ブランコ
燻らせた紫煙が
窓ガラスを濡らし
私の視界は、サングラス越しに
薄暗い喫茶店内を、映している
先ほどまで、相席していた
老人は、とうに、この場にはいない
しかし、私の視界には、老人の影が
ゆらゆらと、うごめき
私の臓器の中に
張り込もうとしているようであった
今夜は満月である
月夜の晩
儀式をするには、好都合だ
私は、メロンクリームソーダーを、ストローで、すすると
そのまま、会計を、済ませて
店内を出た
辺りは、むせぶような
霧が立ち込めている
私は、見上げても、月は、白い霧に隠れ
見つける事さえ、困難であった
長い髪が、白い裸体に
流れている
赤い血が、川のように
心臓から、ナイフを、媒体に、流れ出す
私は、地面に染み出す
その赤い川の中
沈みゆく生と
黒い瞳が、濁りだす時間を
把握し続けた
時計の中
秒針だけが、正常を持ち
時間を、把握しているが
この死さえ
この森の草むらに、置かれたこの遺体も
ただの流れしかない
しかし、この呪術を、完成させるために
それは、意味が、あるのかもしれない
静かな死の中
赤い花が咲いた
それは、胸のナイフを押し上げるように
血液が、化身へと変化したように
赤い赤い
植物へと月光下の中
小さくそれは、芽吹いている
人間という養分を得
寄生植物として
小さな産声を上げた
赤いからだが、朽ちるのは早い
細胞間が、翌朝には、有機物として
それを、肉体だと認識することは、非常に難しいだろう
私は、草の枯れた中
その中から
遺体を、含んだ
土を、排除しながら
赤いゴーグルに、黒く映し出された
あの黒い植物の種子を探した
寄生植物特有の
その太い根は
体から
水分と養分を
吸収し
ほんの数時間という流れの中
どうしようもない
生を昇華する
誰もいない森の中で、鳴き声を上げるのは
体が、委縮している音なのではなかろうか
風とその植物と
わずかな昆虫の蝕む様な声の中
私は、日が刺す中
そのようやく、死のサイクルを終えた
その植物体へと
手を伸ばす
それは、邪悪な形へと
変化を繰り返し
日光により硬化した
まるで、瑪瑙のように
固く、そして、川の流れで研磨され続けたように
それは、独特の光沢を
わずか数時間の間に
結実させていた
これが、いわゆる
奇声の月下草こと
流れ花の一種である
私は、それを丁寧に、布でくるむと
タッパーに、入れた
厚いブーツが
草むらを歩くたびに
土が蹴飛ばされ
草を、鳴らしていく
私は、濃い煙を、吐き出しながら
墓場の横を
通り過ぎた
一昨日の美女は、土くれとなり
ただ、眠りついたように
草の種が、私のポケットの中で、うずくまっているのである
血管の中をはい回る細胞元は
行列をなすウジ虫の歩行と同列同義であり
どこまでも、平行線をたどる
ナメクジのにらめっこを
采配したオオヤマネコの見立てでは
この殺人事件の行く末は
どうしようもない
変質的狸の仕業で間違いがない
血管を食い破る
ナメクジや、ウジ虫の行列を遮ることはできず
幽霊船の電灯の点灯点消は、今なお繰り返される
ウジ虫のティーカップを爆発させた敵兵の処遇を
知ったのは、三十年ほど前
古き邪心を
閉じ込めた郵便物が、届いたのが今日であることの紐づけは
決して難しくはない
容易な判断
ホルマリン漬けの判断基準が、今日下る
それは容易な判断として
ブラウン管に、つながれた
その内部の眼球が、こちらを見ている
私は、大空を仰ぎ見ながら
狼の遺体と、頭部を眺め見る
頭巾をかぶった
少女の血濡れた死体を脇に
流星の異変が、大空を、赤く染め上げる
赤い部屋での殺人事件を立証するには、青い部屋の名探偵を、殺害する決まりがある
青い電灯と赤い子供の関連性は、子宮内の、銅線に、つながれた
双方の療治性を聊爾的に拝見せねば
いかんことは、この国の略奪神を、よく知る一大事であり
国の重鎮と、今日も話を、合わせねばなるまい
三種の神器が、鉄さびに赤くむせび泣いているころ
赤い学者が、赤い帽子に、緑の外套をはおり
船に乗り
勾玉の非公開性を
はぎとろうとしているころ
学生たちが、夏のさなか
バイトや課題で
右往左往している
中、一人、船に乗り
竹鳥嶋へと有休を使い
向かっていた
そこには、くしくも、黒い紫煙を吐き出しながら
港へと向かう
男の姿が、確認できた
日照り続きの
この日本列島においても
海が枯れることはなく
その水面上を
学者は、走っている
焼けつくような晴天も
速度のついた風は、熱風とはならず
遮るものは、頭上にはなく
ただ、黒い渦巻く思念が、一つのポケットの中で
いびきをかいているとは
太陽も知るまいところ
雲は、そのぞんざいを、忘れ
ただ、地中海で
いびきを、同じように、していることは
ニュースから伝わるラジオの空気感に
感化された船長と動意である