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商売人

「報酬が不明確? なんだそりゃ……」


 昨日の討伐劇でかなりの体力を消耗した俺たちは日を跨いで冒険者ギルドにやって来たんだが、出迎えたギルマスが不可解なことを言い出したんだ。

 なんでも今回の依頼主は1人だけじゃないらしく、各方面に届けるまで報酬を受け取れないのだという。


「おいこら、聞いてねぇぞギルマス!」

「そうだぞバッキャロー! 俺なんて不特定多数に裸を見られたんだからんな!」

「いや、ナツミのは社会奉仕だから」

「るせ~!」


 荒ぶるナツミを宥めつつギルマスを問い詰める。


「……で、どうなんだ?」

「ホントにすまん! マジですまん! 昨日のうちに依頼達成の報告を上げたんだがよ、今日になって依頼主が増えたとか言い出したんだ。依頼達成の知らせが他の貴族の耳にも入っちまってな……」


 我も我もと殺到しやがったと。


「面倒な連中だなぁ。黙ってても収まらんだろうし、バカな依頼をしてくる貴族がいるって事を国王にチクったらどうだ?」

「いや、依頼主の1人がリードビッヒ国王なんだが……」

「終わってんなこの国!」


 そりゃ断れないわけだ、なんつったって国王命令だもんな。もうアレだ、街の連中は辺境伯に足向けて寝れないだろう。この街が平和なのは辺境伯がまともなのが大きいだろうしな。


「それでな、国王から直々に通信が来てるんだよ、此度の功労者と話がしたいってんでな。悪いんだがダイチ、国王と話してやってくれ」


 国王と話すって、そんな事が堂々と出来るのか? そもそも通信とは……


「あ~すまん、一般人は知らないよな。我が国トランゾーナ公国にはな、離れた場所にいる相手と直接会話できるマジックアイテムがあるんだよ。このピーストレイみたいに主だった街にはそういった便利アイテムが配備されてんだぜ?」

「そりゃ便利だな、1つくれ」

「やるかバカ。街1つを買い取るくらいの大金がなけりゃ手に入らんから諦めろ」


 しかしスマホのない俺にとっては是非とも欲しいアイテムだ(←有ってもこの世界じゃ意味がなさそうだが)。類似品でもいいし、これは検討してみよう。


「しかしそんな便利なアイテムがなんだって冒険者ギルドに? 辺境伯が持ってるなら分かるんだが」

「そりゃお前、辺境伯には無茶なこと言えないからだよ。反対される上に説教までかまされるのが目に見えてるからな」

「国王、意外とチキンやね」

「その矛先を冒険者ギルドに向けるのは勘弁してほしいところだがな……」


 中間管理職も大変だなおぃ。将来ギルドマスターにだけは成らないようにしよう。


「……コホン。話を戻すが国王がお前たちと話したいと言ってきてる。ついて来い」


 2階にあるギルマスの部屋に案内されると、テーブルに備え付けられている水晶の前に座らされた。


「これが例のマジックアイテム――ラインクリスタルだ」

「凄~い、水晶みた~い」(←水晶です)


 無闇に触ろうとするカオルを制して水晶を覗き込む。すると反射していた自分の顔が消え失せ、代わりにご立派な白い顎髭(あごひげ)を携えた老人が写り込んだ。


「リードビッヒ国王だ。形式張った拘りはない御方だし、あまり気を使わず普段通りに話せばいい」


 そうは言われても相手は国王だ。ため口なんか論外だろうし、気を使うなってほうが難しい。等と内心で戸惑っていると……




『冒険者諸君おっは~♪』


 嘘だろおい!? とても国王とは思えない喋り方だったぞ!

 念のためにと水晶を指してギルマスを見るも、タメ息を付いて額を押さえている。マジで国王らしい。


「あ、なんか親近か~ん! ウチもおっは~♪」

『おぉおぉ、若いエルフ娘もおっは~♪ そっちの美女戦士もおっは~♪』

「あ~、おはよ~さん」

『おおぉ、サバサバ系の美女かい、これはこれでそそられるのぅ!』

「…………」


 威厳も風格もまったくないこのスケベ爺が国王とは思いたくない。思いたくないが、国王なのは事実。ホント大丈夫かこの国?


「……あの~、自分がリーダーのダイチって言います。でもって赤髪ショートカットがナツミで金髪エルフがカオルです」

『おお、ダイチにナツミにカオルか。――んん? さてはお主、美女を侍らせてハーレムを作る気か?』


 ギクリンチョ!


「い、いえいえ、俺はただ自分以外のメンバーを美女で固めようとしているだけで」

『ワシの記憶ではそれをハーレムと呼んでいた記憶が……まぁいいわぃ。それにしてもなかなかの巨乳美女を揃えたパーティじゃのぅ。どうじゃ、2人のパイナップルをワシに捧げてはくれんか、ん?』

「いっそシンプルに揉ませろって言わないんすか? 回りっくどい言い回しよりストレートな方が好感持てますよ」

『よ~し、では揉ませよ!』

「ダメです」

『んが!』


 仲間を売るのは無しだからな。国王に揉ませるくらいなら俺が揉む!(←気持ちは分からんでもない)


『なんじゃいケチじゃのぅ。仕方がないから本来の依頼通り【竜と虎の織り成すワルツ】で我慢するとしよう』


 言わなきゃ分からんと思うから説明しよう。国王の言う【竜と虎の織り成すワルツ】とはナツミが倒した巨大魚の名前だ。これまで名前がなかったため、倒したナツミが名付ける事になったんだ。


「…………」ジィ~

「あ? んだよダイチ、俺が付けた洒落た名前に文句でもあんのか?」

「いや……」


 どっちかっつ~と文句が有るのは巨大魚の方だろうけどな。ネーミングセンスが奈落の底にあるナツミに名付けられたのは奴にとって最大の汚点だろう。名前に関してだけは巨大魚に同情したるわ。


『ではダイチよ、巨大魚の到着を楽しみにしとるぞぃ。但し、くれぐれも順番を間違えんでくれよ? 最初に届けるまでべきはこのワシ――リードビッヒでなければならん』

「はい、かしこま――」




「――って、お待ち下さい。なんだか俺が直接届けるみたいに聞こえるんですが?」

『な~にを言っておる、巨大魚を仕留めたのはお主らであろう。他の者では道中で奪われかねん。その点を考慮すればお主らに頼むのがもっとも安全であるのは明らか。ナイスな発想じゃろう?』


 なんて迷惑な発想だ……。


『そんじゃ宜しくの~ぅ♪ そっちの美女たちも宜しくの~ぅ♪』

「うぇ~い♪」

「へぃへぃ」


 結局国王のペースに乗せられて王都まで届けることになってしまった。


「メンドクセ……」

「そう言うな。相手は国王だしそれ以外も貴族だ、報酬は期待できるぜ?」


 う~む、それはそう。ソイツらから金を巻き上げればマイホームがグッと近くなるか。


「前向きに考えれば悪くはないかもな」

「そうだろうそうだろう!」

「いや、ギルマスは少し反省しとけ」

「すんません……」


 まぁやることは決まったわけだ。さっそく今日にでも出発しよう。


「ギルマス、昨日解体した【竜と虎の何ちゃら】は――」

「【竜と虎の織り成すワルツ】だ! 忘れんなよな」

「わ~ったわ~った。で、【竜の何ちゃらは】はどこに持ってったんだ?」

「むが~~~っ!」

「ああ、それなら地下の訓練施設に置いてあるぞ」


 地下に下りれば昨日召喚したクーラーボックスが山積みになっていた。100個も有ると壮絶な光景だな。


「全部持ってくのか?」

「いや、さすがに全部は無理だろ。よく考えたら馬車でも使わないと無理だな、どうやって運ぶか……」

「だったら()()を使え」


 ギルマスが差し出したのは、道行く商人が背負っているようなデッカいバッグだ。


「有り難いけど1つしか入らないぞ」

「ん? んん? はは~ん、さてはダイチ、マジックバッグの存在を知らないな? こいつぁ見た目以上に収納できるバッグでな、どんなアイテムでも100個詰め込むことが可能なんだ」


 おお、これぞファンタジーだな。100個ならギリギリ全部持っていける。

 聞けば稼ぎの良い商人の大半は持っているそうな。ある意味ステータスにもなるわけか。


「そんなレアアイテムをくれるとはギルマス太っ腹じゃないの!」

「貸すだけだぞ? もちろん失くしたら弁償な。金貨にして100枚はするから気を付けろ」

「クソガッ!」


 世の中甘くなかった。こうなりゃ紛失だけは厳禁だ、夜に寝るときは抱き枕にして寝ることにしよう。

 つ~ことで気を取り直して詰め込んでる途中である事を思い付く。何も全部は持ち出す必要はない。依頼者は国王も含めて14、5人だったはず。半分は残して街の商人に売り付ければ即金が舞い込むのでは?


「んあ? なんで止めるんだダイチ、まだ半分残ってるぞ?」

「まぁ聞けよナツミ。半分はこの街で売ることにした。そうすりゃ直ぐにでも大金持ちだぜ!」

「マジ!? じゃあ酒も飲み放題だな!」

「おぅよ!」

「じゃあ服も買いほうだ~い!」

「カオルは買ったばかりだから自重しろ」

「ぶ~ぶ~」


 気付いて良かった~! これで道中は華やかになりそうだ。


「待てよダイチ、それなら保管場所を提供した俺にも1枚噛ませろ」

「わ~ってるよ。クーラーボックス1つにつき金貨1枚、合計100枚でどうだ?」

「いいねぇ、乗ったぜ!」

「そんでもって金貨100枚でこのマジックバッグを買い取る。今日から俺のもんって事でよろしくな!」

「お、おぅ?」




 話はまとまった。残りのクーラーボックスも詰め込んで商人ギルドへ向かう。中に入ると俺たちに気付いた職員が揉み手をしながら話しかけてきた。


「これはこれは、ダイチ・アマソラ様の御一行様では御座いませんか! ようこそ我が商人ギルドへ。わたくし商人ギルドのギルドマスターを勤めておりますチャダと申します、どうぞお見知り置きを」

「え? ここに来るのは初めてだった……よな?」

「フフ、商人にとって情報とは命綱。どんな些細な情報でも日々収集することで世の流れを掴んで行けるのです」


 なるほど、俺たちのことも既に知っていると。


「もちろんここに来た目的も存じてますぞ? ズバリ、解体した巨大魚を――」

「【竜と虎の織り成すワルツ】な」

「し、失礼……コホン。え~【竜と虎のワルツ】を」

「違うぞ、【竜と虎の織り成すワルツ】だ」

「りゅ、【竜の虎と織り成すワルツ】を――」

「だから違う。【竜と虎の織り成すワルツ】だ。やり直し」

「むむ……【竜と虎の織り成すワルツ】を買い取って――」

「偉い! よく言えたな!?」

「さ、左様で御座いますか。え~」




「ど、どこまで話しましたかな?」

「おいおい……」


 という波乱な幕開けとなった商人ギルドへの訪問。しかし、本場の商人は手強いというのを直後に思い知らされることに。


「――ふむ、ざっと金貨50枚といったところですなぁ」

「ふぁっ!? いくらなんでも安過ぎじゃね?」

「そう申されましてもですな、これまで誰も手を付けたことのない魚とあらば美味いという保証もないという次第で御座います。調理したは良いが味は最低……となれば、噂を聞き付けた者たちは誰も手を出さないでしょうなぁ。1つにつき金貨1枚は勉強代といったところで御座いまして、その後に好評であれば高値を付けるのも有り得るのでは――と」


 ぐぬぬ……、このオッサンの言ってる事も理解できる。だがこのままじゃマジックバッグの代金にすらならない。


「……もうちょい何とかならん?」

「まぁお気持ちは重々承知しているのですが、こちらとしても商売で御座いますからなぁ」

「え~ダメなの~? もっとサービスしなきゃ、ほれほれ~♪」太ももチラ~リ

「おおお!? こ、これはなかなか見事な太ももで――コホン。これでも大商人を自負する身、こればかりは譲れませんぞ」


 チッ、カオルの色仕掛け耐えるとは。ならばナツミにも色仕掛けで参戦させよう、2人がかりなら……


「…………」チラッ

「ああん? まさか俺にも色仕掛けをさせよってんじゃないだろうなぁ?」

「滅相も御座いません」


 無理だ。強引にやらせたらヘッドロックを食らう自信がある。さてるやはり交渉上手な仲間が欲しいところだし、困った時の銀貨ガチャだ。話の上手いVTuberを頼むぜ!


 銀貨24枚→銀貨23枚



 シュシュシュシュ~~~ン!



 名前:キンタコ

 Lv:1

 HP:50/50

 MP:10/10

 性別:男

 年齢:?

 種族:タコ

 属性:脚1

 備考:口八丁手八丁な商売人のタコ。彼の話術にかかればどんなガラクタでも売り捌き、普段は値切りをしない相手からも値切ってくれるだろう。

 注)中身は大阪市在住の話好きなオッチャンVTuber。300円で売られていたタコ焼きを50円以下に値切った過去があるらしく、配信では値切り講座を行っている。


「ほいほいほほい、ワテの出番やな」

「ああ、頼む。総額で金貨100枚以上が目的だ」

「なぁに、お安いご用で!」


 さぁ、頼むぜキンタコ。高値で売り捌くんだ。


「こっからはワテが話し相手になりまひょ。こんな成りでも聞き手上手でっせ~」

「ほぅほぅ、ですが誰が来ようと同じですそ? 全部で金貨50枚、未知数なものに対して最大限の支出ですなぁ」

「な~に言うてはるん、注目すべきはこっちの入れ物、クーラーボックスや。これ1つで生物(なまもの)の長期保存ができまんねん、それこそ万年(まんねん)ってな! どや、一家に一台欲しいでっしゃろ?」

「なんと!」


 これは目から(うろこ)、まさかクーラーボックスを持ち上げてくるとは。

 だが風魔法で冷やした後に地魔法で包んだ効果は絶大だ。これはカオルに頼んで施してもらったんだけどな、付与しとして良かったぜ。


「今ならこれも付いて来る言うてんねん、これで金貨1枚はどれだけガメついねんって話ですわ。ここは1つ金貨5枚は欲しいところでっせ!」

「いや、それはさすがに……。ですがこのクーラーボックスとやらは確かに欲しい。むむむむむ……よし、では1つにつき金貨2枚までだします、いかがでしょう?」

「アッハッハッハッ! そりゃキツすぎる冗談でっせ~。せめて1つで金貨4は貰わんとな~。こちとらクーラーボックスだけオークションに出してもええねん、きっと他の商人や貴族は飛び付くやろなぁ、こりゃ楽しみでっせ~!」

「ちょ、ま、待って下さい! そ、そうだ、では金貨3枚、1つにつき金貨3枚出しましょう!」

「ほほ~ぅ、ええんか? ええのんかぁ?」

「こ、これ以上は出せませんぞ? それだと利益が望めませんのでね」

「ふむ、まぁこんなとこやろ。ダイチもこれでええかぁ?」

「グッジョブ!」


 こうして当初の価格より3倍に跳ね上げる事に成功した、つまり金貨150枚だ。空のクーラーボックスでマジックバッグを圧迫するのもナンセンスだし、キンタコのお陰で上手く売り捌けたな。

 そして100枚はギルマス(←ラルフォンの方)に渡し、残りの50枚を懐に収まりましたっと。おっし、これで明日からも頑張れるぞ!


 リザルト


 金貨54枚

 銀貨23枚

 銅貨50枚


 登場人物紹介


 名前:ラルフォン

 性別:男

 年齢:52歳

 種族:人間

 備考:ピーストレイの街の冒険者ギルドでギルドマスターを勤めている男。19歳になる息子は王都で生活しており、妻には5年前に離婚されている。ダイチと関わるようになってから出費が続いているらしい。


 名前:リードビッヒ

 性別:男

 年齢:74歳

 種族:人間

 備考:トランゾーナ公国の国王。堅苦しいのが嫌いで形式張った催しは配下たちに丸投げしている。また経済や兵法の知識も無いため、お飾り国王と陰で言われているらしい。


 名前:チャダ

 性別:男

 年齢:58歳

 種族:人間

 備考:ピーストレイの街の商人ギルドでギルドマスターをやっている男。情報は金に変わるという言葉をモットーに一代で大商人と認識されるまでに自身の商会を大きくした。


 名前:キンタコ

 Lv:1

 HP:50/50

 MP:10/10

 性別:男

 年齢:?

 種族:タコ

 属性:脚1

 備考:口八丁手八丁な商売人のタコ。彼の話術にかかればどんなガラクタでも売り捌き、普段は値切りをしない相手からも値切ってくれるだろう。

 注)中身は大阪市在住の話好きなオッチャンVTuber。300円で売られていたタコ焼きを50円以下に値切った過去があるらしく、配信では値切り講座を行っている。


 名前:竜と虎の織り成すワルツ

 性別:?

 年齢:?

 種族:魚類

 備考:ピーストレイの北東の湖に出現するエイの体に亀の頭部が付いた魔物。大人だと全長10メートルくらいはあり、人を丸飲みに出来てしまうほど危険である。名前の由来は最初に倒すことに成功したドラゴンタイガー・ナツミが名付けたからだと言われている。


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