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2.何てことない日常の彼女

「それにただしが乗っかってさ―……」

 とある放課後、下校中に多織たおりとその友達の咲菜さなと一緒になり、他愛もない話をしながら歩いていた。


「何それ芸人か?」

「それは大変でしたね」

 二人もオレのバカ話に適当な相槌をうってくれた。


「そいじゃ多織たおりゆうとくんまたねー」

「はい、さなちゃん。また明日」

「気をつけてなー」

「そーいえば二人はちょい前に事故見たんだっけー。気をつけるわ」


 咲菜さなと別れて二人っきり。

「なあ多織たおり……さん?」

「どうしましたか? ゆうとくん」

「いや……多織たおりだけ敬語だなーって思ってさ……そろそろタメ口とかでよくね? 俺だけタメ口なのも違和感あるっていうか……」

 歩きながら思っていたことを口に出す。

 多織たおりは友人の咲菜さなにも敬語だ。


「えーとですね。私は距離をとろうと思って敬語を使ってるわけではないです」

 多織たおりはそこで一回言葉を切る。


「私は、えーと、んー……」

 また言葉を切る。


「ええと、誤解の無いようにしたいので、宿題でもいいですか?」

「宿題??」

 世の中、タメ口にしようって言われたら一日悩む人も居る、俺の彼女だ。




「というわけで、私はタメ口に忌避感があるわけではありませんがタメ口なら無条件に親愛の情が示せるとも思っていません」

 翌日の下校中。多織たおりの理屈をなるほどと聞いている俺が居た。

「同じ事は敬語にも思っています。慇懃無礼いんぎんぶれいという言葉もある通り、喋り方だけで無条件に親愛や関係性を示せるとは思っていません。目上の人に敬語を使うのは時場所状況を加味した儀礼的なものだと思っています」

 俺はうんうん頷いた。


「つまり私は好きでこの喋り方をしています。好きな服を身に着けるように、私は好きな喋り方をしているわけです。

 ……敬語は嫌ですか?」

「いや、かわいいよ?」

 不安そうな上目遣いの多織たおりにそう返したら、目に見えて分かるほど赤くなった。長い付き合いなわけではないが、多織たおりがこれだけ顔に感情を出すのも珍しい。


「俺だけタメ口だと変に距離詰めちゃってるのかなーとか下に見られるみたいに感じちゃってるかなーとか思ってさ。多織たおりがいいならいいんだ。あ、俺はタメ口でいい? 多織たおりを下に見てるとかそういうのは思ってないよ? 俺が敬語苦手なだけで」

「……いいにきまってるじゃないですか」

 うつむいて顔を手で覆った多織たおりからか細く返事が聞こえた。


「あ! ゆうと君が多織たおり泣かせてる!」

「え! 違!」

 変な所を咲菜さなに見つかった。いや違わないのか? 俺が悪いのか?

 多織たおりが弾かれたように顔を上げた。


「さなちゃん! ゆうとくんが優しいんですよ!!」

 何言ってんの多織たおり

「ひゃっはー! お幸せにー!」

 そう言って咲菜さなが走り去っていく。

「ちょおまて! 何これ!?」

 何これ?



 俺ら二人の前を少し離れてにやにやしながら咲菜さなが歩く。

「ゆうとくん」

 後ろを歩く多織たおりが俺の服のすそを引っ張った。

「んー?」

 恥ずかしくて俺の顔が見れないらしい。


「私が自分の好みで使ってるとはいえ、ずっと敬語って、人によっては「デートに着ぐるみ着ていきます」ぐらいの違和感みたいなんですよ。

 だからその……ありがとうございます」

「敬語でそうはならんでしょ。語尾が「だぴょん」とかならともかく」

「そだよー、それ言うなら精々「デートにドレス着てきます」ぐらいの違和感でしょ」

 少し前を歩いている咲菜さなも助け舟を出してくれる。


多織たおりは気にしすぎなんだってー。仲良くなった証に喋り方変えさせるとかマンガの中だけだよ。友達同士ならなおさら余計に好きに喋っていいんだよ。喋り方縛るとか無いわー」

「フィクションで多用されるのは距離や立場が変化したのが見てる人にも分かりやすいからだな。

 俺はずっと敬語だと「デートに着物を着てきます」ぐらいのイメージだ。高級感あるというか」

 そう言ったら変な沈黙が降りた。


「そんぐらいで許してやりなよ」

 咲菜さなが俺の背後の多織たおりに目をやる。何が? 俺まずい事言った??

 そう思って多織たおりを振り向くが顔を伏せていて表情は分からない。


「ね、さなちゃん。無意識に容赦なくイケメンなんですよ……」

「なにが?」

「ゆうと君、にっぶいわー。多織たおりは好きで敬語を使ってるけど、それはそれでコンプレックスだったのを全肯定されたら嬉しいんだよ!! 「いまどき着物ですってよ、気取ってるわーあんな着方うちの流派じゃタブーよ」とかヒソヒソやられてたのを「素敵だね」って言われたら好きになっちゃうだろーが!」

「そうなのか」

 そんなにか? とは思うけど補足ありがとう咲菜さな


「見せつけやがって! ここは俺が居るにはまぶしすぎるぜ! あばよ!」

 小悪党な悪魔みたいな捨て台詞を残して咲菜さなは自分の家の方に道を分かれていった。


「あのね、ゆうとくん。距離を置きたいわけでも引け目を感じているわけでもないんです」

「分かってるって」

「実際、昨日ゆうとくんが「多織たおりさん」って呼んでみた時も「はい、ゆうとくん」って「さん」じゃなくて「くん」付けで返事してます。私は私の喋りたいように喋ってるんです」

「そういえばそうだったか?」

 結構気付かないもんだ。

 また一つ多織たおりの事が分かった。

 多分こういう考え方の違いみたいなのはこれからもちょくちょく出てくるのだろう。不思議ちゃんだし。


 そう思っていると、いつになく幸せそうににやけた顔で多織たおりが言った。

「本日のラッキーアクションは『正直』です」


 何せ不思議ちゃんだし。


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