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57話

夕日が目と心に沁みる。


 なにもできなかった自分の無力さが引き立ってきて疲労感が倍増するようだ。

 遂にはブロックもされて、心が折れそう。


 いや、諦めちゃだめだ。ネバギヴァネバギヴァ。涙を拭って電話をかける。


『おかけになった電話番号は、お客様のご希望によりお繋ぎできません』


「まさかの着拒!?」


 そこまでするかおい!?


「ちくしょぉ、こんなのおかしいだろ・・・・・・・・・」


 というか、なんでこうなったし。


 そもそも俺はここまでされることなんてした覚えないぞ。ただ謝ったりきちんと相談して、前みたいに戻りたいってだけなのに。


 柊はそうじゃないのか?


 くそ、なんて勝手な奴だ。今まで好き勝手、あっちでペロペロこっちでモフモフしてきたくせに。俺の都合なんておかまいなしだったのに。


なんて理不尽な奴!


ダメだ。落ち込み具合が加速して怒りと憎しみで人狼化したくなってきた・・・・・・!


 ぼふっ。


「ん?」

「お兄ちゃんっ。なにしてるの?」


 腰当たりにぶつかってきた僅かな衝撃。目線を下げるとちんまりとした女の子がくりくりのお目々で見上げている。


「あ、君は・・・・・・・・・柊の妹さん」

「こんにちはー」

「うん、こんにちは・・・・・・・・・なにしてるの?」

「おつかいだよー」

「そっか。偉いね」

「お兄ちゃんは?」

「俺? 俺は・・・・・・・・・今家に帰ってる途中だよ」

「お友達と帰ったり遊んだりしないの?」

「うん、そういう気分じゃなくってね」

「ふぅ~ん。寂しくないの?」

「うん、そうだね・・・・・・」


 子供って純粋なまでに辛辣だなぁ・・・・・・・・・。


「じゃあお姉ちゃんは?」

「え?」

「お姉ちゃんとは一緒にいる気分じゃないの?」

「・・・・・・・・・お姉ちゃんからなにか聞いてる?」


 ? と可愛らしく小首を傾げる仕草は、あどけなさしかなくって、素直に気になったことを聞いただけなんだなぁってありありと示している。


「別に俺は君のお姉ちゃんと――――」


 って聞いてない。


 道路の反対側にあるクレープ屋さんに視線を吸い寄せられてしまっている。うん、子供ってすぐ気分が変わるんだね。


「食べたい?」

「うん、でも夕ご飯前に食べたらお腹いっぱいになっちゃうし。おつかいの途中だし」

「そっか・・・・・・・・・」


 そうは言っていても、食べたそうにしているのを眺めているとあげたい衝動が芽生える。これが父性愛だろうか?


「それに男は皆狼だってお父さんとが言ってたから、門限は破っちゃダメだって」


 どんな教育方法だろう。


「そっか。でも、俺もちょうどなにか甘い物を食べたい気分なんだ」

「ん――?」

「だから半分こして食べながら歩いてたら門限に間に合うし、動いてカロリーも消費するんじゃないかな」

「っ」


 目がパアアア! と輝いた。


「お兄ちゃん良い人だねっ」


 クレープを交互に食べ合いながら歩いていると、手を繋いできたり、ニコニコと何度も見上げて、ということを繰り返してくる。そうするのでさえ面白がって楽しんでいるみたいで、和んでくる。


「ねぇ。紫音ちゃんだっけ。お姉ちゃんの様子どうかな」

「んー、気になるー? お姉ちゃん最近映画たくさん観てる」

「映画?」


「うん。え~~~~っと、X―メンっていう映画とー、ヴァンヘルシングっていう映画とー、それからスターウォーズっていう映画とー」


 なんだ? 共通点がないぞ。


「それとー、101っていう映画とー」

「ああ~~~~~~~~~~・・・・・・・・・・・・・・・」


 わかった。


 今はっきりわかった。


 ビーストっていう獣人のミュータント、主人公が狼男になってそして全身毛むくじゃらのチューバッカが出てきて、たくさんのワンちゃんみ囲まれる作品。


 ケモナーだったら歓喜する映画ばかりだ。


「それでお姉ちゃん映画の感想教えてくれるとき、なんだか目がこわくなってねー」

「うん・・・・・・」

「ゾンビみたいなのー! おかしいよねー。あははははははは!」


 いや。なんで紫音ちゃんわろってるの。笑っちゃだめだよお姉ちゃんのこと。


 純粋。無垢故なんだろうけど、かわいそうだろ。笑えないよ俺。


「あとねー。うんとねー」

「いや、いいよ・・・・・・ありがとう・・・・・・ほらお食べ」

「わぁ~~~~い!」


 その先を喋らせないように、クレープを口の前に差しだすと勢いよくパクついてくる。


 頭を撫でると擽ったそうに身を捩る。そんな少女に姉の面影を見いだして、感傷に浸ってしまう。


 あいつ治ってねぇんじゃね?


 というか悪化してね?


「お兄ちゃん、変わったねー・・・・・・・・・」

「ん?」

「前はもう変だったのに」

「そうかな・・・・・・・・・」

「うん。今はちょっと変」

「ははははは! そっか!」

「お兄ちゃん?」

「ははは。変か・・・・・・・・・そうだね、ずっと変だ」

「そうなの?」

「多分、マシになることはあっても良くなることはないかな」

「病気みたいだね」

「うん、そうだね・・・・・・・・・」

「お兄ちゃんお兄ちゃんっ」

「ん?」


 チョイチョイ、チョイチョイチョイチョイチョイッと手招きされる動作に誘われて、少し屈む。


「ちょ、紫音ちゃん?」

「良い子良い子」


 頭を撫でられた。というか撫でられまくっている。


「なんで?」

「頑張ってる子にはこうして褒めるんだって」


 そのままワシャワシャワシャアアアア、ともみくちゃにされる。的確なツボを突かれているようで、なんだか気持ちよくなってくる。このままずっと撫でられていたくなってくる。


「お兄ちゃん、ワンちゃんみたい」

「!」

「わぁっ」


 立ち上がって、そのまま自己嫌悪。


 ダメだろ俺・・・・・・・・・。なに幼女に撫でられて気持ちよくなってるんだ。


 人狼化してないよな?


「んー、もうちょっとしてたかったのに・・・・・・・・・」


 不満げに唇を尖らせる仕草にゾッとした。


 そういえばこの子にも姉と同じ血が流れてるんだよな。もしかしてケモナーとしての才能も遺伝しているのかもしれない。ペロペロモフモフの変態としての素質が眠っているんじゃ?


 あんなのが二人もいたらもたない。


「お兄ちゃん?」


 きょとんとしながら近づいてくる紫音ちゃんに、恐怖を感じて後退り。姉と似ているから、嫌でもモフラれてペロられそうだって嫌な悪寒が。


「いいかい、紫音ちゃん。君はそのままの君でいてくれ」

「?」

「い、いや・・・・・・・・・君は撫でるのが上手だね」

「んー。お姉ちゃんに教えてもらったしー」

「え、柊に?」

「うんっ。いつも撫でてもらってるしー。昔いたシュナイダーもこうして撫でると喜んでたって」


 柊。お前妹も自分と同じ道に誘おうとしてるってのか?


「お兄ちゃんはお姉ちゃんのこと撫でてあげてる?」

「え? いや、撫でてあげてないなー。というかそういう関係じゃないし」

「どういう関係だったら撫でていいの?」

「・・・・・・・・・」

「ねぇねぇ」

「きっとお姉ちゃんは俺に撫でられたって嬉しくないよ」

「なんで?」

「どっちかっていうと、お姉ちゃんは撫でたい側だからかな」

「なんで?」


 いや、しつこいなこの子。


「ねー、なんで? なんでなんで?」


 あ、でも聞いたことがある。小さい子供はなんにでもなんで? どうして? と疑問を抱く時期があるって。


「紫音ちゃん、もうこんな時間だよ。帰らなくていいの?」


 でも、それに対応するには、経験も知識も足りない。申し訳ないけど、こうして気を逸らすことしかできないな。


「んー。でも、まだお腹減って無くて夕飯食べられないし~~」

「そっか~~~」

「それに帰ってもまだお姉ちゃんいないし。つまらないし」

「そっか~~~・・・・・・・・・ってそうなの?」

「うん。最近帰ってくるの遅いのー」


 そうだったのか?


 じゃあ、紫音ちゃんを送るっていう名目で家まで行ったとしても会えない可能性が? ガーンだな、もう。


「何時に帰ってくるの?」

「わかんない、遠くにある病院だから」

「え、」

「心の病院」

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