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流されて異世界

「……何だここ?」


 さっきまで自室のPCから推しVTuber――酒乱夜桜(さかみだれよざくら)の配信を見ていたはず。それが何故だか見知らぬ森の中に居るとはどういう事なのか。


「そうか分かったぞ、いつの間にやら寝落ちしてたんだ。だからここは夢の中と」


 それにしちゃ見覚えがない場所だ。普通ならデジャブくらい感じると思うんだけどな。



 ガサガサ!



「ん? そこに誰か居るのか?」


 近くの茂みに何かが潜んでいるのに気付き、怖がらせないようにソッと近付く。

 何でそんな気を使うのかって? そりゃお前、いつどこで推しVTuberと遭遇するか分かんないだろ? 茂みからハローした時にビビらせちゃいけないのさ(←少なくともこんな場所に推しは居ないぞ)。

 それに夢なら推しと直接話せるチャンスだからな。それは最大限に活かすべきで――



 ガサガサッ――



「ガゥ?」

「ほへ?」



 はい出ました、緑と茶を足して2で割ったような汚い色した宇宙人みたい奴。一言で表すとゴブリンってやつだな。



「――って、何だコイツァァァ!?」


 バゴン!


「グギャ!?」


 思わず反射的に持っていたサイリウムで顔面をバコン。ゴブリンは顔を押さえて悶絶(もんぜつ)している。

 しっかし何て奇妙な夢だぁ? こんなバケモノ見るくらいなら推しじゃなくてもVTuberの配信を見てる方が百倍は有意義ってもんだ。夢なら早く覚めて――いや、覚める前に推しに逢いたい!

 そんな思考が脳裏を駆け回っていると、聞き慣れない女の声がどこからか聴こえてきた。


『お逃げなさい』

「ん? 何だ今の。誰の声だ?」

『早くお逃げなさい。でなければ手遅れになりますよ? そのゴブリンが起き上がる前に早く!』

「え……お、おぅ……」


 何となくだが俺に呼び掛けていものだと理解し、よく分からないままその場から走り去る。そしてゴブリンからかなり遠ざかったところで足に痛みを感じた。


「イッテテテテ! そういや靴を履いてねぇや」


 いや、夢なのに妙に痛い。血の(にじ)み方もリアルだし、こんなん死んだりしたら激痛やないか。


『痛いのは当然です。これは夢ではないのですから』

「は? 夢じゃない?」

『これは紛れもなく現実。貴方は異世界に迷い込んだのですから』

「異世界に迷い込んだ……」




「ああ、そういう設定の夢ね」

『設定じゃありません! まったく、不憫(ふびん)に思って声を掛けたのに。そんなにふざけるのならスキルを授けませんよ?』


 よう分からんけど怒らせてしまったらしい。でも一応はゴブリンから逃してくれたってのもあるし、礼は言っとくか。


「ゴメンゴメン、悪気はないんだよ。でもいきなり異世界云々言われても、誰だって困惑すからるだろ? けどまぁ、助けてくれた事は感謝するよ、ありがとさん」

『……妙に言動が軽いのですが……。まぁ本心なのは分かりますので、ひとまず許しましょう。それに困惑しているのも事実でしょうし、まずは現状の説明から。わたくしは女神のセフィーネと申しますが……』



 そこで語られた驚くべき事実。それは……



「俺の声援が異世界転移を引き起こしただぁぁぁ!?」

『正確には貴方の(やかま)しい声援が詠唱と共鳴し、異世界へと飛んでしまったのです』

「喧しいは余計!」


 つまりはこうだ、推しVTuberへの想いが強すぎたがため、声援が引き金となり日本から別世界へと飛ばされてしまったと。うん、納得しがたいが納得したよ(←喧しいという自覚が有ったらしい)。


「で、どうやって戻るん?」

『戻れません』

「うぇ?」

『生命体の任意輸送は混乱を招く恐れがあるため禁じられているのです。二度と元の世界には戻れないかと……』

「そんな!」


 こんなVTuberの居ない世界なんて何の楽しみもないじゃないか! 投げ銭のためにバイトも頑張ろうと思ったのに、何を希望にして生きて行けば――


 ――いや、待てよ? もしもこの世界が俺の理想とするVTuberがそのまま存在する世界だったりしたら――


『この世界にVTuberは存在しません』

「――っておい! 夢を打ち砕くような事を言うんじゃねぇぇぇ!」

『落ち着きなさい。代わりと言ってはなんですが、貴方には召喚士としての能力を授けましょう』


 召喚士とな?


「それってアレか? 魔物を召喚したりして敵と戦っていくみたいなアレ?」

『そう思っていただいて結構です』

「マジかよ! ならばさっそく――」



 最愛なる我が推しよ――



 偉大なる我の呼び掛けに応じ――



 今こそこの大地に――



 姿を現すがいい!!!




「さぁ、カモ~~~ン!」

『…………』


「へい、カモ~~~ン!」

『…………』


「へい、ユ~~~! 恥ずかしがらずに出てきちゃいなYO~」

『…………』


 あれれ~? 何も起こらないぞ~?


『誰も居ないところで求愛ポーズを晒して何やってんですかアナタ……』


 すんごい冷めた感じの声! 見えないはずの視線までがキンキンに冷えてやがる!


「いやほら……推しのVTuberを召喚しようかと……ね?」

『ね? じゃありません。そんなアホみたいなポーズを取ったところで召喚なんか出来ませんよ』

「じゃあどないして召喚するん?」

『召喚ガチャを回すのです。その際に通貨を使用すれば、それに応じた価値のものを召喚出来ることでしょう』

「おおっ!」


 そうか、通貨ね。通貨通貨――


「あっ!」

『どうしました?』

「財布、部屋に置いてきた……」

『………』


 だってよ、まさか異世界転移するなんて思わないやろ!? 不可抗力だって!


『はぁ、つまり無一文ですか? これだから貧乏人は……』

「だから不可抗力! つ~か何とかしてよ、超絶美人なセフィーネ様~」

『見えないのにテキトー言いますね……』

「いいや見える! 俺は今、心の目でセフィーネ様を見ているんです! 一度で良いのでその美しい姿を直に拝ませて下さい!」


 なぜ急に媚び出したかって? もちろん金を出させるためだ(←最低だよお前)。容姿を褒められて嬉しくない奴はいない。


『仕方ないですねぇ、そこまで言うなら視認出来るようにしましょう』



 シュィィィィィィン!



「うおっ、(まぶ)しい!」


 激しい光に思わず顔を伏せる。まさに後光が差してるかのようだ。そして光が収まったところで顔を上げると……


「おおっ! こ、これは!」

『フフ、滅多に人前には姿を現さないのです。心して拝みなさい』


 清潔感溢れる銀髪、白を基調とした衣、背中から生える翼はまさに女神!

 しかしてその容姿は、我が推しのVTuberをも――


 いや、推しを凌ぐ――


 いやいや、あと一歩及ばず――


 というかアレだな、推しに比べりゃ――


「それほどでもないな」



 ピシッ!



 言った瞬間、空気が凍り付いた気がしたのは気のせいではないらしい。


「はぁ? アナタ、直に拝ませろと言っておきながら大した事はない……と?」


 ヤベッ、つい本音が!


「とと、とんでもない、予想外過ぎて気が動転してたんですよマジで! できる事なら召喚ガチャで出したいくらいで」

「出ません! たかがガチャで神が召喚できるわけないでしょう!」

「うん、いやでもね、それだけ見た目が美し~~~い女神様なら――」

「はぁ……もういいです。アナタにお世辞を言われたところで嬉しくはありませんので」

()ねないで下さい」

「拗ねてません! それにアナタが推しとやらに強く執着しているのも理解しました。一途なのは良いことなのでしょう。その意気を評価し、今回はガチャ10回分を無料にして差し上げます」

「マジで!?」


 いよっっっしゃあ! 何だかんだと作戦は成功したぜ!


「但し11回目からは銅貨や銀貨を使用すること。詳しくはヘルプで確認するとよいでしょう。分かりましたね?」

「オッケーです! いやぁ、これで念願の推しを召喚できるかと思うと涙が――」


 なぁんて言ってる場合じゃない。時間は有限、さっそく我が推しを召喚するため、脳裏に浮かぶガチャのハンドルを回してみた。



 シューーーーーーン!



「へへ~ん、踊って戦える和風剣士――ダンシング椿とはウチのことや。で、ウチを呼んだのはアンタか? ま、宜しく頼むで!」


 名前:ダンシング椿(つばき)

 Lv:1

 性別:女

 年齢:18歳

 HP:100/100

 MP:20/20

 属性:剣3、火2


 おお、中の人が社交ダンスを習ってるって噂のVTuberだな。設定も剣士だし、護衛にはもってこいだ。


「俺は天空大地だ。今日から宜しくな椿!」

「つっても3分やけどな」

「はい?」

「なんやダイチ、ヘルプ見とらんのかいな。永久召喚するには金貨でガチャる必要があるんやで」

「聞いてまてん!」


 という事はアレか、ひたすら金を稼ぎながらガチャしろってか! セコセコ稼いで課金せよと!


「女神様、俺って社畜ですか!」

「少なくともアナタの世界の若者は社畜予備軍であるという統計が出ていますが?」

「火の玉ストレートやめぃ!」


 しかし、しかしだ。金貨を稼げるようになれば永久召喚し放題、推しも召喚し放題ってことだ。

 何、推しは1人じゃないのかって? バカヤロー! 推しなんてその日の気分で180度変わったりするんだよ!(←浮気性)


「さて、説明は充分ですね? では頑張って生き延びなさい」



 シュン!



 そう言い残し、女神セフィーネは目の前から消え去った。


「おっし、じゃあせっかく召喚したんだし、椿の実力を見せてもらおうか」

「ええで。ちょうどいいサンドバッグも見えるしな」

「サンドバッグ?」

「ほらアレや」



 ザッザッザッザッ!



「ガゥ、グギャギャア!」

「「「ガゥガゥ!」」」


 な、何だ、ゴブリンが群となって向かってくるぞ!?


「先頭のゴブリンなんか顔面に切れ込みみたいな傷を負ってるし、いかにも歴戦の猛者って感じだ! 倒せるか椿!?」

「任せとき!」



 ズバズバッ!



「2丁上がりや!」


 すれ違い様に2体を斬り捨て、更に後ろへと突っ込む椿。


「おい、そんなに突っ込むと……」



 ザザザザッ!



「グギャグギャア!」

「「「グギャ!」」」


 言わんこっちゃない、数を生かして囲んできやがった。


「椿!」

「心配いらんて、これも想定内や。へへん、行くでゴブリンども――ダンシングウェーーーーーーブ!」



 ズバズバズバズバズバズバッ!



 あわや袋叩きというところで華麗に回る椿。隙のない回転斬りで次々とゴブリンを斬り裂いていく。


 名前:椿

 HP:100/100

 MP:10/20


「へへん、ザッとこんなもんやで」


 あれだけ居たゴブリンが残り1体に。生き残りは礼の猛者ゴブリンだ。


「グギャッグギャーーーッ!」


「なんか怒ってるぞコイツ。仲間を殺されて怒ってんのか?」

「けどダイチを指して喚いとるで。なんか因縁でもあるんちゃう?」

「ねぇよ。この世界で知ってるゴブリンはサイリウムで顔面殴った個体だけだ。おもいっきり殴ったからコイツの顔面みたいになってると思う」

「そうなん? なら勝手にキレちらかしてるヤバい個体なんやな」


「ギャギャ!」

「ヤベッ!?」


 椿が居たことで気が大きくなっていたせいか、完全に油断した俺にゴブリンが突っ込んで来た!


「させるかいな! ――グッ!」

「椿!」


 椿の腕が俺を庇うためにゴブリンの棍棒が強打!


 名前:ダンシング椿

 HP:90/100

 MP:10/20


「やってくれたなコイツぅ! セィヤ!」

「グギャア!?」


 ダメージを受けるも難なく強面ゴブリンを撃破。これで群がってきたゴブリンは全て倒したようだ。


「助かったよ椿」

「なぁに、主を護るのは当然やで――」


 シュゥンシュゥンシュゥン……


「――っと、どうやら時間みたいや。用が出来たらまた呼んでな、ほな!」


 シュゥゥゥン!


 点滅が起こって間もなくすると椿は消え去った。分かっちゃいるけど3分はアッと言う間だな。

 おっし、これから金貨を稼いで推しを召喚してやるぜ!




「つ~か街がどこにあるのか分かんねぇ……」

 

 登場人物紹介


天空大地あまそらだいち

:推しVTuberの配信を見ていたら不運?にも異世界転移してしまった19歳の大学生。

 女神セフィーネより不慮の事故と判断され、生き延びる手段として召喚士の能力を授けられる。

 元の世界に戻れないと告げられるも、こっちの世界で推しVTuberを召喚したるという邪念が勝り、嬉々として種銭稼ぎを開始した。

 

女神セフィーネ

:異世界の女神様。銀髪美女であるが、ダイチが言うには最推しVTuberである酒乱夜桜さかみだれよざくらの方が美人らしい。予期せぬ異世界転移を果たしたダイチを不憫に思い、召喚士としての能力を授けた。


ダンシング椿つばき

:華麗なる剣技と火属性を持つ和風剣士。大抵は黒髪ポニーテールに着物姿である。エセ関西弁を話し、とても社交的な性格をしている。

注)異世界では中の人の性格は影響しない。


ゴブリン

:ポピュラーな人形ひとがたの魔物。棍棒や剣、弓で武装している事が多く、集団で生活している。


強面ゴブリン

:何故かダイチに恨みを持っていた顔面に厳つい傷のあるゴブリン。出会い頭にサイリウムで殴ったゴブリンとの因果関係は不明。


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