――プハァ! こりゃうめぇ、井戸水とは全然違うじゃねぇか! いったいどんな手品を使ったんだか」

「それは光栄。ちなみに銀貨1枚な」

「ブフッ! おいおい、金取んのかよ……」


 当たり前だのクラッカー。親しき仲にも礼儀あり。夫婦喧嘩は犬も食わない(←それは関係なくね?)。


「美味かったんだから文句言うな」

「ほらよ!」


 銀貨1枚→銀貨2枚


「毎度! ……あ!」


 その時、俺はかつてない天啓を得た!


「そうだよ、水を召喚して売り付ければいいんだ!」

「ま~たロクでもねぇ事考えたな……」

「けど水が必要不可欠なのは事実だろ? 泉に行くのもリスクがあるし、井戸水でさえ有料ときた。だったら俺が提供してやろうじゃないの」


 銅貨1枚で召喚して銀貨1枚で売り付ける。単純に100倍ってわけよ。いい商売してますねぇ!


「おいおい、まさか銀貨1枚で売るつもりか? 俺だから素直に払ったが普通なら払わんぞ」

「私もそう思うわ。飲食店での水で銅貨30枚でも高いと思うんだもの、更に3倍近くだなんて見向きもされないわよ」

「うぐ……」


 ギルマスとハールフィアさんにダメ出しされた。良いアイデアだと思ったのになぁ。


「しかしなんだ、飲んだ手前で持ち上げるわけじゃないが、そのミネラルウォーターってやつは井戸の水より美味いと思ったぜ」


 それはそう。この世界の井戸水――つってもこの街でしか飲んでないが、この世界のは東京の蛇口から飲んだ水をも下回ると思う。

 今さらだけど腹とか壊さないだろうな? クスリとか無いんだし頼むぜぇ。


「珍しいわね、ギルマスがそこまで褒めるなんて」

「なぁに、正当な評価さ。ほれ、ハールフィアも飲んでみろ」

「そっすね。さぁグイッと」

「え? いえ私は……」

「何遠慮してんだ、俺はもういいから残りはお前にくれてやる」

「それは……嫌……です」

「「え……何で?」」




「だってほら、口の臭いとか気になるし、脂ぎってそうなのも抵抗あるし、最近だと頭頂部が薄くなってるのもどうかと思うし、何よりギルマスとの間接キスは考えられないというか……」

「「…………」」



 ポン!



 銅貨34枚→銅貨33枚


「……どうぞ」

「ありがとう……あら、本当に美味しい。この質なら貴族たちを相手に出来るんじゃないかしら」


 ショックを受けて項垂れているギルマスを横目に、ハールフィアさんが特大のヒントをくれた。そうだよ、貴族相手に商売すればいいんだ。


「まずは領主様に薦めてみるのはどう? 気に入ってくれれば言い値で買い取ってくれるかもしれないし」

「な~るほどね。ありがとうハールフィアさん、希望が見えてきたよ!」

「そう? なら良かった。ところでキミのお仲間――ナツミって言ったっけ? 彼女はどうしたの?」

「ナツミですか? アイツなら……」




「……二日酔いです」

「ho……」


 これで分かったろ? 金貨1枚が減っていた理由が。あんにゃろう、今日は大漁だぁとか言って酒をガバガバ飲みやがんの。そしてめでたく二日酔いだバーロー!



★★★★★



 現実を受け入れられずに放心状態だったギルマスに渇を入れ、紹介状を書かせた上で領主の邸にやって来た。見知らぬ俺が来たところで門前払いされるからな。

 そして結果は大成功。アポ無し訪問にも拘わらず俺と面談してくれるとかで、応接室へと通されたところだ。



 パタン!



「待たせて済まないね。私が領主のグローゼリクスである。知っていると思うが身分は辺境伯だ」


 ズッシリとした体格の初老の男が入ってきた。いかにも前線で武器を振り回していそうに感じる。

 つ~かすんません、全力で知りやせんでした。辺境伯っつったら敵国の真ん前に置かれることが多いって奴で、他の伯爵より地位が高かったはずだ。

 テキトーに子爵辺りですかとか言わなくて良かった~(←普通は言わねぇよ)。


「お主が噂のダイチ・アマソラかね?」

「噂ですか? どのようなものかは知りませんが、俺がダイチ・アマソラで間違いないです」

「いやなに、ギルマスから話を聞いておってな、なんでも素質のある召喚士だそうじゃないか、まるで自分の事のように誇らしげに語っていたよ」


 勝手に自慢しやがったかあのオヤジ。


「ハッハッハッ、そう怪訝そうな顔をするな。あれでも他人を見る目は確かだ、お主の将来性を感じ取ったのだろう。して、()()()()()()は何者かな?」


 優しい口調ながらも鋭い視線が俺の隣に注がれる。肝心のナツミが宿でダウンしているためピンチヒッターを召喚したんだ。


「カオル、ご挨拶を」


 名前:カオル・ネコヤナギ

 Lv:1

 HP:120/120

 MP:370/370

 性別:女

 種族:エルフ

 年齢:自称18歳

 属性:風5、地3、弓3

 備考:人懐っこい性格で、聞かれてもいない事までベラベラと喋る陽キャエルフ。

 金髪で巨乳、加えてエルフ耳という萌え要素が揃い踏み、更にちょい天然なところは世の男を大いに魅了するだろう。

 注)中身は金髪のリアルJK。リア友とネトフレを足すと100人を越えるという噂あり。意外に頭も良い。


 金貨2枚→金貨1枚


 当然の金貨ガチャだ。銀貨ガチャの10分じゃ足りないし、どうせなら永久に戦える奴をと思ったんだ。


「あ、もう喋ってもいい感じ~? そんじゃ自己紹介しちゃうね~。ウチは猫柳香(ねこやなぎかおる)、金髪ボインのエルフちゃんだよ~。ヨロピクね、グロちゃん!」

「――って、お前って奴はぁぁぁ!」


 時すでに遅しだが、慌ててカオルの口を塞いだ。そしてすぐさま領主へと向き直っての平謝りを展開した。


「も、申し訳ありません! コイツ乗りが軽いって言いますか、距離感を間違ってるみたいで平気で失礼な事を! ――ほら、お前もちゃんと謝る!」

「ん~? なんで~?」

「なんで~? じゃねぇ!」


 コイツを連れて来たのは失敗だった。つかガチャだから選びようがないんだけども!

 そんな感じに脂汗を流していると、意外にも領主が豪快に笑い出した。


「プッハハハハ! よいよい。そのくらいフランクな方が話しやすいというもの。最近の若者は妙に(かしこ)まったりして好かんのだよ。普段の乗りで話しなさい」

「ほら~、グロちゃんも良いって言ってるよ~?」

「もう好きにしてくれ……」

「オッケ~♪ じゃあ何から話そっか……」


 そこからしばらく他愛もない話が続く。ぶっちゃけ殆どがカオルのどうでもいい雑学を披露するだけだったが。

 だいたい何だよイケメンとブサメンの見分け方って。んなもん見たまんまじゃねぇかよ、ったく……。

 そういや俺、何しにここに来たんだっけ?


「フフ、実に楽しいお嬢さんだ。特に相手がカツラかどうかを見抜く方法は参考にさせてもらうよ」

「言っちゃなんですがソレ、間違ったら大変な事になると思われ……」

「心配ご無用。これでも長らく戦場に身を委ねてきた。相手を選ぶのは言うまでもない」


 なんてことない、結構強かだったぜ。

 でも良いのか? 相手を選ぶってことは、目下に対して「お前ズラだろ?」って言うんだ。これ単なるイビりやん……。


「さて、話は変わるがダイチ、冒険者ギルドに出されている告知書は見たかな?」

「オーガの件ですね、大変心苦しく思っております」(←思ってもないことを言わないように)

「うむ。この街ピーストレイは東に広がる敵国ファティマ王国とも近く、あまり物騒な事案は敵に付け入る隙を与えてしまうものだ。当然オーガにしても対処している間に事を起こすとも限らん」


 あ、急に情報量が多くなったぞ。今まで気にしてこなかったけど、この街はピーストレイというらしい。でもって東側にファティマ王国って国があると。


「そこでダイチ、キミにもオーガ討伐隊に加わってもらい、憂いを取り除いてほしいのだ」


 はいキタ~、断れないやつ~。

 もうね、こうなったら受ける以外に選択肢はないでしょ。


「イェッサー。微力ながらお手伝いさせてもらいまっす!」

「うむ、宜しく頼むぞ」


 リザルト

 金貨1枚

 銀貨2枚

 銅貨34枚


 登場人物紹介


 名前:ハールフィア

 性別:女

 年齢:24歳

 種族:馬獣人

 備考:大人の色気を感じるお姉さんで、ピーストレイの冒険者ギルドの受付嬢。アンナが居ない日は彼女が受付に立つらしい。やや潔癖気味で、生理的に受け付けないものに対してはハッキリと拒絶することも有り。


 名前:カオル・ネコヤナギ

 性別:女

 年齢:自称18歳

 種族:エルフ

 備考:ダイチの召喚魔。人懐っこい性格で、聞かれてもいない事までベラベラと喋る陽キャエルフ。

 金髪で巨乳、加えてエルフ耳という萌え要素が揃い踏み、更にちょい天然なところは世の男を大いに魅了するだろう。

 注)中身は金髪のリアルJK。リア友とネトフレを足すと100人を越えるという噂あり。意外に頭も良い。


 名前:グローゼリクス

 性別:男

 年齢:53歳

 種族:人間

 備考:トランゾーナ公国は辺境の街ピーストレイの領主にして辺境伯。敵国であるファティマ王国と隣接しており、常に目を光らせている。「最近の若者は……」というのが口癖。


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