56話
「あ、柊・・・・・・・・・・・・」
「っ」
「ちょっと」
「~~~~~~!」
「あ、おい!」
ゲームセンターに行ってから数日。その間懸命に柊と接触を持とうと尽力した。擦れ違うときも。休憩時間に入ったときも。登下校時下駄箱で待ち伏せしているときも。
「ちょっと話が――――はぁはぁ!」
フイッ。
だけど、いつも彼女は逃げてしまう。全力ダッシュで。
マラソン選手かってくらいの腕の振り、腿の上げ具合。凄まじい脚力。とてもじゃないが追いつけない。
「はぁ、はぁ、くそ、どこに行った・・・・・・・・・」
運動なんて碌にしていない体力もやしの身では、すぐにバテてしまって見失う。
「ぜはぁ、ぜはぁ・・・・・・・・・うぷ、ぼぅぇっ・・・・・・・・・」
そして今回もまた。生れたてのの子鹿よろしく足がプルプルプルプル痙攣し、猛烈に込みあげてくる吐き気と息切れ。携帯も毎回既読スルーされる。
【話がしたい】
【お願い】
【せめて返信して】
【一回だけ】
そんなメッセージを送り続けていても返ってくる素振りなんて一切なくて泣きそうになってくる。なんだか振られた彼女に未練たらたらの男って、こんな心境なのかな。
【一回話させてくれたらモフモフしていいからっ】
願いをかけてそんなメッセージを送った。
【一時間。いや、二時間でも】
そう連投すると一回だけ写真が返ってきた。
某有名SF映画に登場する、全身毛むくじゃらの宇宙人。
ぶっちゃけるとウーキー族のチューバッカ。それの等身大の人形だ。
どういうことか意味わからなかった。
くそ、どうすればいいんだ。時間は刻一刻と迫っているというのに。
海外に行くのかどうなのか。それを決断する日は期限が決まっているんだ。
こうなったら柊がいそうな場所に待ち伏せしてしまおうか?
それともいっそ家まで押しかけるか。
「わぷっ。ごめんなさい」
「あ、こっちこそ・・・・・・・・・大上・・・・・・・・・?」
「あ、藤田」
なんだか久しぶりに会ったけど、イケメンぶりにやっぱり張りはなくて落ちぶれ感が濃く出ている。
「えっと、柊見なかった?」
「いや。見てないけど。きっと図書室にいるんじゃないかな」
「図書館?」
「よく読んでる本、図書室から借りた奴だし」
「へぇ~~~よく知ってるなぁ」
「それかトイレかな。あ、でも彼女は大体三時限目と四時限目の間に行く頻度が多いし」
「・・・・・・・・・」
「あと彼女の好きな古典の授業とか国語の授業の後だからもしかしたら職員室に行って先生に話を聞いているかもしれない。あと彼女の好きな飲み物は一階の体育館近くでしか売ってないからそこに――――」
「うん、ありがとう」
教えてもらうのが段々とこわくなってきたので、そこで一旦ストップをかけた。
「でも、藤田って柊のことよく見てるんだな」
「はは、嬉しいな・・・・・・・・・」
ニコッと切なげに笑ったけど、違うよ。遠回しにストーカーチックだなって窘めてるんだよ。この人なんでポジティブに受け取れるんだろう。
「彼女に告白する機会を狙って観察してたら自然と、ね?」
ね? じゃねぇよ。純粋な恋心と犯罪って紙一重なんだなってゾッとしたよ。そこまできたら執念を感じるよ。
まさかまだ告白する機会を狙ってるんじゃないだろうな?
「柊のこと探してるのか? 同じクラスだし、よく一緒にいるんだろ?」
「・・・・・・・・・ちょっとね」
「この前もゲーセン一緒に行ってただろ?」
だ か ら な ん で 知 っ て る ん だ よ 。
でも、なんだか羨ましくなってきた。
俺は柊が古典を好きだったなんて知らない。図書室でよく本を借りていたことも。
逆に俺は彼女のヤバい一面しか見てこなかった。逆も然りだ。
きっと藤田のほうが普通なんだろう。
段々と時間をかけて仲を深めて。一緒に過ごす時間が増えて。お互いのことを知っていく。恋人とか友達とか含めて、そうして積み重ねていく。
俺が人狼じゃなかったら。隠していなかったら始まらなかった関係が、とてつもなく歪で。おかしくて。やっぱり普通じゃなかったってちょっと後悔して。
「どうした?」
「いや、なんでもない」
「・・・・・・・・・なんかあったのか?」
「え、」
「柊さ。最近おかしい気がするんだ。ご飯食べてるときもいつもより咀嚼するスピードが遅いし。おかずを口に運ぶのもコンマ四秒間が空くし」
だからなんでそこまで詳細に見てんだよ。スロー&ストップ機能備わってないとわかんんねぇぞ。
「彼女のことを好きだった立場の俺からすると、それがなんだかおかしいっていうか、表情もいつもより元気がないっていうか」
「・・・・・・・・・」
「もしかしてお前となにかあったのかなって。ちょっと前まではなにかのエキス摂取したのかってくらいツヤツヤしてたり妙に楽しそうだったり」
「なんで俺なんだよ」
「なんとなくだよ。お前と一緒にいるようになってからそんなかんじだったし」
「・・・・・・・・・」
「お前達、付き合ってたの? 別れた?」
「・・・・・・・・・それは違う」
「そっか・・・・・・・・・あ。でも誤解すんなよ。別に俺もう告白しようとか付き合いたいとか考えてないし・・・・・・・・・女子もネットもこわいし・・・・・・」
なんらかのトラウマ植え付けられてんじゃないか。
「ありがとうな。ストー、藤田」
意図せぬ出来事だったけど、藤田とのやりとりでまた活力が戻った。チクリとした胸の疼きと共に。もう一度柊を探そう。話がしたくって、学校を駆け回った。
俺達に、なにが残るんだ。
人狼。ペットロス症候群。モフられて。ペロられて。そんな歪な関係が無くなったら。できなくなったとしたら、俺達はどうなるんだろう?
答えの出ない自問自答を繰り返しながら。
「お、大上っち戻ってきたー」
結局予鈴が鳴る直前まで柊を探し回ったけど、どこにもいない。戻ってくるとすっかり話すのが当たり前になったクラスメイト達が出迎えてくれた。まだ慣れていないながらも何気ないやりとりを交し、ガラッと扉が開くたび。教室に誰かが駆け込んでくるたび。そちらに視線をチラリチラリと投げかけてしまう。
あ、柊が教室に戻ってきた。
「・・・・・・・・・・・・」
睨み殺しそうな目で見られた。
言いたいことがあるなら直接言ってくれ!
そういう意図を込めて見つめ返すも、プイッと逸らされる。
柊は、良いんだろうか? 俺をモフれなくって。ペロれなくて大丈夫なんだろうか?
もし、そうだったとしたら。




