凶悪スパイクプラム
「むぅぅぅ……」
「どうしたんですかダイチさん、朝っぱらかは難しい顔をして」
「水が……」
「水?」
「水が高~~~い!」
「……え?」
思わずアンナさんに愚痴ってしまった。だが俺の言ったことに間違いはなく、この世界だと水はどこでも有料なんだ。
昨日泊まった宿なんか、たった一杯の水で銅貨30枚も取りやがったんだぜ? 只の井戸水がだ。その上一泊で銀貨2枚だったし、お陰で所持金は銀貨1枚、銅貨42枚という有り様だ。
ああそうさ、分かっちゃいたけど2杯飲んださ。しゃ~ねぇだろ水はよぉ!
「なるほど、それで納得いかないといった感じでしたか」
「おお、アンナさんは分かってくれます?」
「いいえ、単純バカで詐欺に合いそうな人間筆頭だな~と鼻で笑っちゃいそうです」
あ、俺のガラスメンタルが……
「そりゃないっしょ……」ガクッ
「フフ、半分は冗談ですよ」
「半分は本気なんすね」
「だって、冒険者なら森の泉で汲んでくるのがこの街の常識ですから」
ほぅほぅ、森の泉ねぇ。
「それってアレ? 泉に何か落としたら女神様が現れたりとかするやつ?」
「女神? それってどういう話です?」
俺は面白半分で【木こりの泉】の話をアンナさんに聞かせた。
「う~ん、やはり聞いたことはないですねぇ。魔物も出るので木こりが単独で森にいるというのも不自然ですし、泉に斧を落とすより魔物で命を落とす方がよっぽど可能性が高いですよ」
それはそう。こっちの世界じゃ魔物が出るんだ。泉に行くのだって普通はパーティを組んで行くらしい。
ま、俺の場合は報酬を独占したいし、パートナーもいるんだけどな。
「ところで依頼書を眺めているあちらの女性はお知り合いですか? 一緒に来られたようですけれど」
さっそく来たか。
「お~いナツミ!」
「んだよダイチ、ようやく出発か?」
「いや、お前ってギルドカードを持ってないだろ? 身分証になるから出発前に作っとけ。あと受付のアンナさんに自己紹介な」
「あいよ~」
何人かの冒険者が悔しげに俺を睨む。アイツら揉み手しながらナツミを勧誘したけどバッサリ断られてたからな。俺が召喚したんだから当たり前だが。
まぁ男連中には指を咥えて眺めててもらおうじゃないの。へぃへぃ、こっちは巨乳美女が相方だぜ? 羨ましいだろ~!(←感じ悪っ!)
「お~す。俺はドラゴンタイガー・ナツミだ。ナツミって呼んでくれ」
「ア、アンナ……です」
「おぅアンナか、宜しく頼むぜ!」
名前:ドラゴンタイガー・ナツミ
Lv:1
HP:180/180
MP:50/50
性別:女
年齢:24歳
種族:人間
属性:大剣3、地3、風2、格闘2
備考:竜の鱗で作った鎧に虎の皮で作ったマントを身につけた女戦士。ジッとしているのが苦手で行動的、口より先に手がでる脳筋タイプ。三度の飯より魔物を狩るのが大好な巨乳お姉さん。
注)中身はモン○ン大好きな若手OL。オフの日は1日中フレンドとモン○ンが恒例行事。大剣を担いだポーズはカッコいいのに名前はダサいとリスナーに突っ込まれるのはお約束。
「ダイチさんって1人でこの街に来たんですよね? どうやって知り合ったんです?」
ギクリンチョ!!
「そ、そりゃまぁ……アレだ、色々あるんだよ色々……」
「…………。ナツミさん、変な事されたら直ぐに教えて下さいね? キッチリとペナルティを課しますので」
「なんじゃそら!」
「ハハッ! 大丈夫大丈夫、ダイチは俺より非力だからな。手を出してきたらワンパンで沈ませてやんぜ!」
非力は認めるからマジ勘弁。
「おっし、登録は終わったな? んじゃ水汲みに出掛けるか」
「水を汲みに行かれるんですね、でしたら泉のある場所から東へ進んでみて下さい」
「お宝でも埋まってるんか?」
「埋まってはいないですけど果実なら成っていますよ。スパイクプラムって言うんですけど、ちょうど春から夏にかけてが美味しい時期なんです。取ってきて下されば買い取りますので」
水だけで良かったが金まで手に入るのなら好都合だ。
「その話、乗った!」
★★★★★
ああ言われたら取ってくるしかない。つ~わけでまずは……
「ンクンク――プハァ! あ~生き返る。只で飲む水は最高だぜ!」
「美味そうに飲みやがる。俺も水袋に補充しとくか」
無事に泉まで到着し、そのまま泉に顔を埋める。
本当は朝一番に飲もうと思ったんだよなぁ。でも有料だから今まで我慢してたってわけ。水が有料とかマジでバカらしい。
「おいダイチ、アレが例の物じゃないか?」
ガブ飲みついでに顔も洗っていると、泉の東から巨大で青色の木の実を運んできた冒険者パーティとすれ違う。大きさで言えばスイカの3倍は有るだろうか、2人がかりで木の実を持ち、残った1人が先導しているようだ。
「デッカ! あんなん1人じゃ無理やぞ!」
「そうか? あんくらい、俺1人で余裕だと思うけどなぁ」
――等と抜かしているのは期待の星ドラゴンタイガー(←やっぱダセェ)。そこまで言うなら運ぶのは任せることにしよう。
「で、肝心の木の実は……おお、アレか。いやでもアレって……」
樹木の上からぶら下がっているデッカイ青色の木の実。周りでも幾つかのパーティが木の実を落下させ、ナイフでトゲを取り除いていた。
「なんほどな、スパイクプラムか。運ぶにはあのトゲを除去しないとな」
「ま、何でもいいや、さっさと持って帰ろうぜ――オラよ!」
バズン!
近くに成っていたスパイクプラムに大剣をなげつけ、上手く落下させた。
「けどナイフは用意してないなぁ。ナツミ、大剣でトゲを切り取れるか?」
「んなチマチマしたことやってられっかよ。プラムごとブッタ斬っちまう」
「うん、知ってた」
さてどうするか……
『ナイフでしたら銅貨ガチャで召喚てまきますよ』
その声は女神セフィーネか。
でも指定できないんだろ? 効率悪いぜ。
『ですが一度召喚したものは次回から指定できるようにもなりますし、お水だって召喚できます』
へ~ぇ、水も召喚できんのか。
「――って、最初から教えろよ! 銅貨60枚も無駄にしちまったじゃねぇか!」
『聞かれませんでしたからね。それにわたくしだって四六時中貴方を監視しているわけではありません。それでは』
「ちょ、おいぃぃぃ!」
ま~た一方的に喋ってったよ。
「お~いダイチ、大声出すから周りの連中が怪訝な顔してるぞ~」
ヤベッ、今の俺は1人でイラついてる不審者にしか見えねぇもんな、気を付けないと。
「……コホン。ちょっと待ってろ、今アイテムを召喚すっから」
っつ~わけで、銅貨ガチャを脳内再生。2回くらい回してみるか。
銅貨42枚→銅貨40枚
ポンポン!
線香花火10本セット:シンプルで幻想的、静かに楽しみたい人に人気の花火。もうすぐ夏だからと言って親父が買っていた気がする。実家で見たやつにパッケージがそっくり。
煙玉3個セット:モクモクと大量の煙りを発生させる花火。こどもの時は忍者がドロンするみたいに遊んでいた記憶がある。これも実家で見たな。
「花火シリーズかよ。もう少し回せば出てくるか? けどガラクタ溜め込んでもしょうがないしなぁ。う~ん……」
ドスンドスンドスンドスン……
「んあ? なんだこれ、地響きか?」
「いんや、お客さんみたいだぜ? しかも団体様だ」
音のする方に目を凝らすと、冒険者パーティと思われる4人組が必死こいて走ってくるのが目に止まる。その理由は後ろから迫っている複数の巨人にあるのは明らかだ。
「た、たた、助けれくれぇぇぇぇぇぇ!」
「アンタたち、呑気にスパイクプラム取ってる場合じゃないわよ!」
「オーガだ、オーガファミリーが来るぞぉぉぉ!」
ただならぬ様子に他の冒険者パーティも手を止めて注目する。巨人の正体は全長5、6メートル越えのオーガであり、それが6体も居るんだ。一番デカイやつだと10メートルは有るように見える。
「ちょっ、お、お前ら、こっち来んなよ!」
「ダメだ、このままだと巻き込まれる!」
まともに戦えば死人が出る、殆どの冒険者がそう思っただろう。この場は逃げるのが正解とばかりに皆が駆け出さんとする中、不適な笑みを浮かべてオーガの群に突っ込む影が1つ。
ここまで言えば誰か分かるな? そう、脳筋のアイツだ。
「へへ、やっぱ俺はチマチマした作業よりこっちのが性に合うぜ――ドォォォリャァァァァァァ!」
軽くジャンプしたかと思えば、手前の1体を踏み台にして奥の個体へロングソードを叩き込む。まさか目の前に飛び込んで来るとは思わなかったであろうオーガは無抵抗に首チョンパ。それを見た他のオーガは足を止めてナツミへと向き直った。
いやいや、勇ましくも頼もしいが、さすがに危険じゃないか?
「ナツミ~! 1人で大丈夫か~!?」
「つってもダイチが来たところで何も出来ねぇだろ~~~!」
それはそう。俺に出来るのは、いざって時に銀貨ガチャで召喚する事だけだ。
「おい見ろよ、あの姉ちゃん1人で戦ってるぜ?」
「この辺りじゃ見ない顔だな。他所から越してきたベテランか?」
「どうだっていいさ、戦える奴は援護に回るぞ!」
「そうね、逃げるのは戦ってからにしましょ!」
ナツミの動きに勝機を見た冒険者たちが弓矢と魔法で注意を引く。その結果、2体のオーガがこっち向かって来た。
「ウガァァァ!」
「来るぞ、散り散りになって狙いを絞らせるな!」
よし、いいぞ! 1体は2つのパーティが連携して優位に進めている。そのまま倒してくれれば有難い。が、問題はもう1体だ。
「ウグゥァァァァァァ!!」
コイツだけやけにデカくないか!? ぜってぇ10メートル越えてるって!
よりによってボスみたいな個体が走り疲れた3人組と俺の方に突っ込んで来るのかよ!
さすがに叫ばずにはいられない!
「おいぃぃぃ! お前らが連れてきたんだから責任持って倒せよ!」
「む、無茶言うなよ、ここまで逃げるのに全力使い切っちまったよ……」
「それだけ元気ならアンタが倒してよ……」
「それこそ無茶だ、あのプロレスラーに物申すようで悪いけどな、元気があれば何でも出来ると思うな!」
なんて言ってる場合じゃない。俺たちは少しずつ後退するも、オーガは構うことなく迫ってくる。
せめて……せめて時間を稼がなければ……
――そうだ!
「そこの弓使いさん、この導線に火をつけてくれ」
「え? そんなことして何を――」
「時間がねぇ、早く!」
「わ、分かったわ!」
女の弓使いが火打ち石で煙玉に着火させた。
「おっし、食らえオーガ野郎!」
シューーーーーーーーーーーーッ!
「グゴォ!?」
銅貨ガチャで引いた煙玉3個をオーガに投げつけてやった。殺傷能力は無いが煙の量だけは大量で、さすがのオーガも困惑して足を止める。
「よし、今のうちだ。――お~いナツミ~! ヘルプミ~~~!」
「すまねぇダイチ、あと2体残ってんだ!」
マジかよ、ヤベェじゃん!
煙玉の煙は視界を覆うほど大量だが持続時間は短い。あと僅かで煙は消えちまう!
「何か……何か方法は……」
「――イッテェ!? 誰だよこんなところにスパイクプラムを放置しやがった奴は!」
冒険者の1人が脛を押さえている。スパイクプラムのトゲに当たったらしい。
というかこれ、ナツミが落としたやつだな。
「そうだ、スパイクプラムだ!」
「「「???」」」
俺がそう叫ぶと近くの3人組が首を傾げる。だがオーガを倒すにはこれしかない!
「スパイクプラムをオーガの顔面にブチ当てるんだ。それが出来れば俺たちだけでも倒せる! さぁ飛ばしてくれ、そこの魔法士」
「しょ、正気か!? そんなことをしたらスパイクプラムが破裂するぞ!」
「んなこたぁどうでもいい! ――ほら、そっちのお仲間も説得してくれ」
「そう……だな、破裂した後を気にしてる余裕はないな」
「ええ、おもいっきり飛ばしちゃって!」
「う~、分かったよ、もうどうなっても知らないからな――ウィンドスマッシュ!」
バズッ――――グチャ!
魔法士が強風をブチ当て、スパイクプラムを飛ばす。飛んだ先にはオーガの顔面。破裂したスパイクプラムの汁と流血により顔面がグチャグチャになるが、何故かオーガは必死に花を摘まんで倒れ込んでのたうち回っている。
「これで終わりダァァァ!」
「グゴァァァ!?」
向こうではナツミが4体目のオーガを斬り倒したところだった。手前では他パーティも1体仕留めている。
そして最後の1体は俺たちの直ぐ横で、ナツミが駆けつけた時には既に動かなくなっていた。どうやらスパイクプラムで倒せたらしい。
「俺抜きで倒したのか? やるじゃんダイチ!」
「そこのパーティーに協力してもらってな。それよりコイツらって素材になったりするんか? どこか剥ぎ取ったり――」
プ~~~~~~ン
「ウゲェ! なんじゃこの悪臭!?」
「うっわマジだ、吐き気がする! おいダイチ、まさかビビり過ぎて漏らしたんじゃないだろうな!?」
「俺じゃねぇよ! 少しだけチビったけど小の方だ!」
「だったら何だよこの臭い!」
かつて嗅いだことのない悪臭に困惑していると、協力してくれたパーティが原因を教えてくれた。
「スパイクプラム……だよ。皮を剥く前に下処理を……しないと……、とんでもない悪臭を放つって……おぅえぇ!」
「だから言ったんだ! どうなっても知らないっ――ウゲェェェ!」
マジかよ! まるでオーガのケツ穴に頭を突っ込んだ感じの悪臭だぞ。いや嗅いだことないけど(←サンプルなら近くにあるぞ)。
「助けてもらった礼にオーガの素材は全部あげるよ!」
「ウェップ! オーガの体毛は買い取り対象だから――ウェップ!」
「じゃあな! ウゲェェェ!」
そう言って脱兎の如く走り去る3人組。気付けば他のパーティも居なくなっていた。
「おっし、頑張って剥ぎ取るぞ。体毛を持ち帰れば金になるんだ」
「これ、何て罰ゲーム?」
それから数時間。漂う悪臭と迫る吐き気に足掻きながら何とか剥ぎ取りを終えた。
取り敢えずスパイクプラムは二度と触りたくねぇ!
リザルト
金貨3枚(←オーガの体毛を換金)
銀貨1枚
銅貨40枚
登場人物紹介
名前:ドラゴンタイガー・ナツミ
Lv:1
HP:180/180
MP:50/50
性別:女
年齢:24歳
種族:人間
属性:大剣3、地3、風2、格闘2
備考:竜の鱗で作った鎧に虎の皮で作ったマントを身につけた女戦士。ジッとしているのが苦手で行動的、口より先に手がでる脳筋タイプ。三度の飯より魔物を狩るのが大好な巨乳お姉さん。
注)中身はモン○ン大好きな若手OL。オフの日は1日中フレンドとモン○ンが恒例行事。大剣を担いだポーズはカッコいいのに名前はダサいとリスナーに突っ込まれるのはお約束。
オーガ:全長5メートルから10メートルはある巨人鬼。人間や獣人は元より魔物まで獲物と捉えて捕食しようとする事から、オーガの住む辺りに他の魔物は寄り付かない。
体毛は硬くて丈夫なため、加工されて市場に流通しているらしい。
スパイクプラム:大きくて青い巨大な木の実。春から夏にかけて実り、女性の間ではスイーツとして人気がある。但し下処理を怠るととてつもない悪臭を放つため、調理前は要注意だ。