ぶらり子
落語家殺すに刃物はいらぬ あくび一つで即死する
小説家殺すに刃物はいらぬ データー消去で即死する
無関係な一部分より抜粋
流れゆく雲が独特に渦を巻き
黒龍の巣くう海を連想させる
波風とは違う
その海から吹く風は、遠くの向こうから
そのままの風圧を、ここまで届かせていることは、間違えようのない事実に思われる
教授の帽子が、暗澹たるこの海の中へと、消え去る光景は、ほんの一部にすぎず
この大まかなる絵画のような激高した風景の中
私という存在など、どこにもなく
ただただ鑑賞されるだけの素材に成り下がっていた
船からら降りた
探偵の眼光は、なんとも頼りなく
その横で、生命がみなぎっている
教授の残影のほうが、幾分もましなことは、間違いがなく
漁船の船長も、そんなことを、苦笑いに、苦言を呈していた
男の厚眼鏡は、何も考えていないように
深層を深め
まるで、海流のように、そのすき先を正確に知ることは、不可能に思われた
誰の脳みそも、理解できないような
腐ったそれを、海風に冷やしながら
コンクリートの港へと
かけいたから、灰色の舗装道路へと踏み出した
そのぼろぼろの先端のやけに丸い革靴は
茶色い部分が、つやをなくし
なんなら、破けている始末であった
それでも、船酔いなのか
体力が全くないせいなのか
男の足取りは、どうにも頼りなく
幾分にも揺れる姿は、壊れて、その行き先に、ある意味、規則性を発見できなくなってしまった難解に思われるような振り子時計の軌道に見える
男はまるで、カゲロウか何かのように
ふらふらとその歩みを進めながら男とはまるで対照的な、青々と生活力のありそうな
雑草や木々の向こうへと
そのくだり道の横を消えていくように見える
この島には、昔から様々な伝説があり
それゆえに、学生や民俗学者、風俗史などが、島を昔から訪れ
それのせいか、せいかゴシップオカルト雑誌の記者が
この島に来たりするが、めぼしいものはないらしく本になるようなこともなく
ただ、記録として、学術書や論文がかかれ
肥溜めの肥やしとなっていた
この蛇島は、まるで蛇のような形をしており
昔この島を訪れた
外国の漁船や探検家が
まるで、蛇のようだと
この名前を付けたわけだ
しかし、それ以前の文献は残されておらず
果たして何と呼ばれていたかは不明であり
また、口伝いの伝承も途切れてしまっていて、伺うことはできない
中央に、ぽっかりと、穴が開いた、この島には、こんな祭りが残されていた
それは、世間一般でいうような明るいものではなく
その祭りは、一年の中で
その日は、一切、表には出てはいけないというようなものなのである
島の祭りとして、ほかの地域でも、同様の話はある
この島の伝承としては、こんな話が合った
この島には、表に出てはいけない日があるにもかかわらず、その男は、表に出てしまった
周りは、豪風雨が、ふきすさみ
男はそれでも、家から出て、表を歩こうとする
しかし、その時、向こうのほうで、巨大な影を見たと思った次の瞬間
目の前に、何かが降ってきた
倒木かとも思ったがしかし
それは、辺りに木片を、まき散らしながら
そこに、落ちている
船である、しかし一体どうして、上から落ちてきたというのだろうか
男は、疑問に思いながらも、何とか命からがら
家に帰る
次の日、村人にバレることは、無かった
船も、誰もケガをしなかったということで、一件落着が付いた
しかし、男は、改めて、この事について、考えていた
果たして、どうして、船が、島の中心のどこまでも深いような
あの池のような場所から飛んできたのか
そこで男は、一つの仮説を立てた
祭りの日は、年に一度
そしてその日は、しけることが、非常に多い
そして、そんな日は、外に出れば、人が、飛んでしまってもおかしくない暴風雨が
辺りを、通る
そんな日の膿は、いつもよりもあれる
そうなれば、外界から、恐ろしい速さで、島へと、波がぶつかるわけだ
この島の中央にある
この池みたいな物は
海水である、つまりは、外とつながっているということになる
つまり、外の水圧が、一気に押しあたることで
まるで、この中央の水が、水柱のように
跳ねがあり、船を、あんな場所まで、押し上げたのではなかろうか
そう思って、男は、その祭りの日
もう一度外に出て、それ以来、戻らなかった
「学者みたいじゃないですか
ねえ、教授
まるで、火山学者みたいに、命を張っているように見えますよ」
教授と呼ばれた老人は
「わしは、考古学者だから、本来の学問とは、少々、離れている
しかし、十数年前にも、同じような事を、聞いて
色々と調べていたんだが、それでなのだが」
それを遮るように、探偵が、言った
「教授、運ばれてきましたよ
天丼に、親子丼、ほら見てください
これ、三つ葉が乗っているじゃないですか
この島で、栽培しているんですかね」
教授は、お茶を飲みながら考える
辺りは、すごい暴風雨で
雨風が、家に、ぶち当たる
そのせいで、
天井の蛍光灯が、わずかに揺れる
都会の人間では、到底たえられないであろう
「しかし、あの殺人事件は、どうなりました」
家のあるじが、そんなことを言うが
横で奥さんが、脇をこつく
「ああ、犯人は、まだ捕まっていないようですが」
エビフライを、飲み込み咀嚼しながら
探偵は言う
ブラウン管の中から映る映像は、ニュースから切り替わろうとしている
ちょうど、ブルーシートに、文字が、振られ
発見された人骨のことを、言っている
「森の中で、学生が、土の成分を調べていたんですが
すると、腐葉土の中から人間の骨の遺伝子が見つかったんです」
旦那は聞く
「それで」
探偵は、一息置いて
「まずは、お茶を」
と言う
「それで、捜査が始まったわけですが
まだ、それが、事件なのか
事故なのか」
旦那は、お茶を、入れながら
「あ、いえ
あの、観覧車が、落ちた事故なのですが
どうもそれが、人為的なものなのか
それともただの事故だったのか
という・・」
探偵と教授は、クーラーの効いた部屋で
そんな言葉を聞いている
「しかし、なんでまた、探偵なんかが、こんな島に」
探偵は、頭を搔きながら
天丼のどんぶりををなめている
「いえ、実は、その土の成分と言うのが
どうも、この島らしんですわ」
辺りを、暴風雨が、吹き
天井の電灯が、同じように揺れていた
「本当なのか」
「いえいえ」
探偵は、お茶を飲みながら、一息入れて
「ただの好奇心を埋めるためのバカンスですよ」
と、間抜けなことを言っている
「実は、昔から、この島のことが・・・」
ニュースが、別の番組へと切り替わる
時間は、夜の七時を、過ぎている
今夜は、祭りである