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59話

紫音ちゃんの話をまとめると、柊美音はメンタルクリニックに通うことにしたらしい。


 幼い頃から抱え、苦しみ、俺にしか打ち明けていなかった秘密を、家族に伝えた。そして、克服する決意をした。


 変わるための一歩を自分から踏み出したんだ。


 紫音ちゃんを送って家まで柊に会いに行く意気が消失してしまった。


 一人残って、柊美音が家族に打ち明けた意味を問う考えが、頭で浮かんで、浮かんで、浮かんで。


 俺は彼女になにをしてきた?


 最初と最後にそんな問いが残った。


 俺は、彼女のペットロス症候群のことを知って、一緒だとおもった。一緒に克服していこうとおもった。


 どんな形であっても柊は俺を庇ってくれた。秘密が誰にも知られないように隠して、そしてどんな形であっても助けてくれた。


 少しマシになってきてはいるけど、それは柊がいてくれたから。反対に俺は彼女の苦しみを癒やし、克服するためになにをしてきた?


 ・・・・・・・・・。


「情けねぇ・・・・・・・・・」


 なにもしてこなかった。


  それだけじゃない。自分一人のことだけで精一杯で彼女のことを慮ることは一切。なのに今更彼女の都合も考えず、押しかけようとしている始末。


 もう、必要ないんじゃないだろうか?


 俺達の関係は。


「そぉ~~~れっ」

「ぎゃあ!」

「しょぼくれた顔してるねぇ~~」


 頬にひんやりと冷たい何かが当たって、心臓が飛びあがりそうなほどになった。


「や、山峰さん。急にやめてよ・・・・・・・・・」


 へへ、と悪戯っぽく笑う彼女の登場は、先程受けた衝撃ほどじゃない。だって来ることを知っていたから。


「でも、悪いな。来てもらっちゃって」

「いいのいいのっ。ちょっと暇してたから」


 ベンチの隣に腰掛けた彼女は、いつもの制服じゃなく、ホットパンツにスニーカー、シャツとパーカーというラフなファッション。きっと家にいるときの服装なんだろう。


「んで、どったのさ」

「ん~~~」


 呼びだした、というわけじゃない。


 紫音ちゃんを送ったあと、一人公園で黄昏れていたらちょうど山峰さんから電話がかかってきた。そのときのトーンで、訝しくなったんだろう。どうしたの? と軽い調子で尋ねられて、どこにいるか、なにをしてるか、そしてここに行くと宣言された。


「私的には大上くんのほうが気になったしね~~~。この世の終わり! って具合だったし」

「そんな声だった?」

「してたしてた~~~。あれ、もしかしたらこのまま・・・・・・・・・っておもっちゃってさ~~」


 ・・・・・・・・・のところが気になるな。どんな風におもわれたんだろう。


「柊さんのこと?」

「・・・・・・・・・それもある」

「それも、かぁ」


 来てくれたことは、素直に感謝している。こうして一緒にいるだけで、話しているだけで面白いし和んでくる。


 でも、柊のことを相談するには、内容が濃くて複雑すぎるんだ。


 それに、俺の秘密を打ち明けるのはまだしも・・・・・・・・・勝手に柊のことを話していいのか? と。


「海外に行くんだってね」

「え!? なんで知ってんの!?」

「従姉妹のお姉ちゃんと連絡先交換してたからね~~~」


 いつの間に!


 というかあの人なんでホイホイと従兄弟の同級生と連絡先交換できるんだよ! コミュ力おかしいって!


「厳密にはまだ決まってないよ。悩んでる途中」

「そっか~~。それで誤解した柊さんと会えなくて擦れ違い状態になってるかんじ?」

「・・・・・・・・・山峰さん探偵になれるね」

「普通だって普通~~~。ん~~~。大上くんも大変だね~~~。海外に行くかどうか悩みながら柊さんのこともどうにかしなきゃいけないんだから~~」

「ははは・・・・・・・・・」

「しかも相手が頑なに話聞いてくれないんでしょ? かわいそうじゃん。」

「でも、俺が相談しなかったのも原因なわけだし」

「いやいや。柊さんが一方的すぎるんだって。あ~れは将来的に束縛して尻に敷くタイプだね、うん。それで旦那さんとか彼氏に対してすぐヒステリーおこす」


 すげぇ辛辣だなこの子。一方的すぎないか。


 でも、なんでだろう。ありえそうって簡単に想像できるのは。


「でも、山峰さんも仲が良いとおもってた人が大切なこと黙ってたら嫌じゃない?」

「それはそうかもだけど。でも時と場合によりけりかな~~~。あと内容とか。その人の性格。あと距離感とか。もしかしたら他の人にも広まっちゃうかもしれないし。人によって悩みの度合いとかは違うし。だから話してくれないことを責めるつもりはないよん」

「成程・・・・・・・・・」

「流石に大上くんが引っ越したあとに、「実は俺今南極にいるんだ」って打ち明けられたら困るけどね。遅ぇよ! って!」

「生憎俺の両親は南極探検隊でも観測隊でもないからそれはないかな」

「まぁ結局人ってそれぞれじゃん?」


 なんというか、この子は大人な視点だな。


 ただ明るくて誰とでも仲が良いってだけのイメージを持っていたから意外がすぎる。人ってそれぞれ。その単語一つとっても本当の彼女の人間性が出ている。


「ん? どしたし」

「いや、凄いなって」

「褒めてもこれしか出せないぜ~~。ほらほら~~」

「ちょ、お、くすぐったい・・・・・・・・・話まだ進んでないよ」

「あ~~~。それね」


 冗談めかした脇腹への攻撃は、一旦とまった。


 ついに核心に迫る内容だと、少しの緊張を取り戻して座り直して。


「うん。もう諦めちゃえばいいんじゃないかな」


 ズッコけそうになった。


「これから先柊さんと関わったり関われたりするのを期待するの。それよりも自分のこと優先しないと意味ないし」


 顔から地面にダイブしそうになった。


「あ、大上くん夕飯どうする? この近くにちょうど――――」

「ちょっと待ったあああああ!」

「ん?」

「なにもう次のトピックに進もうとしてんのさ!」

「え、大上くん食べたいとこある?」

「そうじゃねええええ! 夕飯のことはまだ! その前! 衝撃すぎて色々ついていけないけど!」

「ん~~~。だってよくあるじゃん? ちょっとしたことで仲違いして口きかなくなることって」

「そ、それはたしかにそうだけど・・・・・・」

「でも、時間が解決してくれるって。そのうちほとぼりが冷めればまた段々と喋るようになれたりとか」


 悠長がすぎないか? 時間ないって知ってるよね?


「大抵はどうでもよくなったり一緒にいないのが当たり前になったり別の友達できて別々に過ごして縁切れるんだけどね~~~。でもしょうがなくない? それも人間関係を構築する上では避けられないことだし」


 黒い!


 ひたすら残酷!


 だけど一番現実的!


「しょっちゅうあることなんだし、そんな気にすることじゃないって」

「マジで!?」

「うん。マジマジ」


 なに!? 山峰さんにとっては日常!? よくある出来事なの!? そんなことがこの子の周囲では巻き起こっているの!?


 いや、もしかしたら俺の知らない交友関係でそういうことがあったんじゃ?


 どっちにしろおそろしい! さっきの感心していた気持ちが真逆になっちゃったよ! リスペクトからフィアーにジョブチェンジだよ!


「それに他人のこと気にする暇あったら自分のことなんとかせぇよ! って話じゃん」

「ぐ、」

「そんなことしたら余計相手も意固地になって拗れて最悪周りにも迷惑かけるし」

「ぐぅぅ、」

「相手にその気がなかったらぶっちゃけひとりよがりだよね」

「ぐはぁっっっ」


 やめてくれ。ストレートな正論はやめてくれ。突き刺さる。おもっくそ痛い。


「それとも大上くんは、柊さんとなにがなんでも仲直りしたいっておもってるの?」

「それは・・・・・・・・・」

「じゃあいいんじゃない? 友達は一人しかいないってわけじゃないんだし」


 決めるのは大上くんだけどねー、とコーヒーを呷る。その隣で瀕死メンタルな俺。もうボロボロだ。いろんな意味で。


「ありがとう・・・・・・・・・山峰さんは優しいね・・・・・・」


 山峰さんに悪気はない・・・・・・・・・悪気はないんだけど・・・・・・・・・。


 ダメ人間っぷりをありありと思い知らされただけだ・・・・・・・・・!


「うん。だって私大上くんのこと好きだし」

「・・・・・・・・・・・・」

「ライクじゃなくてラブのほうで好きだし」

「え?」


 聞き間違えかとおもってワンクッション空いてしまった。


 しかも二度見してしまった。


「好きな人のことだったらさ。気になっちゃうじゃん。アドバイスしたいし、」

「えっ」

「ごめん。今のタイミングで言っても困らせちゃうよね。でも、もしかしたらって」

「えっ」

「それに、柊さんのことで悩んでたら、我慢できなくなっちゃって」

「えっ」

「リアクションおかしくない? 超ウケる」


 笑えないよ。草も生やせないよ。だって今この子がしたのは、実質告白じゃ?


「・・・・・・・・・どうして?」

「どうしてって。最初は藤田のことがあって、なんかカッコいいな。いざってとき勇気を出せるんだなっておもったし」

「・・・・・・・・・うん」

「それに、話したりするようになって、面白いなっておもったし」

「うん」

「そしたら好きになるっしょ?」

「・・・・・・・・・なるの?」


 わからない。人を好きになったこともそんな機会もなかったしというかそもそも恋人とか恋愛とかの前に人付き合いだって皆無だったし。人が人を好きになるなんて体験も目撃も実感もなかった。


「前に仲良くなることについて話したの覚えてる? 仲が良くなるなんてそんなきっかけじゃん? 今まで話したことなかったけど、話してみたらあれ? 全然おもってたのと違う~~~。みたいな?」

「うん・・・・・・・・・」

「それと一緒なんだって私はおもう。特別なことなんてなくて。ちょっとしたことで意識して、一緒にいるようになって、それで気づいたら好きになっている・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「好きだよ。大上くん」

「っ」

「今返事しなくてもいい。先に自分のこと考えてくれていい。でも、もし色々決められて余裕があったら」


 ああ。本気なんだ。本気でこの子は俺に好意を持ってくれていて。


「返事くれたら、嬉しいな」


 産まれて初めて告白をされたんだ。



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